このSSを、リリカル遊戯王GX氏に捧ぐ。



リリカル遊戯王GX番外編 「最強! 華麗! 究極竜(ブルーアイズ・アルティメットドラゴン)~前編~」

古代エジプトには、「三幻神」と呼ばれる精霊がいた。
「オシリスの天空竜」、「オベリスクの巨神兵」、「ラーの翼神竜」の3体である。
無論、歴史に名を連ねる強力な精霊・魔物は、何もその3体だけではない。
ファラオの守護者たる「幻想の魔術師」しかり、王宮の守護神たる「エクゾディア」しかりである。

そして、純白の鱗と青き瞳を有した幻獣――「白き龍」もまた、しかり。



――ォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオーーーーーーッ!!!

耳をつんざく咆哮に、スバルは身を震わせる。
動けなかった。
何がそうさせるのか。思い当たる要素はいくらかあるが、それすらも動機としては不十分だった。
要するに、空気なのだ。
目の前の「それ」がまとう空気が、過去に味わったことのない根源的な恐怖となって、スバルの身に降り注いだ。
横に立つ相棒のティアナが、その場にへたり込む。
向けられたのは、圧倒的なまでの存在感と、冷徹なまでの殺意。
それら全てが恐怖という形で、彼女らの全身に満ちてゆく。
上空を見た。
「それ」と対峙するのは、管理局の2人のエース。
どんな困難にも迷うことなく立ち向かう、高町なのはとフェイト・T・ハラオウン。
だが。
震えていた。
なのはの白いバリアジャケットが。
何者にも屈せぬはずのエース・オブ・エースの身体が、今は目の前の「それ」の放つ恐怖に当てられ、ただの娘同然に震えていた。

純白の鱗と青い瞳を輝かせる、3つの頭を持った「白き龍」を前に。

この状況に至るまでの経緯を説明するには、少々時間を遡らねばなるまい。
ちょうどレイが重傷を負って倒れた直後のこととなる。
きっかけは、外を見張っていたオブライエンが、「おかしな奴がいる」と皆に報告したことだった。
深夜のデュエルアカデミアを訪れたその男は、白いコートに身を包み、頭には妙なマスクをかぶっていた。
「あ、アンタ、カイバーマンじゃないか!?」
そしてその男は、十代の知り合いだった。
(…何だかおかしな人だね…)
(ツッコまないでおいてあげよう、なのは…)
なのは達はこの男――カイバーマンのセンスにまるでついて行けず、奇異な視線で彼を見つめていた。
それも当然である。「正義の味方 カイバーマン」は普通の人間ではない。デュエルモンスターズの精霊だ。
「そういえば、そんなカードもあったわね…」
奇抜な格好ばかりに気を取られて、すっかり存在を失念していた明日香が呟く。
明日香のようなデュエリストでさえも存在を忘れていたのは、何もカイバーマンがただの弱小カードだからという理由ではない。
その特殊効果が原因で、デッキに組み込む者がほぼ皆無と言っていいカードだからだった。
「十代、こいつのこと知ってるのか?」
当然カイバーマンには会ったこともないヨハンが尋ねる。
「ああ、2年前にちょっとな。俺以外には、翔と万丈目が会ってる」
「サンダー!」
「やっぱり夢じゃなかったんだ」
十代以外の2人は、かつてのカイバーマンとの遭遇を夢か何かだと認識していた。
デュエルの精霊の存在、出会うまでの過程…それら全てがあまりに荒唐無稽だったためである。
「…そうだ。なぁカイバーマン、アンタがいるってことは、やっぱりここはデュエルモンスターズの世界なのか?」
「知らん。気がついたらここにいた。俺もこのような場所は覚えにない」
正義の味方などという二つ名の割には、あまりに尊大で突き放すような口調でカイバーマンが返す。
「だが、俺達精霊が実体を持てるという点では共通している」
「なんだぁ…結局分からないままかよ」
精霊の世界の住人たるカイバーマンからなら、有力な情報を得られるのではと期待していた十代だが、
それも叶わずがっくりと肩を落とす。
「…確かなことと言えば…」
だが、カイバーマンは更に言葉を重ねた。
「この地には…何やら禍々しい、妙な気配が渦巻いている。それらはどうやら、貴様らに向けられているらしい」
「ひょっとして、俺達をここに飛ばした奴…!?」
「だろうな」
そこまで言うと、カイバーマンは、そのマスク越しに十代の目を見た。
竜の頭をかたどったマスクの青い目が、じっと十代を見据える。
「遊城十代…貴様には、いかに巨大な相手が立ちはだかろうと、それに立ち向かう覚悟があるか?」
強い口調で、カイバーマンが問いかけた。
対する十代は、それまで真剣な顔つきで彼を見返していたが、ふっとその顔にいつもの強気な笑みを浮かべる。
「…もちろん! 俺は誰のデュエルだって、受けてやるさ」
「ククク…ならば、もう一度俺と戦って証明してみるか?」
カイバーマンはさぞ愉快そうに笑うと、自らの左腕にはめたデュエルディスクから、1枚のカードを引き抜いた。
その手に輝くのは、白いドラゴンの絵柄を持ったモンスターカード。
「…俺の青眼(ブルーアイズ)と」
「なっ…!?」
その場のデュエリスト達に衝撃が走った。
一方、目の前のカードが何かも知らない管理局の面々は、突然の反応についていけない。
「ヨハン君、あのカードって…?」
「そっか…なのはさん達は知らなかったな。
 …あのカードは、『青眼の白龍(ブルーアイズ・ホワイト・ドラゴン)』…世界に3枚しかない、究極のレアカードだ」
―青眼の白龍― 攻撃力3000 防御力2500 通常モンスター
この世に生まれたのは、デュエルモンスターズの創成期。
その圧倒的なパラメータは、当時の水準ではあまりに過ぎた力だった。
故に、僅かな枚数しか生産されないうちに、その生産そのものが中止されたという。
今でもこのカードを超える通常モンスターは存在していない。だが、このカードの価値はそれだけでついたものではない。
世界最大のアミューズメント企業「海馬コーポーレーション」の若社長・海馬瀬人。
決闘王・武藤遊戯の唯一無二のライバルにして、彼と共に史上最強に名を連ねるデュエリスト。
その海馬が絶対的な信頼を置く下僕こそが、青眼の白龍なのだ。
あらゆるデュエリストのあらゆるモンスターを粉砕する、最強のドラゴン。
「三幻神」のカードがエジプトの遺跡に返還された今では、まさに世界中のデュエリスト全ての至宝だった。
「…いや、やめておこう」
ふと、カイバーマンは気が変わったのか、十代に向けた視線をそらす。
その代わりに、彼の目にとまったのは――なのはだった。
「え? 私…?」
「貴様らはただの人間であるにも関わらず、デュエルモンスターズの上級モンスター並のエネルギーを発している…
 …特に一際優れた貴様の力、何より戦士としての戦う意志…この目で見てみたくなった」
カイバーマンはそう言うと、後方へと後ずさって距離を取る。
広く取った間合いは、戦いのステージのつもりだろうか。
「さぁ、来るがいい異世界の女! 俺と青眼にその力を見せてみろ!」
カイバーマンは高らかに喊声を上げた。
「ええと…これは、私が出ていくべき…なのかな?」
唐突な展開についていけないなのはは、困惑しながらも足を進める。
と、それを制した者があった。
「え…」
「あたしが行きます」
その者――スバルはそう言うと、バリアジャケットを展開し、カイバーマンの前に立つ。
「貴様がやるのか?」
「なのはさんを傷つけさせたりはしない。そのドラゴンとはあたしが戦う!」
リボルバーナックルの拳を硬く握り、スバルが宣言した。
彼女は怒っていたのだ。突然現れ、なのはと戦うなどと言い出した、この男に。
「ふん…まぁいいだろう。ちょうどいい前座だ」
しかしカイバーマンは、至極余裕な様子でそう言い放つ。
「ぜ…前座ぁ!?」
余興呼ばわりされたスバルは、思わずオーバーリアクションで返した。
「見せてやろう…俺の強く気高く美しき下僕の姿を!」
「あんまり嘗めてかかると痛い目見るよっ!」
「青眼の白龍、召喚ッ!」
カイバーマンがデュエルディスクに、そのカードをセットした。
力は姿を帯びる。
人間の何倍…いや、十何倍にも匹敵する巨大な身体。全身を包む白い鱗。真っすぐに標的を見据える青い瞳。
『…ウオオオオオオオオオオオオオオオオオオーンッ!』
雄たけびが上がる。
最強のドラゴン・青眼の白龍が、遂に真夜中の砂漠にその姿を現した。
「出た…!」
「青眼の白龍…実物を見るのは初めてだ…!」
デュエリスト達から次々に声が上がる。そして、その登場に驚いたのは、管理局の面々も同様だった。
「すごい…」
「こんな奴までいるんだ…」
目の前の青眼の白龍が放つオーラに、なのは達は釘付けになっていた。
全身からにじみ出る、圧倒的なまでの力。神々しささえも感じられる、純白の光。
これほどまでに強く雄雄しき存在を目にしたことがなかった。
果たしてキャロのフリード…いや、ヴォルテールでさえも、これほどの存在感を持つことができるだろうか。
「うわぁ…」
今まさに、その青眼の白龍と相対するスバルでさえ、一瞬見とれるほどだった。
それだけの絶大な存在感をもって、「白き龍」はこの世に顕現したのだった。

「ククク…どうした? 見惚れていては勝負にならんぞ」
「はっ…!」
余裕を含んだカイバーマンの声に、ようやくスバルは我に返る。
そうだ。今から自分は、この竜と戦うのだ。
スバルは気持ちを切り替えると、真っ向から青眼の白龍を睨みつけた。
見れば見るほど強そうなモンスターだ。
日中に戦ったハーピィ・レディ三姉妹の攻撃力は、サイバー・ボンテージの効果も相まって2450だったが、
こちらの攻撃力はそれすらも凌駕する3000である。
加えて言えば、スバルがティアナとのコンビネーションの末にようやく撃破した3万年の白亀の守備力ですら2100だという。
攻撃力3000。その破壊力は、最早彼女には見当もつかなかった。
故に、スバルはカートリッジをロードし、魔力スフィアを形成する。
(最初っから全力でぶっ飛ばす!)
決意を込め、その拳を振りかぶった。
カイバーマンもまた、必殺技の気配を察し、青眼の白龍へと指示を出す。
「いきなり全力か…いいだろう、気に入った! 正面から迎え撃て、青眼!」
『グオオオオオオオオオオオオオッ!』
太い咆哮と共に、青眼の白龍の口元で、青白い光がスパークする。
「ディバイィィーン…バスタァァァァァァーッ!!!」
「滅びのバーストストリィィィィィィィームッ!!!」
少女とドラゴン。双方から青い光の束が、一直線に相手目掛けて放たれた。
衝突の瞬間、
「う…うそぉっ!?」
あまりにもあっけなく、スバルのディバインバスターが押し返されていった。
一瞬の膠着もなく、青眼の白龍の放つ閃光が、無情にもスバルへと迫っていく。
「うわうわうわうわうわーっ!」
冗談ではない。こうも易々と自分の最大技を押し返してくる攻撃を喰らっては、最悪命まで持っていかれるのではないか。
故にスバルは焦った。
だが、そうしたところで既に無駄なことだ。攻撃態勢のスバルは、そう簡単に回避行動を取ることはできない。
遂に滅びのバーストストリームは彼女が立つ地面を殴りつけ、凄まじい爆発を引き起こした。
人1人などあっという間に蒸発させてしまう熱量と、周囲の十代達さえも吹き飛ばさんとするほどの衝撃波。
「ス…スバルーッ!」
ティアナが絶叫する。
死んだ。
誰もがそう思った。いくら魔導師と言えど、防御魔法も展開していない状況では、この暴力的なまでの破壊の前では無力である。
「粉砕! 玉砕! 大・喝・采ッ! ワハハハハハハハハハハハハ!」
カイバーマンが勝利宣言をする。高らかに上がる笑い声は、滅びのバーストストリームの爆音の中でなお轟いていた。
やがて壮絶な破壊の後、ようやく土煙も晴れた着弾点には、案の定何も残っていなかった。
「…ん?」
しかし、それは青眼の白龍の攻撃が、スバルの身体を残らず灼き尽くしたからではない。
カイバーマンがふと上空を仰ぐと、そこには彼女を抱える黒い服の魔導師。
「…へ? フェイト…さん?」
ようやく状況を把握したスバルは、自らを救出した者の名を呼ぶ。
「大丈夫だった、スバル?」
「あ、はい…」
間一髪、ソニックムーブでスバルを助け出したフェイトは、地上に着地すると、スバルの身体を降ろす。
「スバル!」
「よかったぁ…心配しましたよ、スバルさん!」
ティアナ達が口々に声をかけながら、死んだとばかり思ったスバルの元へと駆け寄り、無事を喜ぶ。
そんなスバル達を安堵の表情で見やると、
なのはは真剣な面持ちでカイバーマンを――その頭上に浮かぶ青眼の白龍を見据え、瞬時にバリアジャケットを展開する。
「ふん…ようやくその気になったか」
カイバーマンはすっかり待ちわびた様子で言う。
なのははそれに応えることもなく、戦闘フィールドへと歩を進める。
フェイトもそれにならい、彼女のすぐ隣へと立った。
「確かに…あの威力は、もう私が相手するしかないね」
「そうみたいね」
なのはの言葉をフェイトが肯定する。
「…少し、頭冷やさせないといけないかな?」
「許可するわ。私もそうするから」
キッと最強のドラゴンを睨むと、なのははレイジングハートを、フェイトはバルディッシュを構え、同じ高さまで昇った。
「ククク…まぁいいだろう。だが、貴様ら2人がかりでは、流石の青眼もただでは済むまい…
 …そこで、俺はこれを使わせてもらう!」
カイバーマンが新たに引いた3枚のカード。そのうち1枚は…
「マジックカード・融合を発動!」
「まさか!?」
青眼がフィールドに立っている状態で、更にモンスターを2体追加した上での融合。
その条件から導き出される最悪の結果に、明日香は信じられないといった様子の声を上げる。
「そのまさかだ。奴のデッキは、あの海馬瀬人のデッキと同じ…つまり、奴のデッキには…」
万丈目の声と、残り2枚のカードを表へと向けるカイバーマンの動作が重なる。
「青眼の白龍が、3枚入っているんだ!」
「今こそ融合せよ、青眼!」
カイバーマンが号令した。
2枚のカードから、更に2体の青眼の白龍が飛び出し、既に出現していた1体と共に天空へと羽ばたく。
3体のドラゴンの身体が強烈な光を放ち、やがて光そのものとなり、複雑に混ざり合う。
雷鳴が鳴った。
暗雲が渦巻いた。
3つの光は1つの巨大な光となり、青眼の白龍さえも優に凌ぐ、絶対的な力の権化を降臨させる。
「強靭! 無敵! 最強!」
カイバーマンが、力をこめてその名を叫ぶ。
「これぞ我が下僕の究極なる姿…青眼の究極竜(ブルーアイズ・アルティメットドラゴン)!」

――ォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオーーーーーーッ!!!

咆哮が轟いた。
―青眼の究極竜― 攻撃力4500 防御力3800 融合モンスター
小山のような巨体。白い鱗に青い瞳。地獄の番犬を彷彿とさせる、3つ並んだ竜の首。
これこそ、青眼の白龍の究極形態。史上最強の殺戮兵器。
最強のドラゴンたる青眼の白龍。それを3体も束ねた存在だ。であれば、その力は最早神にも等しき存在なのではないか。
究極竜は語る。
言葉ではなく、気配で。
圧倒的なまでの存在感と冷徹なまでの殺意が、強烈な恐怖の刃となって、その場の者達を容赦なく貫く。
幾多のデュエルを切り抜けてきたデュエリスト達でさえ、その迫力に、ただただ打ち震えていた。
目の前の青眼の究極竜は、紛れも無い本物。
ソリッドビジョンなどでは到底伝わらない、本物の存在感が、デュエリスト達の身を震わせる。
そして、それを眼前で見せ付けられたなのは達の心境は、いかなるものであっただろうか。
恐怖。
今までのありとあらゆる戦場でも経験してこなかった、圧倒的なまでの恐怖。
自分の腕には自信があるはずだった。
しかし、このドラゴンの前では、それにいかほどの意味があるだろう。
防御魔法は障子程度の壁にしかなるまい。通常の魔力弾など豆鉄砲ほどの価値もない。
ありとあらゆるものを蹴散らす、暴力的な力。
エース・オブ・エースの身体が、小刻みに震えていた。

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最終更新:2007年11月21日 19:13