安倍 晴明
父、安倍保名と母、葛葉明神の化身である白狐との間に生まれた子供とされている、平安時代の最も有名な陰陽師の一人。
そして鎌倉時代から明治時代初めまで陰陽寮を統括した安倍氏(土御門家)の祖でもある。
天文道(呪術や科学)や占いなどの陰陽道の卓越した技術や知識を持つ。
セーマン(晴明桔梗・清明紋・五芒星)という呪符を使い、
人形(ひとかた)を使って「青龍」・「勾陳」・「六合」・「朱雀」・「騰蛇」
- 「貴人」・「天后」・「大陰」・「玄武」・「大裳」・「白虎」・「天空」の
式神(しきがみ)十二神将を自由に駆使し、驚異的な呪術を展開した。
また“鳥が話す言葉を理解できた”ともいわれる。
吉備真備の贈り物
安倍晴明が陰陽寮で陰陽道を学びはじめたのは40才(現在の年齢換算では39才)の時である。それまでは大舎人の役職に就いていた(らしい)。にもかかわらず陰陽師としての安倍晴明伝説は幼い頃から類まれなる才能の持ち主として語られる事が多い。伝説なのだから所詮作り話、としてしまうことも可能であはあるが、彼が幼い頃から実際に陰陽術を学んでいた可能性を否定する事も出来ない。そのひとつに、金烏玉兎集という陰陽道の聖典がある。
金烏玉兎集は唐の伯道上人が文殊菩薩より授けられた書物である。はじめ遣唐使として派遣されていた阿倍仲麻呂が入手したのだが、彼は日本に帰国する前に唐で没する。そのため、吉備真備が阿倍仲麻呂に代わり日本に持ち帰った。帰国後、彼は仲麻呂の子孫を探し出し、金烏玉兎集を渡した。それが幼少の安倍晴明である……、と言われているが、真備と晴明では生年に二百年の隔たりがあるので、おそらく晴明の先祖であろう。
しかしながら、安倍家に陰陽道の聖典や秘術が伝えられていたことは計り知れる事であり、安倍晴明が幼い頃より陰陽道の聖典を学んでいた事は十分に有り得る話なのである。だからこそ幼少の頃よりその才を発揮したと言われるのである。
護身剣と破敵剣
安倍晴明が天文得業生として陰陽寮に所属するようになり、陰陽寮をあげての大仕事が行われた。百済から献じられた古えの霊剣二振の再鋳造である。
このとき晴明は奉礼という祭祀筆頭の祝を補佐する重要な大役を与えられた。天文得業生としては異例の大抜擢である。国家の大宝と呼べる霊剣の作成に重要な役目で参加したことからも晴明の能力そして信頼の高さが伺い知れるだろう。
ちなみに……
護身剣は御所の内に安置される霊剣で、左面には陽気を司る太陽、南斗六星、朱雀、青龍が描かれ、右面には陰気を司る月、北斗七星、玄武白虎が描かれている。
破敵剣は遠征軍の将軍に授ける節刀となる霊剣で、左面に三皇五帝、何斗六星、青龍、西王母の兵刃符、右面には北極五星、北斗七星、白虎、老子の破敵符が描かれている。
どちらも直刀型の剣で武器としての性能はさほどないが、陰陽道の祭祀によって霊位を込められた剣で、御所、本陣に安置する事によって国や軍を守護するとされていた。
仁和寺の寛朝僧正のところで、同席した公卿達に陰陽道の技でカエルを殺してみせるようにせがまれ、術を用いて手を触れずにカエルを真平らに潰した。
晴明の家では式神を家事に使っており人もいないのに勝手に門が開閉していた。
仁和寺の一角に悲鳴があがった。
このひとでなし!
なんというやつじゃ!
口汚い言葉を吐きながら、直衣を着た数人の公卿がそそくさと退散する。
見送るのは立ち姿のりりしい、男。
涼やかな目、整った顔立ち。
男は自分が潰した蛙をつまんで、ひょいと庭に投げ、呪を唱える。
そしてさして興味なさそうに男が立ち去る。
庭では死したはずの蛙が何事もなかったかのように跳ねていた。
「ほえ?」
一条戻り橋の上で、みぽりんは橋の下を覗き込んだ。
「何してるの?いくよ?」
姫巫女に声をかけられるが、ちょっと待っててくださいーといいながら橋の下に降りる。
「すずめさーん」と自分の式神を呼び、手にのせると橋の下の住人に声をかける。
「はじめましてです!みぽりんです。この子はすずめさん」
そして懐から飴を出すと「誰か」の手ににぎらせる。
「せっしょうさまの手作りです。おいしいのです。じゃあまたです!!」
言うだけ言うと、てくてくと藩王たちを追ってかけてゆく。
橋の下では、十二神将と式神が、飴を持って立ち尽くしていた。
「ここですね」
有馬信乃が門を見上げる。
声をかけようとしたとき、扉が開く。
出てきたのは美しい女。
「主がお待ちしております。お入りください」
一同が門をくぐると、ひとりでに門が閉まる。
「ほうほう、じどうどあですか」
「いえ、みぽりんさん違いますから」
苦笑いする雹。
「式神、ですね」
「ほうほう、お手伝いしてえらい式神さんです」
自分なりに結論づけて満足するみぽりん。
案内されたのは縁側だった。
華やかよりは丹精が目にとまるような、庭。
主は静かに庭に目をやっていた。
少し気崩れた、直衣。
横顔になんともいえない色気があった。
「一条の」
ほえ?という顔でみぽりんが小首をかしげる。
「怖くはなかったか?」
面白げに、つぶやくように尋ねる。
「いちじょう??なんですか?」
「橋の下の、見たのだろう?」
しばらく考えていたみぽりんは、ああと納得した。
「こわくないですのよ?この子と同じです」
そういって、自分の式神をなでるみぽりんに、安倍 晴明は笑った。
「でもなんで、橋の下ですか?」
「怖がる方がいらっしゃるのでね」
ほうほうとうなづくみぽりん。
「あ、そうだ。今日はお願いがあってきたです」
姫巫女を清明の前に出し、あとはまかせたというようににこにこしている。
「こんにちは、はじめまして」
「あなたは、藩王ですね。今日はどうされました?」
人の悪い笑みを浮かべながら清明が問う。
「皆を助けるための手を貸していただきたいのです。今、神聖巫連盟はかつてないほどの危機にみまわれています。私は皆を助けたい。」
晴明は藻女藩王をじっと見つめる。
藻女藩王も、静かに清明の目をみつめていた。
「神聖巫連盟、いや、NWのことは聞いています。よろしいでしょう。無益な殺生はないにこしたことはない」
安倍晴明は妻を連れ、神聖巫連盟に居を移した。
式神、十二神将も場所をたまわり、晴明のやしき近くに住まう。
それにしても…。
「面白いところだね。ありとあらゆる物が同居して和している」
これも調和というのだろう。
紹介された仲間とともに、晴明は調和を守るために動き出した。