ここは時空管理局本局、クラナガン。
 けたたましく鳴り響くアラート。点滅する赤いライト。
 あらゆる世界を観測するべく設けられたこのフロア全域で。
 緊急事態を示す、非常用のアラートが鳴り響いていた。

「大規模な次元振が発生しようとしています!」
「一体どうなってるんだ!?」

 局員の一人は、カタカタとパネルを叩きながら小さなモニター画面を凝視する。
 また別の一人は、指示を下しながら巨大なモニターを凝視する。
 その姿は多種多様であったが、一同揃って同じ画面を見ていることに変わりは無い。
 まるで訳が解らない。それが、局員たちの抱いた感想だった。
 ついさっきまでは何の異変も無い、いつも通りの平凡な仕事を続けていた筈なのだ。
 それなのに、数分前……突如として一つの管理外世界で、大規模な次元振が発生した。




 第97管理外世界――砂の惑星、地球。
 この惑星にて、今まさに人類絶滅の危機が訪れていた。
 かつてこの惑星の海を干上がらせた隕石とほぼ同じサイズに巨大隕石が、再び地球に落下しようとしているのだ。
 これ程の質量を持った巨大隕石が再び地球上に落下しようものなら、今度こそ間違いなく人類は、全ての生命は絶滅する。
 しかし、今のこの世界の技術力では、この隕石を破砕する術も、隕石落下を回避する術も無い。
 迫り来る隕石に、この地球に住む人々は絶望していた。

 自分たちにはもう何も出来ない、と。
 ただ、世界の終りを待つしか出来ないのだ。
 救ってくれる神など居ないし、救われる望みもない。
 迫る世界の終わりに、人々は最後の希望すらも失いかけていた。

 だけど――太陽は未だに輝きを失ってはいない。
 例え神がこの世界に居なくても、太陽だけは変わらずに輝き続けていた。
 そんな太陽の輝きに応える様に。その太陽の輝きで以て、もう一度全ての命を照らす為に。
 漆黒の闇の宇宙の中で、一際美しい光の翼を羽ばたかせ、隕石に向かって行く一人の戦士がいた。

「さぁ、一緒にドライブだ! 7年前のお仲間に合わせてやる!」

 言いながら、凄まじい速度で宇宙を翔ける戦士の名はカブト。
 隕石を前にして、その不遜な態度を一片も崩さずに告げた。
 やがてカブトは隕石の眼前へと飛翔。

「ハイパークロックアップッ!!」

 ――HYPER CLOCK UP――

 電子音が鳴り響いた。
 それから程なくして、カブトと隕石は共に姿を消した。
 ハイパークロックアップによる時間の逆行。それも、かなり大規模での。
 現在地球に落下しようとしていた隕石を抱えて、カブトが飛んだのは遠い過去。
 かつて―7年前―、地球の海を全て干上がらせた隕石が落下する瞬間まで、隕石と一緒に。
 現在の巨大隕石と、7年前の巨大隕石。同時に存在する筈の無い二つの隕石が、一つの時間軸に並んだ。

「受け取れ」

 未来から持って来た巨大隕石を、カブトが軽く押し出した。
 押し出された隕石は、もう一つの隕石に向かって加速し――激突。
 二つの巨大隕石は激しい衝突の末、凄まじい衝撃波を振りまいて、粉々に砕け散った。

 これで地球に巨大隕石が落下するという一つの未来は、消えて無くなった。
 されど、その影響を最も顕著に受けるのは、他ならぬカブトそのもの。
 まずは一つ目の衝撃。巨大隕石同士の衝突による衝撃は凄まじい。
 最も至近距離でその衝撃を受けたカブトも、当然只では済まず。
 暴力的なまでの衝撃と、砕かれた岩の破片がカブトの身体を吹き飛ばした。
 その翼で羽ばたく事も叶わず、引力に引かれるままに地球へと落下して行くのであった。




 カブトが7年前の隕石を砕いた事で、この世界の歴史は変わった。
 巨大隕石の衝突は無くなったものの、代わりに砕かれた破片が、日本の渋谷に落下。
 宇宙規模で見れば小さな破片とはいえ、それの落下が街に振りまく被害は甚大。渋谷は壊滅状態となった。
 結果的に巨大なクレーターを残す事になったその隕石は、後に「シブヤ隕石」と呼ばれることとなる。
 だけど、海が干上がってしまうという未来を辿った地球と比べれば、その被害は些細なもの。

 ――なのだが、ミッドチルダから見れば被害はそれだけでは無かった。
 大規模な歴史の改変により、“巨大隕石が落下した”という未来は完全消滅。
 カブトが巻き戻した時間は約7年、一つの世界そのものを改変するに至って発生する次元振は凄まじく。
 それは過去に類を見ない程の大規模な次元災害を、周囲の次元世界へと振りまいた。

 その結果として起こる弊害の一つとして――
 「仮面ライダー」が存在する世界は無数に存在し、それぞれが独立した物語を築き上げていた。
 それらの世界はどれも非常に近い位置に存在しながら、決して崩れる事の無い均衡を保っていたのだ。
 されど、その内の一つ――仮にこの世界を「カブトの世界」としよう――で大規模な次元震が発生したとする。
 周囲の世界に次元振を振りまく程の衝撃が、他の仮面ライダーの世界を襲った時、それらの世界は――
 そして、それがミッドチルダ側に及ぼす影響とは――




 シブヤ隕石の落下地点。
 周囲のビルは全て崩れ去り、それにより生じた大量のガレキが道を塞いでいた。
 ここに、一人の少女を救おうと必死に手を伸ばす一人の少年がいた。
 されど、崩れたガレキが邪魔をして、あと少しの所で手が届かない。
 もう少し。あとほんの少しでこの手は届くのに。
 そんな気持ちが、少年の心をより一層歯痒くさせる。
 そんな時、少年の元に、“天使”が舞い降りた。
 眩しくて良く見えないが、天使は全身から目が眩む程の光を放っていて。
 やがて天使は、己が腰に巻いていたベルトを外した。
 同時に、天使の身を守っていた赤と銀の装甲は剥がれ落ちて行く。
 そして現れたのは、尚も輝きを放ち続ける、太陽のような男。

「ベルトを付けろ」

 男は、少年にベルトを差し出した。
 残った力を振り絞って、少年はベルトに手を伸ばす。
 それを受け取った少年は、ガレキの下敷きになった自分の体に、ベルトを巻きつけた。
 それを最後まで見届けることなく、空から降りてきた男の体は少しずつ薄くなってゆく。
 最後に男は、少年にこう言い残した。

「ひよりを頼むぞ……」

 言うと同時に、男の体は光となって消えた。
 もう一つの未来から来た男―天道総司―は、妹を救うために一つの未来を消した。
 それ故、天道総司という存在自体が、この世界ではあり得ない物となってしまったのだ。
 天道が未来を託した相手は、同じく天の道を往く男。
 それは、自分の総てを受け継いでくれる男。
 それはまさしく、7年前の自分自身であった。
 ベルトを受け継いだ少年時代の天道総司は、少女との間を阻むガレキを払いのけた。
 手を伸ばし、少女の手を掴む。がっしりと、強く。
 もう決して離れる事はないようにと。

「大丈夫だ……俺がそばにいる!」



 それから7年後。
 別の時間が流れたこの世界。
 とある小学校に通う少女は、慌てて着替えていた。
 時計はすでに遅刻ギリギリの時間を差している。
 珍しく、今日に限って寝坊してしまったのだ。
 なんとか準備を整えた少女は、すぐにランドセルに手をかけた。

「よし、準備完了! っと、急がないと!」

 背中に背負うは、茶色のランドセル。
 身に纏うは、可愛らしいデザインをした純白の制服。
 髪の毛は、肩まで伸びた茶髪を二つのリボンで結んだツインテール。
 胸に輝く赤い宝石。
 少女の名前は高町なのは。

 闇の書事件を解決してから、丁度もうすぐ一年が経過する。
 この一年間で、なのはは魔導師として目覚ましい成長を遂げた。
 管理局にも正式に入局し、管理局員として行動する様にもなった。
 順調に実力を上げ、エースとしての道を駆け上がって行く。
 そんな彼女達の未来を変える程の、運命的な出会いをこの年果たす事となる。
 だが、彼女がそれを知るのは、まだもう少し先の様だ。

「それじゃあ行こうか、レイジングハート!」

 なのはは今日もひた走る。
 不屈の心はその胸に、夢に向かって真っすぐと。
 そして、遅刻という名のタイムリミット迫る学校へ向かって!


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最終更新:2011年02月09日 23:21