『高町なのは』の元へと、突如ヴォルケンリッターの一人『ヴィータ』が襲撃を仕掛けてきた。
 この二人はヴィータの張った結界の内で出会い、戦い、そしてなのはが敗れる。
 そしてとどめを刺されそうになった刹那、『フェイト・テスタロッサ』と『ユーノ・スクライア』、『アルフ』が助けに現れ、ヴィータを捕縛。
 だが、そのヴィータの側にも『シグナム』と『ザフィーラ』が助けに入り、実質三対三の戦闘となる。
 そして最後は魔力を奪われながらもなのはが放った砲撃が結界を破り、それと同時にヴォルケンリッター達も飛び去った。


 ……とまあ、ここまでが本来たどるはずだったシリアスな物語だが……
 この物語では、とある外的要因……早い話が作者の都合で前述の物語が大きく変化し、シリアスもへったくれもなくなっている。
 その変化によって引き起こされた異常事態をどうぞお楽しみくださいませ――――。


 ナナナーナ・ナーノハ


 ビルの屋上。先ほどのレイジングハートの警告を聞き、なのはがそこにいた。周囲を見回し、警戒しながら。
 高速で飛来する「何か」との接触まであと5秒。

『来ます』

 レイジングハートからの報告。それを聞くと同時に前方を見る。
 「何か」との接触まであと3秒……前方から迫る何かを視認。警戒して身構えた。
 飛来したものは、空気との摩擦で赤く光る球体。これが何なのかはすぐに理解した。
 そしてそれを保証するかのように、レイジングハートの声。

『誘導弾です』

 そう。飛来する球体は、魔力で作り上げた誘導弾。それがなのはめがけてまっすぐに飛んでくる。
 かわそうとするが、誘導弾ならば自身を追ってくる。直感でそう理解したなのはは、防御魔法『ラウンドシールド』を前方へと展開した。
 それから一秒と経たないうちに誘導弾が命中。ラウンドシールドで受け止めるも、その衝撃はかなりのもの。なのはが苦悶の表情を浮かべている。
 ……その直後、誘導弾とは別の何かが飛来。誘導弾を止めるのにいっぱいいっぱいだったのか、今度はレイジングハートでも感知できなかった。

「テートリヒ・シュラーク!」

 後方に現れたヴィータが、自身の得物を思い切り振り下ろす。が、間一髪気付いたなのはがもう一方の手でラウンドシールドを展開。受け止めた。
 状態は拮抗……いや、なのはの足元にヒビが入ってしまっている。それほどの衝撃なのだろう。
 ……ふと、なのはが何かに気付いた。ヴィータの持っている得物である。
 柄の部分は白くて長く、最上部とおぼしき位置は緑色。さらにはそのまま剥けそうな葉のようなものが。
 これはもしかして、いや、もしかしなくても――――

「ネギだーーーー!!」

 そう、ネギだ。よく料理などに使われるあのネギだ。

「ネギじゃねえ! 首領パッチソードだ!」
『いいえ、グラーフアイゼンです』
「キャラだったのそのネギ!?」

 喋ったネギへのツッコミが入ると同時に、今までいたビルの屋上が爆発。なのはが空中へと投げ出される。ちなみにネギの主張は完全に無視。
 それを見届けたヴィータが、ネギ……もとい、首領パッチソードを振りかざして追撃へと向かった。


 ビルの屋上から叩き落とされたなのはは、落下しながらレイジングハートへと呼びかけていた。

「レイジングハート、お願い!」
『Stand by, Ready, Set up.』

 なのはの呼びかけに答え、レイジングハートが起動する。それと同時に桜色の光が。
 光はなのはを包み、その姿を白いバリアジャケットを纏ったものへと変化させる……本来ならば。

「……あれ?」

 起動が終わり、最初になのはが疑問に思ったのは、視野角の狭さであった。
 普段より周りが見えづらい。上下左右が暗く、まともに見えるのは前方のみ。
 その直後に新たな疑問が発生。バリアジャケットから厚紙がこすれるような音がした。見てみようとして首を下に向けようとするが、下方向へはまともに動かない。
 なんとか見えたのは……「青森のみかん」と書かれた段ボール。何故みかんなのかは誰も知らない。

『Bo-bobo Armor Mode.』

 ……これは、とある次元世界で『ボーボボアーマー』と呼ばれた強力な装備である。段ボールなのに。
 何故レイジングハートがこれを知っているのかは定かではない。
 どういう事なのかを問い詰めるべく、先ほどから違和感のある右手の方を向き、レイジングハートへと話しかけようとするが……

「レイジングハート、一体どうなって……」

 レイジングハートも普段の杖の姿ではなく、別の姿になっていた。
 三角の耳があり、四本の足があり、尻尾がある。ついでに言うなら「ニャー」と鳴いている。
 ……どこからどう見ても子猫だ。ボーボボアーマーが存在する世界では『聖魔支配剣ニャンちゃんソード』という、星すらぶった斬る剣として存在するものだが。
 そしてそれをなのはが理解できるわけもなく、

「猫になってるーーーー!!」

 ただ大口を開けてつっこむしかなくなっていた。


 この後、なのはとヴィータの戦闘があったのだが、作者の脳味噌の都合上カットさせていただく。


 ビルの内部。ボーボボアーマーを失ったなのはが座り込んでいる……いや、ヴィータに吹き飛ばされて立てないのだ。ネギで殴られただけなのに。
 眼前にはヴィータの姿。視界がぼやけているなのはの目の前で、とどめを刺すべく首領パッチソードを構えている。
 ……一応言っておくが、ネギで殴られた程度では人は死なない。せいぜいなんか嫌な感覚になるだけだ。
 だが、今のなのはは先ほどからの超展開と意識が朦朧としているのが相まってそこまで頭が回らない。
 せめてもの抵抗の意思としてニャンちゃんソードを前方へと構える。ビルの壁をぶち抜いたのにこの猫は無傷。相当頑丈にできているらしい。

(こんなので……終わり……?)

 いや、だから終わらないってば。前述の通りネギで人は死なないし。

(嫌だ……ユーノ君……クロノ君……フェイトちゃん!)

 死なないというのにもかかわらず、死を直感するなのは。その恐怖からか目をつぶる。
 そして、首領パッチソードが思い切り振り下ろされた。


 ガキィン!


「そのネギの材質何!?」

 ネギでは絶対に鳴らないはずの金属音。それに反応してつい脊髄反射でツッコミを入れるなのは。
 ツッコミの際に開いたその目に映ったのは、会うのを待ち焦がれていた親友の姿。
 ……そう、フェイト・テスタロッサがそこにいた。なのはと違っていつものバリアジャケットを纏い、手には愛用のデバイス『バルディッシュ』……ではなく、一振りの長剣を持って。

「ごめん、なのは。遅くなった」
「ユーノ、君……」

 そして後方から別の人物の声。こちらにいるのはユーノだ。
 ヴィータからすれば、せっかく仕留められると思った矢先に敵が増えたのだ。驚くのも無理はない。
 ちなみに先ほどのツッコミはスルーしているので、ネギの材質は言わない。

「仲間か……!」

 そう言いながら、後方へと飛びのくヴィータ。未だ戦意は消えてはいない。
 対するフェイトは、長剣を正眼へと構える。
 その瞬間、なのはの視界に長剣の切っ先が入った。どう見ても剣の先端ではない。というかむしろ人の頭をかたどったような形状。
 なのはがニャンちゃんソードの時のような表情になっていることには気付かず、フェイトがヴィータへと言葉を返した。

「友達だ……覚悟して、田中ソードは容赦をしないから」
「田中ソード!? バルディッシュはどうしたの!?」

 またもやワケのわからない武器が登場。しかも自分の親友がデバイスをほったらかしにして使っているのだから驚きもひとしおである。
 ちなみにバルディッシュはアースラに放置されているのだが、今は関係ないので流すとしよう。
 そしてフェイトとヴィータが飛び去った後、さらなる異常事態が発生することになった。

「田中ソードとはとある世界の融合戦士『ボボパッチの助』が使っていた武器で――――」
「何で知ってるの!?」

 いきなりユーノが田中ソードの解説を始めた。しかもかなり正確な解説である。
 実際にとある世界でボボパッチの助が使っていたし、省略されたがそれ以降の解説も全て真実。どこで知ったのかが気になるほどだ。
 ……もっとも、いきなり解説を始めたのは奇行以外の何物でもないのだが。


 自分の周りにまともな人はいないのか。
 なのはは少し、泣いていた。


 なのはが泣いているのと同じ頃、フェイト・アルフVSヴィータの戦闘も決着がついていた。
 バインドで両手両足を封じられ、空中で拘束されている。今のヴィータの状態を見る限りでは、そうとしか言いようがない。
 これで決着かと思い、田中ソードをつきつけるフェイト。武器の形状のせいでいまいち締まらない。

「終わりだね。名前と出身世界、目的を教えてもらうよ」

 フェイトからの最後通告が飛ぶ。それに対し、ヴィータは反抗的な目でバインドから逃れようともがく。
 その目、そして一瞬感じた気配から、アルフはまだ何かあると確信した。

「……何かヤバいよ、フェイト!」

 フェイトへと警告したが、時すでに遅し。下から一瞬でポニーテールの女剣士が現れ、剣でフェイトを弾き飛ばす。
 ……どうやらまともな武器を持っているのは女剣士……シグナムだけのようだ。なのはは猫だしフェイトは田中だしヴィータはネギだし。
 その事実に気づいているのか否か、シグナムが剣を振り上げて、命令を叫ぶ。

「レヴァンティン、カートリッジロード!」

 その命令とともにレヴァンティンから薬莢が放出され、次の瞬間には刀身に炎を纏う。そして大技『紫電一閃』を構えた。
 それに対し、相対するフェイトはというと……体勢を立て直し、田中ソードを構えながら、シグナムへと問いかける。

「なのはが襲われた時に「まさか」と思ったけど……ここ最近起こっている魔導師襲撃事件、あなた達の仕業ですね?」
「だとしたら、どうするつもりだ?」
「そうですか……なら、ここで倒して止めます!」
『Blitz Action.』

 言葉を放つと同時に、フェイトの姿が掻き消える。加速魔法『ブリッツアクション』を使ったのだ。魔法が使えたということは、田中ソードはデバイスなのだろうか?
 その超高速移動の後にフェイトが現れたのは……アルフのすぐ隣。そのまま首根っこをつかみ――――

「……ってアルフが言ってましたーーー!!」
「えええええ!?」

 シグナムめがけて全力全開で投げつけた。一体この小さな体のどこにこんな腕力があるのだろうか。
 一方投げられたアルフはというと、いろんな意味での疑問の声を上げながら飛んでいくしかできない。
 そしてシグナムはというと――――

「そうか。ならば……紫電一閃!」
「ぎゃああああああ!!」

 飛来したアルフへと紫電一閃。思い切り遠くへと吹き飛ばした。

「よくもアルフを!」
「投げつけてきたのはお前だろうが」

 自分がアルフを投げつけた事実を棚に上げ、シグナムを責めるフェイト。もっとも、シグナムの言っている事が正しいので、むしろ非難するのは筋違いなのだが。
 しかしフェイトはその事実を完全に無視し、田中ソードで斬りかかる。

「おおりゃああぁぁぁっ!」

 しかし剣がシグナムに届くより速く、バインドされていたはずのヴィータがネギで奇襲する。反応できず、フェイトへと直撃。
 ネギなので肉体的ダメージは大した事はないが、嫌な精神的ダメージが。なのはがやられていたのはこれが原因かもしれない。
 攻撃された当の本人であるフェイトはというと、攻撃を受けた事よりもバインドが解けている事に首をかしげている。そしてそれを代弁するかのようにシグナムが聞いた。

「ヴィータ、拘束が解けているということは……シャマルかザフィーラが近くにいるのか?」
「ああ。ザフィーラが解いてくれたんだ。」

 そう言うと、ヴィータがある一方を指し示す。そこにザフィーラがいると言わんばかりに。
 つられてシグナムがその方向を向くと……人 型 の と こ ろ て ん が い た 。
 当たり前だが、どう見てもシグナムの知るザフィーラではない。向こうはいかにも「私がザフィーラです」とでも言わんばかりに存在しているが。

「おっ、よーシグナム」


 …………………………


「ザフィーラじゃなーーーーーーーーい!!」

 おめでとうシグナム。現時刻をもって君はツッコミ役の仲間入りだ。
 ……まあ、そんな事はどうでもいい。ザフィーラらしき何かの姿は、シグナムの記憶とは大きく違っているようだ。
 だが、自称ザフィーラのところてんはというと、あくまでも自分がザフィーラだと主張している。

「何言ってんだよ。俺はザフィーラだ」
「嘘だッ!! 私の知るザフィーラとは違う! もしそうだとしても今すぐ『ところ天の助』に改名しろ!」

 その後しばらく、このところてんがザフィーラか否かというバカみたいな論争が続き、結局本人が納得しないまま『ところ天の助』へと改名されたという。
 ちなみにその間、先ほど吹っ飛ばされたアルフが回復を済ませてこちらに向かっているのだが、たぶん気付いていない。
 気付かれていないままザフィ……もとい、天の助の背後に回り、そして――――

「ところてんマグナム!」
「ぎゃああああああああああ!!」

 渾身の右ストレート。命中箇所がくり抜かれ、その名の通りマグナム弾のような勢いでシグナムの方へと飛んだ。
 幸い当たりこそしなかったものの、右手の付近を通過。風圧がその手の甲に切り傷を作った。

(何だ今のは……一体何をした?)
(ちょっと見ただけですげえ威力だってわかる……連発されたら穴だらけになる天の助だけじゃなくて、あたしらまでヤバいな)

 今のところてんマグナムを見て、冷静に分析するシグナムとヴィータ。ところてんごときで何故これほどの威力が出るのかはとりあえず置いておくことにしたようだ。
 その間にアルフが振りぬいた右拳を再び振りかぶる。まさかとは思うが、もう一発撃つつもりなのだろうか。

「連射ーーーーーーー!!」

 訂正。一発ではなく、大量連射だった。
 天の助の体に穴がひとつ増えるたび、ところてんマグナムが一発発射される。防御魔法て防ぐが、威力がありすぎて一発ごとに軋むという有様。
 そんな中、外れたうちの一発が遥か彼方へと飛び……結界の壁ともいえる地点に着弾した。


 ちなみに、この間なのはが何をしていたかだが……ユーノによる武器説明が終わってすぐ、ビルの屋上へと移動してその全景を見ていた。
 そして詳しい経緯は省くが、レイジングハート(モードリリースされているので、現在は首飾りの宝石型)の後押しもあって、スターライトブレイカーで結界を破るべくセットアップし直したのだが……
 そこに頭上を飛び去るところてんマグナムを見て、セットアップが停止。無論このことに関するツッコミは入れたが。
 そして現在、更なるツッコミ要素が眼前に広がった。今回の襲撃の前ならまだしも、今のなのはにはこれにツッコミを入れないなどというのは不可能である。


 さて、さらなるツッコミ要素のことだが……ところてんマグナムの着弾箇所に穴が開き、そこから結界内にヒビが広がる。
 その後どうなったかは予想できただろうがあえて書こう。そのヒビから結界がどんどん割れていき、ついには完全に破壊された。


「「何で(何故だ)!?」」

 なのはとシグナムのツッコミが全く同時のタイミングで入る。無論、ところてんマグナムの結界破壊に対してのものが。
 この二人、じっくり話し合う機会があれば仲良くなれるかもしれない。

「驚いてる場合じゃないだろ、シグナム! 逃げるぞ!」

 シグナムの固まりきった思考を正常に戻すヴィータの一声。それと同時に現在置かれている状況を思い出す。
 そうだ、張った結界を抜かれ、さらに眼前には管理局の魔導師。見つかったと考えて差し支えないだろう。
 すぐさま穴だらけの天の助を回収し、解散。バラバラの方向へと飛び去っていった。

 ちなみに、穴だらけの天の助がこの後すぐに元通りになったのは蛇足かもしれない。


 全てが終わった後、なのははポツリと呟いた。

「……一体なんだったんだろう?」

 それは作者の方が聞きたい。

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最終更新:2007年12月13日 20:07