『リリカルなのはCuldcept お爺ちゃんは出オチの巻』
――――旧き大陸に三人の賢者あり
――――古の英知と、先の世の技に通じ、数百の従魔を操る
――――滅びの予兆あるところ、必ず現れ魔を打ち破る
――――『滅びの賢者』と民に畏れ呼ばるる
――――神出鬼没の賢者なり
その日、世界が赤く染まった。
――ベルカの妄執
脱走者だけではなかった。
150年に渡る妄執は管理局にみならず、聖王教会の内部深くまで及んでいたのだ。
その光景を、ヴィヴィオはまるでテレビの中の出来事のように感じていた。
つい先ほどまで、一緒に居た人たちが倒れている。
たった今、話していた相手を殺す。
それを、その行為を、少女は理解できない。心が理解を拒む。
呆然として座り込むヴィヴィオに、男たちが迫る。
血に濡れた刃。
その鈍い光を見て、ヴィヴィオは初めて状況を理解した。
座り込んだ姿勢のまま、必死で後ずさろうとする。
「……っ!いやぁ……やだぁ来ないでぇ」
視界が歪む。
周りを囲む赤い世界。
誰もいない。
自分を助けてくれる人なんて一人もいない。
鼓動が異常な早さを刻む。
起き上がり、逃げ出そうとする。
しかし、そんな小さな少女の抵抗は、男たちにとって意味を為さない
少女の身体に男たちの手が伸びた――――その時
「――――そこまでじゃ!! 悪党共っっっ!!!」
肺腑を響かせる怒声。
クラナガン全域に届くのでないか、そう思わせる程の大音声。
まるで閻魔大王が如き、憤怒の声であった。
「――――っ!? 何者だっ! 何処にいる!?」
突然の大音声に戸惑いながらも、男たちのリーダーと思われる一人が声を上げる。
なんだかお約束のような台詞を吐くリーダー。どうやらフラグが立ったようです。
「ここじゃ、分からぬか若造」
頑固さを思わせる声が、上空から響いた。
全員の目線が上を向く。
瓦礫と化した街、瓦礫と化したビルの屋上。その屋上から道路に突き出された尖塔。
――――その尖塔の先、一人の老人が腕を組み佇んでいた。
白で染まりきった髪。
深い皺が彫りこまれた顔。
齢八十は越えている老人であった。
だが老人は、常人とはかけ離れていた。
両の瞼を麻糸で縫い付けた異貌。
老人とは思えぬ、戦士かくやという程鍛え抜かれた体躯。
デバイスも持たないのに、その身体からは濃厚な魔力が発せられ、周囲の景色を歪ませる。
不安定な足場の上、強風が叩きつけられても尚、老人は身じろぎ一つしない。
――――老人が、褌一丁で佇んでいた。
引き締まったお尻がとってもセクシー。
「儂の名はホロビッツ。なぁに、ただのお節介爺よ」
飄々とした自己紹介の最中でも、その閉じられた瞼から言い知れない圧力が放たれる。褌で。
「ご老体、申し訳ないがこれは我らの事情。関わらないで貰おうか」
その圧力に負けじと、リーダーが声を上げる。
だが、その威圧を老人か矍鑠とした笑みで撥ね返す。褌で。
「事情? 事情とな? 少女を多勢で拐かそうとする小悪党の事情とは何じゃ?」
――小悪党。
その言葉に男たちが殺気立つ。
「構わぬ! 総員射殺せよ!!」
やはりお約束な反応を示すリーダー。なんだかんだでこの男、ノリノリである。
五つの刃から放たれた光弾は容赦なく尖塔へと吸い込まれていき、ビルそのものを飲み込む爆発となる。
倒壊する音。粉塵の混じった煙が舞い上がる。
未だ煙が晴れぬ中、リーダーが言う。
「やったか!?」
フラグ確定しました。死亡フラグです。
そう言い終わるや否や。突如煙が揺らめく。
――そして。
「この……っ! うつけ者がーーーーーーっっっ!!!!!!」
老人が、傷一つ無い老人が、火矢が如き勢いで煙を吹き飛ばしリーダーに迫る。褌一丁で。
反応すらできない男たちの陣形の中心に飛び降り、容赦なくリーダーを打ち据える。
――――乱舞。
そう言わんがばかりの乱打乱撃。
岩すら砕く憤怒の一撃。
それが、わずか二拍の内に数十発近く彼の身体に吸い込まれていく。
「騎士を名乗るなら、理想を語る前に恥を知れぃっ!!」
金剛が如き憤声。
怒れる賢者の拳が、男たちを捉えた。
~~これよりホロビッツ先生による愛の鉄拳制裁が行われます。しばらくお待ち下さい~~
『イメージ画像』
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( `・ω・)=つ≡つ);:)ω・).,,';
(っ ≡つ=つ ⊂ ⊂)
/ ) ババババ ( \
( / ̄∪ ∪ ̄\_)
ヴィヴィオはただ唖然として、その光景を見続けた。
何がなんだか分からない。何とか混乱した頭で必死に状況を整理してみようと努める。
街が大変なことになりました
↓
剣を持った怖い人たちに連れて行かれそうになりました
↓
お爺ちゃんが現れて怖い人たちをボコボコにしました。
余計混乱した。
そもそも、あのお爺ちゃんは誰なのだろう。
自分の知っている人間の中に、あそこまで高齢の人はいなかった筈だ。
それに、何故自分を助けたのだろう。
他人である自分を、あそこまでして助けてくれる人がいるのだろうか。
混乱する思考の渦に陥りかけた、その時。
「もう大丈夫じゃ、幼子よ」
不意に、温かい声が聞こえた。
声の主を見上げる。
老人が矍鑠とした笑みを浮かべ、まるで世界に恐ろしいものなど何一つ存在しない、と言わんばかりの笑みを自分に向けていた。
その笑みを見て、幼い心ならではの純粋さで、ヴィヴィオは理解した。
きっと目の前の老人は、いつもそうやって生きてきたのだろう。
誰かが涙したとき、誰かが助けを呼んだとき。
どんな障害があろうとも、どんな地獄であろうとも。
そんなものは大したことじゃない。そう言わんばかりの笑みを浮かべ、誰かのために戦ってきたのだ。
「親御殿がどこに居るか分かるか? そこまで連れて行こう」
座り込んでいる自分に、老人が手を差し出す。
この老人は信用しても大丈夫。
不思議と、それだけは確信できた。
褌一丁であることは考えないようにした。
「……あっ、ありがとう」
ございます、そう続けようとして。
取ろうとした老人の掌に、植えつけられている眼球と目が合い。
――――きゅう、という擬音を発しながら、高町ヴィヴィオは失神した。
人物説明
賢者ホロビッツ……漫画版「カルドセプト」の主人公ナジャランの師匠。縫い付けられた両目と両手の掌に植えつけた眼球という、アップが少々心臓に悪いヴィジュアルを誇る。
その正体は齢数百歳を越える名高い『滅びの賢者』の一人であり、世界で唯一のセプターギルドの理事長である。
当初はただの老人キャラかと思われたが、漫画7巻において実はマッチョであることが判明。褌一丁で主人公のライバルを文字通りボコボコにするというインパクト溢れる初戦闘を行い、多くのマガジンZ、単行本をお茶で濡らした素敵老人。
オチもなく終了。
最終更新:2007年12月10日 00:43