――これはJS事件が始まるずっと前
――技術も力もないけれど
――みんなたくましく暮らしていた頃のお話です
『次元世界島のセインちゃんディエチちゃん』
「ただいま~」
「…ただいま」
とってもとってもオンボロなお家に、ちっちゃな二人の女の子が帰ってきました。片っぽは元気いっぱいな水色の髪、もう片っぽは長い茶色の髪をリボンで結わえた女の子。
「おかえりなさい。セイン、ディエチ」
迎えてくれたのはキレイなおねえさんです。割烹着を来たおねえさんの両手にはおなべが一つ。
「おやつがあるわよ」
「ホント!? ウーねー!!」
「こぉら、ウーノねえさん、でしょ?」
こまった風に笑うおねえさんはおなべをちゃぶだいに置いて、中のものをお皿にのせて出してくれました。
「わぁっ、おいもだぁ!!」
水色の女の子はおおよろこびでちゃぶだいに駆け寄りました。
「おいもなんて1週間ぶり~!」
「合成だけどね」
ふふふ、とキレイなおねえさんはだいどころにもどり、水色髪の女の子はおいもにかぶりつこうとしました。
でもそこで気がつきました。おいもがひとつしかないのです。
そして後ろにはものほしそうな顔をした茶色髪の女の子。
「――えいっ」
そんな茶色髪の女の子をみて、水色髪の女の子はおいもをふたつに割りました。
「いっしょに食べよ?」
「……うんっ!」
水色髪と茶色髪の女の子はいっしょにホクホクおいもをパクパク。そこへまた二人の女の人が帰ってきました。
「ただいまー」
「メシにしてもらえますか、姉さん」
それはちっちゃな女の子とおっきなおねえさんの二人です。どっちも格好はドロだらけ。
「……おかえりなさい、チンク姉さん、トーレ姉さん」
「チンねー、トーねー、おかえり~」
「その呼び方はやめろって言ってるだろう!!」
二人のお姉さんのチョップが水色髪の女の子の頭にめいちゅうしました。
そうして日がくれ、ばんごはんの時間になりました。女の子5人もちゃぶだいを囲んでばんごはんです。
『――時空管理局・期待の女性捜査官、ナカジマの活躍によって今回の事件も無事に――』
「このナカジマとかいう新人、なかなかいい腕をしているな……」
「こらトーレ? ごはんの間くらいテレビ消しなさい」
「ウーねー! おかわりー!」
「……あの、私も」
「よし二人とも、姉が代わりによそってやろう」
わいわいとにぎやかなばんごはんです。そこへおくのふすまが開いて、メガネのおねえさんがでてきました。
「あ、クアねー、いま起きたの?」
「うふふ、おねぇさんねぇ、朝からずっとご本を、読・ん・で・た・の(ハートマーク) ウーノ姉様ぁ、ごはんよそってくださるぅ?」
メガネのおねえさんにキレイなおねえさんはごはんをよそってあげました。でもそのかおはとっても怒っています。
「あのねクアットロ、言いたくないんだけど……そろそろ働こうって気はないの? チンクなんて高校にも行かずに働いてるのに、大学まで出た貴女が――」
「いいんだよ、ウーノ姉さん」
ちっちゃな女の子がキレイなおねえさんの言葉をとめました。
「クアットロ姉さんは私なんかよりずっと頭が良いんだ、その姉さんにふさわしい仕事が見つかるまで私が頑張れば良いだけです」
「だが本当に良いのか、チンク? 肉体労働なら私だけでも……」
「そう言って風邪をひいたのは何日前ですか、トーレ姉さん?」
心配そうなおっきなおねえさんにちっちゃな女の子はクスクスと笑ってかえしました。
「そぅいぅ事(ハートマーク) 私にはぁドクターを助けるっていう大事なお仕事があるんですぅ」
「また貴女はそんな事ばかり言って」
コツン、とメガネのおねえさんにかるいゲンコツがはいりました。ゲンコツしたのは、金色髪のおねえさんです。
「やぁんドゥーエ姉様、聞いてらしたんですかぁ?」
「頭が良いからって、それを鼻にかけてたら良い女にはなれないわよ? クアットロ」
アセアセするメガネのおねえさんに金色髪のおねえさんはにっこりとわらいます。そんなおねえさんを見て水色髪と茶色髪の女の子はポカーンとおおぐちをあけてます。
「……ドゥーねー、すっごいキレぇ……」
「……おけしょうですか?」
「そうよ、これが分るようなら、貴女達がオトナになるのももうすぐね?」
それから金色髪のおねえさんはキレイなおねえさんを見て、
「――ドクターは、研究室に?」
「――ええ、お別れを済ましてきなさい」
「……そうね」
みじかく話して金色髪のおねえさんは出ていきました。
「ドゥーねーどっか行っちゃうのー?」
「……そうなの。ちょっと遠い所に、しばらくお仕事に行くのよ」
「ふぅーん」
水色髪の女の子はよくわかんないっていう風です。そこへ茶色髪の女の子が、
「……あ、あのっ!」
水色髪の女の子とキレイなおねえさんはびっくりしました。茶色髪の女の子がこんなおっきい声をだすのはめずらしいからです。
「……なにか、てつだえるおしごとってありませんか?」
「どうしたの急に? おこづかいが欲しいの?」
くびをかしげるキレイなおねえさんに茶色髪の女の子は、そうなんですけど、とうつむきます。
「……もうすぐ、あたらしい子がうまれるじゃないですか」
「ああ、ノーヴェとウェンディの事? それがどうかしたの?」
「え、えと、その、あの、……お、おいわいを」
キレイなおねえさんはまたまたびっくりしました。水色髪の女の子とおんなじ末っ子が、じぶんでも気がつかなかった事をしゃべったからです。
「……そうね、お祝いしなきゃいけないわね?」
キレイなおねえさんはわらいました。さっきの金色髪のおねえさんとおんなじぐらいキレイなかおで。
「――よーしみんな! もうすぐ生まれてくる妹達の為に、お祝いの用意をするわよー!!」
とつぜんのキレイなおねえさんの言葉に、でもみんなはおおよろこびです。
「成る程、確かに祝いは必要やも知れんな」
「そうですね、姉として、新しい妹はしっかりと歓迎しないと」
「それってご馳走が出るって事ですかぁ? やぁん、嬉しいぃ~!」
「わーい、パーティーだーパーティーだー!!」
女の子達はおおにぎわい、夜はとっぷりとしずんでいきました。
つぎの日がきました。コケコッコー、とにわとりさんがゲンキにないています。
そして水色髪の女の子と茶色髪の女の子は小学校にいくじゅんびです。
「いってきまーす!」
「……いってきます」
「あ、セインは待ちなさい!」
みおくりのキレイなおねえさんが水色髪の女の子をよびとめました。
「ホラ、前のボタンをちゃんとしめて! ――クアットロも、早くドクターの所に行きなさい!」
「うにゃにゃぁ~、もう食べられません~」
ねごとでこたえるメガネのおねえさんに、仕方のない子、とキレイなおねえさんはためいき。それから水色髪のみじたくをととのえてあげて、
「――これでよし! さ、お行き」
「うん! 行ってきまーす!」
水色髪の女の子は、茶色髪の女の子におっついていっしょに歩きます。
そうしてしばらく行くと、ツギハギだらけの白衣を着たおにいさんがたっています。
「あ、ドクターだ! おはよー!!」
「……おはようございます」
「おや、セインにディエチ、おはよう」
白衣のおにいさんはあいさつをかえしてくれました。そんなおにいさんに水色髪の女の子はだきついて、
「ねーねー、なんで私とディエチはまだ“せんとーきじん”にしてくれないのー!?」
「ふふ、それはまだまだ二人が子供だからだよ? もっと素敵な大人の女性になってから、かな?」
「ぶー! ドゥーねーはもうすぐオトナっていってたもーん!」
「……あ、あの、ドクター。それはなんですか?」
茶色髪の女の子が、白衣のおにいさんがもっているものを指差しました。メーターのついているそれは、どうやら機械のようです。
「これかい? これはね、夕べようやく完成した装置なんだ。この機械をつけると……」
機械はウィンウィンいってうごきます。するとメーターの針がいっきに『0』へとかたむきました。
「――何と魔力結合が出来なくなるんだ!」
「「へぇ~」」
水色髪と茶色髪の女の子はこえをそろえます。
「よくわかんないけどすごーい! ドクターすごーい!」
「……さすがドクターです。よくわかんないけど」
「ハッハッハッハッハ」
そんな二人に、白衣のおにいさんはまんめんの笑顔をみせました。
本当に、突き抜ける様な、欲望も狂気も無い笑顔を。
――これはJS事件が始まるずっと前
――技術も力もないけれど
――スカリエッティとナンバーズが力をあわせて たくましく暮らしていた頃のお話です
最終更新:2007年11月17日 18:47