彼女、高町なのはは全力で現実逃避をしていた。
目の前の9~10歳あたりの少女がぽかんとした顔で見上げているが無視、気にしたら負けというやつだ。
自分はこんな少女など見たこともない、『多少』昔の自分に顔つきが似て、『わずかばかり』昔の自分に髪型が似ているが、断じて知らない。
それはきっと、隣に立って何故だか唖然と少女を見ている親友が証明してくれるはずだ、
そう、彼女の次の言葉は私とこの少女の関係を否定してくれるもののはずなのだ!

「子供の頃の……なのは?」
「フェイトちゃん信じてたのにぃぃぃぃぃぃぃ!!」
「な、なのはさん落ち着いてー!」
「鎮静剤を! 早く!」

頭を抱えながら絶叫する。
フェイトは「え? あれ?」と何故なのはが錯乱したのかわからず、
少女――高町なのはは未来の自分を見上げながら呆然としたままだった。



「となると、なのはちゃんは本局に行こうと転移装置を使ったら、次の瞬間にはここにいたと」
「は、はい……あの、本当にここって10年後の世界なんですか?」
「そやなぁ、六課のメンバーはみんないるし、チンクを始めとした戦闘機人たちもちゃんとおる。ここは間違いなくウチらの世界、なのはちゃんにとって10年後の世界や」
「ふぇ……」

少女なのはは青ざめた顔で俯いてしまう、
無理もない、彼女はまだ9歳なのだ。何だか各所で忘れ去られているが、のび太より年下なのだ、ちびまる子と同い年なのだ。
そんな少女が突然「10年後の世界にようこそ!」などと言われてはたまったものではない。
……ちなみに19歳の彼女は現在鎮静剤で眠らされている。

「私、どうしたらいいんでしょう……」
「んー……次元を超えた漂流者は数いるし、なんでかそういう人たちを片っ端からスカウトしたような記憶もあるんやけど、時間跳躍ってケースはないんやよなぁ」
「そんな……」
「まあ、対象者がなのはちゃんやからな、ウチで預かることにするのは難しくないはずや。とりあえず先の事は後で考えよか」

はやての言葉に少女なのはは小さく頷く。
その様子を見て、はやてはある人物たちに任せることを決めたのだった。


「……本当に昔の高町だな」
「うそ……」
「シグナムさんにヴィータちゃん!? よ、よかったぁ、二人も一緒だったんだ……!」
「い、いや、少し待て高町」
「私達はプログラムだからな、年はとらねーんだよ」
「あ……そ、そっか……」

ようやく見知った相手を見つけたと思った少女なのはは再び落ち込んでしまう。
はやてに頼まれて来たシグナムとヴィータは困ったように顔を合わせる、
とにかく視覚的にだけでも安心できる相手、とはやては考え二人に託したが、この二人に子守りなどができるはずもない。
それでもなんとかシグナムはコミュニケーションを取ろうと試みる、全ては主への思いがなせる技だ。

「そ、そう気を落とすな高町、たとえ帰れなかったとしても、主はやてはお前を見捨てるような方ではない」
「帰れない……フェイトちゃん、お母さん……!」
「あ」
「この馬鹿……」

烈火の将シグナム、戦闘一筋の女である。子守りの経験などありはしない。

「あーもう、しっかりしやがれなのは!」
「ひっく……ヴィータ、ちゃん?」
「お前がそんなんだとこっちも調子狂っちまうんだよ! だ、だからその……元気、だせって」
「ひく……うん……」

顔を赤くしながらのヴィータの言葉に、少女なのははようやく泣きやんだ。
ほっとすると同時に、どうしようもない怒りの感情がヴィータを包む。

「たっくよぉ! 私たちの世界のなのははなにやってんだ!? まだ眠ってんのかよ!?」
「そのようだな……ん? いや、今目が覚めたそうだ、テスタロッサが連れて来るらしい」
「未来の私……」


その大人なのはというと……

「ほら、なのは……! いい加減に現実を見ようってば……!」
「違うの~! 私はあんな子知らないの~!」

現実逃避の真っ最中である。
その姿にスバルとティアナは何かが崩れ去ったようで頭を抱えている。
必然的にライトニングの三人が連れていくことになるのだが――
まるで子供のように抵抗する、暴れる、駄々をこねる、と手がつけられない。
困り果てるエリオとキャロの横で、フェイトは感じた違和感を元に思考を巡らせる。

「フェイトさん?」
「二人とも、おかしいと思わない? いくら何でも、なのはにしては子供っぽすぎる」
「言われてみれば……」
「そんな気が……」

原因はどうあれ、少女なのはは一人異界の地に置かれた孤独な存在なのだ、
どこかヴィヴィオに似ているこの状況の少女に対し、いくら過去の自分へとはいえ少し酷い対応をしているなのははらしくないと思える。

「……なのは」
「う~、何……?」
「ここに何故だか魔法少女カレイドルビー(アニロワ仕様RH付き)のぬいぐるみがあるのだけど」
「っ!」

フェイトがどこからともなく取り出したとある魔法少女のぬいぐるみに、大人なのはは過敏に反応する。
以前二人でショッピングをしていた時、なのはがこのぬいぐるみに興味を示していたのを見て買っておいたのだ。
そしてフェイトの予想を裏付けるかのように、なのはは子供のように輝いた目でそのぬいぐるみを見つめている。

「このぬいぐるみをあげるから、一緒に行こう、ね?」
「そ、そんなフェイトさん」
「子供じゃないんですから――」
「うん!」

子供以上に子供のような無邪気な声で返事をするなのはにエリオとキャロは驚き、
スバルとティアナに至っては「逃げちゃダメだ逃げちゃダメだ」と現実に立ち向かおうとしている、必死だ。

「やっぱり……なのはの思考が幼児化してるんだ……」
「ふぇ!? 酷いよフェイトちゃん、なのは子供じゃないよー!」
「……本当だ」


「な、何!?」
「シグナム?」

フェイトから報告を受けたシグナムは思わず声をあげてしまい、二人に怪訝な顔をされてしまう。

「いや……その、この世界のなのはにも異常が起きたようだ」
「なっ!? お、おい、なのはは大丈夫なのか!?」
「落ち着け、どうやら思考能力が逆行しているらしいが、それ以外は問題なさそうだ」
「精神が幼児化しているってことですか? そうなると、私と何か関係があるのかも……」

ふと聞こえた声に、二人は顔を見合わせる。
声のした方を見れば、少女なのはが何やら色々と呟きながら思考を巡らせていた、
確かになのはは子供の頃から「いやお前小学生じゃないだろ」と言いたくなるような考え方をする、精神年齢は高めの少女だった。
だが、先ほどまで泣きじゃくっていたのに、突然落ち付くどころか現状を打破する方法を考え始めるとは、異常だろう。

「た、高町……お前」
「……はい、どうやら私はこの時代の私と逆の事が起きてるみたいです」
「マジかよ、これからどうなっちまうんだ……!?」

続く

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最終更新:2007年12月29日 16:32