メタルサーガsts読みきり短編
『バトーのマブダチ、ユーノ・スクライア』

バトー博士。
次元震でたまたまこちらへ来てしまった2人と2基のうちの1人。
パイナップルのような髪型にアロハシャツという姿。
それとは正反対の印象を与える理知的な言葉使いにサングラス越しにのぞく鋭い目。
そんな彼の願いはトモダチが欲しいというもの。
元より優しいユーノ君のことだから『トモダチになって』と言われたら『いいよ』と
即答しただろう。
過剰なまでに丁寧な言葉で会話されていたことも原因なのかもしれない。

「それじゃマブダチになったんだから名前で呼び合うなんて他人行儀なことやめて
アダナで呼び合わないとね。」

そして予想通りユーノ君はバトー博士のトモダチになってくれないかな宣言に笑顔で
『いいよ』と答えた。
笑顔が凍りつくっていうけれど目の前のユーノ君が今現在まさにそれになっている。

「君のアダナはインジュウだね。これでぼくらはマブダチさ。」

子供のようにはしゃいで嬉しそうにバトー博士がユーノ君にそう告げている。
一方のユーノ君はなにを言われたのか理解できていないのだろう。
呆けたような表情で耳を疑っているようだった。
当然かもしれない。
ほんのついさっきまで物凄い丁寧な言葉で会話していた人の口からでたとは
思えない言葉だったから。
あまりにも広大で無限とまで枕詞をつけられた無限書庫の中、奇妙なまでに
バトー博士の言葉は響いて、そこで働く課員達は一律時間が止められたかのように
ピタリとその足を停めては視線をこちらに向けてくる。
彼をここに連れてきた私は困ったような曖昧な笑みをみなさんに返すしかない。
集まる視線に聞き間違いではないと理解したのかユーノ君は慌て始める。

「ちょ、ちょっと待って。ぼくは・・・」

焦ったようなユーノ君の声が聞こえないかのようにバトー博士の言葉は止まらない。

「イ・ン・ジュ・ウ。うん。やっぱりインジュウはインジュウだね。
女の子のシャワーを覗いたり小動物に変身して女湯に堂々と入ってじっくり見入ってそうな顔してるもんね。
ムッツリと違って後で文句言われても堂々とすっとぼけるくらい当たり前に
やりそうだもの。インジュウにこれほどピッタリのアダナはないよね。」

ユーノ君が私に喋ったのかといわんばかりに視線を向けてくる。
一言も喋ってないと必死にアイコンタクト。
でも、顔を見ただけでここまでぴたりと言い当てられるものなのか。
私のときも・・・。
ユーノ君も覚えがあるだけに顔を真っ赤にして言葉に詰まるばかり。
書庫にいた女性課員の視線はユーノ君の反応に興味深げなものから冷ややかなものへ
変わり始めていた。

「マブダチをアダナって呼ぶっていいよね。そうだ。ぼくはデバイスの資料を借りにきた
んだけど、そのついでにインジュウの手伝いをしていってあげるよ。インジュウのことだ
からろくに仕事も片付けらなくて女の子の裸を覗く時間も作れないだろうからね。なんた
ってぼくは天才だからね。インジュウのみみっちい仕事なんかすぐに終わらせてあげるさ。
なんたってぼくたち、マブダチだろ?」

そう言ってアハハと笑い、助手のアンドロイドのサーズデイを連れて台車をガラガラと
転がしながら書庫の奥へといってしまった。
取り残された私とユーノ君。
女性課員全部から向けられるユーノ君への冷ややかな視線が突き刺さる。

「・・・なのは、彼はいったい・・・なんなんだ。」

しぼりだすようにユーノ君がそう尋ねてきた。
トモダチになってと言われて『いいよ』と答えた途端に飛んできた罵声の嵐。
六課の皆は既に先日経験済み。
ヴィータちゃんはグラーフアイゼンを振り回して大暴れしたし、
シャマルさんは膝をついて泣き出しちゃったし、
ザフィーラさんは鏡の前から動かなくなっちゃったし、
はやてちゃんは凹んで使い物にならなくなっちゃったし、
フェイトちゃんは髪を振り乱してモールへ服を買いに行っちゃった。
言葉だけで六課の機能が麻痺してしまったことに驚くべきなのだろうか。
かく言う私も演習場をつい・・・。
平然としていたシグナムさんにはさすがと思ったものだ。
気を取り直してユーノ君に答える。

「ちょっぴり口の悪いおじいちゃん・・・かな?」
「Master, I think 'a little' is extremely understatement.
 (訳:ちょっぴりは控えめすぎる表現に思います。)」

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最終更新:2008年01月17日 20:36