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そこは第六管理世界と呼ばれる次元の中では発達した都会と言われる都市だった。
他の次元世界との連絡船や貨物船が航行し、無数の物資と人を行き来させる。
当然そこには利権が生まれ、金が生まれ、金持ちが生まれ、街が栄える。
利権はさらに人を集め、その中で二種類の人種を作った。つまり……持つ者と持たざる者。
二つの人種は街を特徴的に染め分ける。つまり光の部分と闇の部分。

キレイな通りのすぐ後ろ側、夜にも光が絶えない表通りのハズレにそんな場所はある。
古いレンガの壁が並び、僅かな街灯が頼りなく辺りを照らす。だが足りない!
それではこの闇を払うことも、そこに隠れる弱者にして無法者を照らす事も。

もちろんそんな場所は犯罪が横行し、夜にもなれば歩く者も僅か。
特に女子供なんていう犯罪の対象に成り易い者は……だが彼女は歩いていた。
特徴的な民族衣装のようなフード付きのローブを被り、手元にはバッグ。
首からは価値がありそうだが趣味の悪い金色のペンダント。
辺りを気にしながらアッチにふらふら、こっちにフラフラ。
どうみてもこの街に始めてきたが迷子になってしまった少女の図。
そんな人物がこんな危険な場所を歩いていたらどうなるか? 至極簡単だ。『襲われる』

「っ!?」

細い路地から伸びてきた手が少女をその闇の中へと少女を引きずり込む。
辺りには少女の悲鳴が響くが勿論誰も助けになど来ない。
複数の男の荒い息遣いが彼らの目的を大変に解り易く表現している。
だが……

「ギャアァアア!!」

不意に響いたのは野太い男の悲鳴。少女のソレよりもずっと鬼気迫った声だ。
それに続くように複数の掠れた悲鳴が暗闇に閉ざされた横路地から寂れた道を満たす。
もちろん誰も助けになど来ない。少女の時と同じだ。

「ヒィアァ! 化け物ぉをぉぉ!!」

不意に小さな闇から飛び出してきた男は恐怖で真っ青に染まった顔を引き攣らせている。
男が僅か見せた安堵も、闇の中から男達の手のように伸びた板金鎧によって遮られた。
ガッシリと男の首を掴んだ鎧はいかに男が暴れようとも解けはしない。
時間をかけて恐怖を与えるように再度闇へと誘われた男の悲鳴が空しく辺りに響いた。

数分の後、完全に沈黙を取り戻した路地から姿を現すのは最初に引き込まれた少女。
そしてその後ろに続いて現れたのは男たちではない。むしろ人間ですらなかった。
一つは首が無く空っぽの鎧だけの存在。もう一つは腐臭を漂わせる亜人の屍骸。
どちらも幾ら薄暗い夜だからとか、寂れた場所だからと言う理由で現れるものではない。
そんな怪物達とか弱そうな少女が歩いていれば、まさに怪物に誘拐される王女様だろう。

だがこの少女は違う。
桃色の髪二房をピンと跳ね上げ、口元には獣の笑みと刃のように鋭い目元。
闇に飲まれずにソレを従えるような圧倒的で不気味な存在感。
首元で金色のペンダント 千年リングが怪しく光る。彼女は……魔王。
決して冥王ではない。

「ヒャッハ~! 全く獲物には苦労しねえぜ」

少女が懐から取り出したのは複数のボロボロの財布。
中からお札や硬貨を取り出しては数えて自分の懐へしまい直し、財布の方を放り捨てる。
彼女もやっていること事態は男たちがやろうとしていた強盗と変わりは無い。
ただ違うことを上げれば彼女は悪党専門にソレを行っていると言う事だろう。

「だが所詮は街のチンピラだな、食事三日分ってとこか。
 しかしよく釣れる。お前の怯えっぷり、弱そうに見える所はある種才能だな? 相棒」

『全然嬉しくないです……』

意地の悪い笑みを少女が浮かべる先に影のように重なるのは、少女と同じ姿。
だがそちらは完全に落ち込んだようにくらい表情をしている。人の良さそうな印象を与える様は正に正反対。

「だからよ~いい加減に腹を括れって相棒。
オレ様の本領は盗みだって…『ダメです!』…ケッ! 
悪党からコソコソ奪うのは良いのに、真人間からゴッソリと盗むのはダメかい?」

『良いって訳じゃないんです! でも…「グゥ」…うっ』

「はいはい、まずは飯だな。良い訳は後で聞くぜ」

可愛らしいお腹の音に少女はタメ息を一つ。
指を一つ鳴らせば首の無い鎧・首なし騎士 亜人の屍骸・ゴブリンゾンビが灰のように闇に消える。

そんな感じで……


『キャロとバクラの就職が困難を極めているようです』


「いらっしゃいませ~ご注文を問うぞ」

「えっとハンバーガーのAセットを一つに単品でナゲットを……」

「はい、かしこまりました~少々お待ちくださいませ~」

キャロ・ル・ルシエがこういった場所 ハンバーガーショップなるモノに入ったのはこの街に来てからだった。
最初はオッカナビックリ、ドラゴンの巣に突入するような心境だったのだが、慣れと言うのは恐ろしいもの。
もうこの街で一番落ち着ける場所といえばここだ。え? 家?……そんなものは現在彼女には無い。

「お待たせしました~ごゆっくりどうぞ」

「あっありがとうございます!」

『なんで店員にデカイ声でお礼を言うんだよ?』

千年リングに宿る人格 バクラにそう指摘されてキャロはハッと顔を赤くする。
見れば店員もクスクスと笑っていた。逃げ出した衝動を必死に抑えて、席を探す。
注文する途中に余りに混乱し、店を飛び出したこともあるくらいだから、大きな進歩だ。
幸い時間が夜間である事から店内は空いていた。キャロは落ち着く奥の席に腰を下ろす。

「ふぅ……」

タメ息を吐く回数が確実に村にいた時よりも増えた事を認識し、キャロは誤魔化すようにオレンジジュースに口をつける。
ストローを通って流れ込む痺れるような甘さにも馴れた。

「キャウ~」

「あっ! ゴメンね、フリード」

恐らく美味しそうな匂いに我慢できなくなったのだろう、バクラとは違うパートナーの声にキャロは慌ててカバンを開く。
中からのっそりと顔を出したのは白色に赤い瞳の幼竜 名をフリードリヒ。
サイズの割に大きな口にナゲットを放り込みながら、キャロ自身もハンバーガーを齧る。
何時食べても暖かいという画期的なパンの温もりに思わず彼女の表情も緩んだ。

『さて相棒、真面目な話をしようぜ』

「はい! ゴメンなさい、一人で食べちゃって」

キャロがトレーに乗った殆どの食べ物を食べ終えてから、頃合を見たようにバクラは話し出した。
そこには何時もの嘲笑うような表情は成りを潜めており、それがキャロを余計に緊張させる。

『都会に出れば仕事があると思って、墓荒らしの残りを叩いてここまで来た訳だが……
このままじゃジリ貧だぜ。お前も解ってるんだろ? どこに行こうとガキがやれる真っ当な仕事なんてそうそう転がってるモノじゃないってことだ』

「でも就労の制限が低くて、その斡旋もあるって本で読みました」

『現実と理想は違うんだぜ? 相棒』

確かにキャロの言う就労の制限年齢を下げるという法律は管理世界に広く浸透している。
だがそれは決して雇用主に年齢の低い者を『雇わせる法律』ではない。
長い経緯や詳しい内容は割愛するが『雇っても良い法律』と解釈された。つまり裁量権は完全に雇う側にあることになる。

同じ仕事を同じ賃金でさせるならば大人と子供、どちらを雇うだろうか? 答えは至極当然、よく働けて体を壊しにくい大人を採用する。
もちろん若年者を雇用する事で優良企業としての名を売るという考え方もあるがそんな事ができるのは大企業のみ。その大企業だって雇える人数など限られている。

『まあ余所者の感想だがこの世界は魔道師や魔法がやたらと力があるだろ?』

コクリと頷いた相棒にバクラは続ける。

『つまりよ~「ガキも働いて良いですよ」って言うのは、魔道師の適正がある奴を早めに引き入れる策なんじゃねえか?』

質量兵器を禁じた管理世界において武力といえば魔道師とほぼ直結する。
魔道師は武器を持たせて訓練すれば誰にでも勤まるわけではない。故にその絶対数は少ないが国から企業レベルで大量に求められる人材。
ゆえに魔道士の絶対数を手早く確保する手段としての青田刈り、若年者の就労制限の引き下げと言う手段が選ばれた。
魔道師がどこよりも必要なのは各次元に影響力を持つだけの武力を有さなければならない時空管理局。
そんな彼らが出した法案であれば、自分達の利害とも重なるゆえに反対する理由は各次元世界には無い。

『だけどお偉方の考える事は酷く単純だ。盗賊のオレでも予想できる。
つまり……「魔道士だけ優遇するのは世間的にマズイだろう。だからみんな一緒」ってな!』

口では魔力に優れた者だけを優先しているわけではない!と一律に下げた。
これでは『労働力が不足しているので若年層にも働いて欲しい!』と言う全く違った、良い方に改悪されたメッセージを生む。

『一緒って言われれば生活が苦しい奴は都会にでも出て働こう!と思うだろう。
 ソレが甘い罠ってわけさ。必要とされるのは一握り。大人で事足り仕事をガキにやらせる物好きも居ない。
 何とかなると思って田舎を出てきてみれば……状況は最悪って訳だ』

前にも言ったようにこれは『雇っても良い権利』を『雇う側』に与える法だ。
ゆえに企業や国は唯の子供には興味を示さない。なにせ必要なのは「一部」なのだ。
体面を保つ為に若年労働者の最低賃金も決められている。それでは子供を雇う利点が無い。
もし子供を欲するものと言えば……汚い仕事の者ばかり。
雇うという最低限度の条件しか整えず、重労働や低賃金を貸す悪徳業者。
清らな体と心が目的の人身売買の餌食。そして悪事に手を染める者も無数に出る。


『さあ……どうするよ? 相棒』

キャロも薄々気がついていた。決して話に聞いていた理想的な状態でないことくらい。
ここに来て一週間になるがその間幾つも店や会社を回った。大きな企業から小さな店まで。
大きな企業からは魔道師でもない子供雇う意味は無いと跳ねられ、小さな店では魔道師である必要性は無いが人手に困っている所もない。
ましてキャロ自身決して人生経験豊富とは言えないのだから、さらに始末が悪い。

「私……本当に甘かったんですね」

『まあ、追放なんぞしてくれた長老が説明不足にも程があるがな』

もっとも長老自体、若年層の就労状況を伝えられるままに理解していたのだろうが。
世間知らずなのはキャロだけでなくあの村の全ての人間と言っても過言ではないだろう。
だとしてもキャロは己の安易な判断を恥じる。

「ゴメンなさい」

『謝られる事なんて一つもねえよ、相棒』

「でもゴメンなさい……フリードも……ゴメンね?」

「キュウ……」

どれだけ自分が無知で無垢で何も解らなかったのかと言う事を強く認識させれた。
同時に自分が守っているつもりだった『悪い事をしない』と言う定義が余りに脆いものだと気がついた。
そんな愚かな自分を『悪』と言って間違いないだろう寄生者は導いてくれた。
自分ひとりだったら、きっとあそこで騙されて終わりだ。この街で一週間生きることもできなかっただろう。
このハンバーグも食べられなかっただろうし、二日に一度のシャワーにもありつけなかっただろう。

『ポロリ』と液体が俯いたキャロの瞳から零れた。
一度流れてしまえば勢いを増した涙の流れを止めるものは何も無い。
口からは嗚咽がそのボリュームを増して溢れ出した。

『相棒、もし「オレの今まで言って来た事が全部正しい」なんて詰まらない事を考えてるなら止めろ』

「……ぇ?」

『オレ様がいった汚い事は全て世界の真理だ。ソレは間違いない。だが……それだけじゃない』

「どういう……事ですか?」

『バ~カ! 教えちまったら意味がねえんだよ。
涙なんてつまらねえものを拭いて、自分で考えな、相棒』

そう言われてノロノロと涙を拭くキャロを横目で見つつ、バクラは呟く。
相棒の道理をそんなに曲げる事も無く、自分の楽しさも追及できる作戦を。


『そんな困った相棒に提案だ。
魔道師……なってみる気はないか?』

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最終更新:2008年01月30日 09:12