「アルフさん、やっぱりうちらで何とか…」
「いや、大丈夫だよ!片腕が動けばバリアブレイクは使える!」
ビーの矢の麻痺毒で左腕を封じられ、それでも戦おうとするアルフ。腕に刺さった矢を抜き、バリアブレイクを構えた。
それを見たなのは達も、アルフの意思を無駄にできないと言わんばかりに、攻撃魔法やファイナルベントを構える。
大技に気付いたバズスティンガーは再び集まり、バリアを張った。
「はぁぁぁぁっ!!」
待ってましたと言わんばかりにアルフが突っ込み、バリアブレイクでバリアを破って離脱する。
そしてそれを好機と見て、三人分の大技が飛んだ。
「ディバイィィィーーーーーン…バスタァァーーーー!」
「フォトンランサー・ジェノサイドシフト!解き放て!」
『FINALVENT』
それぞれの大技がバズスティンガーに直撃し、そして消し飛ばした。
一週間後、OREジャーナル。現在冷房の修理中。
長時間フル稼働にしていたせいかエアコンが壊れ、真司が修理しているところのようだ。島田が押さえているとはいえ、今にも崩れそうなバランスの悪さだ。
…ちなみに現在は6月の終わり頃である。
「任せとけって言ったじゃない…」
「任しといてくださいよ」
島田の悪態に、真司が言い返す。
「真司~…まだか~…?」
涼みに来ていたヴィータが聞く。が、修理ついでにフィルター掃除もしているので、時間がかかる。
ちなみにヴィータはあまりの暑さにすでにグロッキーだ。
「フィルター掃除もやってるし、こりゃもう少しかかるな…
っていうかヴィータ、ここは涼む場所じゃないんだぞ?」
「えー、別にいいじゃねーか」「そうそう、硬い事言わずに涼ませてあげれば?」
ヴィータと島田の同時攻撃。真司は反論できない…というか、社会人ならこれくらい反論してみせろ。
と、ここで大久保が「暑ちい…」と言いながら入ってくる。
「あ、おはようございます」
島田が大久保に近寄りながら挨拶する。
そのせいでバランスが崩れ、真司が転倒。島田の肩を踏み台に空中で一回転。そして大久保の机に着地。
見事な宙返りだ。大会とかなら10点は堅い。
…ここでフィルター掃除のホコリを入れていたバケツが落下。落下点にはヴィータが。
ヘディングでバケツを弾き飛ばした。軌道上には真司の後頭部。当然のごとく直撃。そしてK.O.
「おい令子、ちょっとこっち来てくれ…そりゃ!」
頭から崩れ落ちる真司を無視し、令子に写真を見せる。暑苦しい男の写真だ。
「やだもう編集長、この暑いのにそんな暑苦しいもの見せないでくださいよ…」
令子はあからさまに嫌悪感を見せる。言葉にも出しているが、暑いときに暑苦しいものを見せられて参っているようだ。
「…今、一瞬見たよな?この暑苦しいの一瞬見たよな?」
「え?ええ…」「よし終了。忘れろ」
大久保はそう言うと、さっさと写真をしまった。
「そ、それ見合い写真d「シャラップ!忘れろ」
駆け寄ってくる島田を黙らせ、写真についての説明をする。
「知り合いにどーしてもって頼まれてな、見せるだけ見せるって約束しちまったんだよ。
だがまあ、これで約束は果たした。忘れろ。記憶から消せ。忘却しろ」
「わ、私やりたい!私やる!」「はぁ!?」
島田がそう言って写真をひったくろうとするが、大久保が止め、諭す。
「お前な、見合いの意味分かってんのか?にらめっこじゃねえんだぞ?な?」
「でも試しに一度くらい…ブツブツ」
最後の方はブツブツとしか聞こえないくらい小さい声だった。
「やってみようかな、私…」「はぁ!?」
今回の大久保は驚き役のようだ。さっきから驚いた声を上げている。
「ほら、何事も経験だって編集長いつも言ってるじゃないですか。
見合いの経験がいつジャーナリストの仕事に役立つかもしれないですし」
「いや、そりゃそうだけどな…」
大久保たちを尻目に、ヴィータが真司の頭に氷袋を当てている。
「お前らのびてる真司は無視かよ」
第二十話『現れる戦神』前編
とまあ、そんなこんなで見合い当日。見合い相手の倉井忍は黙々と料理を食べている。
…何も話さないこの空気に耐え切れず、令子が口を開く。
「あの…ご趣味は?」
「そんなこと聞いてどうするんです」
倉井がぴしゃりと言葉を止めさせる。
「貴方のような女性が、僕なんかに興味を持つはずが無い」
「そんな事は…」
「では私と付き合いたいと?私と結婚したいとでも言うんですか?」
倉井がまくし立て、令子に詰め寄る。
「貴方は遊び半分に見合いをして、相手の気持ちを考えていない!
傷つく男だっているんです…!」
「…ごめんなさい」
その後、倉井は泣きそうな目で、じっと睨みつけるかのように令子を見ていた。
その日の夕方、令子はカレーパンを食べながら帰宅していた。
「いい男、いないかな…」
ふと、背後からの気配に気付き、振り返る。だが、誰もいない。
気のせいかと思い、再び家へと歩を進める。だが、その後もその気配は存在していた。
「ストーカー?」
「うん、多分。なんか感じるの。こう、なんか変な…」
見合いからさらに数日後、OREジャーナル。仕事の休憩時間にみんなでアイスを食べている。
何故かはやてとヴィータも一緒だ。っていうかあんたら何やってんだ。
…ちなみに冷房は先日の一件で結局直らず、修理業者に修理を頼んでいる。代用品は扇風機だ。
「それってもしかして、こないだの見合い相手じゃねーか?ふられた腹いせってことでさ」
「思いつきでそういう事言うんじゃないわ。私の勘違いかもしれないし…」
「いや、その人が怪しいって思うのは私も同じや。令子さん隠れファンも多そうやし…」
思い思いにストーカーの正体を考える一同。
「あたしもー、前に何度かストーカーに遭ったことがあってー」
対抗心を出したのか、島田が似たようなことを言い出すが…
「勘違いです」「勘違いやな」「勘違いだな」
一斉にバッサリ。島田は気を悪くしたのか、真司たちを睨む。
「とにかく、尊敬する令子さんの為だ。俺が令子さんを守ります。必ず、いやいや絶対」
この直後、何故か全員同時に冷たいものを食べたとき特有の頭痛が来た。何というナイスタイミング。
その晩もまた、令子は何者かにつけられていた。
あくびをしながら帰る令子に迫る影。だが、その影は―――
「捕まえた!」
―――横から現れた真司に組み付かれた。
そのまま押し合い、へし合い、取っ組み合い。
「このヤロ、逮捕だ逮捕だ!令子さんつけ回しやがって!あ゛ッ!!」
喧嘩の最中、真司は電柱に頭を強打。そのまま意識を手放した。
最後に見たのは、花束を持った吾郎だった――――――
数時間後、北岡弁護士事務所。
「ギャーーーーーー!!」
悲鳴とともに真司が目を覚ます。北岡と吾郎もその声に驚いたようだ。
「なっ、何寝ぼけてんだよ!」「え、あ…あれ?」
ようやく真司の目も覚めたようだ。
「おい、それよりどういうつもりよ?
吾郎ちゃんにいきなり襲い掛かったそうじゃない。何考えてんだよ」
その言葉で、気を失う前のことを思い出す。
そうだ、令子を守るために道中でストーカーを待ち伏せていたのだ。
そして吾郎が迫ってきた。ということは吾郎がストーカーだ。それが真司の結論だ。
「それはこっちのセリフだよ!このストーカー野郎!」
「は?」
真司のあまりの言い草に、北岡も吾郎もあっけにとられている。
「ストーカーだよストーカー!
こいつはな、ここ最近ずっと令子さんのことつけ回してたんだよ!ったく、危ねえ真似しやがって」
刹那、大爆笑が巻き起こる。
「吾郎ちゃんはストーカーじゃない。俺に頼まれて花束を渡しに行ってただけだ」
「え?ってことは…!!」
「桃井令子か?さっき会った。少し様子が変だったから後を追ってみたんだが…」
「それじゃ遅いんだよ!何で送ってあげなかったんだ!」
先ほどのやり取りの後、令子のマンションへと向かった真司、北岡、吾郎の三人。だがそこには令子の姿は無く、代わりに道に令子の鞄が落ちていた。
誰かの所に行ったのかと思い、知り合いに連絡を取った。それにより蓮が令子に会ったということが分かる。
そして令子のマンション前で現在喧嘩中である。理由は少し前の会話文の通りだ。
と、そこで北岡が喧嘩を止める。
「オイオイオイオイ、よせって。いがみ合ってる場合か」
時が止まる。3秒ほど。
「…何よ?」
「いや、まさかお前が喧嘩を止めるとはな」
そういえば。北岡はそういう事をしないタイプの人間なのに。
思いがけない行動に、真司も少し感動しているようだ。
「こんな事で感動してる場合か。それより城戸、お前ストーカーがどうとか言ってたが、心当たり無いのか?」
「そうだ…ストーカーだよ!」
「令子さんが…見合い…」
「ああ…もちろん冗談半分だったけどさ、多分その男がふられた腹いせに令子さんを…」
帰路につきながら、真司が蓮と北岡に事情を説明していた。
令子が見合いに参加したこと、その見合いが御破算になったこと、そしてその日以来令子がストーカーにつけ回されていることを。
…と、ここで真司があることを思い出す。
(わ、私やりたい!私やる!)
そう、見合いの数日前、島田がその話に食いついたことだ。
真司はそれを利用し、一計を案じた。
「そうだ…もう一回見合いを仕組めば!」
「罠を張るっていうことか」「そうだよ!」
「なるほどな、見合い相手が犯人なら、有効な手かもしれないな。
お前よくそんなの思いついたな…」
「お前ら…今まで俺のことバカだと思ってたろ?」「違うのか?」
どうやらこの二人の中では、『真司=バカ』でイメージが定着しているようだ。
「と、とにかく…令子さんを救出するまで、とりあえずライダーの戦いは中止ってことで、な?」
「…ま、しょうがないな。でも勘違いするなよ?別に友達になる訳じゃないからな?」
「当たり前だ」
とりあえず蓮も北岡も真司の案を飲んだようだ。
とにかく、これでちょっとした同盟が出来上がった。と、その時。
「話は聞かせてもらったわ」
聞き覚えのある、何者かの声。振り向くとそこにシャマルがいた。
「シャ、シャマルさん、何でこんなとこに…」
「暑いからアイスでも食べようってことになって、それで買いに行く人を決めるのにジャンケンをしたんだけど…」
「なるほどな。お前が負けて、今買って帰る途中ということか」
「ええ、そういう事よ」
確かにシャマルの手元にはコンビニ袋。煙が出ているところを見ると、ドライアイスも入れてもらったのだろう。
「それはともかく、令子さんがストーカーにさらわれたっていうのは本当?」
「あ、ああ。本当だけど」
「…なら私も手伝うわ。メンバーは多い方がいいでしょう?」
この後シャマルや蓮が帰宅後、高町家・八神家の面々に話し、その結果みんなで事に当たるという予想以上の大事になった。
そして見合い当日。ちなみに仕掛け人は島田だ。
「あなたにはシンパシーを感じます…本気ですね?この見合い」
島田はそれを無視するかのように酒を飲む。
その頃外では…
キィィィン…
例の金属音が鳴り響く。発信源は北岡の車だ。
塀によじ登って見ている真司はその音に気付くが、すぐに消えたことから気のせいと断じてしまう。
「様子はどうなの?」
なのはが真司に近寄り、中の様子を聞いている。
ちなみに今日は土曜日なので学校は休みだ。ゆとり万歳。
「え?ああ。見るからに怪しい男だね。絶対あいつが犯人だな」
と、そこまで言ったところで中から人が出てくる。
それに気付き、塀から手を離す真司。怪しまれないようやりすごす。
その頃中では。
「ったく、何が見合いだよ。編集長も編集長でさあ…」
もはや見合いなどではなく、ただの酔っ払いの飲み会だ。
その夜、帰り道にて。
「見合いが何だってんだよ…ああ、暑ちぃ…」
グチをこぼし、缶ビールを飲みながら帰路に着く島田。それを影から見る3つの影。
(こちらA班、異常無し)
(B班了解。こちらも異常無し)
(C班了解、同じく異常無し…主はやて、この口調は何とかならないのですか?)
(別にええやろ。気分の問題や。気分の)
(気分の…ですか)
(シグナムさん、あんまり気にすると肩凝りますよ?)
このどこぞの諜報部隊のような会話、これは先日の一件の際にメンバーが一気に増えたため、チームに分けての行動となった結果である。
各班の編成は通信役の魔導師一名以上を含む4名の編成で、今も各所から見張っている。ちなみにメンバーはこうだ。
A班:秋山蓮、高町なのは、神崎優衣、ヴィータ
B班:城戸真司、八神はやて、リィンフォースⅡ、手塚海之
C班:北岡秀一、シグナム、由良吾郎、シャマル
という編成である。ちなみにザフィーラは留守番だ。なお、なのはは親の許可をもらっているので多分問題は無い。
(でも意外よね。まさか北岡さんが令子さんのこと…)
(え?シャマル、それほんまなん?)
(…確かにな。まあ、そうでもなければ北岡が協力するとも思えんが)
)
この一件で北岡の想い人が発覚したようだ。
ちなみになのは・ヴィータ・リィンのお子様トリオは話の内容を理解できていないらしく、疑問符を5つほど浮かべている。放って置けばまだ増えるだろう。
「なのはちゃん…なのはちゃん!」
「ふぇ?な、何ですか優衣さん…」
優衣によって現実へと引っ張り戻されるなのは。どうやら聞き入っていたらしい。その証拠に、さっきからの優衣の声にも気付いていなかった。
「島田さんがいないの…多分、島田さんもさらわれたんだと思う…とにかく他の班のみんなに連絡して!」
「はっ、はい!」(こちらA班、異常発生!)
最終更新:2007年09月02日 19:49