ゆりかごが堕ちる。
時空管理局は、機動六課は失敗した。
彼らは、ゆりかごがその機能を最大限生かすための高度に上がるのを止められなかった。
そう、『時空管理局は』失敗した。
操られた聖王が不屈の母を下し。
鉄槌は戦艦の心臓を砕けぬまま散り。
そして何よりも、母親代わりだった女性が狂人の爪にかかる様を見て。
幼い少女の、居場所がなくなることを恐れ続けた小さな心は、ついにひしゃげた。
ただの暴走。
術などとは間違っても呼べぬ、自分も周りも省みない龍召喚。
否、自分が何をしているかなど、既に理解してはいないだろう。
その限界を超えた、悲鳴という魔法の果ての、ささやかな成果として。
ゆりかごが堕ちる。
狂った科学者の野望の体現が、粉々に砕けて落ちてゆく。
時空管理局の地上本部を壊滅に追いやった男の夢が、潰える。
歓声は無かった。
空に浮かぶ巨大戦艦は文字通り粉々に砕け、欠片となって降り注ぐ。
その内にいた者達も、その外で飛び回っていた者達も、勝者も敗者も亡骸に変えて。
慟哭も無かった。
森は焼かれて焦土に。
海は冒されて汚泥に。
山は砕かれて荒地に。
街は崩されて瓦礫に。
人は息絶えて死体に。
生きた者など、どこにもいなかった。
クラナガンと呼ばれていた瓦礫のカタマリの上。
空間自体を振動させ破砕しながら、一つの存在が宙に浮かんでいる。
瘴気を放ち、ただそこにいるだけで周囲の全てを冒しながら、全てを睥睨する。
瓦礫の下で、もう二度と泣かなくなった少女が最後に呼び出したもの。
―――神竜王アレキチャンダー。
全長12cm、ピンク色の毛虫がふんぞりかえっていた。
最終更新:2008年01月26日 19:46