喰らう。
噛み砕く。
嚥下する。
手の中に握った“カプセル”を噛み砕く。
「はぁ、はぁ、はぁ」
脳の神経に電撃が奔ったかのような感覚。
言葉に出来ないほどの興奮と快楽。今すぐにでも吼え猛り、喜びに身悶えしたくなるような衝動に襲われる。
だが、そんな暇はない。
目の前の恐怖に、興奮する体とは異なって心はどこまでも恐怖に冷たくなっていた。
「どこだ、どこだ、どこだ!?」
暗い静かな駐車場の中、無人の空間に声が響く。
柱に隠れながら、血走った目で周囲を見る。
右――車の止まっていない空間が広がっている。
左――ハザートランプの付いた車が一大。
天井――姿は無い。
床――そこには居ない。
周囲に姿はない。
だけれども、背筋に悪寒は残り続ける。
恐怖は残り続ける。
「ドコ――」
不意に気付いた。
今の光景に一つだけ違和感があったことに。
左を見る。
そこにはハザートランプの付いた車が一台。薄暗いガラスの中に人は居ない。
付けたまま離れているのだろう。それは分かる。
だけれども――そこから“伸びる影の形が異常だった”
そして、目の前で起こる光景も。
「うっ、あああああああ!!!」
自分で壊れるんじゃないかと思えるような悲鳴が上がった。
数時間後。
駐車場で、一人の男が意識不明の重態で発見された。
「……カプセル?」
「そうや。なんでも願いを叶えるっていう噂らしいで」
「つまり麻薬でしょ? 変な噂だけど」
かつて願いを叶えるために、思いを貫くために戦った少女たちは中学生になっていた。
「私たちの周囲には広がってないみたいやけど、他のところだとけっこう問題になっとるみたいやから気をつけてな。薬に手を出したらあかんよ?」
そんなものに手を出すわけが無いと理解している友人たちに、はやてはクスクスと笑いながら言った。
「早く無くなるといいね」
「そうだね」
一時的な犯罪の流行。
一時期流行ったスピードのように、いずれは収まるだろう。
そう少女たちは思っていた。
それまでは。
“悪魔”
そう呼ばれる存在が、現実に存在するなんて思わなかった。
「誰……ですか?」
夜の帰り道。
高町 なのはが学校から帰る途中の帰宅路で、一人の男が後を付けてきた。
最初は気付かず、途中で違和感を覚え、最後には振り返った。
振り返った先に立っていた男に、なのはは厳しい目を向けていた。
使うつもりはないが、彼女には“ある力が”あった。
それを使えば、変質者の一人や数十人など問題にならない。
「みえるか?」
だがしかし、男が告げた言葉はあまりにも奇妙で。
「“やっぱりみえてねえよなぁ、俺の悪魔”」
次の瞬間、なのはの体が宙に浮いた。
否、吹き飛ばされた。
「きゃっ!!」
まるで殴られたかのような衝撃。
だけれども、男となのはの距離は十メートル近く離れていた。
手は届かない。足も届かない。
それよりもなによりも、“男の手はポケットに入っていた”。
「悪いな、がきんちょ。お前をバラせと、“悪魔”が囁くんだよ」
悪魔。
カプセル。
願い事。
不可思議な現象に汚染されていく海鳴市。
そして、その脅威がなのはたちの周囲にも及び始めた頃。
一人の“魔法使い”が姿を現した。
「あなたは誰ですか?」
年齢は大学生くらいだろうか。
「さてね。答える必要があるとは思えないけど」
浮世離れしたどこか隔絶した雰囲気を纏い。
「……名乗って!」
それは青いウィンドブレーカーを纏った青年だった。
「――ウィザード。昔そう呼ばれていた」
第97管理外世界。
数々の大事件が起こった世界。
そこで新たな“世界”を揺るがす事件が起きる。
一人の“魔法使い”と三人の“魔法少女”。
彼と彼女らが織り成すジャンキーたちのサバト。
マジカル・クラッカーズ
やっぱり始まりません。
最終更新:2008年01月26日 19:30