異世界ジルバラート、
地球の英国に近い風土を持つこの世界は時空管理局では第606世界として管理されている世界であるものの
いくつか隠れている部分も多い謎の世界でもある。
ある時、第97管理外世界、『地球』で次々と『神隠し』事件が多発。
調査により、その原因がジルバラートから発生する次元の歪みであることがわかった。
事態を重く見た時空管理局は危険を承知で1人の局員をジルバラートに派遣した……

第606管理外世界『ジルバラート』 某所港町

その街中を歩く桃髪の少女と少女の周りを飛ぶ白く小さな白竜がいた。
「はい。フリード」
「キュル!」
フリードと呼ばれた白い白竜は、桃髪の少女が与えたオリーブをバリバリと食べ、
そんなフリードの豪快な食べっぷりに少女は微笑む。

時空管理局機動6課『ライトニング』隊ライトニング04 キャロ・ル・ルシエは市場を歩きながら、今回の調査に協力してくれるという大富豪の家の子供を待っていた。
指定された地点はこの港町。別名『ハロウィンタウン』と呼ばれ、人々から親しまれている地域である。
「調査に協力してくれる人はどんな人だろう?」
「キュ?」
「何にもわからずに来たから怖いけど、でも何だか楽しみ」
まさに今のキャロは『不安と期待でいっぱいの健気な子供の姿』そのものであった。

ハロウィンタウン上空
茜色に染まった上空に2人の少女が猛スピードで目的地に向かって飛行していた。
1人は白いフクロウがモチーフのドレスを纏った純粋で清楚な少女。
もう1人はまるでコウモリをモチーフにした衣装を纏った少々勝ち気な少女。
「ったく!なんでアタシが客のお出迎え役なのよ!?」
コウモリ服の少女が機嫌を悪くしたのか、愚痴をこぼす。
「まあまあ、キャスパーちゃん。落ち着いて……」
そんなキャスパーと呼ばれた少女の機嫌を直そうと白いドレスの少女が説得する。
「お出迎えならローザ姉に任せればいいのに……」
「フォレットさんもローザさんも忙しくて来れないから仕方ないわよ。私達だけでやろうよ。ね?」
「……わかったわ」
一応この事態を回避できてほっとするフクロウ服の少女。

その時
「ん?……キャスパー様!大変だよ!」
「キキ?どうしたの?」
キャスパーの周囲を飛んでいたコウモリの使い魔が異常事態を伝える。
「お嬢様。街から膨大な魔力反応が出ていますぞ!」
「何ですって!」
白い少女の周囲を飛んでいた白いフクロウの使い魔も主に伝える。
「この魔力は……」 
「私も感じる……まるで悪いものが一人歩きしてるみたい……」
2人はその邪悪なものの存在を確認し、すぐさま行動に移した。


「……いつになるんだろう?もしかして忘れちゃったのかな?」
しかし、いくら待ってもその要人が来る気配も無く、時間だけが過ぎていき、空はすっかり夕暮れの美しいオレンジ色に彩られ、昼には賑やかだった市場も次々と店を閉めていく。
「やっぱり、一人で来なければよかったかな・・・」
キャロは今頃一人だけでこの世界に来た事に少し後悔していた。
いつもなら同僚のエリオが自分よりも優れた判断力で困難を切り抜けてきたのだが、今回はそうは行かない。
一度この世界に足を踏み入れたら、途中退場が出来ない。
何とかエリオのような思考能力を無理にでも頭を回転させて発動させようと試みるが、
グウウ……

発動より先にお腹が鳴ってしまった・・・

「うう、お腹空いたよ・・・」
「キュウ・・・」
ハロウィンは10月の祭り、この時期は地球でいう秋であり、少々肌寒い。
凍える前に発見されてもらいたいものの、空はこのまま静寂が支配する夜を迎えてしまう。
来なかったときの保険として宿を見つけようにも
ここの土地情報を知らない・・と言うより出発前にジルバラートについて調べようとしたがなぜかこの世界の情報が見つからなかったのだ。
更にこの世界の通貨が不明なため、お金さえも無い。
「ごめんねフリード……今日は野宿かも……」

その時、

ドガガガガガ-ーーーーーン
「なに?」
突然響いた爆発音にキャロは周りを警戒する。
「ギュオ…」
フリードも何かの気配に警戒していた。

それとほぼ同時に鼓膜が破れそうな音量の人間の叫び声。
その誰もが「助けて」のコールを発している。

爆発音と悲鳴は港の方からだ。
「港でなにかがある……行こう!」
「キュル!」

「ひどい……」
キャロは目の前の光景に目を疑いそうになる。
某豪華客船を思わせる造りの船が木っ端微塵に破壊され、その船に乗ってただろうか、乗客や乗務員が海に浮かぶ木の枝の如く、浮いていた。
自分の周りには逃げ惑う人々。
その人たちの中に、昼に市場で働いていた人々もいた。
「た……助けてくれえええええええ!」
男の叫び声が後方から聞こえ、反射的に後ろを向く。
そこには腰を抜かして動けないでいる2人の街の人が2体の巨大な『何か』に襲われていた。
人型のピンクに近い獣のような肌、それに頭部には本来一角獣が持つはずの鋭い角。それと1つ目。
右手には木製の棍棒という原始的な武器。
それは巨大化した人間ではなく……御伽噺でよく見かける、一つ目の巨人サイクロプスであった。

「人が襲われてる……助けなきゃ!」
そこで今何をすべきか割り出し、実行する。
「フリードっ!」
キャロの呼びかけにフリードが答えると、フリードは口から火の玉をそのモノに向かって発射した。
炎はまっすぐサイクロプスに飛んでいき、

ボン!
命中。しかし、サイクロプスには掠り傷らしく、すぐに右手に持っていた棍棒をぶっきらぼうに投げ、それがキャロの後方にあった積荷に当たり、
積荷から飛び出した果物がキャロの体にヒットする。
「うっ!」
打ち所が悪かったのか、どっとレンガの地面に倒れこむ。
「キュオーッ!」
「フリード…逃げて……!」

サイプロクスが棍棒を振り上げる。
棍棒が風を切る音と感覚でそうわかった。
「殺られるっ!」
そう思い、ぎゅっと強く目を閉じる……

『ごめんなさい……みなさん』

キャロの脳裏に6課の局員達の顔が浮かぶ。
今、ここで一人の若く儚い命が消え去ろうとした

ズガガガガガ!

またもや耳の機能が壊れる程やかましい爆発音が耳を焦がす。
敵の増援だと思ったが、自分は死んでいない。
恐る恐る目を開けてみる……

まずキャロの目に飛び込んで来たのはなぜか仰向けに倒れているサイクロプスの姿であった。
「あれ……どうして…?」
サイクロプスの頭まで行き、意識を確かめようとした時、突然体がばあっと黒い霧になり、拡散し、まるで何事も無かったかのように存在しなくなった。

「なにが・・・何が起こったの?」
状況が全く理解できないキャロが困惑する。

「だ・・・大丈夫ですか!?怪我はありませんか!?」
自分より年上の少女の声が上空から聞こえ、反射的に夜前の茜色の空を見上げる。

白を基調としたまるでフクロウを思わせる半スカートのドレスを着た幼さを残す顔立ちを持つ赤髪の少女が白いフクロウと共に空を浮かんでいた。
その右手にはいくつもの羽根で出来たブレードが握られ、さっきの攻撃もあの武器から放たれたものだろうと推測する。
「お嬢様。まだ力の制御が上手くいかないようですな。あと少しずれていたら当たってましたぞ」
白いフクロウが少女に喋る。
どうやら見たところまだ駆け出しの少女らしい。

「皆!『エンジェル』だ!エンジェルが来たぞ!」
「本当だ!助かったよ、ありがと!」
先ほどまでサイプロクスに襲われていた人々が笑顔で少女に声援を送る。
それに応える様に小さく、少女は武器を持ってない方の手で人々に笑顔で手を振った。

キャロは意を決して少女に聞いてみた。
「いてて…あ、ありがとうございます。大丈夫です。あなたは……?」

「私ですか?私はウィンディア。キャロ・ル・ルシエさんですか?」
ウィンディアというその少女は、キャロに優しく微笑みかけた。
「え……?」

リリカルスマイルズ ~五人目の天使(エンジェル)~

第1章 1幕   燃えるハロウィンタウン 

多分続かない

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最終更新:2008年01月11日 20:49