Bullet Witch Sister Of Fate 第一話「銃弾の魔女と金の閃光」
悪魔が世界を蹂躙するのと引き換えに、少女はこの世に再び生を受ける。
その身に魔を宿し、人の理を外れた彼女は人々を救うため、悪魔を滅ぼす為にその魔の力を振るう。
人は彼女をこう呼ぶだろう。
“魔女”と。
「ここが例の世界…なの?」
美しい金髪に白いマントと漆黒のバリアジャケットを纏った時空管理局の執務官はその世界に下り立った。
女性の名はフェイト・T・ハラオウン、管理局に務める執務官であり最高クラスの魔道師である。
そしてフェイトは今、とある管理外世界に訪れていた。
そこはある程度文明の進んだ地球によく似た世界なのだが、悪魔と呼ばれる謎の存在が突如として溢れ出して文明が崩壊に向かっている世界であった。
フェイトはこの世界の単独での調査の為にやってきたのだ。
「…酷い……これが全部悪魔のせいなの?」
フェイトの訪れた町は荒廃しきり、あちこちに死体が山と築かれまるで地獄のような有様を呈していた。
町の燃える炎と屍の腐敗臭、そして人々の絶望の念が混ざり合い空気がまるで鉛のように重くなっている。
その様に目を奪われていたフェイトの耳に人々の悲鳴が響き渡る。
「きゃああああっ!!!」
「た、助けてくれえええぇっ!」
「ぐわああああっ!!」
悲鳴と助けを求める声、そして凄まじい断末魔の叫びにけたたましい銃声が混じり合って阿鼻叫喚の地獄絵図を飾り立てる。
逃げ惑う人々を銃火で以って追い回すのは“ガイスト”と呼ばれる存在である。
ガイストとは悪魔が邪悪な人間の魂で作り上げた尖兵であり醜悪な魔物、見た目は人間に似ているが爛れた全身に剥ぎ取った人間の皮を被った姿は正に悪夢としか言い様が無い。
そしてガイストの軍勢は手に数多の銃火器を持ち、人々を狩り立てていく。
「逃げろ逃げろ~」
「お前ら残らず狩り尽くしてやる」
「良い声で鳴けよ~」
純粋な殺戮に悦楽の声を上げたガイストは次々と人々を撃ち殺していく。響く銃声と悲鳴、地獄がさらに深く彩られて血の海が作られていく。
その様を黙って見ている程にフェイトは非道ではなかった、そして次の瞬間には自身のデバイスであるバルディッシュを起動して魔法を行使していた。
「フォトンランサー!!」
無数の雷撃の矢が発射されてガイスト兵を穿ち倒していく、だがガイスト兵の群れは即座に周囲に展開して応戦を開始する。
彼らはただの蛮族ではなく理知でもって武器を繰り戦闘する悪魔なのだ。
「良い女だ~、俺が殺してやるぜぇ」
「ご馳走しやる、痛えぇヤツをなぁ~」
ガイスト兵は遮蔽物に隠れながら手にしたアサルト・ライフルの掃射を開始する。
そこにグレネードランチャーの砲火も加わって、瞬く間に場は戦場の様を呈していく。
「くっ! プラズマランサーッ!!」
フェイトは防御障壁を展開して銃火を凌ぎ、射撃魔法で反撃する。
フェイトの放つ雷撃にガイストは次々と駆逐されていく、だがそんなフェイトに突然近くの車が宙を舞って襲い掛かってきた。
「きゃっ!」
なんとか飛行魔法を使って回避したが、宙を舞う車や瓦礫の攻撃は1度では終わらず、次々と飛来する。
「これは……あいつが!?」
回避動作を続けながらフェイトはバルディッシュの索敵で攻撃の主を捜し当てる。
そこには宙に浮く強大な脳髄があった。
それはウォルナッツヘッドという名のガイスト、貧弱な人間の身体に数メートルはある強大な脳髄を持つグロテスク極まりない醜悪な悪魔である。
ウォルナッツヘッドは物理的攻撃力を一切持たない、だがその代わりに念動力で周囲の物体を操って飛ばしたり結界を展開したりと厄介な能力を持っているのだ。
「はあああっ!!」
フェイトは襲い掛かる車や瓦礫をサイズフォームのバルディッシュの刃で斬り裂きながらウォルナッツヘッドに斬り掛かって行った。
接近戦で一気に決めて終わりにする、それが彼女の最高の戦術である。
だがガイスト兵の残党はこのフェイトの猛攻に無防備な背後から攻撃を撃ち込んだ。
グレネードランチャーが火を吹き、その榴弾頭が炸裂してフェイトの薄い防御障壁を破壊した。
「きゃああっ!!」
可愛らしい程の悲鳴を上げて心優しき金の閃光は地に堕ちた。
そして大地に倒れ付したフェイトの周囲を瞬く間にガイスト兵の残党が囲み込んで銃口を突きつけた。
「やってくれたなぁ姉ちゃんよ~」
「可愛がってから殺すか? それとも殺してから可愛がるか?」
「両方に決まってんだろボケッ! たっぷり輪姦(まわ)してから殺しぇ~、てもっかい死体を輪姦してやるぜぇ~♪」
ガイスト兵は口々に汚い言葉を吐きながら、膝を突いたフェイトに近づいていく。
人面の皮で飾られた顔に血に飢えた不気味な目が光ってフェイトの胸中に言い知れぬ恐怖を刻んでいく。
「くっ…こんな所で…」
フェイトがふらつく弱弱しい身体で反撃を行おうとした瞬間、周囲のガイスト兵の頭が次々と弾け飛び鮮血に濡れた脳漿が宙を舞った。
「ぎゃぱぁっ!」
「へぎゃぁぁ」
そして乾いた銃声が木霊して弾丸の雨が降り注ぎ、醜悪な悪魔の群れを血と肉の塊へと変えていく。
ガイスト兵の屍が地に倒れ付し、薬莢が甲高い金属音を立てて転がる、そして優雅にそれでいて妖しい程の瘴気を纏った黒衣の女が現われた。
女性は手に一見するとまるで箒のようなシルエットを持つ巨大な銃を持っている。
黒衣にて箒を持つ者……まるで寓話の魔女の如く。
「あなた大丈夫? 早く逃げなさい」
輝く金髪をなびかせたその黒衣の女性はフェイトと瓜二つの顔をしていた。
まるで死んだ彼女の“オリジナル”の少女のように。
「あ、あなたは…一体」
その女性の姿に一瞬思考をフリーズさせていたフェイトだったが、即座に冷静さを取り戻して口を開いた。
だがその女性はフェイトに目もくれず遠方のウォルナッツヘッドを見据えていた。
「ちょっと離れてなさい、危ないわよ」
女性はそう言うと手にした巨大な銃を振り回して一瞬でその姿を変えた、それは正に魔法である。
そして巨銃はまるで砲兵器のような大型の弾倉に太い砲身へと変わり、銃身に魔力を宿していく。
次の瞬間には遥か彼方にいたウォルナッツヘッドの醜く巨大な脳髄を吹き飛ばしていた。
「ふぅ、これでこの辺りのガイストは一掃できたわね」
女性は小さくそう呟くと、ゆっくりとだが確かな歩調で歩きだす。
そんな彼女にフェイトは思わず声をかけた。
「あ、あの!」
「何?」
女性は気だるげな声で聞き返しながら振り向く、そしてフェイトと同じ紅い瞳で彼女を見つめてくる。
「そ、その…あなたの名前は?…」
フェイトの質問に女性は流れる美しい金髪を掻き揚げながら応えた。
「アリシア」
こうして、かつて出会う事の無かった二人の少女は悪魔に蹂躙される世界にて邂逅を果した。
続く。
最終更新:2008年01月28日 19:14