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かんなぎれんじゃーの熱い夏」を以下のとおり復元します。
*かんなぎれんじゃーの熱い夏









 神聖巫連盟政庁兵部省裏庭。



 なんだか目が受け付けるのを拒否しそうなくらい漢字が羅列したこの場所では目を回したみぽりんを犬士たちが取り囲み、心配そうにしていた。


 有馬信乃に連行もとい連れられて、おもに礼儀作法を中心に特訓を受けることかれこれ
二十数時間。
 
 座学が大嫌い、もとい少しばかり苦手なみぽりんはオーバーヒートを起こしぶっ倒れた。



「信乃さまひどいです」


 犬士の一人がみぽりんに濡れタオルを当てながらつぶやいた。

 涙目である。



「みぽりんさまが何したっていうのでしょうか!」



 あ、数人の犬士が目をそらした。



(このあたり『「E127 FVB逆侵攻」4班の思いで』に詳しいので参照されるといい。http://www25.atwiki.jp/nanakazari/pages/210.html)



「みぽりんさんは一所懸命でした。そうでしょう?みなさん!」


 数人こそっと逃げ出した。


 しかし残った数人がうなづく。


「そうです!私達も、みぽりんさまも一生懸命がんばりました!」

「がんばったのです!わたしたち!!」


 手を取り合いうんうんうなづきあう犬士たち。


 脳裏にはあの初夏の特訓が思い浮かぶ。



 
 輝いていたの、わたしたち。



 しばしうっとりした後、考える。


「信乃さまはどうしてそれをわかってくださらないのでしょうか…」

 うーんと考え込む一同。




 自分達に欠けているのは何か。

 情熱か、熱血か。



 そのときむくっと、みぽりんが目を覚ました。


「話は聞かせていただきました!みんなすばらしいです!!」

「みぽりんさま!」

「お体は大丈夫ですか?」



 駆け寄り、よろけるみぽりんを支える犬士たち。


 そこにはまさしく友情があった。

「ありがとうみなさん!みぽは負けないです。かんなぎれんじゃーの明日のためにっ!」


 びしっと夕日を指差すみぽりんに、数人の犬士が感極まって涙する。



 ああ、みぽりんさまもすばらしいです。



「で、信乃さんは理由なく怒る人ではありません」

「ではどうして…」
 
しりあすに考えるみぽりん。

 夕日が差す中庭は妙にいい雰囲気だ。

「信乃さんはもしかしたら」


 言葉を選びながらみぽりんがいう。




「かんなぎれんじゃーのよさを理解していないのではないでしょうか!」


「理解…、ですか?」


 こくりとうなづくみぽりん。


「まだ信乃さんはかんなぎれんじゃーの深遠にふれてはいないのです!だから理解できない」


「な、なるほど!!」
 犬士たちがうなづきあう。

「では私達に出来ることは…」




「信乃さんに、『かんなぎれんじゃーのよさ』を教えてあげるですよ!」

 

 だれからともなく手が出され、重なり合う。

 ここにかんなぎれんじゃーは、結束を深くした。







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 兵部省。信乃執務室。
 
 めずらしく信乃は執務中に大きなあくびをした。




「信乃さん、眠そうですね」



 あるがお茶を入れるために立ち上がった。


 「ああ、失礼。代わりますよ」



 信乃があとを引き継ぎ、茶器を手にする。

 炎天下での訓練とその後の座学の講師。

 さすがに今日は体が痛い。
 


 しかし訓練と講義を先延ばしにするわけにはいかなかった。

 
 何事にも「時期」というものがある。
 
 戦闘から時間をおかずに徹底的に行う必要があった。



(あれで犬士もみぽりんさんも懲りただろう)

 


 湯をわかすと、とっておきの玉露と茶器を出す。



 慣れた手つきで茶器を温め、適温にした湯を急須に注ぐ。


 はじめは部下がやってくれていたが、飲むタイミングと味の好みを考えるうちにこうなった。

 もちろん今も忙しいときは任せるし茶の入れ方も教えてあるが、手があいているときは息抜きも兼ねて自分で入れる。




「甘いです。それにとってもいい香り!」



 目をまるくして、あるが言う。



 信乃はあえて何も言わずに自分の湯のみを手にし、ぬくもりを味わう。

 



 穏やかなひととき。




 ふと窓辺に目をやり、信乃は思わず茶を吹きそうになる。


 窓辺にあったのは手作りの「かんなぎれんじゃー」のポスターだった。

 
 

 くらりとくるのをなんとかこらえる。





「午後は自分の仕事に戻りますね。今日はありがとうございました」



 あるが礼儀正しく頭を下げる。

 今日は兵部省の資料をみせてもらっていたのだ。
 


「いえ、お疲れ様でした。……ところで、一つお願いしてもいいでしょうか」

「なんでしょう?」



 ポスターをはがし



「これを、みぽりんさんに返しておいてください」


「うわあ、よく描けていますね!」




 無邪気なあるの声。

 
 本当によく描けている。





 どれだけ底なしなのだと脱力感を覚えた。








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「兵部省執務室!掲示終わりましたであります!」



「おつかれさまであります!」





 神聖巫連盟寮、みぽりんの部屋には大きな横断幕がかかっている。





『信乃さんに かんなぎれんじゃーの よさを!!』


 信乃がみたら突っ伏しそうな横断幕である。

 



 今日はたまたま休みだったみぽりんが主導になって、他の休みの犬士たち(有志)と、休憩時間などを利用して活動を始めた。




 もちろん本業は一所懸命!


 信乃さまに「かんなぎれんじゃー」のよさを伝えるために!!





 みぽりんが猛烈な勢いでポスターを製作している。

 こんなとき。どうしてかものすごく力を発揮するみぽりんである。




 みぽりんの様子をみて胸を熱くする犬士たち。




「衣装できました!!」

「てーまそんぐ、つくりました!」

「変身のときの爆発、かんがえました!」






 次々とあがってくる企画たち。


 みぽりんも犬士たちも、目をぐるぐるにして頑張っていた。








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 悪夢だ…




 悪い夢を見たように信乃はやつれていた。






 はじめは執務室だった。


 次は廊下に出たところでずらりと並んだポスターたち。




 それを片付け外に出ると、軽快な音とともに『かんなぎれんじゃーショウ』がはじまり、

 



 無視して寮の部屋に帰ると『信乃さんへ☆』と書かれたメモとともに着れといわんばかりの衣装がおいてあった。(しかも振りつけつきだった)







 全部みぽりんにつきかえそうと執務室に一時保管していたが、あまりに膨大な量である。


 なにより部屋においておくと目障りで仕方ない。








 先日、雹のところを訪ねるとそこにも大きなポスターが貼ってあり
(『いや、みぽりんさんにたのまれましてw』 雹 談 )






 姫巫女(※神聖巫連盟の藩王)の執務室では等身大フィギュアがかざってあり
(『みぽりんにもらったんだよ。もらったものは大事にしなきゃね』 藻女 談 )





 ミツキは訪ねてきたときにふと
「最近かんなぎれんじゃー、はやってるんでしょうか」
 と、おっとりつぶやいた。
(『え?だってよくみかけますし…』 ミツキ 談)





 直談判しようとみぽりんの部屋を訪ねたが、本人は留守だった。
お互い走り回っているからか全く連絡がとれない。



 


 そんななか、訓練の休憩時間に犬士たちは元気に「かんなぎれんじゃー」のポーズを練習していた。

 
 全くどこにそんな元気があったのか。






 信乃の口からげっそりとしたため息が漏れる。









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 汗が背中を伝う…。



 日差しが目にささる…。






 一言でいうと『暑い』!!




 ふはーとため息をつき、摂政 七比良鸚哥ががくっと肩を落とす。


『大事な話がある』と集団で押し寄せてきたのはこういうことだったか。




「せっしょさまー!!どうですか?みぽ達かっこいいですか?」



 さっきから何度もいろんなポーズをみせられた。


 どうやら少しずつ違うようだがよくわからない。

 



 なによりもよくわからないのは『これのどこが大事なことなのか』というあたりである。


 

 しかし、こういうときのみぽりん‘S を野放しにするほうが危険である。
(経験談!!)


 使命感にも似た何かが自分を支えている。


 ……







 あ、もうだめ…。




 七比良鸚哥は最終兵器を発動した。


「みぽりんも、みんなもよくがんばっていますね」





 褒め言葉に皆大喜びである。


 すかさず後をつづける。





「少し休憩しませんか?ご褒美に『わらびもち』がありますよ」





 作戦は大成功だった。

 皆、『わらびもち』を食べて大満足だった。





(ふふ、勝った…)


 摂政は密かにがっつぽーずをした。











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 兵部省、有馬信乃執務室。



「信乃さん、本、ありがとうございました」




 借りていた本を信乃に手渡しながら、あるが言う。

 どういたしましてと受け取る信乃。

 


 しばらく信乃の顔を見つめたあるは、心配そうに尋ねる。




「信乃さん、少しやつれましたか?」




 力なく笑う信乃。







「ところで、ぼく不思議なんですが、信乃さんはどうしてそんなに『かんなぎれんじゃー』を嫌うのですか?」




 少しの沈黙の後、信乃が言う。



「嫌ってはいません。僕は戦闘に支障がなければ別にかまわないと思ってますよ。まあ一緒に歩きたくはないのですが」





「え?でもFVBの戦闘の後の信乃さんは、なんか嫌ってるみたいでしたけど…」

 


 小首をかしげるあるに、信乃が続ける。




「『戦闘に支障がなければ』、ですよ。 FVBの戦いのときはわざわざぽーずを決めてなんて馬鹿なことをしていたでしょう。一瞬の隙が自分や味方を傷つける。そのとき泣くのは、みぽりんさんであり、犬士たちだ。僕が悪者になって改善されるならいくらでもそうしますよ」

 





「ああ、だから『厳しい訓練をした』?」

「そうです」







 ほむほむとあるはうなづく。


  ぱずるがぴたっと合う感覚。







 しばらく考えていたあるは、『あるもの』を信乃に手渡した。











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「みぽりんさん」





 信乃はやっとつかまえたみぽりんと犬士たちに声をかける。




「信乃さんですー!!」

「信乃さまこんにちは」



 みぽりんと犬士たちが元気にご挨拶する。




「たくさんの『かんなぎれんじゃー』のぐっず、ありがとうございました」

「信乃さんよろこんだですか?」

「ええ。ただ量が多いので、厳選して一枚だけいただきました」

「多かったですかー」


 


 ほけほけしながらみぽりんが笑う。

 これが『素』だから怖い。





「それで、今日はみなさんのお役に立てればと思いまして、こんなものを用意してみたんですよ」




 信乃は数枚の紙と、植物の種、長い布を手渡した。




「ほえ?何ですか?」


「忍術の訓練書です」





 信乃の言葉に一同驚き、わくわくする。





「例えばこの種。麻の種なんですが、忍者はこの種の芽を毎日飛び越えて、訓練したそうですよ。麻の生長にあわせて高く跳べるようになるそうです。そしてこの布。腰にまいて、布の端が地面につかないように早く走る訓練です」





「おおおおお!!かっこいいです!!!」


 一同の目がきらきらきららと輝く。





「他にもいろいろ訓練を探して書いておきました。『かんなぎれんじゃー』の訓練にお役に立てればよいのですが。頑張ってくださいね!」





 信乃の温かい言葉にじんとなる一同。






 信乃さまに私達の情熱がつたわった!!









「ただし、実際の戦闘では『かんなぎれんじゃー』はやめましょうね」


 一同、右手をあげ、「はーい」とお返事する。









そして早速種をまき、上を跳んでみたり、布を腰につけて走ったりしはじめた。










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 信乃の周りに静寂が戻った。






「こんにちはー。遊びにきました」



 ひょこっとあるが顔を出す。





「いらっしゃい。ちょうどお茶を入れたところです」

 信乃が笑顔で迎え入れる。





「あるさん、ありがとうございました。おかげで収まりましたよ」


「いえ、どういたしまして。よかったです」





 いたずらが成功したように笑うある。






 あの日、あるが渡したのは『麻の種』だった。
 




 



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 夏空広がる神聖巫連盟。


 



 政庁や寮の中庭では麻を飛び越えたり、布を腰に巻いて走る『訓練』にいそしむみぽりんや犬士たちが見える。


 時折ぽーずの練習も欠かさない。







 今日も世界は平和である。












                                                                              【めでたしめでたし】

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