「フォトンランサー・ジェノサイドシフト!解き放て!」
 刹那、金色の光の雨が降り注ぐ。そして降り注いだ光は、シアゴーストのほとんどを射抜いた。
シアゴーストの残りは3体。だが、それよりも驚いたのは、はやてが立ち直ったことである。
「はやて!もう大丈夫なのか?」
「うん。心配かけてごめんな。でも、もう大丈夫や」
 はやてはそう言うと、シグナムの方を向く。
「シグナム、ありがとな。おかげで目が覚めたわ」
「…何のことかは存じませんが、お役に立てたのなら幸いです」

「ラケーテンハンマー!」『Explosion.』
「紫電一閃!」『Explosion.』
『FINALVENT』「はぁっ!」
 遠心力を利用した打撃魔法『ラケーテンハンマー』が、
 炎を纏った斬撃『紫電一閃』が、
 空中での回転体当たり『シザースアタック』が、3体のシアゴーストを砕いた。

「神崎士郎が言っていた邪魔者…どうやら彼女達のようですね」
 帰宅後、誰もいない自室で須藤が呟く。彼の言う邪魔者とは、時空管理局の面々だ。
というのも、時空管理局の面々は神崎から「戦いを邪魔する者」と称され、ライダー達にも先日「早く倒しておいた方がいい」という通告が来たのだ。
「まさかあのような子供だったとは…まあいいでしょう。
前のように邪魔をされては困りますからね、早めに潰しておくとしましょうか」
 須藤が敵に回ることが確定した。ちなみに、前というのは浅倉の立て篭もりの一件である。

第十六話『白き翼・ファム』

「名前、水岡和夫、佐伯琢磨…職業パイロット、弁護士、医者…」
「とにかく色々だよ、その他色々!」
 資料を読む真司の思考を大久保が止める。
「何スかこれ?」
「その男の今まで見つかった偽名と偽の職業」
 令子の説明を聞き、真司がある結論に至った。
「ってことは…!」
「だから詐欺師なんだよ詐欺師!それも名うての結婚詐欺師だ!」
 そう、その男(とりあえず、今の偽名『水岡和夫』で呼ぶとしよう)の正体は詐欺師だ。
「名うての」とついた所から察するに、今までかなりの回数、詐欺を繰り返したのだろう。
「あ、なるほど。この男の罪暴くってのが今回の仕事ですか」
「…ピンポン!お前、そうなりゃこりゃ立派な社会正義だよ。
しかもお前その男許せるか?あっちこっちの女にモテまくりやがって!」
 真司にしては珍しく察しがいい。そしてそれに私怨交じりで返す大久保。
「許せませんねえ!」
 そして真司もそれに同調した。
今現在、この二人の思考は見事にシンクロしている。
分かりやすく言えば「目の前(の写真)にいるこの野郎だけは絶対に許せねぇ!」といった感じだ。
「妬み、僻み…嫉みですか?」
 呆れ顔で言う島田に、同じく呆れ顔で令子がうなずく。
それはともかくとして、令子が写真を取り出した。今現在水岡が狙っている女性の写真だ。
「そしてこれが今、その男が狙っているターゲットよ。霧島美穂。中々のお嬢様らしいわ」
「はー…綺麗な人ですね…」

「そんな…彼が詐欺師だなんて…」
「信じられないかもしれませんが、全て事実です」
 現在、真司と令子が美穂に協力を依頼しているところだ。
さすがに恋人だと思っていた相手が詐欺師だと言われるのは精神的にこたえるようだ。
だが、無理にでも信じさせなければならない。そうせねば泣きを見るのは美穂なのだから。
「何か証拠でもあるんですか?彼が詐欺師だという証拠が…」
 そう言われ、真司が先ほどまで見ていた資料を取り出し、美穂に見せる。
「あの水岡って奴が今まで使ってきた偽の身分のリストです。これだけあれば詐欺師と決め付けるには十分だと思いますけどね」
 美穂がリストを手に取り、目を通す。
そこには水岡が今まで使ってきた偽の身分がズラリ。何かの名簿に見えてもおかしくないほどの数だ。
さらに、裏にも何かが書かれているのを見つけ、それにも目を通す。今度は被害女性の名前がズラリ。
さすがに信じたらしく、資料を真司に返す。
「…分かりました。協力します」
 そう言って、令子から差し出されていた小型集音マイクを受け取った。
「では、今後の予定は追って連絡します」
 そう言い、二人揃って退室していった。
帰る途中、真司の頭に引っかかることがあったが、今はどうでもいいと考えて仕事に戻った。
(あの人の声、どっかで聞いたことがあるんだよな…)

 そして作戦実行の当日、霧島邸にて。
「いや、これは立派なお宅だ。美穂さんが住むのに相応しい」
「私には広すぎます。ぬくもりが感じられないから…」
 そう言って、美穂と水岡がソファーに座る。
「なら、僕達が結婚したら…うんと狭い家で暮らしましょう。そうすれば、いつも一緒に寄り添っていられる」

 ちなみに集音マイクで音を拾っているため、外で待機している真司と令子にも会話の内容は筒抜けだ。
「…っかー!キザな奴!」
 歯の浮くようなセリフで、真司が多少参っているようだ。

「結婚してくれますね?」
「私なんかのためにこんな…」
 水岡が指輪のケースを取り出し、美穂に差し出す。美穂もそれを笑顔で受け取った。
「いいんですよ。婚約指輪くらい、多少無理したって…」
 それを聞き、怪訝そうな顔をする。
「無理、なさった…?」
「会社の方がうまくいってなくて、資金繰りに困っていて…
いえ、すいません。つまらない話をしてしまった…何、大したことありませんよ」
 それを言った瞬間、思い切り扉が開く音と、真司の「そこまでだ!」という声が響いた。
「やっぱり最後は金か!毎度同じ手を使いやがって、ネタは挙がってんだよこのイカサマ野郎!」
「な、何だ君達は!」
 水岡がそう言うと、待ってましたとばかりに真司が財布から名刺を取り出す。
そして財布を放り投げ、名刺を掲げて名乗った。
「正義の味方、城戸真司!OREジャーナルの記者だ!」
 そう名乗っている間に、令子が美穂を逃がす。そして令子が啖呵を切った。
「残念だったわね。ま、女を食い物にするような人生がそう長続きするはずが無いわ。諦めなさい!」
 そんなやり取りの最中、美穂の両親と思われる老夫婦がその部屋に入ってきた。
いるはずの無い人間がいる事に驚き、老婦が問い詰める。
「何なんですかあなた達は!」
「美穂さんのご両親ですね?」
「…美穂?何を言ってるんだ?うちに娘はおらんがな」
 …はい?
「え?で、でも…」
 うろたえながらも家族の写真を手に取る令子。だが、先ほどとは違う写真に差し替えられていた。
どう違うかというと…中央に写っている美穂が、あかんべえをしている。
「あ!?」「何これ?」「これは…!」
 ついでに言うと、その写真の近くに放り投げられた真司の財布も無い。

「よっしゃー!指輪ゲットー!」
 駅のホームで、美穂が大喜びしている…そう、実はこの女こそが結婚詐欺師だったのだ。
先日の真司達とのやりとりも、全て演技で応えていた。「女は役者」という言葉を体現したような女である。
「それから…何だこりゃ?小銭だけかよ…」
 先ほど写真すり替えのついでに盗った真司の財布を開き、中身を確認する。
…が、中身は小銭くらいしか入っていない。それを見た美穂も落胆しているようだ。

「あいつどこに…あ!」
 先ほどのやり取りの後、3人で手分けして美穂を探している。
特に真司は財布を盗られているから必死だ…と、見つけたようだ。
だが時既に遅し。美穂は真司の金で缶コーヒーを買った後だ。
「そ、それ!俺の財布!」
「え、あ…これ飲む?奢るけど」
「ああ、ありがと…ってお前ふざけんな!」

「買うものはこれで全部かな…って、あれ?真司?」
 買い物帰りのフェイトが偶然通りかかった。
何故駅前まで来ているのかは…探し物が売ってなくて駅前まで探しに来たからである。
で、道路を挟んで反対側に真司の姿を見つけ、現在近寄ろうとしているところだ。
…だが、見慣れない女が真司と話しているのを見て、一度中断した。
「あの人誰だろ…彼女かな?」

「いいから離せって!ほら!」
「いいの?離して」
「いいよ!」
 今現在、真司の財布の取り合い…というか、引っ張り合いの真っ最中だ。
フェイトよ、この状況のどこをどう見れば恋人に見えるというのだ。
「はい」
 離した。それと同時に真司が転ぶ。
綱引きと同じ要領だ。思い切り引っ張り合っているときに片方が手を離すと、もう片方がバランスを崩すアレである。
そして転んだ拍子に財布の中身を路上にぶち撒けた。
「何やってんだよ、もう!」
 慌ててぶち撒けた小銭を拾う真司。だが見える範囲にある小銭を全て拾ってもまだ足りない。
そんな時、目の前に差し出される手。その手には小銭が乗っていた。
「はい。拾っておいたよ」
「あ、ありがと…って、フェイトちゃん?何でここに…」
 そのやり取りの間に、美穂が先ほどのコーヒーを口に含む。
「真司こそ。その人とデート?熱いね」
 そして思い切り吹き出した。コーヒーで虹が出来たように見えたが、気のせいだと思いたい。
「いや違うって。実はかくかくしかじかで…」
 毎回思うが、何故これで通じるのだろうか?
…ともかく、フェイトも納得したらしく、冷やかすのも止めたようだ。

「だから言ったでしょ?騙される方が悪いんだって」
「いや人のせいにするなよ」
「あ、でも騙されるのはあたしの美貌が悪い?ってことはあたしを美しくお造りになった神様が悪い?」
「神様のせいにしないでよ…」
 現在、美穂の弁解に真司とフェイトが揃って突っ込みを入れている状況だ。
騙される奴が悪いという詐欺師の論法には負けないでほしいと思う。
「おい、指輪を返してもらおうか」
 声に気付き、揃って振り向く。声の主は水岡だ。
真司が身振りで指輪を返すようせかす。それに対し美穂は返す気が無いようだ。
「真司、あの人が?」
「そう。さっき話した結婚詐欺師だよ。ほら、指輪返せって」
「やだよ。何でもらい物返さなきゃなんないの?」
 そんなやり取りの間にも、水岡が近づいてくる。
だが、水岡への注意は次の瞬間それた。例の金属音である。
水岡以外の3人が気付き、「どこから来る?」といった感じで辺りを見回した。
…と、次の瞬間。金属柱から触手が伸び、水岡が引き込まれた。
「あの触手、もしかして…!」
 伸びてきた触手は、フェイトには見覚えのあるものだった。
だが、それはとりあえず置いておき、その金属柱の前へと移動する3人。
そして、変身しようとしたとき、真司が信じられないものを見た。
「変身!」
 それは、美穂がライダーへと変身した姿だ。しかもかつて戦ったファムにだ。
(そうか…どっかで聞いたことがあると思ったら、あの立て篭もりの時か)
 そう思いながら、真司もカードデッキを金属柱へと向け、変身した。
「あんた…あの時のライダーだったのか」
 立て篭もり事件の時、その戦いに参加していなかったフェイトは話についていけてない。
「それより、早く行った方が…」
「っと、そうだった!」
 すぐに話を切り上げ、ミラーワールドへと踏み込んだ。

「そんな、あのモンスターは前に手塚さんが倒したはず…!」
 彼らの前にいるモンスター、それはかつて手塚が討ったモンスターで、管理局がライダーとの戦いに介入するきっかけにもなったモンスターでもある。
そのモンスターの名は…バクラーケン。かつてなのはやフェイトを圧倒したモンスターである。
フェイトにとっては因縁のモンスターといったところか。
「同じ種類のモンスターが複数いるって事くらい、別に珍しくも無いよ。
ギガゼールやシアゴーストみたいに群れで動くのもいるくらいだしね」
 そう言うと、ファムがバイザーを振るい、バクラーケンへと向かっていった。
それを見たフェイトも、バルディッシュをハーケンフォームにして突っ込む。
「よし、じゃあ俺も…うわ!?」
 ドラグセイバーを手に、龍騎もバクラーケンへと向かおうとする…が、後ろからの一撃で中断せざるを得なくなった。
「くっ、もう一体いたのかよ!」
 真司に一撃を喰らわせたモンスター、それはバクラーケンの亜種で、武器の扱いを得意とするモンスター『ウィスクラーケン』だ。
声と衝撃音に気付き、真司の方を見るフェイト。そこでウィスクラーケンの存在に気付いた。
「真司!?待ってて、今そっちに…」
「いや、こいつは俺が何とかする。フェイトちゃんはそっちを頼むよ」

 あの時と比べると、フェイトは確実に強くなっている。
通らなかった攻撃も通っている。効いている。攻撃も防御魔法『ディフェンサープラス』で防げる。
と、またハーケンフォームの一撃が通った。さらにファムのウイングスラッシャーが傷口に当たり、通常より大きなダメージを与えている。
「私、強くなってる…?」
『ええ、強くなってますよ。前よりずっと』
 フェイトの独り言にバルディッシュが答える。どうやら聞こえていたらしい。
「しゃべってる場合?このまま一気に決めるよ!」
 そう言ってカードを取り出すが、煙幕で姿を隠される。
「煙幕なんかで止まるわけないだろ!」
『ADVENT』
 地面のアスファルトが砕け飛ぶ。そこから現れたのはファムの契約モンスター『閃光の翼ブランウイング』だ。
砕けた地面から水が噴き出しているのを見ると、どうやら地下水脈があったのだろう。
それはともかく、ブランウイングが羽ばたき、その風で煙幕を吹き飛ばした。だが、バクラーケンは往生際が悪く、再び煙幕を張ろうとする。
「いくよ、バルディッシュ。ブリッツラッシュ」
『Yes,sir. Blitz Rush.』
 だが、そうは問屋がおろさない。高速移動魔法『ブリッツラッシュ』で距離を詰め、零距離で左手を突きつけた。
「この距離なら、煙幕を張られても外さない…!撃ち抜け、轟雷!プラズマスマッシャー!」
『Plasma Smasher.』
 魔法陣が複数形成される。さらに魔力が溜まってゆく。
そして、雷の砲撃魔法『プラズマスマッシャー』がバクラーケンに風穴を開け、そのまま爆散させた。

 一方こちらはというと…
「うわっ、とっ、やっぱ手伝ってもらったほうがよかったかな…?」
 ウィスクラーケンの槍をかわし、受け止め、払い、そして隙を衝いて反撃という状況が続いていた。
痺れを切らし、ドラグセイバーで斬りかかる龍騎。だが、ウィスクラーケンはそれをかわし、龍騎に槍を振り下ろしてくる。
龍騎はその槍を受け止め、空いた脇腹に蹴りを見舞った。
「よし…!」
『STRIKEVENT』
 ドラグゼイバーを左手に持ち替え、ストライクベントを装填。ドラグクローを呼び出した。
そして剣と拳による連続攻撃を決め、バクラーケンを弱らせる。完全に龍騎のペースだ。
さらにドラグセイバーを投げつけたが、槍で払われてしまう。
だが、その時にわずかな隙が出来た。それで十分トドメを刺せる。
「ハァァァァ…りゃぁぁぁぁぁ!!」
 払ったときの隙の間にドラグクローを構えていた。それに呼応しドラグレッダーが現れる。
そして、右ストレートの要領で昇竜突破を放った。
ウィスクラーケンはそれを槍で受け止めようとしたが、槍で炎を受け止められるはずも無く、そのまま焼き尽くされた。

「フェイトちゃん、そっちは終わ…って、聞くまでも無いか」
 確かに聞くまでも無い。ちょうどバクラーケンを倒したところだ。
…と、ファムがフェイトに向き直る。
「へぇ、それが魔法?ってことは神崎士郎が言ってた邪魔者ってのは…」
「邪魔者って…どういう事?」
「言葉通りの意味だよ。あんたら魔法使いはライダーの戦いを邪魔するんだって聞いてるんだ」
 初耳だ。一体いつの間に神崎に存在を知られたのだろうか?
「何だよそれ…俺はそんなの聞いてないぞ!」
「あんた、その子と親しいみたいだし、邪魔者に加担してるって思われてるんじゃないの?」
 なるほど、道理で龍騎の所にはその情報が届かなかったわけだ。
だとしたら、蓮や手塚の所にもその情報は来ていないのだろう。
「今ここで倒してもいいけど…今回は警告だけにしておくよ」
 そう言うと、フェイトの喉下にバイザーをつき付け、言った。
「ライダーの戦い、邪魔はしないほうがいいよ」
 ファムは言いたい事を言うとバイザーを収め、ミラーワールドを出て行った。

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最終更新:2007年08月14日 11:00