魔少女ヴィーティー
はじめまして、コーイチ・ムギカリと言います。
これから……友人のヴィーティーを紹介したいと思います。
ヴィーティーとは『V・T』であり、彼女のイニシャルです。
とても本名はお教えできません。
ヴィーティーの行動は反社会的なものがたまにありますが、
ぼくは勇気を出して一編のエピソードを公開したいと思います。
今日紹介するのは「屋上閉じ込め事件」です。
これはヴィーティーの行動としては比較的規模の小さい物ですが、ぼくが巻き込まれた最初の事件でもあります。
ぼくが彼女に最初にあったのは本当に突然でした。
「みんなー!ちょっと集まってー!」
ぼくが通っている聖王教会系列の魔法学校の名物武闘派シスターのシャッハの声が響きます。
基本的に武闘派のシャッハさんに逆らう人はいません。
逆らえばどうなるかなんて事は、空腹のライオンの前にウサギを投げたらどうなるかくらいはっきりしているからです。
その武闘派シスターの隣に、ぼくらくらいの女の子がいました。
どうやら今度ここに転入してくるかもしれなくて、そのために学校見学をしているらしいです。
一通りの見学を終え、保護者達が生々しい大人の話をするのでその間の相手を任せられた訳ですね。
今だから分かりますけど大人なんてそんなもんです。
それでも友達が増えるのは嬉しいのでぼく達はその子とお話をしていました。
これがぼくとヴィーティーの出会いでした。
二度目にあったのはその少し後で、彼女が転入してきた時でした。
偶然にも彼女の席はぼくの隣になったので話しかけてみました。
「久しぶり、ヴィーティー」
「久しぶり、コーイチ君」
彼女はぼくを覚えていてくれました。
あと断っておきますがぼくは決してイキナリ呼び捨てにした訳ではありません。
ただ『ヴィーティーちゃん』と呼ぶことがないのでこういう言い方になっただけです。
そして三日後に事件は起きました。
隣のクラスの女の子がぼく達のクラスに乗り込んできたのです。
本名は出せないので仮にバージニアさんとでもしましょう。
彼女は爆弾娘の異名を持っていて、何かあるたびに爆発しているかのように大声を出す迷惑な人です。
その爆弾娘ことバージニアさんは入ってくるなりヴィーティーの机の前に立ちました。
そしてヴィーティーが何かを言う暇もなく爆弾が爆発したかのようにわめき散らします。
彼女が何を言ったかは別の意味で公表する勇気がいるので詳しくは言えません。
ただまるで昼メロのような内容だった。とだけ言っておきます。
ここに来て三日のヴィーティーが何故この爆発の被害にあっているかと言えば、本当に偶然に、そしてほんのちょっぴり関わってしまったからです。
関わったといっても百人中百人が取るような行動がたまたまそうだっただけで、これは完全にバージニアさんの八つ当たりです。
しかしこのバージニアと言う爆弾は本当に不条理な物で、きちんとした手順で解体しないとすぐに爆発してしまうのです。
そうこうしているうちに音楽のマイケル先生がやってきて二人を仲裁しまいた。
マイケル先生の仲裁でなんとか場は収まりましたが、二人の気持ちは全く収まりません。
そして放課後になり、ヴィーティーが話しかけてきました。
「ねえコーイチ君、少し協力してくれない?」
どうにも嫌な予感がしますが、ここで断れる性格をぼくはしていません。
話を聞くとバージニアさんにちょっとした復讐をするつもりらしいです。
その計画とは……
下校時間が過ぎました。
これで校内に余計な人はいなくなります。
ヴィーティーがバージニアさんのクラスに行き、それを物陰から見守ります。。
そこにはあらかじめ声をかけて待ってもらっていたバージニアさんがいました。
元々こういうドラマみたいな話が好きらしく、少し興奮気味なのが見て分かります。
「お待たせ、ここじゃ先生が来るかもしれないから屋上に行かない?」
「突き落とす気?」
この人はドラマの見すぎだと思います。
二人が屋上のドアを開け、屋上に出ました。
ドアが閉まったのを確認してぼくはドアに鍵をかけました。
これでぼくの役目は終わりです。
それでも僕は好奇心からドアに耳をくっつけ、屋上の様子を探ります。
「爆弾娘って呼ばれてるんだって?」
「それが何よ」
「注意してもそれが次の爆発に繋がるからシスターシャッハでも手を焼いているとか」
「何が言いたいの?」
「もう二度爆発しないでって言いたいの、さもないと……」
「どうする気よ?」
「次はもっとひどい目に会うわよ!」
「ひぃ!」
しばらく沈黙が続きました。
後で聞いたことですがこの時ヴィーティーは輪ゴムを指に引っ掛けて飛ばしたそうです。いわゆる輪ゴム鉄砲ですね。
「こんな物で……貯水槽の後ろでしょ!足音で分かるわ!」
バージニアさんが貯水槽の裏に回りこむ音がしました。
そして次に聞こえたのはヴィーティーを見つけて爆発する音じゃなく、
「いない…………どこに行ったのよ!!!」
混乱して爆発する音でした。
ですがぼくはヴィーティーがどこにいるのかが分かりました。
彼女は確かに後ろにいたのです。
ただし、貯水槽じゃなくてぼくの後ろに。
振り返ってぼくは言いました。
「リボン取れてるよ?」
「え?…あ、ホントだ無くしちゃったみたい…」
ヴィーティーは普段ツーサイドアップと言われる髪形にしているのですが、今は片方のリボンがとれてしまっています。
自分の持ち物をなくすと言うのは結構悲しい事です。ましてや普段使う物なら尚更でしょう。
ですが彼女はすぐにいつもの顔に戻り、こう言いました。
「手伝ってくれてありがと、帰ろ?」
そう言った彼女の顔はとても可愛く、どうやってこの鉄のドアをすり抜けたのか聞く気にはなれませんでした。
これも今だから言えるんですけど可愛いってとても強い武器ですよね。
ちなみにバージニアさんはすぐに救出されました。
帰りにぼくらが用務員のイクローさんにそれとなく伝えたからです。
それでも屋上から消えたヴィーティーの事が怖いらしく、それ以来爆発は少なくなりました。
最後に翌日の出来事と、そこから考えたぼくの推理をもってこの事件の幕とします。
ぼくが登校すると、ふと学校に住みついてる野良猫のドルチを見つけました。
時間にも少し余裕があったのでなんとなく追いかけてみる事にしました。
前を行くドルチが曲がり角を曲がりったので、ぼくもその角を曲がったのですが、
ぼくが見つけたのはドルチではなく青いリボンだったのです。
それはヴィーティーが昨日なくしたものに間違いありません。
何故これがここに落ちているのでしょう。
ふと上を見上げると貯水槽が見えました。そしてぼくの頭にある仮説が浮かび上がります。
ヴィーティーは例の輪ゴム鉄砲でバージニアさんの目を一瞬つぶらせ、その隙に貯水槽の裏に隠れます。
ここまではバージニアさんの考えと同じですね。
そしてその後、あそこからここまで飛び降りたのではないでしょうか。
でもそんなわけはありませんよね。当時のぼくもすぐに気づきました。
校舎の屋上から飛び降りて無傷だなんて魔導師でもないぼくたちに出来ることじゃありません。
ISとか言う先天固有技能でも持ってない限りは、ね。
最終更新:2008年01月18日 19:36