Strikers May Cry 番外編 「詰め合わせ」
魔法少女リリカルなのは
第十三,五話 [双剣の尼僧と炎風の双子悪魔 無限の猟犬と雷艶の魔女]
日の光の届かない地下の奥底で対峙するのは赤と青の筋肉質な体躯を持つ双子の悪魔と聖王教会に仕える尼僧であった。
双子の悪魔はその手に鋸のような刃をした刀を持ち、尼僧はトンファー状の双剣を構えて互いに一触即発の様を呈する。
「やはり客人はもてなさなければな」
「そうだ客人はもてなすものだ」
「ならやはり剣舞しかないな」
「そうだ剣舞しかない」
双子の悪魔はまるで最初から打ち合わせでもしたかのような会話をしながら目の前の尼僧に手の刀を向ける。
尼僧はその双子の悪魔の発する気迫に笑みを浮かべながら不敵に答える。
「良いですね。こんな所で心を震わせる決闘を仕合えるとは思っていませんでしたよ…」
決闘趣味があるとかないとか言われているだけに彼女の心はやたらと昂ぶっていた。
所変わって戦闘機人の司令塔を捕らえた時空管理局のとある査察官の前に雷撃を纏った赤毛の魔女が現われた。
「そこの坊や~、ちょっとお姐さんと遊ばない? それともこんな風に女と遊ぶのは初めてかしら?」
緑色の長髪に数多の魔力の猟犬を従えた査察官は笑顔で返す。
「いや~。なにせこんな綺麗なお嬢さんに会ったのは初めてなもので♪」
そして査察官に雷撃の魔女が電撃を纏った蝙蝠が飛来し空中で猟犬と交錯し火花を散らせる。
「楽しめそうね、坊や」
「それはそれは、こちらこそ」
その言葉を合図に数多の猟犬が魔女に踊りかかり、蝙蝠が査察官へと舞った。
バージルとフォワードメンバーが聖王のゆりかごで激闘を繰り広げていた頃、スカリエッティの地下施設へと向かったフェイトは戦闘機人と夥しい数の悪魔を相手に苦戦を強いられていた。
フェイトの振るうバルディッシュがまた一体の悪魔を斬り裂き塵に返す。だが何対倒そうと悪魔の数は減らず遂に彼女は疲労に膝を付いた。
「はぁ はぁ」
「どうしたフェイト・テスタロッサ? もう終わりかい?」
疲労に息を荒げるフェイトに戦闘機人と数多の悪魔に守られたスカリエッティが余裕の笑みを浮かべてフェイトを挑発する。
その美貌に怒りを宿すフェイトだが敵はあまりに多くこの苦境は覆し難い。
そして巨大な猿を思わせる悪魔“オラングエラ”が巨大な身体で跳躍しフェイトを潰さんと踊りかかる。
あまりの疲労に一瞬反応を遅らせたフェイトは死を覚悟したがその悪魔の攻撃が彼女に当たることは無かった。
凄まじい電撃を纏った無数の蝙蝠の塊がオラングエラの身体に直撃しその落下の軌道を逸らした。
そうしてフェイトの下に二人の助っ人が現われる。
「大丈夫ですか? フェイト執務官」
「遅ればせながら助っ人に馳せ参じました」
それは雷撃を纏ったギターを持つ査察官ヴェロッサと炎と風の悪魔を双剣ヴィンデルシャフトに宿した教会シスターシャッハであった。
その二人にフェイトは目を丸くしながら口を開いた。
「えっと…お二人とも…それは一体?」
「さっき魅力的な女性に声を掛けたら頂きました」
「もの凄く青くて赤い筋肉質な二人と死闘を演じたら何故かヴィンデルシャフトと合体しました」
フェイトの質問に二人はとても理解しがたい答えで返した。
つまりはフォワードメンバーと同じように二人は悪魔の力を得たのだが、もちろんそんな事はフェイトには分からなかった。
そこにヴィンデルシャフトに合体した炎と風の双子悪魔“アグニ”と“ルドラ”が声を掛ける。
「「早く我らを振るえ使い手よ」」
「……ちょっと静かにしてください」
「「………」」
ハモって喋る悪魔を黙らせながらシャッハは敵に向かって構える、ヴェロッサもまた雷撃を操る魔女“ネヴァン”の力を具現化したギターの演奏の準備に入る。
「ではステキな演奏と行きましょうかお嬢さん♪」
そのヴェロッサの言葉に答えるようにネヴァンのギターは雷撃を宿した蝙蝠を大量に舞わせて殲滅の音色を奏でる。
「炎風烈陣! 逆巻けヴィンデルシャフト!!!!」
まず真っ先に敵の只中にシャッハが手の双剣に豪炎と旋風を纏って駆け出し、そのシャッハを援護するようにヴェロッサがギターをかき鳴らして雷撃の雨を降らせる。
ヴェロッサの放った雷撃の蝙蝠の攻撃により悪魔たちは動きを止められ、そこにシャッハが鬼神の如き追撃を見舞う。
シャッハはルドラと融合した左のヴィンデルシャフトが旋風を纏って敵を八つ裂きにし、アグニと融合した右のヴィンデルシャフトが敵を焼き尽くした。
シャッハとヴェロッサは圧倒的な戦闘力で以って敵を殲滅する。数はともかく中級悪魔と戦闘機人だけの集団など、この上位悪魔の力を得た二人の敵ではなかった。
そして、ここでもフェイトの出番は無かった。
第十七,六話 [闇の剣士と戦闘機人]
スカリエッティの起こした一連の事件、通称J・S事件が終わりを告げる。
そして事件に加担した戦闘機人の少女達はその存在の特殊性(特にスカリエッティや彼女達の出生に管理局の最高評議会が関係していた事)により通常の受刑でなく特別の更正施設での社会生活への適応の為の教育を受けていた。
その施設に車椅子に乗った銀髪隻眼の少女がいた。
少女の名はチンク。戦闘機人ナンバーズの5番であり、この施設にいる戦闘機人のなかでは最年長のナンバーズである。
彼女は事件の際にバージルから受けた傷の為に車椅子での生活を強いられていたが、傷の経過も順調でこうやって他の姉妹と一緒に施設での穏やかな生活を送っていた。
そしてその日も彼女達の教育係であるギンガが現われたが彼女は予期せぬ客人を連れて来た。
「ノーヴェ~♪」
「げえっ! スバル~」
それは犬の耳と尻尾でも生えてそうなくらいなオーラを纏ったスバルだった、彼女は先の事件でノーヴェと和解し今ではすっかり懐いていたのだ。
当のノーヴェはやたらとくっつくスバルを少し苦手にしていた。
「えへへ~、久しぶり~♪」
「こらっ、スバル。やたらとくっつくんじゃねえ! っていうか今日はおめえと面会の日じゃねえだろ」
「いや~今日はちょっとお兄ちゃんの手伝いに来たんだよ~」
「お兄ちゃん?」
スバルの言葉と共にナンバーズには忘れようとも忘れられない男がその場に現われた。
「今日からしばらく特別講師をしてくれるバージルさんですよ、さあみんなご挨拶して♪」
ギンガは最高に朗らかな声で言うがナンバーズ一同は戦々恐々の様を呈する。
「ぎゃ~~! 今日こそ死ぬっす! 絶対に死ぬっす!」
「うわ~ん、最後にもう一回チョコケーキが食べたかったよ~」
まずウェンディとセインが叫ぶ。
「チンク姉! あたしが時間を稼ぐから逃げろ! スバル、後の事は頼んだぞ!」
ノーヴェが震える足で勇ましくチンクを守ろうと立ち上がる。
「お願いです許してくださいお願いです許してくださいお願いです許してください」
「殺さないで殺さないで殺さないで殺さないで」
「助けて助けて助けて助けて」
オットー・ディエチ・ディードは部屋の隅でガタガタ震えて命乞いをしている。
ナンバーズのその様子も無理は無い。彼女達は先の事件でバージルと戦い、たっぷりと恐怖を味わったのだから(特にディエチは二回も幻影剣の攻撃を受け、ディードは腸をぶち撒けられた)。
だがこの場の最年長者はしっかりと冷静に対応した。
チンクは車椅子をバージルの前に進めて最高の笑顔で彼に挨拶をした。
「お久しぶりです」
「ああ、そうだな」
その様子を離れてテーブルの下に隠れて見ていた(地震じゃなんだぞ…)セインとウェンディはチンクに叫ぶ。
「チンク姉~危ないっすよ~喰われるっすよ~」
「チンク姉~。カ~ムバ~ック」
ノーヴェがガタガタと震えながらバージルに突っかかる。
「おい…て、てめえ…チンク姉に変な事したら…ぶ、ぶ、ぶ。ぶっ殺すぞ…」
その様子にバージルは溜息をもらし、チンクが苦笑する。
「まったく…嫌われたものだな。まあしかたのないことだが…」
「すいません騒がしい妹達で」
様々な知識や経験そして強大な戦闘力を持ちながら、未だに正式に管理局の局員でなかったバージルの局員入りでの最初の仕事はこの施設でのナンバーズへの教育の手伝いだった。
とりあえずチンクが他のナンバーズを説得してバージルの教育はすんなり進んだ。
六課の人間との付き合いや、シグナムとの仲の発展でバージルは以前とは別人のように丸くなっているのをナンバーズも漠然と理解して次第に警戒を解いていった。
バージルの受け持った授業も終わり、バージルはチンクと共にナンバーズと遊んでいるスバル(主にスバルがノーヴェをいじっている)を眺めていた。
「今日はありがとうございました、それに妹達がご迷惑を…」
チンクはすまなそうにバージルにあやまる、だがバージルはそんなチンクの言葉を遮って意外なこと言った。
「これも仕事だ。そもそも俺が頼んだ事だしな」
「えっ?」
「お前には色々と借りがあったからな」
バージルの言葉にチンクは顔を悲しみに沈ませた。
「この足の事ですか? これは戦いでの結果です……あなたが気に病む事ではありません…」
もし戦いで傷ついた自分を気遣ってバージルが管理局での進路を絞ったのなら、という考えが浮かびチンクに苦い思いをさせるがバージルはあっさりとそのチンクの言葉を否定した。
「それは少し違うな、確かにお前を過剰に傷つけたとは思うがそれは決定的ではない…」
バージルは少し憂いと優しさを込めた瞳で宙を仰ぎながら言葉を繋げた。
「お前は言ったな……“血は繋がらずとも家族はいる”と…」
「…はい」
「その言葉に救われた、ここでしばらくお前らの面倒を見るのはその礼だ」
かつて病院でチンクがバージルに言った言葉、バージルはその言葉によりヴィヴィオを失わずに済んだ事を恩義として感じていたのだ。
そんな理由でわざわざこんな施設に来たバージルにチンクは苦笑する。
「義理堅いんですね」
「そうか?」
「ええ。そういえばもうすぐ御結婚なされるとか?」
「……いったい誰がそんなことを」
「もちろんスバルが」
「そうか…まったくあの娘は…」
スバルの口の軽さに顔を歪めるバージルを見ながらチンクは思う。
(こうやって穏やかに生きていけるなら、きっとそれが幸福というものだな…)
チンクは妹達と遊ぶスバルやバージルを見て、きっとこの先も続く静かな日々を思い
柔らかに微笑んだ。
Another Epilogue [時空管理局SFクラブ]
バージルとシグナムの結婚式。その式場で異様な様を呈している席がある、それはかつてシグナムが所属していた首都防衛隊の席であった。
「ちきしょうううう!! ちきしょうううううううう!!!!」
「おい! いい加減に落ち着けよジョニー」
血の涙を流して叫ぶ男に同じ席の男が声を掛けて制したが男はさらに興奮してこれに答える。
「これが落ち着けるかああああ!! シグナム姐さんが、シグナム姐さんが…あんなどこの馬の骨とも知れねえ男と結婚するなんて信じられねええええ!!! むしろ信じたくねえええええ!!!!!!」
「そりゃ俺も信じたくねえさ……でもSFクラブの掟にあるだろ? シグナム姐さんの幸せが俺達の幸せなんだよ……」
そう彼らは時空管理局SFクラブ、シグナム・ファン・クラブのメンバーだったのだ(もちろん非公式だ)。
そんな彼らはもちろんこのシグナムの結婚を受け入れられなかった。
「幸せ? そんな訳あるか!! きっとあの男に騙されてるんだ!! そうに違えねええええええ!!!!!」
「クソオオ!! なんて野郎だ! 神聖不可侵絶対女神のシグナム姐さんを騙すなんて…」
怒りと義侠心と正義感(または嫉妬心とも言う)に熱く燃える首都防衛隊SFクラブのメンバー。
そこで一人の男の発した言葉がとんでもない爆弾として投下される。
「…きっとあいつはこれからシグナム姐さんに毎朝起こしてもらったり、手料理を作ってもらったりするんだろうな…」
以下妄想。
エプロン姿のシグナムがお玉を持って寝室に登場して最高の笑顔で旦那を起こす。
「こら、もう朝だ。早く食べないと朝食が冷めるぞ」
以下略。
「ぐはあっ!!」
「げふうっ!」
その妄想の破壊力に何人かが血反吐を吐いて倒れる、だが言葉の爆弾は絨毯爆撃の如く投下され続ける。
「…そんでもって家に帰ったらエプロン姿(もちろんだが下にはなにも着ていない)のシグナム姐さんにお出迎えされるんだろうな…」
以下妄想。
エプロン姿(もちろんだが下にはなにも着ていない)のシグナムが顔を赤らめて玄関でお出迎え。
「食事にするか? 風呂にするか? それとも…」
以下略。
「ひでぶううううう!!!」
「あべしいいいいいい!!!」
「あじゃぱああああ!!!」
珍奇な雄叫びを上げてまたSFクラブのメンバーが自分の吐いた吐血と鼻血と血涙の血の海に倒れ伏す、それでもこの男のターンは終わらない。
「…そんでもってシグナム姐さんの(具体的にどこを指しているかは諸君の想像に任せる)を好きなだけ揉み転がしたり、むしゃぶりついたり出来るんだろうな…」
以下妄想。
過激な描写につき表現自粛にて音声だけでお楽しみください。
「あ…そ、そんな吸うな…ひゃん」
以下略。
もはや呻き声すらない、SFクラブのメンバーは全員戦闘不能状態で倒れ伏している。
「そんでもって…」
まだ言葉の爆弾を投下しようとしている男に生き残っていた者が止めに入る。
「止めろ! もうみんなのライフはゼロだ!!」
「放せええ!! 何勘違いしているんだ、まだ俺のバトルフェイズは終了していないぜ。みんな聞けえええ!! 今までのはただの妄想だ! だがしかし!! このままでは確実にシグナム姐さんは今日あの男と初夜を迎えるんだぞおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!」
以下妄想。
新婚初夜、ベッドの上でウェディングドレス姿のシグナムが三つ指を突いて言う。
「不束者ですが、どうか末永くよろしくお願いします」
以下略。
その言葉と妄想の幻影に血の海に沈んでいた男達…いや漢達が立ち上がる、彼らの目には溢れんばかりの闘志が宿っていた。
「こうなったら俺達があいつを倒して…」
「ああ、首都防衛隊の力を見せてやるぜ」
「初夜なんて迎えさせるかよ!」
「シグナム姐さんは俺が守る!」
だが冷静な意見を言う者もいる。
「でもよお、あのバージルって奴は凄え強えらしいぜ…」
「なんでもSSランク以上とか…とても俺達には……」
「何をツマラン事ぉ抜かしとんのんじゃあ! こんボケがああああ!!!」
そこに恐ろしくドスの効いた低い声が響き全員の視線を釘付けにした。
その男は物凄くゴツイ顔に数多の刀傷を刻み、カミソリのような鋭い眼光を放っていた。
このどこから見てもマフィアかヤクザにしか見えない男こそ、時空管理局SFクラブ組長(組長?)である鬼ヶ島 土左衛門(おにがしま どざえもん)その人だった。
「ワシらSFクラブ全員が玉砕(カチコミ)掛けて命(たま)あ取れん奴なんぞこの世にゃ~おらんのんじゃあああああ!!!!」
その土左衛門の言葉にSFクラブのメンバーが沸き立ち、次々に叫ぶ(もちろんここが結婚式の会場などという事はとっくに忘れている)。
「組長(オヤ)っさんの言うとおりだぜ!!」
「そうだ! ここが俺達の死に場所だ!!!」
「姐さんを守って死ねる……俺の最後も捨てたモンじゃあねえな…」
SFクラブのメンバーが手にデバイスを掲げて雄叫びを上げ、土左衛門が全員の指揮をとる。
「全員、道具(デバイス)は持っとるな!! これからSFクラブ最後の討ち入りじゃあああ!! 死んでもあのスケコマシ野郎の命(たま)~取ったるんじゃあああ!!!」
「「「「「「おおおおおおおおおおおおお!!!!!!」」」」」」
その騒がしい男達に突然チェーンバインドが絡まり、クリスタルケイジが周囲を包み込む。
「なんじゃああこりゃああああ!?」
土左衛門が叫ぶがその戒めは強固でびくともしない、そしてエクシードでブラスターなレイジングハートを持った女性が凄い目(STS八話テレビ放映バージョン)で彼らを睨みながら現われる。
それは完全に本気でおしおき(殺す)気になっている高町なのはであった。
「おかしいなあ……結婚式は喧嘩じゃないいだよ……そんな風に騒いで邪魔するんなら…式に来る意味ないじゃない……」
凄絶なる殺気と気迫を放ちながらなのははカートリッジを全て装填、レイジングハートのファイアリングロックを解除する。
「……ものすごく…頭冷やそうか?」
「うおおおおおおお!!!!! SFクラブ万歳いいいいいいいいいいいいいい!!!!!!」
その日も無慈悲に砲撃が唸りを上げ、哀れで愚かな者の悲鳴が空に響いた。
最終更新:2008年01月29日 22:38