【1:熊本市内 某所】 

小汚く薄暗い部屋の中で髭面の青年がぼんやりと青く浮かぶ画面に向かっていた。
「では、今後は彼等と共に戦えと?」
画面の中に映し出されている男は青年の上官らしい。
「そういうことだ。楽しみにしておれ 善行」
そういい残して、通信が切られた。
軽く頭を振りつつ、善行と呼ばれた青年は毒づいた。
「全く、あの一族の考えている事は良く判らん」
命令に従っていれば良いと割り切るにはなんとも精神的負担の大きい上官だった。
善行忠孝は不揃いになった髭を撫でながら、ぬるくなったコーヒーを啜った。
味方、増援は咽喉から手が出るほど欲しい。だが今まで求めても増援を得られたことはなかった。
善行の指揮する5121小隊は既に隊員を数名失っており、これ以上の損耗は許容できない。
増援についてはもはや諦めていたこの時期に、上官から増援を出してくれるとは意外だった。
「まぁ、貰える支援はありがたく頂戴しますかね」
みんなには明朝の作戦会議で知らせると決めて、善行は山のように書類が積まれている小隊長席に戻った。
ただ、気になるのは増援に送られてくる部隊の名称が<機動6課>という名前だった。
善行の記憶のどこにも引っかからない。
5121と同じように芝村一族の隠し玉ということか・・・



高機動魔砲 マジカルパレードマーチ



【2:熊本市内 尚敬高校】
朝の作戦会議の議題は人型戦車士魂号2号機の改修案だったが、
提案者が自ら否定するという相変わらず訳のわからない展開で、否決された。

「続いての議題といいますか、まぁ連絡事項があります。」
普段なら締めの言葉が出るところで、善行は昨日連絡をうけたばかりの情報を知らせることにした。
「近日中に我々5121小隊は新たに増援される小隊と共に行動をとることになりました」
「小隊規模の増援?いきなりまた急な」
瀬戸口が端正な顔に皮肉を浮かべて質問した。
「私も昨晩準竜師に通知をうけましてね。詳細はまだなんとも・・・」
肩をすくめながら返答する。
「それじゃ、全く情報の意味のないじゃないの」
「増援があるということがわかっただけでも大きいと思ってやれよ」
「嫌よ」
作戦会議の朝はいつも不機嫌になっている副司令の原を瀬戸口がなだめる。
「その件で、私は昼から準竜師閣下と面談の予定です。留守中はよろしくお願いします」



誰も授業をまじめに授業を受けてはいなかった。やはり誰もが増援部隊のことが気にかかる。
「若宮くんはどう思う?」
にぱぁあ
毒気を抜かれる微笑みを見せながら速水厚志がクラスメートにしてスカウト(戦車随伴歩兵)でもある若宮康光に紙切れを渡した。
「さてな。ま、増援と補給はあればあるほどありがたい」
即座にシンプル極まる解答が紙切れに書かれて戻ってきた。
直後に後ろの席からメモが回ってきた。グチャグチャに小汚い字は滝川のものだ。
「増援って、やっぱり俺達みたいな人型戦車、ロボット部隊だといいよな!」
「くぉら! テメェら、俺の授業を受ける気はないのかぁああああ!」
ガガガガガガッ!
担任の本田の持つサブマシンガンが唸りを上げ、ただでさえボロボロのプレハブ校舎がまた弾痕だらけでボロくなってしまった。


放課後の話題もやはり増援部隊についてであった。
善行は学校で昼をとって準竜師との面談に向かったので小隊の皆が善行が帰ってくるのを待っている
「増援部隊ってどんな奴等かな?」
「足手纏いでなきゃいいいんだけどなっ!」
「オメーがそれを言うとは正直、意外だ」
田代が滝川を嗜める。
滝川にしてみれば田代だってサボりの常習じゃねーかと言いたい所だが、拳の返事が飛んできかねないので自重する。
「オレは授業はサボるが仕事と訓練は手を抜かねぇ。それはともかくな、俺たちを助けてくれる連中なら、どんな奴でも構わないじゃねーか」
田代の言う事は滝川にも納得できる。
5121小隊は3月に壬生屋未央、茜大介、小杉ヨーコを失っており、頼れる支援なら神にもすがりたい。
「確かに。うちの小隊ほど変人が揃っていれば、多少のことには馴れるって」
滝川がチラ見した先では2人の変人、3号機ガンナーの芝村舞と整備士の岩田裕がなにやら話し合っていた。



【3:機動六課隊舎】
会議室にはスターズ、ライトニングの前線メンバーに、ロングアーチのスタッフも揃っていた。
「みんな揃ってんね? では、これより任務を通知します。スカリエッティ事件後、最初の重大任務や」
「「「はいっ!」」」
「うん、ええ返事や」
スバル達の返事に満足そうに答えながら、はやてが副官のグリフィスに目配せすると大型モニターが中空に浮かび上がった。

「えっ? ここって・・・・」
なのはとフェイトが声を揃えて驚いた。
表示されている地図はなのはとフェイトが良く知っている場所だった。
「第97管理外世界?」
さすがになのはの声が弾んでくる。仕事とはいえ、久しぶりに故郷のある世界に戻れるのだ。
「今の答では『たいへんよくできました♪』はあげられへんなぁ」
なのはが首をかしげる。

「重くて複雑な背景なので、私から話をするよりも、まずはコレを皆に見てもらおうか」
はやてが空中に浮かんだボタンを操作し、
管理局内で使用されているプレゼンテーション用のアプリケーションが立ち上がった。
真っ黒の背景に文字が浮かびあがり、同時にどん底の陰鬱な気分に落とされそうな息苦しいまでに重々しいBGMが流れる。

『第95管理外世界の全世界規模で行われた人類同士の戦い、すなわち第2次世界大戦は、意外な形で終結を迎えることとなった。』
『黒い月の出現。 それに続く、人類の天敵の出現である。これを、幻獣と言う』
『本来、我々の世界にありえない生物である。 生殖もせず、口もなく 幻のように現れ、
身に貯えられた栄養が尽きるまで戦い、死んで幻に帰る ただ、人を狩る、人類の天敵』
『人は、それが何であるかを理解する前に、そして人類同士の戦いの決着を見る前に、
まず自身の生存のため、天敵と戦うことを余儀なくされた』


機動6課隊員のだれもがあまりに重苦しく深刻なプレゼンに身動き一つできず、画面を凝視していた。
会議室の机全体がカタカタと小刻みな振動をしている。
モニターに世界地図が浮かび上がり、1945年の文字が浮かぶと同時にいくつかの地域に毒々しい赤い染みが浮かび上がった。
1973年に変わり、赤い染みが拡大する。
更に1997年に変わり、染みがさらに拡大した。

『1945年から続く幻獣との戦いは、ユーラシアでの人類の後退という形で、続いていた。
焦土作戦を採用し、核の炎で自らの街を焼きながら後退するユーラシア連合軍は、ついに海岸線に追いつめられた』
『同年4月 仁川防衛線。人類は4千万の死者を残してユーラシアから消滅した。
人類の生存圏は、南北アメリカ大陸とアフリカ南部、そして日本のみとなる』

ここで世界地図から日本列島が拡大される。
『自然休戦期明け、ユーラシアからついに人類を墜逐した幻獣は、ついに九州西岸から日本に上陸を開始。 
ここに人類と幻獣の幾度目かの防衛戦争が開始された』


さらに日本地図から九州部分が拡大され、1998年の文字が浮かび上がる。
『もはや恒常化した幻獣との戦争において、一つの事件が起きる。
記録的な惨敗である。 九州地方南部の八代会戦において、
投入された自衛軍の兵は陸自のほぼ全力の48万。 一方の敵幻獣は1400万。
人類は、同地の8割を焦土にして戦術的勝利をものにしたが、同時に30万以上の将兵を、一挙に失うことになった。
人は、この穴を埋めるために、戦いつづけることになる。』

今度は九州から熊本県がズームアップされ、1999年に進んだ。
『国会において二つの法案が可決された。 一つは、熊本要塞を中心とした防衛ラインの設置である。 
時間稼ぎのために、九州中央部に位置する熊本県を中心として戦力増強を行う。
例え九州の他の全県が陥落したとしても、幻獣は熊本を陥せない限り、つねに後背に刃を向けられることになるはずである。
 もう一つの法案は、少年兵の強制召還である。14歳から17歳までの、徴兵規定年齢に達していない子供たちが、
学籍のまま、かき集められた。 その数は10万人。
 これを即席の兵士として熊本要塞に投入し、本土防衛のための「大人の兵士」が練成されるまでの時間を稼ぐ。
 これら少年兵のほとんどが1999年中に死亡すると、政府は、そう考えていた』



【3:機動6課隊舎】
「「「「「・・・・・・ずーん・・・・・・」」」」」
あまりにショッキングな内容のプレゼンテーションを見せられ、
6課の前線メンバーは身動きすることさえ恐ろしいことにように感じられた。
「さて、それでや」

周りの空気をガン無視してはやてが会議を進めようとすると、隊員の殆どがビクッ!と震え上がり、ガタ!っと椅子を派手に鳴らした。
「はやてちゃん。これって・・・私達の歴史じゃないよね?」
その中で落ち着きをとり戻していたのはなのはだった。出身世界の歴史とはあまりに大きくことなる。
「うん。第97管理外世界にはよく似た幾つか管理外世界が他に6つほどあってな。この事件の舞台は第95管理外世界や」


はやてが説明を始めた。
今回、管理局本局は大規模な次元侵略の調停に乗り出すことになった。
管理外世界であっても、次元世界をまたぐ次元間戦争を放置するわけにはいかなかった。
「黒い月と呼ばれるものは<セプテントリオン>という犯罪組織が違法に設置した次元転送ポートやと判明してる。
この黒い月は本局の次元航行艦隊が破壊に向かいます」

フェイトが手を挙げる。
執務官としては<セプテントリオン>と呼ばれる謎の組織の手がかりとなるうる黒い月を
そうも簡単にぶち壊してしまっても良いものかと思う。
「そんなん、犯罪組織の壊滅よりも95世界の人類を救うほうが先やて」
「それは判っているけど、全く謎の組織なんでしょ?」
はやてが渋面を作った。
上層部のお偉方は「八神二佐が知る必要は無い」ということで、<セプテントリオン>に関する情報は提供されなかった。
仕方なく無限書庫のユーノに資料を集めてもらったが、
<セプテントリオン>は管理外91世界から96世界にかけての多次元世界で兵器の密輸を行っている組織で、
現在、第95世界に出現している幻獣とは彼等の獣型兵器だ判明した。


「私達、機動6課は幻獣から人類を護る防衛戦争に援軍として加わり、人類の絶滅を回避します・・・・て、だいじょうぶか みんな?」
スカリエッティ事件はミッドチルダ世界の平和を護る為の任務だったが、
こんどは人類の生存を護る闘いということで、泥沼の戦いになるかと思うと、緊張感で身も引き締まる。
「だだだだ、だいじょぶてす!」
エリオがメンバーを代表して返事する。声の威勢はよかった。

が、

「エリオ? お手洗いは出て2つ目の角を右に曲がった所だよ」
フェイトにはエリオが緊張を必死で堪えている様子が手に取るように判った。
「失礼します!」
と声をあげると同時に部屋を走り出たのは、エリオ、アルト、それにヴィータの3人だった。



【4:機動6課隊員宿舎】
「ねぇ スバル?」
「なあに? ティア」
「こんど私達が行く世界って管理外世界でしょ?」
「そうだねっ」
「どうして管理局が調停することになったのかな?」
「知らな~い」
「アンタに答えを求めてないわよ。 意見を聞いてるの」
「ん~、私は理由は気にならないけどね。どこの世界でも困っている人がいれば助ける。トラブルがあれば防ぐ。それでいいと思うよ」
「なんともまぁ、シンプルな意見ね。ま、アンタの意見は管理局の理念どおりだからそれまでと言えばそれまでなんだけどね」
「「「うぁああああっ」」」」
訓練場から響く断末魔の悲鳴を聞いてスバルとティアナは顔を見合わせ、また仕事が増えたことに溜め息をついた。
いい加減、そろそろ直接の上司を止めなければ。


今回の任務は人類を救うという重要かつ危険度の高い任務でもあり、
移動するのは前線メンバーだけではなくロングアーチの一部スタッフやJF704式ヘリも現地世界へ展開することになった。
「ほらほらほら、足を止めたらそこで死ぬよ!」
「「「「ヒィィイィイィィイイイイ!」」」

転げまわるように走るルキノやアルト、シャーリーといった面々がなのはが誘導するアクセルシューターから逃げ回っていた。
傍からみればどうみても虐待行為だが、なのはは95世界で前線と後方の区別ができるほど系統だった戦いができるとは思っていなかった。
歴戦のエースとしての直感である。
先のJスカリエッティ事件で襲撃を受けた6課隊舎が簡単に陥落し、ヴィヴィオを奪われるという苦い経験もある。
フェイトの発案でロングアーチの司令部スタッフにも直面する危機から自分の身を護れる程度の戦闘訓練を身に付けさせよう意見が出た。
そして訓練となれば、人に教えるの本職のなのはが教官となるのは自然な流れだった。
だが、
なのはの教導官として仕事は訓練経験者の技量を伸ばす事がメインで、
殆ど魔力をもたない若しくはゼロの素人司令部スタッフにとっては虐待に近い。


「お前らはそびえ立つ糞の山ほどに価値の無い存在なの!」
「「「うわあぁぁああああん」」」


「あのぉ~、なのは隊長」
「ん?何かな?ティアナ」
「ロングアーチの訓練も結構ですけど・・・そろそろ」
「休息に入って、出発の準備しないと・・・なんて」
スバルとティアナが恐る恐る声をかける。

「あぁ、 もうそんな時間なんだ」
意外にあっさりとなのはが応じ、不意にアクセルシューターの誘導弾が消滅した。
「はい 訓練終了~ お疲れ様」
「あ、あ・・・・りがとう・・・ございました!・・・」
ロングアーチの最高位者としての意地もあり、グリフィスが一同を代表して返答するが、誰もまともに動けそうにはなかった。
アルトやルキノなどにいたっては肉体から魂が離脱しそうになっている。

「付け焼刃の訓練かもしれないけど、土壇場で生死を別ける事になるかもしれないからね」
最後に一言言い残してなのはが退室する。
はやてから任務の概要を伝えられて依頼、なのはは今まで見たことないほど上機嫌だった。
《やっぱ、なのはさん、今度の任務、嬉しくてしょうがないのかな?》
《そりゃそうでしょ、砲撃魔導師にとってリミッター無しの殲滅戦なんて夢のようじゃない。そうそうある任務じゃないもの》
思念通話で答えながらティアナは果たしてこんどの作戦、一番の貧乏くじを引くのは一体誰だろう?かと考えた。


「へんじがない。しかばねのようだ」
スバルが微動だにしないルキノをつつく。
「スバル! 遊んでないで早く医務室につれて行くわよ」
意識の無いアルトを抱えおこしながら、声ではスバルを叱責し、
心の中ではアルトに謝った。
(ごめんなさい。でも、私達部下は上司を選べないのよね)

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最終更新:2008年01月20日 10:09