神の声「これまでの魔法少女リリカルなのはStrikerSは!!」
機動六課が追う次元犯罪者、ジェイル・スカリエッティとその一派。その正体はロストロギア“聖王のゆりかご”を復活させて強大な武力を手に入れ、全次元世界を独裁しようとする地上本部の傀儡だった。
本局で行われた公開意見陳述会の隙を狙ってスカリエッティ一派は襲撃、本局と機動六課の施設を破壊し、傍流の戦闘機人ギンガと、“聖王のゆりかご”の起動キーであるヴィヴィオを誘拐した。
これによって公式には次元犯罪者達によって本局は陥落、地上本部が時空管理局全体を指揮する事態となった。
この状態でスカリエッティ一派を追えば地上本部に行き着き、世間的には機動六課が造反して地上本部、ひいては時空管理局全体に牙を剥く、という形になる。
普通の人間達ならば八方ふさがりと思う状況、しかし機動六課は違った。仲間の為、家族の為、そして己を律する正義の為に機動六課は地上本部を襲撃する。
はやての呼び声に応えたクロノ率いる本局勢力とカリム率いる聖王教会勢力、彼等が地上本部勢力と戦う中、スターズとライトニングの双方が深部へと疾走する。
そして彼女達は施設最深部の目前まで来ていた……。
神の声「なんて感じの事があった事にしてください!!」
時空管理局地上本部、黒の高層ビルが乱立するその中にあって一際高い中央のビル、それこそが地上本部の最深部だ。それの目前にした一つのビル、その屋上でなのははドゥーエと対峙していた。
「…ダメ、こんなのじゃダメなの」
「?」
微かに笑むなのはにドゥーエは疑問符を浮かべる。
「――ヴィヴィオが攫われた時に思ったの。もっと、もっと強くならなくちゃ、私は家族を護れない」
なのはの紡ぎは止まらない。
「私には強くなんかなくたって一緒にいて欲しい家族がいるから……! 私が誰よりも強くならなきゃ、みんな失っちゃう!!」
「……ならどうするの」
強い意思を含んだ叫びを受け、ドゥーエはピアッシングネイルを構える。一方でなのはもレイジングハートを天へと掲げる。
「全力全開で戦う方法を考えた…」
『エクシードモード』
レイジングハートの宝玉が点灯、同時になのはのバリアジャケットが一新される。
「誰も失わない様に……」
『ブラスターシステム、起動』
加えてレイジングハートが新機能の始動を宣言、そして己が機械の身となのはの体に異変を起こす。
「誰も遠くにいかない様に……!!」
蒸気だ。なのはの身から、レイジングハートの身から、白い煙が噴出したのだ。
(――何? 体の中で何が起きているの?)
敵の異変にドゥーエは推測を脳内に走らせ、しかしなのはによって中断された。
「貴方はもう、私について来れない……」
「!?」
「私の技はみんな一段階進化する」
振り下ろされたレイジングハートの先端がドゥーエに向けられる。そして電子音が一声。
『ブラスター1』
だが告げられた能力をドゥーエは一笑した。
「ブラスター? 技が進化する? 体から蒸気を噴かせて……何のハッタリ?」
しかしなのはは聞かない。
「私は、貴方達とここで会って良かった」
呟くなのはは手に持つデバイスで魔力を収束、砲撃の準備に入っている。
「ディバイン……」
「この至近で狙い撃つ気? ……私の方が早いわよ」
告げたドゥーエが一瞬でなのはに迫り、ピアッシングネイルを突き出そうとする。
「殺った!」
ドゥーエはそう判断した。だが、
「――バスター・JET!!!」
「!!!?」
唐突に視界を包んだ光、それが敵の砲撃だとドゥーエが気付いたのは自身が飲み込まれた直後だった。圧倒的な威力が全身を叩く。
だがドゥーエは倒れない。全身が傷付き、吹き飛ばされて押し戻されるが立ち続ける。その両眼は未だになのはを見据えたままだ。その様子になのはは嘆息を一つ。
「本当に頑丈だね。だったらもっと面白いものを見せてあげるの」
レイジングハートの宝玉が光を強め、
「ブラスター……」
しかしなのはが更なる力が発揮されようとした直前、ドゥーエが崩れた。響いた金属音はドゥーエの体内に含まれた機械だったのか。そんなドゥーエを見るなのはは構えと機能を解き、荒い呼吸をしていた。
「――スゴい疲れた。やっぱりまだ体がついていかないなぁ……」
しかし、まぁ今は体なんかどうでもいいや、となのはは続ける。そして微かに身を仰け反らせ、息を大きく吸い、目前に聳える地上本部最深部に向かって吠えた。
「ヴィ――ヴィ――オ―――!!! 迎えに来たの―――――――――――ッ!!!!」
……奇しくも叫ばれた直後、脱走したギンガに連れられたヴィヴィオが窓辺へと現れた。
「ヴィヴィオ!! 良かった、まだそこにいたのね!!?」
なのはが見上げる先、最深部ビルの窓辺の一角にヴィヴィオの姿がある。直後に窓ガラスが割れ、
「――ここは通さない!!」
聞き慣れたギンガの声と共に爆音、地上本部の魔導師達が穴となった窓から墜落した。
「そこで待ってて! すぐに飛んでいくから!!」
言ってなのはは両足に光の翼を展開、飛行しようとする。だがそこへヴィヴィオの拒絶が響いた。
「待って!!!」
「……!?」
驚きに身を固めたなのはが見るのは、表情を悲痛に染めたヴィヴィオの姿だ。
「何度も言ったのに……!! もうヴィヴィオは、ママ達の所には帰らない!!!」
拒絶は続く。
「帰って!!! もうママ達の顔は見たくないの!!!!」
ヴィヴィオへと振り向くギンガの姿がある。
「――どうして助けに来たりするの!!?」
呆然とヴィヴィオを見るなのはの姿がある。
「――ヴィヴィオが何時そうしてって頼んだの!!?」
そして、
「……ヴィヴィオは、もう死にたいの!!!」
この状況を嘲笑する声がある。
「ふは……ふはははははははははははははっ!!! 面白い!! 何だこいつ等は一体!! ははははははははは!!!」
笑うのは窓辺へと近付いて来た中年の男、レジアス・(C)ゲイズの声だ。野太い声で嘲笑う彼をギンガが睨んで拳を振り上げる。だが、
「邪魔だ」
新出した人影の蹴りによって弾き飛ばされた。延髄が一瞬ずれる鈍い音と共にギンガが倒れ、攻撃者達が歩んでくる。
「ははははは! ノーヴェ、そりゃ腹いせっスか? チンク姉をやられた腹いせっスか!?」
「うるせぇ。アタシは今気が立ってんだ」
窓辺に現れたのは二人の戦闘機人。続いて無数の人影がビルの各所が出現、窓辺へと足を着く。
「ふははははははは!! よォし、よく集まった“ナンバーズ”!! ――だがしばし待て…、今機動六課が内部崩壊を始めた所だ!! 見守ろうじゃないか!!? ふはははははははははははははッ!!!」
「あれ、敵って“高町なのは”一人だけ?」
「言っちゃダメっすよセイン~。一人でもここまで来れば立派ってもんスよ、ね? ノーヴェ」
「アホ。ウェンディ……ありゃぁ死にたがりの馬鹿っつぅんだよ」
「――トーレ、ドゥーエが倒れています」
「やはり十年以上も脳みその世話では、腕も鈍るか」
「――負けて、しまった」
「ニブっとしても負けるものなのですか? ディエチ姉様」
「オットーもディードも……ううん、みんなもっとドゥーエを気遣おうよ」
レジアスの命令を聞いた風も無く、八人の戦闘機人がなのはを睥睨した。
「ねーレジアスのおっちゃーん.、さっさと行って“アレ”消せば終わる話なんじゃないのー?」
「誰がおっちゃんだ!! ……まァ待て、救出の為に造反してまで追って来て、娘扱いした小娘に最後の最後で助けを拒まれる女、こんな面白い光景を見ようじゃないか!!」
セインの問い掛けにレジアスは嗤って答える。ナンバーズは軽蔑の表情を浮かべるが、彼女達の後ろに立つレジアスは気付かない。そこへなのはの声が響く。
「……ヴィヴィオ―――――!! 死ぬなんて……何言ってるの!!?」
「ふはははは……! 聞け、この悲痛な叫び!! 見ろ、あの表情を……!!?」
レジアスが嘲笑を深めようと直後、なのはの背後で爆発が生じた。猛烈な上昇気流が屋上を突き破り、瓦礫を舞い上げる。
「――とにかく助けるから!! その後で……お話を聞かせて!!?」
そんな轟音すらもなのはは無視、そして上昇気流から解放されて墜落する瓦礫の中に二つの人影が混じっていた。
「……着地!」
「みゃっ!?」
茜色のツインテールと青の短髪をした二人の少女、ティアナとスバルだ。無傷で着地したティアナとは反対にスバルは頭から落下した。
「それでも……まだヴィヴィオが死にたかったら、その時にして!!!」
加えて上昇気流によって生じた穴、そこから紅と黒の女性が現れる。
「シグナム副隊長、乱暴過ぎます! 余波だったら良かったものを……直撃だったら死んでましたよ!?」
「む、どうしたんだお前達」
「貴方が巻き込んだんですよ、シグナム。だからやめようって言ったのに」
「……でもシグナム副隊長もフェイト隊長も、無事で良かったです」
叫ぶなのはの背後で言い合う四人、そこへ更に轟音が生じる。また屋上の一角が内側から砕かれたのだ。
「ラケーテンッ! ハンマ―――ッ!!」
破壊者は長柄の鉄槌を振り回した赤服の少女、スバルとティアナの上司であるヴィータだ。推力を噴く鉄槌を止めてヴィータは降り立つ。
「間違いなく一番乗り、このまま一気にヴィヴィオを…………ってシグナム!!?」
ヴィータが驚愕を叫ぶ。
「てめぇ! 何でアタシよりも先に……!!?」
「ああ、遅かったなヴィータ。道にでも迷ってたのか?」
「オ…! オ…オイオイオイオイ……!! どこでそんな言葉を覚えやがったんだてめェェ!!!」
いがみ合う赤の少女と紅の女性。そんな屋上に大きな影が差す。それは白い飛竜だ。その長い首には小柄な少年少女が座している。
「フェイトさん! みなさん!! よかった……合流出来た!」
「フリード、屋上に降りて!」
『オオオオ―――――ン!!!』
幼い主の名に従って飛竜が屋上に降り立って二人を下ろす。
「ふん、次から次へと……」
次々と現れる機動六課の前線メンバー、その光景にトーレが呟く。微かに楽しげな表情を浮かべる彼女とは逆に、レジアスは驚愕と怯えで目を見開いている。
「お願いだから!! ヴィヴィオ……っ!!」
そんな敵の様子も気にせず、なのはは一心にヴィヴィオへと思いを響かせる。
「死ぬとか何とか……何言っても構わないから!! そう言う事は……!!! 私達の側で言って!!!!」
「!!!?」
「あとは私達に任せて!!!」
1騎の飛竜を背景に8人が並列、各々の表情を持ってヴィヴィオと戦闘機人達を見据えた。
「は……はは…うははははははははは!!! この反逆者どもが!! たかだか8人が粋がった所で何が変わる!!!」
自らが抱いた恐怖を塗り潰す様にレジアスが浅はかな笑い声を上げる。
「この戦闘機人“ナンバーズ”の強さ然り!! 難攻不落の強度を誇る“防衛システム”の頑強さ然り!! 何より今の私には……」
そういってレジアスが懐から取り出すのは金色で塗られた小さなデバイス。それを掲げて男は言を続ける。
「この専用デバイスを使って!! “バスターコール”をかける権限がある!!!」
「!!!」
そこに含まれた単語を聞いたヴィヴィオが身を震わせた。レジアスはそんな幼女にデバイスを突き付ける。
「アインヘリヤルを搭載した三戦艦と数万のエース級局員で目的地を殲滅する、その指令こそが“バスターコール”!! そうとも小娘、脱走した貴様を運悪く匿った街!! それを滅ぼした力だ!!!」
その言葉はレジアス達を見上げる機動六課にも届く。
「ヴィヴィオを匿った世界……!?」
スバルが単語を反芻し、
「トレーラーに積まれる前にヴィヴィオがいた場所って事?」
ティアナが類推し、
「……ていうかあのおっさん、今すぐ叩き潰してやりてェ!!」
ヴィータが吐き捨てる中、ヴィヴィオが叫ぶ。
「やめて!! それだけは……!!!」
「ははは、良い反応だ!! それはこの“バスターコール”を発動要請しろという事か!!?」
半ば恐慌したレジアスの卑屈な声色が響く。だが、
「やめなさいっ!!!!」
ヴィヴィオの悲鳴が命令形と化した。微かに怯むレジアス、だが直ぐに取り直してヴィヴィオを睨む。
「小娘ぇ……、生意気な口を利くんじゃない!!」
押し潰す様なレジアスの怒声、だがその声は幼いヴィヴィオすら動じさせる事が出来ない。
「“それ”を使ったら……ここと一緒に、みんな死んじゃうよ? ヴィヴィオも、ママ達も……おじさん達も!!」
「何を馬鹿な!! 味方の攻撃で消されてたまるものか!!」
レジアスの顔に浮ぶ怯えが深まる。否定された言葉を証拠付ける様にヴィヴィオは喋り続ける。
「ヴィヴィオがヴィヴィオって名前をもらう前の、その全部をこわしちゃったあの火……っ! “それ”が……またヴィヴィオのママ達に向けられたっ!!」
叫ぶ声色は、内容は、気配は、
「ヴィヴィオがママ達と一緒にいたいって思うと!! ママ達が危なくなっちゃう!!!」
そして伝わる思いは、
「ヴィヴィオにはどこまで逃げても……ずっとついてくるものがあるっ!!!」
決して6歳前後の少女が抱いて良いものではない、悲痛なもの。
「ヴィヴィオを追いかけるのは!! ……“世界”とその“闇”だから!!!」
嘆きにも似た思いが摩天楼に響く。
「ママ達のお家が壊されたのも!! ママ達が危ない所に来たのも…!! もう二回もママ達を巻き込んだ!!! これがずっと続いたら……ママ達もきっとヴィヴィオを嫌いになる!!!!」
叫ぶ。
「きっといつか!! ヴィヴィオを捨てちゃう!!! それが一番怖い!!!」
叫ぶ。
「だから!! だから……っ!!! だから助けに来て欲しくなかった!!!!」
「ふははははははははは!! 成る程! 確かに正論だ!!!」
悲痛な思いをレジアスは嘲笑を持って肯定する。
「そうとも!! 貴様の様な兵器を動かす為だけの人造人間を抱えて!! 手放したいと思わない馬鹿はいない!!! ……見ろ、若造共!!!」
そこまで言ってレジアスは最深層ビルの天辺を指差す。そこにあるのは時空管理局全体を示す旗だ。
「あの旗こそ千万億の次元世界の“結束”を示す象徴!!! 兆は下らない人間達が正義とするものだ!!! 貴様等が歯向かうには余りに強大な力!! どれ程のものか解ったかぁ!!!」
最早壊れた様に笑うレジアス。笑いを取り損なった道化師を見る目をナンバーズが向け、機動六課の8人に至っては身もしない。ただなのはは最深層ビルの旗を見据えて、
「ヴィヴィオの敵はよく解った。……ティアナ」
短く告げた。
「――出来るよね」
「はい」
射撃の師が言外に含んだ指示、それを愛弟子は理解する。両手でクロスミラージュを構え、
「クロスミラージュ、……モード3」
『了解』
その形態を長い銃身を誇る狙撃銃へと変形させた。高々と掲げられた銃口が向くのは、屋上の旗。
「……は?」
惚けたレジアスの声。空気が伝えるのはティアナのトリガーヴォイス。そして閃光は放たれた。
「――ファントムブレイザー!!!」
収束された光は一直線に空を渡り、そして時空管理局の旗を貫いた。
「…………っっッ!!!!?」
レジアスの顔が最大級の驚愕に塗り潰された。
「……まさか」
ヴィヴィオの顔もまた驚きに彩られた。
「……あ……ああ……やりやがった……!! 旗に攻撃する事の意味が解ってんのか……ッ!!?」
そして地上本部に在する全ての人間が、敵も味方もなく叫んだ。
「やりやがったァ――!! 機動六課が……っ!! “時空管理局”に!!! 宣戦布告しやがったァ―――――――――!!!!」
「正気か貴様等ァっ!! 全次元世界を敵に回して生きていられると思うなよォ!!!!」
「望むところだァ―――――――――――――――ッ!!!!」
レジアスの怒声を、数万の魔導師や騎士達の合唱を、それら全てを上回るスバルの叫びが木霊する。
「ヴィヴィオ!! 私達はまだヴィヴィオの口から聞いてない!!!!」
そして機動六課の、ヴィヴィオを思う全ての人々の思いが轟いた。
「“帰りたい”って言って!!!!」
「帰る……?」
ヴィヴィオは叫ばれた言葉を呟いた。
それを言えば大事な全てが壊される言葉。
それは今までだれも許してくれなかった言葉。
そう言いたくて、そう願いしたくて、でも不可能だと思っていた言葉。
(でももし……それを言っても良いのなら………)
私は、ヴィヴィオは、
「――帰りたいっ!!!! ママ達のいるところに、みんなの所に帰りたいッ!!!!」
「任せて!!」
スバルが快諾し――、
「く、来るなぁ――――ッ!!」
レジアスが怯え――、
「来い、始末してやる」
トーレが挑発的に笑み、
「ク……クク、ンククククククク……!!」
スカリエッティが最深部ビルの屋上から両勢力を見下ろし、
そして、
「――ヴィヴィオ、絶対に助けるから!!!」
なのはが確約を叫んだ。
最終更新:2007年12月13日 19:41