地獄島。それは世界的テロリスト『Dr.ヘル』の本拠地。そこでは今、最強の魔神『マジンカイザー』とDr.ヘルの最終決戦が行われていた。
あしゅら男爵の駆る最強の機械獣『地獄王ゴードン』を討ち、そのまま最奥まで踏み込むマジンカイザー。その衝撃でDr.ヘルが玉座までよたよたと後退し、座り込む。
そして今、マジンカイザーの搭乗者『兜甲児』がDr.ヘルの姿を見付け、マジンカイザーを降りて話をしているところである。
「底知れぬ力、卓越した勇気、類稀なる行動力……貴様には力がある。並外れた力だ。
その力を!人類愛や世界平和などという下らぬ物のために、何故使うのだ!」
「何!?」
「ワシは貴様の力が欲しい。どうだ?マジンカイザーとともにワシの片腕となり、思う存分暴れてみぬか?
全世界を、われらの物にしようではないk「断る!」何ぃ!?」
「貴様の仲間になるなんて、真っ平ゴメンだ!
おじいちゃんが造ってくれたマジンカイザーを、悪魔なんかに絶対させないぜ!」
即答。この質問の答えなど、初めから決まっていた。
マジンカイザーには色々な人の思いが詰まっている。それをDr.ヘルのような悪党に利用させ、悪魔にしてしまうのは我慢できなかったのだ。
質問の答えを聞き、Dr.ヘルはゆっくりと肩を落として呟いた。
「そうか……やむを得ん、諦めよう……はあっ!」
その「諦める」とは、甲児を味方につけることを諦めたという意味なのだろうか。持っていた杖を鞭のように振るい、甲児へと攻撃を仕掛ける。
甲児は向かってくる鞭を手持ちのビームガンで撃ち落として難を逃れるが、そこで異変が起きた。
それまで立っていた床が跳ね橋のようにせり上がり、甲児を後ろへと転倒させた。
「Dr.ヘル!ああっ!?」
転倒した甲児はすぐに体勢を立て直し、Dr.ヘルにビームガンを向けるが、時すでに遅し。
先程の跳ね橋のような床の下から、一台のロケットが現れ、それがDr.ヘルを乗せて飛び立ってゆく。
爆発を続け、崩壊してゆく地獄島から、脱出しようというのだ。
「フフフフハハハ……また会おう、兜甲児よ! フハハハハハハ!」
「待て! 待ちやがれ!!」
甲児は諦めずにビームガンを構えるが、爆風によってバランスを崩して転ぶ。Dr.ヘルを追うことはもはや絶望的だ。
だが甲児は気付かなかっただろう。この瞬間、Dr.ヘルの脱出も絶望的になったことは。
周囲の爆発。それがDr.ヘルのロケットに誘爆するなどと、予想できた人間はこの場にはいない。ロケットのブースターが誘爆し、脱出不可能になるという事を。
「な、何だと!?」
そんなことは露知らず、甲児は脱出するためにマジンカイザーへと走った。
「ええい、くそっ!」
マジンカイザーのコクピットへと走り、乗り込んでキャノピーを閉じる。
直後、コクピットの位置に爆風が。後一瞬遅かったら間違いなく餌食になっていただろう。
ここにいる誰にも予想できなかった事はもういくつか存在する。
一つは、巨大な爆発に紛れて謎の光が現れたこと。それは小さな光だったが、マジンカイザーを飲み込むのには十分な大きさだった。
もう一つはマジンカイザーが動かなかったこと。これにより、なす術なく甲児とマジンカイザーが光に包まれた。
そして最後の一つは……その光が甲児を異世界へと飛ばしたことである。
これにより、後に『闇の書事件』と呼ばれる事件に甲児を関わらせることになるのだが、今の彼には知る由も無い。
魔法少女リリカルマジンガーK's
第一話『魔神再臨』
第97管理外世界『地球』。ここでの戦いもまた、佳境を迎えていた。
「助けなきゃ……私が、みんなを助けなきゃ……!」
ボロボロの杖を持った少女『高町なのは』が、そう言いながら前へと進む。左腕を押さえているが、怪我でもしているのだろうか。
彼女の周りには緑色の光が。まるでその場所で彼女を守るように輝いている。足元の陣から光が出ているようだ。
空には無数の閃光。舞っているのか、それとも戦っているのか、衝突しては離れていく。
こうなるまでの経緯を話そう。
なのははこの日、いつもと変わりのない生活をしていた。
学校へと通い、友人と談笑し、家で家族と過ごし、裁判を終えて会いにくる友人を待つ。いつも通りの生活。
だが、この日の晩に状況が一変した。
襲撃者『ヴィータ』が張った結界により、閉じ込められてしまったのだ。
その後、愛用のデバイス『レイジングハート』を手に応戦するも、一歩及ばずバリアジャケットを潰されてしまう。
なのははそのまま止めを刺されそうになるが……なのはの友人が、『フェイト・テスタロッサ』と『ユーノ・スクライア』、『アルフ』の3人が助けに現れ、どうにかヴィータを捕らえた。
そしてフェイトが目的を聞き出そうとするが、その前にヴィータの仲間『シグナム』と『ザフィーラ』が現れ、ヴィータを捕らえていたバインドを解除。
そのままシグナムら『ヴォルケンリッター』との3対3の戦闘になり、今に至るというわけだ。
『Master.Shooting Mode,Acceleration.』
半壊状態のレイジングハートが、声とともに光の翼を広げる。比喩表現ではなく、杖から翼がはえたのだ。
突然の事に驚くなのは。いったい何をするつもりなのだろうか。
「レイジングハート……?」
『撃ってください。スターライトブレイカーを』
スターライトブレイカー。それは、なのはの持つ魔法の中で最大の威力を誇る砲撃魔法。
チャージの時間が大きな隙となるものの、それを補って余りある破壊力、そして今の状況で必要な『結界破壊』の能力を持つ。現状の打開にはもってこいの魔法だ。
だが、その破壊力故に負荷が大きく、今の状態で撃ったらそれこそ全壊してもおかしくない。
「そんな……無理だよ、そんな状態じゃ!あんな負担のかかる魔法、レイジングハートが壊れちゃうよ……!」
『撃てます』
それを知っているなのはは当然止めようとするが、やめる気配はない。それどころか自信を持っての「撃てる」発言。
『私はあなたを信じています。だから私を信じてください』
レイジングハートが信じてくれている。壊れる危険性すら顧みず、なのはを信じてスターライトブレイカーの発射を促す。
その様子を見たなのはが目に涙を浮かべ、目を瞑り、そして……構えた。
「レイジングハートが私を信じてくれるなら……私も信じるよ」
なのはが構えると同時に足元の魔法陣が消え、代わりに正面に大きな円形の魔法陣。
そして今も戦っている仲間に念話を送った。
『フェイトちゃん、ユーノ君、アルフさん……私が結界を壊すから、タイミングを合わせて転送を!』
『なのは!』
『なのは……大丈夫なのかい?』
念話を聞き、それぞれが反応する。
言葉を返さず心配そうな表情をするフェイト、驚いて振り向くユーノ、問い返すアルフ。反応はそれぞれ違うが、なのはを心配しているという点では共通している。
それに対し、なのはは上空にレイジングハートを構えたまま答えた。
『大丈夫……スターライトブレイカーで撃ち抜くから!』
同時刻、この付近のビルの陰に、光とともにイレギュラーともいえる何かが現れた。
鋭角的なデザインをし、黒い両手両足を持ち、胸に赤い翼のような何かがついている。
見る人が見ればこのような感想を持つだろう。「人間サイズのマジンカイザーだ」と。
そして、マジンカイザーのような何か(便宜上『マジンカイザー』とさせていただく)はそのまま立ち上がると、戦場へと歩いていった。胸に『魔』の文字を宿して。
「レイジングハート、カウントを!」
『All right.』
レイジングハートがカウントを始めると同時に、魔法陣の前に桜色の魔力球が形作られる。
『Count 9,8,7,6』
カウントが進むとともに、魔力球もその質量を増してゆく。
ヴォルケンリッター達もそれに気付き、阻止しに向かうが、フェイト達がそれを許さない。
結界を破って転送さえすれば勝ち。ならば時間を稼ぐ必要がある。
それが分かっているからこそ、彼女らはなのはの邪魔をさせないために食い止める。
『3,3,3,3....』
カウントが3で止まる。やはり限界だったのだろうか。声もまるで故障寸前のオモチャだ。
さすがに心配になったのか、なのはが声をかけた。
「レイジングハート……大丈夫?」
『No problem. Count 3,』
なのはの声に反応したのか、レイジングハートが多少持ち直し、カウントを再開する。
『2,1...』
カウント終了も近い。それと同時に撃てるよう、レイジングハートを振りかぶる。
そしていざ放とうというとき、それは起こった。その起こった出来事により、なのはの体制が崩れる。
「なの……は……?」
フェイトは自身の目が信じられないような目でそれを見ていた。
……それも当然だろう。何せ、なのはの胸から腕 が 生 え て い た の だ か ら 。
血などの類が全く出ていないのが逆に不気味である。
そして、その腕の持ち主であるヴォルケンリッターの一員『シャマル』はというと、遠くのビルからその様子を見ていた。
彼女の目の前には謎の空間の入り口のようなもの。これがシャマルの得意とする魔法『旅の鏡』である。
「しまった、外しちゃった……」
口ぶりからすると、どうやら狙いがずれていたようだ。
旅の鏡から腕を引き抜き、改めて差し込む。それと同時になのはの体から光る何かが。
この光るものこそが、魔法を使うための体内器官『リンカーコア』。それが今、体外に出てしまっているのだ。
「なのは!」
何か分からないがこれはまずい。そう思ったフェイトがなのはを助けるべく、目一杯の速度で飛ぶ。
だが、そうはさせまいとシグナムがフェイトの進路に立ちはだかり、足止めする側とされる側が逆転することになった。
同刻、マジンカイザーはただ前へ、前へと歩いていた。
近くから聞こえる戦闘音に導かれているのか、しっかりと、音の方向を目指して。
歩き、前へと進み、そして視界に何かを確認。その方向へと顔を向け――――
『Rust tornado.』
その何か―実はそれはシャマルなのだが―へと向けて、数本の竜巻を吐き出した。
「リンカーコア、捕獲……蒐集開始!」
『蒐集』
シャマルの目の前にある開かれた本。そのページの白紙の部分が、シャマルの声とともに大量の文字で埋め尽くされる。
文字が2ページ分埋められると、ページがひとりでに捲られ、次のページにもまた文字が書き込まれてゆく。
そして本の文字数の増加に反比例してなのはの魔力が削られ、リンカーコアが縮んでいった。
……もうお分かりだろう。なのはの魔力を奪い、それが本のページへと変わっていったのだ。
魔力を奪われて倒れそうになるが、それでも踏みとどまってスターライトブレイカーを放とうと振りかぶった。
『Rust tornado.』
「えっ!?」
異常発生。デバイスのような声とともに、数本の竜巻が唸りをあげて吹き荒れる。
驚きの声を上げ、振り向くシャマル。そのせいでなのは以外の全員の注意が竜巻の方へと向く。
シャマルの眼前には竜巻。蒐集を中断してかわそうとしたが……間に合わない。どう動いても直撃コース。
直撃する。誰もがそう思ったが、そうはならなかった。ザフィーラが間一髪シャマルの前に躍り出て、防御魔法で竜巻――『ルストトルネード』を防いだ。
「ク……大丈夫か、シャマル?」
「え、ええ。ありがとうザフィーラ」
シャマルを守った後、マジンカイザーと対峙するザフィーラ。その後ろでシャマルは思案する。
(あの人(?)……さっきまでこの結界の中にいなかったはず……なのにどうしてここに?)
「ス、スターライト……!」
蚊の鳴くような弱弱しい声。それがここにいる全員に今の状況を思い出させた。
唯一マジンカイザーに注意を向けなかった人物、なのはがスターライトブレイカーを放つべく振りかぶっている。
そう、ヴォルケンリッターはなのはの魔力を奪うため、そしてフェイト達はなのはを助けるためにここにいる。
これを止める必要がある。ヴィータがそう思って動こうとするが、時すでに遅し。
「ブレイカァァァーーーーー!!」
閃光が夜空を駆け抜ける。そして天へと昇り、ヴィータが張っていた結界をぶち抜いた。
気付けば胸から出ていたシャマルの腕も無い。先ほどのルストトルネードの時点で既に蒐集は中断されていた。
そのままなのははレイジングハートを落とし、意識を手放した。
『結界が抜かれた……離れるぞ!』
『心得た』
先ほどのスターライトブレイカーが結界を破ったことに気付き、すぐに念話で指示を出すシグナム。そしてすぐにザフィーラが承知した。
だがシャマルは何か気にかかっているようだ。そしてその気にかかる事を念話で話す。
『シグナム、あの黒い人はどうするの?』
『放っておけ。こちらに仕掛けてきたという事は、おそらく管理局側だろう。いちいち相手にしている場合ではない』
『……分かったわ。一旦散って、いつもの場所でまた集合!』
シャマルの気にかかるもの、それは言うまでもなくマジンカイザーの存在だ。
蒐集を始める寸前まで結界内にいなかったはずの存在。シャマルでなくとも気にはなるかもしれない。
だがシグナムはそれを切って捨てた。管理局側だろうという一言で。
そしてシャマルも納得したのか、すぐに他の3人とは別々の方向へと転移していった。
「ユーノ、なのはをお願い」
フェイトはそう言うと、飛行魔法でマジンカイザーの前まで飛んで行った。
突然現れ、シャマルへと問答無用で攻撃を仕掛けた相手。その正体と目的を聞きだす必要がある。そう考えて近づいていったのだ。
ちなみに、万一戦闘になったときのために結界を改めて張ってある。先ほどまで張られていたものとは違い、管理局側からも内部の様子が見えるようになっている。
そしてマジンカイザーの前へとたどり着くと、型通りの質問を投げかけた。
「時空管理局嘱託魔導師、フェイト・テスタロッサです。名前と出身世界、目的を教えてください」
…………………………
沈黙。何一つ言葉を発しない。何を考えているのかフェイトも図りかねている。
このまま沈黙が続くのかと思ったが……次の瞬間、最悪の形で崩れた。
『Photon beam.』
デバイスらしき電子音とともに、目と思われる部位からの光線。おそらく魔力攻撃だろう。
間一髪かわし、改めて目の前の存在へと目を向ける。腕を前に出し、今にも攻撃をしてきそうだ。
この瞬間、フェイトの意志は目の前の存在を敵として認識。バルディッシュを構えた。
フェイトは知らない。このマジンカイザーがデバイスとバリアジャケットを装備した甲児だということを。
フェイトは知らない。転移のショックで甲児が気絶していることを。
フェイトは知らない。現在起動しているマジンカイザーのモード『魔』は、気絶した装着者に代わっての自立稼動モードであることを。
最終更新:2007年11月23日 09:38