「冗談じゃねえ…」
この俺、ルシード・アトレーは、トレーニングルームの片隅に積み上がった
新型装備の山を前に、悩みを山積させていた。
早速開封して楽しそうに色々といじり回しているルーティとビセットを
ただぼんやり見ているだけなあたり、メルフィも俺と似たような気分なんだろうな。
つい三ヶ月ほど前までは万年日陰者にして手空きの便利屋扱いだった俺たち第四捜査室…
正式名称、シープクレスト保安局刑事調査部第四捜査室にこんなものがちょくちょく持ち込まれ始めたのは、
いきなり始まった技術革新とやらのせいらしい。
まあ、魔法関係の事件を担当させるために、魔法の才能がちょっとでもあるやつを
本局がなりふり構わずスカウトして集めてきたのが俺たちだから、
こういう、なんかあやしい試作装備が回されてくること自体はありふれたこと。
だけど、いくらなんでも、『技術革新』の一言で納得するほど俺はお人好しじゃない。
今は金庫で厳重に管理されてる新版の教本に書かれていた魔法体系は、どう見ても今までの俺たちと接点が無い。
そりゃ、発掘された古代の遺跡から失われた魔術だのマジックアイテムだのが出てくることくらい、たまにはあるだろうよ。
そんな大発見が何十個も同時に重なって、こんな武器『ども』が俺たちの手元に転がり込んでくるようになったってわけか?
『初めまして』
「わっ、しゃべった」
「なになに? 今度のは自分でしゃべんの?」
『はい、ストレージデバイスではなくインテリジェントデバイスですから』
「いん、てり…?」
マナを編み上げて魔法の効果を生み出すには、特殊な才能がいる。
魔法と科学技術の融合が今ほど進んでいなかった昔は、誰もがわりと普通に使えていた力だったらしいんだが、
今となっては珍しいその才能の持ち主の一人が俺だったのはまったくいまいましい限りだ。
それはともかく…そんな俺たちにしたって、昔の人間と比べたら魔法の能力じゃ大幅に劣っているはず。
だが、あの新型装備どもを手にした今じゃ、それですらも洒落になっていないと思う。
ストレージデバイスとかいうのは早い話、魔法の手順をほとんど代行してくれる杖で、
俺たち自身がマナを編み上げて行使する数十倍の早さ、というよりも一瞬で魔法を発動させられる。
あの日から俺たちの魔法は、火縄銃からいきなりマシンガンに変わった。
それだけじゃない。バリアジャケット、念話、飛行術式…こいつら全部ひっくるめると。
「お前の心配は、おそらく正しい」
「…いきなり後ろから陰気なツラさらすなっての」
顔色から心を読んできやがったゼファーは俺の罵詈に取り合わず、
一人で勝手に先を続ける。
「第四捜査室は、この装備と能力に見合った働きを期待されるだろう」
「ゼファーさん、じゃあ」
「それ以上のことはわからん。できる限りのことをするしかないな」
「待ってください、できる限りって…」
部屋を出て行くゼファーの後ろをメルフィがあわてて追いかけていく。
藁にもすがりたいって面だったな、あれは。
珍しいものが見られたのはまあいいけど、それでめでたし、で終わるものでもない。
近くのベンチで寝転がりながらタバコを五本同時にふかしてるバーシアに、ふと目をやった。
「ん、なに」
「くせえ、よそで吸えよ。
それに、何、一度にンなたくさん吸ってんだ」
「だって、予算増額されてんでしょ、ウチら。
だからちょっとリッチに」
「おまえな、予算でタバコ買う気かよ」
「んなことしなくても、お給料にも色がつくでしょ」
「あれは研究費だろ、新装備の」
「それだけじゃないみたいねー」
上半身を起こすとバーシアは意味深ににやけてきた。
と思ったが、目つきが笑っていない…
「小耳にはさんだんだけど、ウチら、拡大されるみたい」
「誰から聞いたんだよ」
「だから、小耳にはさんだの。人員拡張だって。
ま、テキトーに頑張んなさい。あたしは槍でも磨いてくるわー」
バーシアは、手をぱたぱたと振りながら去っていった。
…どうも、からかってるわけじゃないらしい。
しかし、人員拡張って、これ以上うちのどこにそんな人数が入るっていうんだよ。
第一、室長の俺自身が面倒を見きれない。
すると、現実的に考えて、分室なり何なりがどこかに出来て…
だとしても、第四捜査室の室長は俺だから、そいつらも俺の指揮下ってことになって…
いやいや、いくらなんでもそれはない。『第四捜査室二課』みたいな風になるんだろ…
んな、やたらたくさん魔法使いを集めてどうする気なんだ。
そこに来て、今の『技術革新』だろ。
一体全体、俺たちに何をさせる気なんだ?
「センパイ」
「…………」
「今までの私達でいられるんでしょうか、私達」
「さあな」
なにしろ考え事の途中だ。
神妙な顔で不安っぽいものを訴えてきたフローネにも、
普段以上につっけんどんな態度で当たってしまった。
「へー、それじゃ、もっとうまく飛べるようになるんだぁ、私」
『はい、術式をマスターに合わせて最適化するのも私の機能です』
「あーあ、いいよなぁ。今んとこ、飛べるのルーティだけじゃん」
「えへへぇ、風系統が得意だからかなぁ」
ルーティ、ビセット。
喜んでいられるお前らが、心底うらやましいよ。
その分、俺がしっかりしなきゃいけないあたり、実にムカつくんだけどな。
…あー、困った、困った。
「ご主人様ー」
「どうした、ティセ」
「どうして汗いっぱいかいてるですかー?」
「…気のせいだろ」
「あぅー」
部屋が妙に蒸し暑いのは、間違いなく俺の気のせいだった。
そのくせ、背筋が寒いのも。
この半年後、俺たちはレリックという魔法の宝石をめぐって少女ルーテシアと争い、
極秘裏に政府と国交を持っていたミッドチルダの存在を知る。
単なる保安局の一捜査室にすぎない俺たちにあんな大量の装備が流し込まれ、
噴火した火山での救助活動だのドラゴンの鎮圧だのの危険な任務にばかり送られた真相は、
ミッドチルダに対抗しうる新世代魔法戦部隊のテストケースにされていたからだってわけだ。
魔法が使える人間自体がレアなこの世界だからやむをえないんだそうだが、
そのせいでルーティを再起不能寸前まで使い潰されたのには、さすがの俺たちも黙っていなかった。
ミッドチルダから研究用に払い下げられた装備を使って対ミッドチルダの軍備を整えようとしていた不義が、
『図ったようなタイミング』で明るみに出た結果、ある種の妥協と取引で俺たちはミッドチルダに出向となる。
そして、その縁で出会った機動六課と合流、キナ臭い話に取り囲まれながらも『ゆりかご』を追っていくことになるんだが…
… To be Continued ?
最終更新:2007年12月01日 10:38