魔道戦屍リリカル・グレイヴ Brother Of Numbers 偽第一話「ビヨンド・ザ・グレイヴ」
覚えているのは青い空…覚えているのは白い雲…覚えているのは……
太陽の光の届かない地下施設、違法なる科学者ジェイル・スカリエッティの研究所の一室で意識を闇に落としていた男は目を覚ました。
「おや、目を覚ましたのかね?」
声をかけたのは白衣を着込んだこの施設の主、ジェイル・スカリエッティ、対するは隻眼の死人兵士(しびとへいし)ビヨンド・ザ・グレイヴ。
「古びたコンテナに眠る君を発見してね、勝手かもしれないが修復と蘇生をさせてもらったよ…グレイヴでいいのかな?」
スカリエッティの言葉にグレイヴは険しい目つきで答える。
「ああ名前か、私はジェイル・スカリエッティだ一応は科学者のはしくれだよ、それと君の名前はコンテナの資料から知ったよ」
スカリエッティがそう言うと彼の作った戦闘機人たち、セイン・ノーヴェ・ウェンディといった元気のある面々がコンテナから発見された荷物を部屋へと運び込んだ。
「ドクタ~これは何に使うんっすか~?」
「ああ、それは彼の身体の血液を交換するために使う専用の椅子だよ」
「そんなモンが必要なのかよ、とんだ欠陥品だなそいつ」
「本人の前で失礼な事を言っちゃダメだよノーヴェ、セインお姉ちゃんおこるよ~」
「うっせー、姉貴面すんな」
「う~妹が反抗期だ~今度チンク姉に言いつけてやる~」
「それはヤメロ!」
そうやってグレイヴの前でナンバーズがやかましく微笑ましい会話を繰り広げる、表情こそ変わらないが彼の出していた殺気が引いたのをスカリエッティは感じた。
「彼女たちはナンバーズ、私の作った戦闘機人…つまり君と同じような人工的な処置を受けた人間だよ、もっとも君は既に死んだ人間のようだが」
「えっ…その人って死んでるんっすか…ちょっと恐いっす」
「厳密に言えばね、でもこうやって生きて動いているのだから、君たちとそう変わらないさ」
怯えるウェンディにそう言うとスカリエッティはグレイヴに向き直り彼に声をかけた。
「さて、それじゃあ必要な事はこの3人から聞いてくれたまえ、私は研究に戻るよ」
「マジかよ」
「別にいいじゃんノーヴェ、最近は暇だったんだからさ」
「そうっすよ、死人も幽霊も戦闘機人には恐くないっすよ」
「恐がってんのはお前だけだろうが」
スカリエッティはそう残してその場を去り、ノーヴェたちがグレイヴの下に集まる。
「あたしはナンバーズ6番のセインだよ♪よろしくねグレイヴ」
「…ノーヴェだ」
「あたしは11番ウェンディっすよ、とりあえず服を着るっすよ」
3人は自己紹介をしてグレイヴの十字架の刻まれたスーツを差し出した、彼は目覚めの血液交換の為に上半身裸の状態だった。
服を着たグレイヴは3人に施設内を案内され様々な場所を歩いた、そして自分が眠っていたというコンテナの下にたどり着いた。
「これがグレイヴのいたコンテナっすよ」
「すごいボロボロだね~」
「ってかグレイヴっつたか、なんか喋れよ!最初っから一言も喋らねえじゃねえか」
「そう言わないっすよノーヴェ、きっと美少女だらけで緊張してるんっすよ」
そんな3人を置いてグレイヴはコンテナ内部を見た、最後の自分の記憶では十二やビリーと共に戦いを終え、“ミカ”に見守られて眠りについた筈だった。
「あっそうだ、グレイヴ、あたしこれをコンテナの中で見つけたっすよ、たぶんグレイヴ宛っすよ」
ウェンディはそう言うと古びた手紙をグレイヴに差し出した。
彼はその手紙を丁寧に開き、読み始めた……そして最初から一切の感情を見せなかった表情を悲しみに曇らせ、頬に一筋の雫を零す。
「どうしたっすか!?どこか痛いっすか?」
「どっか痛いならドクター呼ぶか?」
「グレイヴ~大丈夫?」
たった一滴の涙だったが、表情を表に出さない彼が発露するその感情の重さを語っていた。
グレイヴは自分を心配する3人の少女を見て優しく微笑み、かつて自分のファミリー“ミカ”にしたように、そっとその頭を撫でた。
「うわっ、いきなり何するの?まあ悪くないけど…」
「勝手に撫でんなよ…」
「セインとノーヴェずるいっすよ~その後はあたしっすよ!グレイヴ~」
地下の薄暗い施設に温かい空気が流れ、微笑ましい笑い声が響いた。
それは彼へ宛てられた古びた手紙、送り主は最愛のファミリー(家族)。
グレイヴへ。
あなたがこの手紙を読んでいる時、私はきっともう、この世には居ません。
専門医の先生からは後半年の命だと言われました、最後まであなたの傍に居られなくてごめんなさい。
最近は昔の記憶ばかり思い出します、スパイクや屍さんビリーさん、そしてグレイヴと一緒に駆け回ったあの時のことを…
きっと私が死んだらあなたは悲しんで泣いてくれるねグレイヴ、でも私はあなたや皆に会えて本当に嬉しかったから、これだけは忘れないで。
この先あなたが安らかに眠り続けてくれるのを祈ります。
でも目を覚ましたらあなたは、また誰かを守ろうと助けようとするよね、私はそんなあなたが大好きだから、そんな時はその人を守ってあげて。
それじゃあ、ありがとう、さようなら…愛しています。
浅葱ミカ。
グレイヴはスカリエッティの下で大した事でない雑用を行いながら、ナンバーズの面倒を見て静かに暮らす、かつての血と硝煙に塗れた日々を忘れるかのように、しかしそんな日々は長く続かない。
ナンバーズが時空管理局という組織の機動六課という名の部隊と交戦になり苦戦をしているという通信が入る。
スカリエッティのラボのドアが乱暴に蹴破られ死人兵士、グレイヴが姿を現す。
「君か…来ると思ったよ」
視線をその場に置かれていたグレイヴの棺桶“デス・ホーラー”へと移し言葉を続けるスカリエッティ。
「弾は全弾非殺傷設定のものを込めておいたよ、、転送はルーテシアが行なってくれる…」
科学者は転移魔法陣を指差し、武器の説明を入れる。
「しかし、良いのかね?これで君は管理局をこの世界の法を敵に回すのだよ?」
その質問に振り向きもせず、死神とまで言われた最強の死人兵士は再び戦いの場へと足を踏み出していた。
「あなたは何でこんな事をするんですか?どうして彼女達を守るんですか?」
戦闘機人を助けに現れた謎の二丁銃の男に高町なのはは、声を荒げた。
「…ファミリーだ」
男はこの世界に来て初めて口を開いた。
「あの子達は俺のファミリーだ!」
言葉と共に地獄の番犬の名を持つ二丁銃“ケルベロス”を構えた男ビヨンド・ザ・グレイヴは戦場を駆ける、新たなるファミリー(家族)を守るために。
続く(嘘)
最終更新:2007年12月07日 20:58