リリカル遊戯王GX番外編 「最強! 華麗! 究極竜(ブルーアイズ・アルティメットドラゴン)~後編~」
『グウウウウウウウウウ…』
唸りと共に、生暖かい吐息が高町なのはの顔をなでる。
3つの首が、6つの青い目が、じっとその顔を見つめていた。
青眼の究極竜(ブルーアイズ・アルティメットドラゴン)。デュエルモンスターズ史上、最も偉大なドラゴン。
強さ、雄雄しさ、神々しさ…全てを内包したその巨体が、なのはとフェイトの目の前にあった。
動けない。
見開いた目は、まばたきすらできない。口を開け、声を発することすらできない。
怖い。
そんな感情を抱いたのは、もう何年ぶりのことだろう。
どんな巨大な敵にも、臆せず立ち向かってきた。どんな辛い目に遭っても、迷わず前進してきた。
だが、この敵は違う。
身体中の全神経が警告を発している。勝てないと。どう足掻いても、人間にどうこうできる相手でないと。
否、それだけならば、まだ無謀なりに戦いを挑むこともできただろう。
それだけでなかったのが問題なのだ。
勝てる勝てない以前に、怖れている。目の前の敵を。
怖い、怖い、怖い…怖くて怖くてどうしようもない。恐怖が身体をしばりつける。
エース・オブ・エースは、完全に目の前の究極竜に圧倒されていた。
「ワハハハハ! どうだぁぁぁ!」
眼下のカイバーマンが、再びあの高笑いを上げる。
「これぞ史上最強にして、華麗なる殺戮モンスターの姿だ!」
攻撃力4500、守備力3800。今までの低レベルモンスターとは明らかに次元の異なる力。
かつてデュエルモンスターズの頂点に君臨した「三幻神」すら脅かす力。
「ククク…最強のドラゴンを前に、臆して声すら出ないか」
図星を突かれても反応することすらできない。それほどまでに、なのはは追い詰められていた。
「ならば、その身でとくとその力を味わうといい!」
青眼の究極竜の3つの口が光を放つ。
全てを破壊する滅びのバーストストリームが束ねられ、巨大な光球と化した。
「アルティメットバァァァァーストッ!!!」
爆音が轟いた。
これまでに経験したことのない熱量と質量が、圧倒的な破壊力となってなのはの元へと殺到する。
「なのはっ!」
間一髪で我に返ったフェイトが、なのはを伴ってその一撃を回避した。
アルティメットバーストは虚空を直進し、僅かにアカデミアの校舎を掠める。
校舎のガラスが、衝撃波で次々と粉々に砕けていった。
恐ろしい破壊力だ。やはり見かけだけではないということか。
仮にアカデミアの全ての人間がこの場にいたとしても、青眼の究極竜ならば全て灼き殺すのに数分とかかるまい。
『ォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオーーーーーーッ!!!』
3つ首の竜王は、再びあの雄たけびを上げた。
「なのは…大丈夫?」
フェイトがなのはを気遣うように言う。
自身もあの圧倒的な力を前に戦慄していたというのに、大した気丈さだ。
同時に、なのはの中に1つの疑問が生まれた。
何故フェイトは回避行動を取れたのに、自分は1歩も動けずにいたのか?
感じていた恐怖は、なのはもフェイトも同じはずだった。ではそこにあった差は何だったのか。
あの時、自分が感じていたのが、恐怖だけではなかったとしたら…?
(…あぁ、そうか…)
その仮定が脳裏に浮かんだ瞬間、疑問は全て氷解した。
自分は、恐怖故にその身を縛られていただけではない。もっと別の感情が、同時に自分をあの場に押し留めていたのだった。
「…ふつくしい…」
思わず、呟いていた。
なのはは究極竜に恐れを抱くと同時に、その姿に見惚れていたのだ。
全身から発せられる、凄まじいまでの殺意と尊厳、そして力。
戦う者が持つべき全てを凝縮した、正に究極の戦士の姿。
青眼の究極竜は、なのはの中に宿る武士(もののふ)の心を揺り動かしたのだった。
「えっ…?」
事情を理解できないフェイトは、怪訝そうな顔をしている。
「…ごめん、フェイトちゃん。少しだけ、私のわがままに付き合ってくれる?」
『Exceed mode.』
レイジングハートの声が響き、なのはのバリアジャケットが変形した。
「なのは…?」
突然の全力解放に、フェイトは戸惑いも露わな声を上げた。
「どうしても、あのドラゴンと戦いたくなった!」
戦ってみたい。
敵わないにしても、自分の力がどこまで通じるのか試してみたい。
10年以上に渡って磨き続けた自分の魔法に、究極のドラゴンはどう応えるのかを見てみたい。
何より、自分は1人ではない。ならば…
「力を貸して、フェイトちゃん」
2人ならば、どこまで行けるのか。
なのはの瞳からは恐れが消え、異界の神にふれた喜びと、未体験の戦いへの高揚感に満ちていた。
「…止めても無駄なんでしょ?」
やれやれといった様子でありながらも、その顔に浮かぶのは穏やかな笑顔。
フェイトもまた、バルディッシュをザンバーフォームへと変形させる。
「行くよ、フェイトちゃん!」
「ええ!」
2人のエースが、巨大な竜目掛けて突っ込んだ。
「ククク…そうだ、そうでなくては面白くない! 迎え撃て、究極竜!」
カイバーマンもまた歓喜の声を上げ、青眼の究極竜へ指示を出す。
向かってくるなのは達は二手に分かれ、なのは上方、フェイトは下方から肉迫した。
3つの頭それぞれが滅びのバーストストリームを放ち、2人の魔導師を狙い撃つ。
両者はそれらの間を縫うように、素早い動作で避けていく。
「はあぁぁぁっ!」
遂にフェイトが敵の懐へと到達し、バルディッシュの金色の刃を振り下ろした。
対する究極竜は、その太く長い尾をしならせ、閃光の戦斧を殴りつける。
「くぅぅっ…!」
青眼の究極竜の尾は、びくともしなかった。
守備力3800を誇る竜鱗は、普通に斬りつけた程度では到底貫けるものではない。
加えて、その筋力だ。尾の形を成した巨大な塊は、じりじりとフェイトの身体をバルディッシュごと押していく。
一方のなのはは、3つ首の正面まで迫ると、真っ向からレイジングハートを構え、魔力をチャージする。
「ディバイィィィーン…バスタァァァァァァーッ!!!」
掛け声と共に、極太の魔力の線が、ドラゴンの頭目掛けて放たれた。
『グオオオオオオオオオオオッ!』
無論、黙って喰らってやるほどこの究極竜は穏やかではない。
中央の頭がバーストストリームを撃ち、ディバインバスターと激突させる。
先ほどのスバルと異なり、威力は完全に拮抗状態。桃色と水色の波動が、空中で正面衝突していた。
そこへ、右の頭から追撃のバーストストリームが撃ち込まれ、バランスは崩壊する。
2つのエネルギーは接触面で大爆発を起こし、なのはの身体を突風で煽った。
更に左の頭が、駄目押しのバーストストリーム。
「きゃああぁぁぁぁぁっ!」
辛うじてなのははプロテクションを展開したが、その衝撃全てを相殺するには至らず、盛大に吹き飛ばされる。
否、そもそもこの防御が成功したこと自体が偶然だった。次も同じように守れるはずがない。であれば防御は捨てるしかない。
(フェイトちゃん!)
普通にやり合っても勝てないという当然のことを再認識し、なのはは念話でフェイトを呼び戻した。
(どうするの、なのは!?)
巨大な尾から逃れつつ、フェイトは合流を急ぐ。
(1人1人の攻撃では、どうやっても傷1つつけられない…なら駄目もとで、一点同時攻撃しかない!)
(…分かったわ、やってみましょう!)
遂に2人は並んで宙に浮き、なのははデバイスを構え、フェイトは左手を突き出す。
『Load cartridge.』
カートリッジが3つ連続でロードされた。両者の足元に、桃色と金色の魔法陣が浮かぶ。
この時、フェイトは確かに横目で見ていた。
なのはの顔に、かつてシグナムとの模擬戦で垣間見せた、凄絶なまでの笑みが浮かんでいたことを。
高町なのはは、修羅と化していた。
「エクセリオォォォーン…バスタアァァァァァァーッ!!!」
「トライデントスマッシャアァァァァァァァァァーッ!!!」
桃色の一直線の波動と金色の3つの波動が、複雑に絡み合い、青眼の究極竜を貫かんと迫る。
「ほぉう…確かにそれならば、究極竜に手傷を負わせることもできるだろう。…だが!」
カイバーマンの声を、大爆発がかき消した。
凄まじい閃光が周囲に満ち、なのはとフェイトの視力を奪う。
光が晴れた頃には、そこにはあの小山ほどの巨体を持った竜の姿は、跡形もなかった。
「やったの…?」
信じられないといった様子でフェイトが呟く。
そうだ。これはおかしい。
元より、今の一撃で青眼の究極竜を倒せるなどとは思っていない。
そこから開いた突破口をこじ開け、撃破するつもりだったのだ。それが何故、こうもあっけなく姿を消したのか。
『…グオオオオオオオオオオオオオオオオオン!』
答えはすぐに判明した。
気がつくと、なのは達の背後には、あの青眼の白龍(ブルーアイズ・ホワイト・ドラゴン)。
それだけではない。斜め右前に2体目、さらに左前に3体目が姿を現した。
「速攻魔法・融合解除を発動した!」
攻撃の寸前に分裂した3体の青眼(ブルーアイズ)が、完全になのは達を取り囲んでいた。
「ククク…十代はこのコンボで俺と青眼に敗れた。さぁ、貴様らはどう切り抜ける?」
余裕たっぷりにカイバーマンが問いかけた。
答えるまでもない。戦うだけのこと。
それどころか、この状況は、なのはにとっては正に望むところだった。あれだけで倒れてしまうようでは張り合いがなさすぎる。
「一斉射撃をお見舞いしてやれ、青眼!」
分かりきった答えを聞く前に、カイバーマンは竜達へ号令を出した。
三方向から、あの滅びの光がなのは達に迫る。
「フェイトちゃん!」
「分かってる!」
意志疎通を図るまでもなかった。2人は瞬時にその場を離れ、行き場を失った砲撃はぶつかり合って爆発する。
なのはは3体のうち1体に狙いを定めると、レイジングハートを構えて攻撃を仕掛けた。
「ディバイィィィーン…バスタァァァァァァーッ!!!」
再び放たれた桃色の光が、青眼の白龍を狙い撃つ。
『ギャオオオオオオオオオオオオオオオッ!』
直撃を受けた青眼の白龍は、苦しげな声を上げて悶えた。
融合を解除したことで、個々の守備力は今や2500まで落ちている。これならば、何とか1人でも対応できた。
『ウオオオオオオオオオオオオオオオオオオンッ!』
と、背後から2体目のドラゴンの口がなのはへと殺到した。どうやら彼女を飲み込もうとしているらしい。
とっさにレイジングハートを支えにし、その口をふさぐものの、このままでは身動きが取れそうにない。
青眼の白龍は、凄まじいまでの顎の力で、なのはの身体を噛み砕こうとしていた。
「クロスファイア…シュートッ!」
なのはは右手から4つの魔力弾を放った。ドラゴンは苦しみもがき、彼女を吐き出す。
体内めがけて撃ち込むというあまりにあまりな攻撃法に、少々罪悪感を抱いたものの、そんなことは言っていられなかった。
一方のフェイトは、バリアジャケットをソニックフォームへと変形させ、最後の青眼の白龍へと迫っていた。
レオタードを思わせる軽装のソニックフォームは防御力を大幅に落とすが、
元々避けて当てるタイプのフェイトには大した問題でもない。
そもそも、今回は相手が相手だ。一撃でも直撃しようものなら、インパルスフォームでも即刻あの世逝きである。
『グオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!』
雄たけびを上げ、青眼の白龍はバーストストリームをフェイト目掛けて放つ。
「撃ち抜け、雷神!」
『Jet Zamber.』
バルディッシュから衝撃波が放たれ、バーストストリームを一瞬押し留めた。
続けて延長された長大な刃で、真っ向からその光を斬り裂きにかかる。
「はああぁぁぁぁぁぁぁぁーっ!」
気合いと共に突き出された刃が、滅びの光を掻き分け、遂にドラゴンの身を捉える。
『ギエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエッ!』
強烈な斬撃を受け、青眼の白龍は鼓膜をつんざくかのような悲鳴を上げた。
なかなかのダメージを与えることはできたが、まだまだ戦うことはできるらしい。フェイトはバルディッシュを握りなおす。
「戻れ、青眼!」
と、そこへカイバーマンの指示が響いた。
すぐさま3体のドラゴンは、彼の上空へと引き返す。
なのは達もまた合流し、距離を置いて青眼の軍団と相対する。
「…よくぞここまで戦い抜いた」
カイバーマンからかけられた言葉は、意外にも賞賛だった。
「貴様らの力、そして闘志…この目でしかと見届けさせてもらった。まさか青眼をここまで追い詰めるとはな」
そこまで言い終えると、彼の口元がにぃと歪む。
「その褒美として、最大最強の一撃を以って幕としてやろう!」
カイバーマンはデッキから、新たなカードをドローする。
「ククク…十代と戦った時の俺では、よくてここまでが限界だった。
…だが、俺は最早あの時とは違う! 過去とはただの足跡に過ぎん! 装備魔法・再融合を発動!」
「馬鹿なっ!?」
オブライエンが叫びを上げる。
再融合はライフを800ポイント払うことで、融合モンスターを蘇生させるカード。この戦いで消えた融合モンスターと言えば…
「再び舞い戻れ、青眼の究極竜! 3体の青眼の白龍と共に…その怒りの業火で、全ての敵をなぎ払うがいいッ!!!」
悪夢。
まさに目の前の状況は、それ以外の何物でもないのではないか。
逆に言えば、これほどまでに分かりやすい「悪夢」など、そう簡単には存在しないのではないか。
――ォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオーーーーーーッ!!!
青眼の究極竜が咆哮する。
――ガオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオーーーーーッ!
――グオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオーーーーーッ!
――ウオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオーーーーーッ!
3体の青眼の白龍が合唱する。
なのは達の目の前には、6つの同じ顔があった。
―青眼の究極竜― 攻撃力4500 防御力3800 融合モンスター
―青眼の白龍― 攻撃力3000 防御力2500 通常モンスター
―青眼の白龍― 攻撃力3000 防御力2500 通常モンスター
―青眼の白龍― 攻撃力3000 防御力2500 通常モンスター
合計攻撃力、13500。
最早ありとあらゆる手立てが、まったくの無意味だった。
今更ライオットフォームを起動したところで、何の足しになるだろう。
今更ブラスターモードを発動したところで、何が変えられるのだろう。
絶対的な力、恐怖、絶望。
否、それらの言葉で語ることが、もはや無意味であった。
最も尊いドラゴンが3体に、神にも等しきドラゴンが1体。
こんな状況を、言葉を尽くして語ろうというのが馬鹿げている。言葉はそこまで高尚なものではない。
なのは達は覚悟を決めた。
「よくぞ俺にこの手を使わせた。…ククク…今一度褒めてやろう」
「どうも」
冷や汗を浮かべながら、なのはは皮肉を返す。
「では、これで終わりだ! その力を示せ、青眼の竜達よ!
この世の全てを打ち砕く、絶対的な破壊をもたらしてやれ! バーストストリーム6連弾ッ!!!」
6つの頭が、一斉に光を撃ち出した。
なのは達の一点射撃を再現するかのように、バーストストリームが混ざり合い、1つとなる。
大気さえも焦がすかのような攻撃。否、最早攻撃ですらなかった。
これは天災だ。
4体の竜によってもたらされた、避けようのない天災だ。
(来る!)
なのは達は固く目をつぶる。
「――トラップ発動! 攻撃の無力化!」
一瞬と経たず、2人の女性を残らず蒸発させるかと思われた一撃は、しかしその手前で押しとどめられた。
「――マジック発動! 光の護封剣!」
続けて、青眼の白龍達を、天から降り注ぐ無数の光剣が遮る。
「…これは…?」
なのは達は目の前のことについていけず、思わず周りを見回した。
ふと下を見ると、そこには、2枚のカードをデュエルディスクにセットした十代の姿。
「十代君…!」
「へへっ、危ないところだったな」
元気に笑うと、十代はカイバーマンへと視線を向ける。
「もういいだろ、カイバーマン? 勝負はなのはさん達の負け、アンタの勝ち。アンタも満足できたみたいだしな」
「チッ…余計な真似を」
カイバーマンは不満げに反論する。
「どうかな? ホントは、俺ならこうするってこと、分かってたんだろ?」
挑戦的な笑みを浮かべ、十代が問いかけた。
「フン…」
それに答えることなく、カイバーマンはなのは達を見上げた。
「見事だったぞ、異世界の女。十代達と同じ、デュエリストとしての意志…見せてもらった。
貴様らがこの先その意志を絶やすことがなければ、元の世界に戻ることも可能だろう。…できるな?」
「もちろん!」
なのはもまた、笑顔で応じるのだった。
(いや…あのまま行くと、なのはが鬼になっちゃうような…)
一方、修羅の表情を垣間見たフェイトは、何故か脳裏に般若の面を浮かべながら苦笑いするのだった。
「おのれぇぇ…迷惑なことしてくれるじゃないか…」
オレンジ色の影が、冒頭のアルティメットバーストの流れ弾をモロに受け大変なことになっていたのは、また別の話。
スバル「ねぇねぇ翔、ものすごくカッコイイロボットのカードがあるって本当?」
翔「え? それってひょっとしてステルスユニオンのこと? いやぁ~照れるなぁ~」
剣山「誰も丸藤先輩のことは褒めてないザウルス…」
次回 「勇者王対決! スバル対スーパーステルスユニオン!」
なのは「当然そんな話はないからね♪」
スバル「え~…」
最終更新:2007年11月21日 21:00