『Maximum Hyper Typhoon(マキシマムハイパータイフーン)!!』
ハイパーカブトの持つ大剣は、その引き金を引かれ、電子音声と共に巨大化。眩ゆい光を放ち始める。
そして、自分へと向かって突進してくるレプトーフィスワーム。腕は紫のエネルギーを放ち、カブトを倒さんと振り上げられている。
「うおぉおおおっ!!!」
ハイパーカブトは、動じる事なく、大胆なモーションでパーフェクトゼクターを振り下ろした。
マキシマムハイパータイフーンの直撃を受けたレプトーフィスワームは、成す術も無く消滅した。
その直後だった。ハイパーカブトが装着しているハイパーゼクターが暴走したのは。
「うおッ……!?」
カブトは一人、見知らぬ草原に落下した。ハイパーゼクターもいずこかへと飛び去ってしまい、ハイパーフォームから通常のカブトへと戻ってしまう。
さっきまでは、加賀美―ガタック―達と共に、雑木林でワーム軍団と戦っていたはずだ。
カブトは、突如として暴走したハイパーゼクターにより、この別の次元世界へと飛ばされてしまったのだ。
「ヘン……シン……!」
『Henshin(ヘンシン)!!』
やがて、カブトの前に現れた黒いカブト。
黒いカブトは、パンチ、キックとあらゆる攻撃を繰り出す。カブトもまた同じ動きで技を繰り出す。
二人の動きには寸分の狂いも無く、まるで自分と戦っているかと錯覚してしまう程に、一致していた。
そして、同時に放たれた必殺技―ライダーキック―。
ライダーストンパーと呼ばれる二人の脚部は、激しい光を撒き散らしながら激突した。
黒と赤のライダーキックは互角にも見えた。だが。
「うわぁぁぁああああああっ!?」
二人の力は、相殺されなかった。黒いカブトの方がキックを降り抜き、カブトを弾き飛ばしたのだ。
「うわっ……!」
弾き飛ばされた先に待っていたのは、打倒カブトに燃えるクロノ・フェイトの元だった。
ワームと戦い、黒いカブトと戦い、最後にはライダーキックを受けてしまったカブト―天道―は、既にまともに戦える状態では無かった。
だが、天道には待たせている者がいる。たった一人の妹がいる。ここで敗れる訳には行かないのだ。
そして始まる、フェイトとカブトの真剣勝負。ソニックフォームとなったフェイトは、カブトの体力を確実に削っていた。
そしてフェイトのジェットザンバーにより、マイザーボマーも封じられてしまったカブト。
このまま戦えば、勝利の女神はどちらに微笑むのか……それは誰にも解らない。解らない筈だったのだ。
勝負は、意外な結末に終わった。
「なんでお前が……!?」
「お前の……たった一人の……妹なんだろう……」
ザビーが放ったライダースティングは、見事にカブトの装甲に突き刺さっていた。
カブトブレストは、通常兵器ではダメージを与えられない程の硬度を誇るが、相手が同じライダーならば話は別だ。
ザビーのゼクターニードルは、カブトブレストを見事に貫いている。
クロノは、カブトにライダースティングを浴びせるつもりなど毛頭無かった。
ワームを倒す為に、ライダースティングを放ったのだ。それなのに、その先にいたのはフェイト。
もう、クロノ自身にも何が何だか解らなかった。何よりも、敵である筈のフェイトを庇う天道が理解出来なかった。
気絶した天道は、その場に倒れ込んだ。
太陽も沈んでしまった暗闇で、意識を失った天道を、バインドの光が照らす。
ゆっくりと浮かぶ天道の体。バインドを使っているのは、アルフだ。
「ごめんよ……天道……」
アルフは、小さな声でそう呟きながら、再びこの世界から姿を消す天道を見送った。
――夢を……夢を見ていました。
夢の中のその人は、とても強く、優しく……何よりも哀しい目をした人でした。
その人は、私の親友の命を救う為に、時間を巻き戻した。
私の親友をその手にかけた強力な敵を、彼はその圧倒的な力の差で、撃破して……
でも、そのせいで彼は私たちに追われる身になっちゃって……
高町なのはは、浮かない表情でランドセルを閉めた。チャイムが鳴り、生徒達は教室から出ていく。下校時間だ。
「なのは、帰ろうか」
「うん、フェイトちゃん……!」
なのはは親友を心配させまいと、すぐに笑顔を作った。
ACT.16「俺、参上!」
加賀美新は、ため息を吐きながら下校していく生徒達で賑わう学校を眺めていた。
ここは、つい数日前までは、自分達が潜入し、色々と探っていた聖祥小学校。
潜入捜査は終了し、ZECTは学校から手を引いた為に、加賀美達が学校に関わる事は無い。呪いの鏡も、ただの噂へと変わって行くだろう。
「意外と長かったんだな……」
ガタックエクステンダーに跨がった加賀美は、ハンドルにもたれながら憂鬱そうに呟いた。
考えてみれば、ここでなのは達と出会った事から全てが始まった気がする。
辛い事もあったが、楽しい事もあった。それだけに、学校との別れが少し淋しくもあった。
だが、今加賀美がここにいる目的は、そんな感傷に浸る事では無い。なのは達に会う事が目的なのだ。
「直接会って、確かめないと……!」
校門から出て来るなのはとフェイトを見付けた加賀美は、その表情を固くし、ガタックエクステンダーから降りた。
加賀美は、ガタックエクステンダーが駐輪されている場所までなのは達を連れ出した。聞きたい事は一つだ。
「――で、天道は一体どうなったっていうんだ……!?」
怪訝そうな面持ちでなのは達を問い質す加賀美。問われた二人も、少しばかり困った表情をしている。
「キャンプが終わってからもう随分と時間が経ったっていうのに、天道はどこにもいない。樹花ちゃんの所にも帰ってないらしいじゃないか。流石におかしいだろう?」
「……加賀美……それは……」
「天道さんは今、アースラに居るよ」
加賀美の問い掛けに、浮かない表情をするフェイト。そんな親友に変わり、なのはが答えた。
想像を裏切らなかったなのはの言葉に、加賀美は「やっと見付けた」という安心感と、「やはり捕まってしまったのか」という不安を同時に感じた。
ここ最近ずっと天道の動向を探ってはいたものの、どこを探せども見付かる気配が無い。
こうも見付からないとなれば、天道の身に何かあったと考えるべきだろう。そして、天道を最後に見たのは、目の前の金髪の少女なのだ。
「……やっぱりか……」
「その……ごめんなさい……」
何故か謝罪するフェイト。そんなフェイトを見ていると、加賀美も強い言葉を発せなくなる。
フェイトとしても、自分を救ってくれた天道の話となると、どうしていいのか解らなくなるのだろう。
草加雅人の言い分も踏まえた上で、フェイトは天道にどう接すればいいのか、混乱してしまうのだ。
「……天道は今、どうしてるんだ? 無事なのか?」
「あ……そのことは心配しなくて大丈夫だよ。取り調べ中だけど、割と素直に答えてくれてるみたいだから……」
なのはの言葉に、加賀美は驚愕し、途端に間抜けな声を上げた。
「う、嘘だろ? あの天道が素直に答えてるだってぇ!?」
「う、うん……そうだけど……?」
「あの天道が……素直に……」
なのは達から目線を反らし、素直な天道を想像しようとする加賀美。
……だめだ。想像出来ない。加賀美は、無駄な想像は諦めて、なのは達に向き直った。
「なのはちゃん、俺を天道と会わせてくれないか……?」
「え……まぁ、面会なら多分大丈夫だと思うけど……」
なのはとフェイトは、お互いの顔を見合わせた。
一方で、アースラのとある一室。椅子に腰掛けたリンディは微笑んでいた。
アースラでは比較的狭いこの部屋には、テーブルと椅子、それから殺風景なイメージを和らげる観葉植物程度しか設置されていない。
テーブルを挟んで、リンディと向かい合う形で座っている男は、リンディの視線を気にも留めず、カツ丼を食べている。
やがて、カツ丼を米粒一つ残さずに完食した男は、テーブルに丼をドン! と、強く置いた。
「ご馳走様! 美味しかったよ!」
「有難う、天道君。嬉しいわ
体調もすっかり良くなったみたいね」
完食してくれた天道に、嬉しそうに微笑みながらお礼を言うリンディ。こんなにも美味しそうに食べてくれる人も珍しい。
天道は、片付けを始めるリンディに見える様に、人差し指を天に翳した。
「おばあちゃんが言っていた……
病は飯から。食べるという字は人が良くなると書く……ってな。
これもアンタが作る料理のおかげだ」
「あら、上手い事言うのね。でも、天道君も料理の腕前はプロ並みだって聞くわよ?」
いつも通り、随分と心に余裕を持った態度で接する天道。
元々、カブトに変身していたが故に、後々傷が残る程の深刻なダメージは受けていなかったのだ。
黒いカブトのライダーキックによるダメージに、フェイトとの戦闘……
そして、最後に受けたライダースティングによって、蓄積されたダメージが許容量を越えた天道は、一時的に意識を失っただけに過ぎない。
天道は以前にも、矢車が変身するザビーのライダースティングを受け、気絶。病院送りにされた事はあるが、大事には至らなかった。
つまり、天道はそれなりにダメージを負い、戦闘にこそ負けはしたが、その常人を遥かに上回る回復力で、既にコンディションを持ち直しているのだ。
「プロ以上……と言って欲しいな」
「なら、今度ご馳走して貰いたいわね」
微笑むリンディ。天道は、先程までの自信に満ち溢れた態度のまま、微妙に声のトーンを落とした。
「……だが、その前に俺は家に帰らなければならん。可愛い妹が待ってるんだからな」
「そうね……その為には、貴方が時間を巻き戻した本当の目的を聞かなければならないの。解るわよね……?」
天道の言葉に、次第に艦長モードの表情へと戻るリンディ。
「お前もしつこい奴だな。あのワームを倒す為だと言っているだろう?」
「本当にそうなのかしら? 貴方なら時間なんて巻き戻さなくたって、あのワームを倒せたはずよ?」
リンディの言葉に、目線を反らす天道。自信に満ちたその表情には一切の揺るぎが無い為に解りにくいが、天道も返す言葉がスムーズに出てこないのだ。
その時であった。部屋の扉が音をたてて開いた。天道は扉へと視線を向ける。
「天道、お前……!」
「加賀美か。どうした、そんな血相を変えて」
扉から入って来たのは、加賀美だった。なのはとフェイトも、後から入ってくる。
リンディはなのは達の顔を見るや、すぐに席を立った。
「……今は二人にさせてあげましょう」
そう言って、加賀美に軽く会釈したリンディは、なのは達と共に部屋を出た。
今はこれ以上尋問しても無駄な事。ならば久々に会えた友と二人きりにすれば、何か状況が変わるかもしれないと思ったのだろう。
少なくとも、リンディの中では、加賀美は天道の「友達」なのだ。二人の関係に友達という言葉を用いるのに、何の躊躇いもない。
きっとなのは達にとってもそうなのだろう。
加賀美は、ズカズカと天道の目前まで歩を進めた。
「どうした?じゃない! お前一体何やってんだ!」
「見ての通りだ」
「見ての通りぃ……!?」
加賀美は、座ったまま腕と足を組んだいつも通りな天道から視線を外した。するとテーブルの上に置かれた完食された丼が目に入る。
正直言ってさっぱり解らない。
「何が見ての通りだ! ちゃんと説明しろ!」
「……鈍い奴だな。見ての通り、カツ丼を食べてたんだ。中々美味かったぞ?」
「ふっざっけっるっなっ!!!」
加賀美は、両の手に力を込めてテーブルを叩いた。「カツ丼を食べていた」なんて答えを聞きたかった訳じゃない。何故こうなったのかを聞きたいのだ。
天道が居ない間、樹花はずっと天道の心配をしていたのだ。樹花だけでは無い。自分だってそうだ。
「カツ丼なんてどうでもいい! なんでお前がこんなとこにいるのかを聞きたいんだよ!
あの後急に連絡取れなくなって、樹花ちゃんだって心配してたんだぞ!?」
「……そんなこと、解っている。お前に言われるまでもない」
「じゃあなんでなんだよ……!?」
目を吊り上げ、怒鳴る加賀美。ここ最近、天道にしろ何にしろキレっぱなしだ。
天道は、そんな加賀美の耳を引っ張り、自分の顔へと引き寄せる。そうすることで、「いてて……」と、加賀美の声が漏れる。
「加賀美……今から言う俺の話を良く聞け」
「な、なんだよ……!? 離せよ……!?」
天道は、加賀美の耳をパッと離した。反動でバランスを崩し、机にもたれ掛かる加賀美。そんな加賀美を見下ろしながら、天道は口を開いた。
「俺は恐らく、しばらくは帰れない。だからお前に伝えておくことがある」
「な、なんなんだよそれ!? どう言う……」
「一つ。管理局にいる、立川という男は恐らくワームだ。」
「な……!? それって……」
「だが、間違いなく普通のワームでは無い。俺が居ない間、お前はZECT内部でネイティブというワームについて調べておけ」
「ネイティブ……?」
加賀美の台詞を事如く遮りながら、天道は続ける。
「二つ。カブトとガタックには暴走スイッチが仕組まれている」
「暴走スイッチ……!?」
首を傾げる加賀美。
「暴走スイッチがある限り、俺達は全てのワームを倒すまで戦い続けなければならない。
穿いたが最後、永遠に踊りが止まらなくなる赤い靴のようにな」
「……そんな……っ!?」
目を見開く加賀美。同時に、加賀美の脳裏を一人の親友の姿が過ぎる。
サソードとして戦い、共にワームを倒して来た友―神代剣―。彼の正体もまたワームなのだ。
驚愕のあまり言葉も出ない加賀美。天道は、加賀美の前のテーブルに「バンッ!」と左手を起き、加賀美の意識を再び自分へと向けさせる。
「恐らく、俺があの時立川に襲い掛かったのは、暴走スイッチのせいだ」
「そうか……確かにそう考えたら……でも、待てよ……」
眉間にしわを寄せ、考える加賀美。
「なんで立川はドレイクに変身出来たんだ? 大介が資格を失ったなんて話聞いてないぞ?」
「奴ら……ネイティブは恐らく、全てのゼクターを操る事が出来るんだろう」
天道は、過去に立川と遭遇した経験がある。天道はいつも通りカブトに変身しようとした。
だが、カブトゼクターは天道の手中には納まらなかった。ネイティブと名乗った立川の元へと飛び去ってしまったのだ。
「そんな馬鹿な……!? じゃあ、ライダーシステムはネイティブの物だって言うのか!?」
「さぁな……だが、ゼクターを操れるということは、少なからずZECTとも関係があるはずだ。お前はそれを調べろ。」
「わ、わかった。お前はどうするんだ……?」
加賀美の問いに、天道は少し考えるようなそぶりを見せる。そして加賀美の目を見詰めながら、言った。
「さっきも言ったが、俺はしばらく家には帰れないだろう。
ならば、逆にそれを利用し、この時空管理局という組織について調べるまでだ」
「そうか……わかった! お前も、無茶はするなよ」
そう言って、加賀美は席を立った。アクティブな性格の加賀美は、やるべきことが解れば、すぐに行動に移さずにはいられない質なのだ。
だから、今はまずZECTに向かう。田所さんなら頼りになるだろう。部屋を出る為、ドアに向かって歩いて行く加賀美。
その時だった。
「待て、加賀美……!」
「……なんだよ、天道?」
去ろうとした加賀美を、天道が引き止めたのだ。加賀美は、怪訝そうに振り向いた。
「俺が居ない間……樹花の事を頼む」
「……言われなくても、解ってるさ」
天道の今更な頼み事に、フッと微笑む加賀美。
加賀美の、心強い笑みに安心した天道もまた、フッ と笑いながら、「そうか」と一言だけ返した。
二人は、なんだかんだ言いつつも厚い友情で結ばれているのだ。故に、元より特別な言葉は必要としていない。
このたった数秒のやり取りだけで、二人にとっては十分だった。
加賀美が立ち去ってから数分後の事だった。天道がいる部屋に、三人の少女が足を運んでいた。
なのは、フェイト、はやて。未来の三大エースだ。
三人が現れた事に気付いた天道は、表情はそのまま、声のトーンだけ少し上げて言った。
「よぉ! 珍しいな、お前ら三人で来るとは」
「あの……天道さん……」
すると、フェイトが俯いたまま、一歩前へと踏み出した。天道は、何を言い出すのかとフェイトを見詰める。
次の瞬間、フェイトはゆっくりと頭を下げ、小さな声で言った。
「あの……ごめん……なさい……」
「……ほう……?」
天道はそれだけ言い、フェイトを見詰める。天道の全てを見透かしたかのような表情に、何故かはやてとなのはも緊張してしまう。
「その……もしかしたら、天道さんは私の命を救うために時間を巻き戻したんじゃないかって…………それに……あの時も……」
天道は、すぐにフェイトの言葉の意味を理解した。確かに、自分はキャマラスワーム戦と、ザビーのライダースティングから二度もフェイトを救っている。
それは紛れも無い事実だ。だが、一つ疑問がある。
「何故お前に、俺が時間を巻き戻した理由が解る?」
「それは……」
「天道さんなら時間なんて巻き戻さへんでも、あのワームを倒せたはずやから……
わざわざ時間を巻き戻してまでフェイトちゃんを助けたって事は、それなりの理由があった……ちゃいますか?」
口下手なフェイトの言葉を遮り、はやてが理由を説明した。
「なるほどな……。確かにその通りだ。だが、もし俺が自分の力を使いたかっただけだ……と言ったらどうする……?」
「それは無いと思う……かな」
「何故そう言い切れる?」
今度は、微笑むなのはに視線を向ける天道。
「一応私達だって、天道さんの性格は解ってるつもりだよ……?」
なのはの言葉に、天道は軽いため息をついた。いや、外見上軽いが、心情的には重い。
天道的には「なら最初から俺を捕獲しようとか考えるなよ」と、心底言いたくなった。
「全く、お前達は……今になってその答えに気付いたのか」
「はい……その……良太郎に言われて……」
「……そうか」
天道は、静かに言った。良太郎という人物がどんな男かは知らないが、中々見る目があるな……と、そう思った。
「あの……私もごめんなさい……」
「……お前もか」
フェイトに続き、なのはも頭を下げた。天道も、こんな状況は滅多に体験しない為に、少しばかり戸惑っているのかもしれない。
普通に何かされて謝られた場合は、「解ればそれでいい」の一言で済ませる事も出来る。だが、今回はそんな簡単な問題では無い。
そもそも天道が管理局を敵に回すような発言をしたことから、誤解が深まって行ったのだから。
……といっても、天道としてもいつまでも過去の話をしているつもりも無い。今はこの状況をバネに、少しでも前に進むべきだ。そう思った天道は、ゆっくりと口を開いた。
「……お前達が謝る必要は無い。今更お前達に謝られようが、どうにもならん。
……だが、そうだな。本当に謝罪する気持ちがあるなら、俺をここから出して貰おうか」
「それは……出来ません……」
「やはり、俺を捕獲する事が上層部からの命令だから……か?」
天道の質問に、フェイトはコクリと頷いた。今まで散々尋問されたのだ。今度はこちらから質問する番だ。
「ならばその上層部とやらについて、いくつか教えて貰いたい事がある」
「答えれる範囲なら……」
「俺からの質問は簡単だ。『ネイティブ』という言葉を聞いた事があるか?」
「「「ネイティブ……?」」」
声を揃える三人。
「そうだ。管理局の上層部と、何か関係があるんじゃないか?」
「ごめんやけど……そんな話は聞いた事ないわ……」
「私も、ネイティブなんて言葉初めて聞いたかな……」
はやてに続き、フェイトが首を横に振る。なのはも同じような反応を示しており、どうやら本当に知らないらしい。
天道は、落胆気味に「そうか……」と返した。
しばらく沈黙する一同。特に話す事も無くなって来た、そんな時だった。
フェイトの脳裏に、草加の言葉が蘇る。それは、天道を陥れる為の草加の罠。だが、フェイトはそれを知る由も無い。
草加の言う事にも一理あるが、天道の事も信じたい。何せ、自分の命の恩人なのだから。
キャマラスワームの時はまだしも、ザビーのライダースティングに関しては、間違いなく天道が自分を救ってくれた。
それはフェイト自身がこの目で確かめた事だ。
「……天道さん……私を助けてくれたのは……その……素直に、ありがとうございました……でも……」
「…………?」
「やっぱり、まだ完全には貴方を信用出来ません。」
「……ほう」
「でも……剣崎さんも言ってたように、私も貴方を信じてみたいんです……」
ゆっくりと言葉を紡ぎ出すフェイト。自分でも何を信じていいのか解らない。
「ほう……つまりお前が俺を信じるかどうかは、今後の俺次第という訳か。
だが、それはこっちの台詞だ。俺もお前達を信用した訳じゃ無い。」
表情一つ変えずに、腕を組んだまま、少し上を見上げる天道。
フェイトの言葉には「裏切らないで欲しい」という願望が込められているのだろう。まぁ随分と都合のいい話だが。
そもそも天道からすれば、立川がいる時点でこの管理局という組織も十二分に怪しいのだから。
「……やっぱりそうだよね。いきなりこんなとこに閉じ込められたんじゃ、信じてくれないのも当然だよね……」
にゃはは……と苦笑いしながら呟くなのは。
「それに、フェイトちゃんを助けてくれたのは嬉しいねんけど、時間を巻き戻した……なんて、どれほどの罪になるんか私らにも解らへんし……」
「それについては心配はいらない」
「「「え……!?」」」
はやての言葉を遮り、自信に満ちた表情を浮かべる天道。三人は、「どうして?」と驚きを隠せない。
もしかして、既に天道の裁判は結果が出ているのか? いや、そんなはずは無い。
かつて、フェイトやはやてが罪を犯した際の裁判だって、もっと時間が掛かったのだから。
いくら考えても天道のこの自信の意味がさっぱり解らない。そこではやてが、三人を代表して口を開いた
「もしかして、何か無罪確定の策でもあるん……?」
「そんな都合のいい物があるか」
「じゃあ一体……」
天道ははやての言葉を遮り、天を指差した。
「おばあちゃんが言っていた。
俺が望みさえすれば、運命は絶えず俺に味方する……ってな。」
自信に満ち溢れた天道の表情に、三人は大きなため息をついた。言ってしまえば何の根拠も無い自信という事だ。
自分が望みさえすれば、どんな窮地でも切り抜ける事が出来る。これもまた、天道の大胆な意思の現れなのだろう。
「そりゃそうだよね。私やはやての時だって裁判は結構時間が掛かったんだから……」
「何……?」
呆れた口調で呟いたフェイトに、天道が反応する。天道はまだなのは達の事を何も知らないのだ。
「あ……フェイトちゃんもはやてちゃんも、最初から管理局の一員って訳じゃ無いんだ
私たち三人がこうして親友になるまでに、色んな事があったんだ」
「ほう……それは興味深いな」
再び腕を組み直す天道。なのはも、そんな天道についつい笑みが零れる。
なのはは今までの歴史を、ダイジェストで語り出した。3年前の、プレシア・テスタロッサ事件から始まった自分達の歴史を。
3年前に現れたフェイトは、ジュエルシードを集める為になのは達と敵対していた事。
はやての守護騎士であるヴォルケンリッターが、はやての病を治す為、魔導師を襲撃した事。
管理局と八神家で、二つに別れてしまった民間協力者の兄弟がいた事。
その民間協力者は、愛した家族を自分の手で殺さなければならないという悲痛な宿命を背負っていた事。
そして、その兄弟も、天道と同じく異形の化け物に家族を奪われ、復讐の為に生きていた事。
今まで自分達が刻んで来た歴史を語るなのはの表情は、まさに感慨無量といった感じだ。
「――こうして、私たちは三人揃ったんだ」
「……なるほどな」
話を終えたなのはに、視線を送りながら頷く天道。なのは達にはなのは達の戦いがあったのだ。
それは天道とて理解していたが、こうして聞いてみると、やはりいい話に聞こえる。何より、天道は家族や、子供達の絆には弱いのだ。
それは確かに天道の態度からは判断し難い。しかし、天道とて人間だ。
自分と同じく、幼い頃から家族が居ないはやてやフェイトの話を聞いて、何も感じずにはいられなかった。
またはやても、天道と似たような境遇にあったからこそ、天道を信じてみようと思ったのかも知れない。
……とは言っても、はやてはそんな同情染みたことを天道に言うつもりは無いが。
ちなみに、まだなのはとフェイトは天道の過去については知らされていない。まぁその話については、またいずれ語られる時が来るだろう。
なのはの話を聞いた天道は、それ以上は何も喋らなかったという。
それから数分と経たない内に、お別れの時間がやってきた。なのはは普通の家庭で暮らしている為に、夕方くらいには帰らないと家族が心配するのだ。
ただでさえ世間は未確認生命体やら怪奇殺人事件やら浅倉威やらで何かと物騒なのに、これ以上心配させる訳にもいかない。
そういう訳で、三人は別れを告げながら天道の部屋を出て行った。
「……なんだ、お前は帰らないのか?」
「え……あ、まぁちょっとくらいなら遅くなってもええかなって……」
訂正。はやてだけは、部屋に残っていた。薄い笑顔を浮かべながら、天道に視線を向けている。
「……お前には、家族がいる。あまり家族を心配させるのは感心しないな。」
天道の言うはやての家族とは、シグナム達の事。天道とて樹花に心配かけまくりだが、そこには逢えて触れない。
いや、自分が樹花に心配をかけているからこそはやてには同じ事をさせたくないのだろう。
同情の言葉こそかけるつもりは無いが、はやても天道に何か言いたい事があるのだろう。
笑ってごまかしながら、はやては喋り出した。
「私、思うたんです。天道さん、ほんまは寂しいんとちゃうかって……」
「何……?」
「ごめんやけど、加賀美くんから天道さんの過去に何があったか、聞かせて貰いました。妹さんのことも……」
はやての言葉を聞くや否や、天道は大きくため息をついた。
「……全く、相変わらずお喋りな奴だ。すぐに口を滑らす男は大物にはなれない。おばあちゃんが言ってた通りだな。」
「……そんなことも言ってたんや……」
思えば、加賀美はいつもそうだ。かつて加賀美は、ひよりにライダーベルトについて問われた際にも、口を滑らせ、余計な情報を知らせた事がある。
「それで、お前はそれを知ってどうすると言うんだ?」
「どうもしません。ただ、さっき言ったように私にも家族がおらへん時期があった。
だからこそ、家族の大切さは解ってるつもりです」
「……それは立派な事だな」
「だから、樹花ちゃんにもあんまり、心配かけさせへんように……って思ったんです」
「ああ、解っている。そんなことはお前に言われるまでもない」
「そうですか……」
はやては、少し俯いて、そう言った。天道は今の様に、よく他人を―というよりもなのは達を―「お前」と呼ぶ。
それはつまり、まだ仲間として認識されていないということでは無いか?
はやては、そこがどうにも気になった。学校で一緒に捜査をしていた時は、確かに「八神」と呼ばれていた。
だが、今はまた「お前」に戻っている。それは、余裕に見える天道にも、心のどこかに管理局に……なのは達に対する憤りがあるからだろうか?
いつか、私達もお前や貴女、苗字では無く、名前で呼ばれる日が訪れるのだろうか? そんな事を考えながら、はやては部屋を後にした。
最後に、一言だけ。
「天道さん、私らは……少なくとも、私は天道さんの味方のつもりやから。」
そう言い残したはやては、「ほな」と言いながら、天道の前から姿を消した。手をひらひらと振りながら。
はやては、天道の部屋から出て、しばらく歩いた所で、一人の男性とすれ違った。
「(あ……立川……さん?)」
一緒動きを止めるはやて。相手は立川。天道の部屋へ向かって、真っ直ぐ歩を進めていた。
元々立川とはあまり話した事が無い為に、気の利いた会話も思い付かなかったはやてだが、一つだけ解った事があった。
「立川さん……なんであんな、表情険しくしてるんやろ……」
それは、立川の表情だった。はやてのイメージでは、立川は優しい好青年キャラだった筈。一体何かあったのだろうか?
「天道総司さん……入りますよ」
立川が、天道の部屋のドアを開いた。自動的に横へスライドしたドアの先に、立川の姿を見た天道は、途端に表情を曇らせる。
「やれやれ、今日はやけに面会が多いな。今度はお前か」
「お久しぶりです」
「本当に久しぶりだな。調度俺もお前に聞きたい事があった。そっちから来てくれるとは好都合だ」
すぐに元の表情に戻った天道は、いつも通りの冷静な態度で着席し、足を組んだ。
「貴方が聞きたい事はもう解っています」
「ならば話は早い。ネイティブについて教えて貰おうか……いや、もう聞くまでも無いな」
「……流石です。やはりもう気付いていましたか……私達の正体に」
「当然だ……俺を誰だと思っている。
お前はワームだ。そして恐らく、お前の言うネイティブとやらもワームの集団だ。違うか?」
天道の問いに、しばし間を置く立川。
「その通りです……しかし、貴方は一つ誤解しています。我々ネイティブは貴方達人間との争いは望んでいません」
「……何だと……?」
「我々は、ワームにも人間にも属さない。我々が望むのは、人間の中でひっそりと生きて行く……ただそれだけです」
立川の言葉に、再び表情を険しくする天道。天道は、今度は少し強い口調で、身を乗り出しながら言った。
「ならば何故お前は管理局に所属している!? それに、お前はひよりの事を何か知っているんじゃないのか!?」
「ひよりさんは、確かに無事に存在しています。次元の彼方で……
そして、時空管理局ならばその世界に介入する事が出来る……」
「……なッ!?」
その大きな目を向きだし、固まる天道。この男は何を言いたいのだろうか?
いや、もはや聞くまでも無かろう。
「貴方は、まだハイパーゼクターの力を使いこなせていない。ひよりさんを救う為には……」
「時空管理局に味方しろと……そう言いたいのか……!?」
「理解が早くて助かります。どのみち、今の貴方では管理局に属する以外にはひよりさんを救う手段は無い。
ならば答えは簡単です。私には貴方の出す答えが既に見えていますが」
落ち着き払った態度で、天道を見据える立川。これは、もはや脅迫に近かった。
天道相手に、ひよりを救う手段が一つしか無い等と告げれば、天道の取る行動は容易に想像出来る。
……もっとも、天道はハイパーゼクターで次元の彼方に飛ぶ方法をまだ知らないだけなのだが。
「今はまだ答えを急ぐ必要はありません。ZECTもBOARDも暫くは行動を起こせない筈です。
よく考えて、貴方は自分の答えを見出だして下さい。」
「……お前は一体何を考えている?」
「……貴方には、これからもワームを倒して貰わなければなりません。
貴方がひよりさんと再開することで、更に力を付ける事が出来るのなら、我々は協力を惜しみません」
机に突っ伏した天道は、ゆっくりと立川を睨んだ。管理局の力を使って天道に協力する……それは天道にとっては大きなヒントだった。
「つまり……管理局はお前達ネイティブにより支配されている……ということか」
「……そう取れたのならそういう事でも構いません。今はそれでも差し支えはありません……」
そう言い、立川は席を立った。毎度ながら絶妙なタイミングで席を立つ男である。
天道も話が乗って来た所で、自分から話を切る。巧みな話術で天道を引き込むつもりなのだろうか?
だが、天道はこれ以上何も言う事は無かった。今は自分の立場の事で頭が一杯なのだろう。
天道は果たして管理局に属するのか? それとも……。
立川は、アースラの廊下を歩きながら呟いた。
「時間はまだある……イマジンやグロンギがどう動こうが……まだ十分に我々に分がある……」
小さな声で呟いた立川は、とある部屋の前で立ち止まった。
「問題は、オルフェノクと天王寺……それから……」
アースラの一室で、良太郎はテーブルに向かい合う形で、ハナと対面していた。
良太郎は終始落ち着かず、ソワソワとハナを見ている。お互いの自己紹介―と言ってもまだ名前だけだが―を済ましたあたりで話は止まっているのだ。
初対面であるハナの、刺す様な強い視線に、良太郎の表情も完全に強張っている。
このままではいつまで経っても話が進まない。良太郎は、勇気を出して、口を開いた。
「あ、あの……僕は一体……また何か悪いことでもしちゃったんでしょうか……?」
「……ううん、私達はずっと貴方を探してたのよ」
「え……僕を……?」
良太郎の表情は、少しだけ緩んだ。同時にキョトンと首を傾げる。
すると、部屋のドアが開き、一人の男が入ってくる。アースラに居る間、良太郎も何度か面識があった男だ。
「あ……貴方は確か……立川さん……?」
「時の運行を守りし者に選ばれし人……野上良太郎……」
「は、はい……?」
良太郎は、再び首を傾げた。話がさっぱり読めない。時の運行? 自分が選ばれた? そんな特撮番組みたいな展開がある物なのか?
「話を戻すわね。貴方は、ずっと私達が探してた人材なの。」
「え……?」
状況を飲み込めずに混乱している良太郎の耳に、再びハナの声が届いた。良太郎は再びハナに視線を向ける。
「間違いない。貴方は特異点です」
「ええ。貴方なら、電王になれるかも知れない……!」
「え……特異点……? 電王……?」
立て続けに意味不明な単語を口走る立川とハナ。訳がわからなさ過ぎる二人の言葉に、良太郎は次第に意識が遠退いて行くのを感じた。
そして。
「何ィ!? 特異点だとぉっ!?」
「「…………ッ!?」」
突然、良太郎が机を叩いた。強く叩かれた机は「ドンッ!」と大きな音を立て、立川とハナを軽くのけ反らせる。
良太郎は、既にさっきまでの良太郎では無かった。髪の毛は逆立ち、瞳の色は野獣の様に赤く輝いている。
「これは……本当にイマジンが憑いていたとは……」
「だからこそ、彼なら電王になれるかも知れないって言ったのよ」
驚く立川を宥めながら、ハナは良太郎を睨み付けた。
「かぁーーーっ! 特異点って! 最悪じゃねぇかぁ!!」
「うるさい、少し黙りなさい!」
「あんだとぉ!?」
良太郎が、ハナに掴みかかろうとした、その時だった。艦全体に、緊急アラートが鳴り響く。
恐らく……いや、間違いなく何らかの敵がサーチャーに引っ掛かったのだろう。
良太郎達の部屋は赤く照らされ、非常事態であることが伺える。良太郎はここぞとばかりに、身を乗り出した。
「ヘッ、調度いい……こうなりゃこの体で好き勝手暴れてやろうじゃねぇか!」
「な……!? ちょっと待ちなさいよ!」
「うるせぇ、どけ!」
「きゃっ!?」
ハナが立ち上がった良太郎を取り押さえようとするも、勢いのついた良太郎は止まる事は無かった。
ハナを突き飛ばした良太郎は、そのまま自動ドアをこじ開け、走り去って行った。
ちなみに自動ドアはある程度自力で開けると、壊れていない限りは勝手に開いてくれる。そんな訳で、不幸中の幸いか、良太郎はドアを壊さずに済んだ。
所変わって、第97管理外世界。海鳴市近郊。
殺風景な廃工場に、数人の人間と、大量のワームがうごめいていた。
人間―少なくとも人間の姿をしていた―の中の一人。喪服を来た女が、口を開いた。
「……ZECTの戦力は大幅に削られている。今のうちに潰しておくべきだな」
「まぁだ早い。ZECTには金銀銅がいるのを忘れた訳では無かろう?」
対するローブを着た男は、ZECTを「ゼクート」と独特のイントネーションで呼んだ。
女―間宮麗奈―は、ゆっくりと男に視線を向けた。
「しばらくは様子を見ろと?」
「その通ーりだ! 人間共は勝手に潰し合ってくれるからなぁ? 心が痛くなる思いだよ」
「心? 馬鹿馬鹿しい……お前に人間を気遣う心があるとは思えないな」
嘲笑う様にローブの男を見る麗奈。男の、ローブの下に隠れた顔が微かに笑った。眼鏡が怪しく光り、その笑顔をより怪しい物へと変える。
ややあって男は、相変わらず相手を見下した様な口調で、再び喋り出した。
「まぁいい……今は組織を相手にするな。抵抗する者を一人一人、確実に潰していけ」
「天道総司は既に管理局とやらが処分したらしいが?」
「ほう……?」
ローブを着た男は、クックックと笑いながら、立ち上がる。男にとっては、これだけでもかなりの情報になったのだろう。
「本当に心が痛いね。人間共が、あろうことか自らの手で勝利の鍵を潰してくれるとはなぁ?」
やがて男の笑いは、大きな物へと変わっていた。笑いながら、杖をつき、工場を出ていく。
麗奈は黙ってそれを見送った。
一方で、海鳴近郊の公道を走る一台のバイク。銀色のボディをしたファイアーストームは、津上翔一を乗せ、工場へと向かっていた。
翔一は感じたのだ。頭痛にも似た感覚で、工場からただならぬ悪意を。
やがて、工場目前で、翔一の腰は金色に光り出した。竜巻の如く回転しながら、翔一の腰に変身ベルト―オルタリング―が装着される。
「変身ッ!!」
翔一の声に呼応し、オルタリングは金の光を放出した。オルタフォースの力を受けた翔一の姿は、一瞬にしてアギトへと変わる。
同時に、オルタフォースの影響でファイアーストームの姿も変化。
赤と黄色のカラーリングを基調としたスーパーマシン……マシントルネイダーへと変化したのだ。
「ハッ!」
アギトが飛び上がると、マシントルネイダーの二輪のタイヤは横方向へと回転。さらに、車体が平らくスライドした。
薄暗い工場の壁に、大きな穴が開いた。そこから差し込む夕日に目を細める麗奈。
穴から入って来たのは光だけでは無かった。アギトを乗せたマシントルネイダー・スライダーモードが、凄まじい速度で突っ込んで来たのだ。
「何だと……っ!?」
驚く麗奈。直後、二人の男が麗奈を庇う様に前へ出る。
だがアギトは構わずに、アーミーサリスの集団の中をマシントルネイダーで突破。大量のワームは一気に爆発して行く。
「お前は……カブトの仲間か!」
「……ッ!?」
声を上げる麗奈に、赤い視線を向けるアギト。アギトはすぐに、マシントルネイダーから飛び降りた。
「お前は、あの時の……!」
アギトにも麗奈には見覚えがあった。以前、学校でカブトやガタックと共に戦った時に、顔を見せた女だ。
アギトは麗奈とは戦ってはいないものの、この女がワームである事は容易に想像がつく。ならば、倒すしかない!
そう感じたアギトはすぐに左腰を叩いた。同時に、オルタリングの左側が青く輝き、アギトの左腕も青く変色した。
「ハッ!」
そして、オルタリングから取り出しましたるはお馴染み、ストームハルバード。
ストームハルバードを変形させ、ロッドを伸ばしたアギトは、その赤い瞳で麗奈を睨み付けた。
「お前の相手は私ではない……やれ」
麗奈が合図すると同時に、麗奈の前方に立っていた二人の男は、その顔に奇妙な影を写し出した。
そして、変身。二人の姿は、灰色の怪人へと変わっていた。
アギトから見て右に立っているのが、三又に分かれた槍を持った怪人。オコゼの特質を備えた、スティングフィッシュオルフェノクだ。
対して左側に位置しているのが、カタツムリの特質を備えたオルフェノク。スネイルオルフェノクだ。
どちらもワームに擬態されたオルフェノクなのだろう。
進化した人類にまで擬態するという点では、人類はワームには及ばないとも取れてしまうのが恐ろしい所だ。
アギトは、ストームハルバードを手に、スネイルオルフェノクへと突撃した。
「ハァッ!」
ストームハルバードを巧に回転させ、スネイルオルフェノクにダメージを与えて行くアギト。
スネイルオルフェノクはこれといって特別な打撃武器を持っていない。
突風を巻き起こしながら斬り付けるアギトが相手では、圧倒的に不利だ。
両手でガードの姿勢を取るも、一振り、二振りとストームハルバードを振るう度に、体力が削られていく。
このままではまずい。スネイルオルフェノクはふと、スティングフィッシュオルフェノクへと視線を送った。
気付けば、スティングフィッシュオルフェノクの姿は遊泳体へと変わっていた。
下半身は魚のような尾鰭に変体し、ゆらゆらと空中に浮いていた。地球の重力を無視し、浮かぶスティングフィッシュオルフェノクは、アギトへと狙いを定める。
そして。
「……クッ!?」
スネイルオルフェノクを攻撃していたアギトの体は、横方向へと弾き飛ばされた。
アギトの後方にいたスティングフィッシュオルフェノクは、時速180kmの速度で大きく旋回。そのままアギトに突撃したのだ。
スティングフィッシュオルフェノクはその勢いでアギトを工場の外まで押し出す。
閉鎖された空間から抜け出しさえすれば、空を飛ぶスティングフィッシュオルフェノクの方が有利になるのだ。
工場の外に出たアギトは、空中に大きな放物線を描きながら攻撃を繰り返すスティングフィッシュオルフェノクに苦戦を強いられていた。
相手が一人ならまだ構わない。だが、実際にアギトと交戦しているオルフェノクは2体いるのだ。
オルフェノクの能力は意外と高い。空飛ぶ敵は凄まじい速度で突撃し、隙をみては陸のスネイルが打撃を入れる。
反撃する隙も与えられずに、アギトはストームハルバードで攻撃を防ぎ続けるしか出来なかった。
だが、諦めてはいない。かならず隙が出来る筈だ。なんとかして片方を足止めする事さえ出来れば……。
そう思いながらも、槍を携え、再び飛んできたスティングフィッシュを、しゃがんでかわす。
スティングフィッシュがアギトの上空を横切る瞬間、しゃがんだアギトはストームハルバードを天へと突き出す。
しかし、相手もそう簡単には食らってくれなかった。ヒラリと左に一回転し、ストームハルバードを回避。
さらに旋回して、アギトの後方に回り込む。そして手に持った槍を突き出すが、アギトはストームハルバードを巧に振り回し、それをガード。
防いだ。そう思ったのもつかの間、スティングフィッシュがアギトから離れた瞬間に、後ろからスネイルが殴り掛かって来たのだ。
流石にそこまで気が回らなかったアギトは、見事にスネイルの左ストレートの直撃を受ける。
打撃武器とは言い難いが、鈍器状に発達した左腕はパンチにしては充分な威力を誇る。重いパンチで、アギトの顔面を殴り付ける。
「クッ……!」
フラフラと、少しのけ反るアギト。刹那、ストームハルバードをスネイルの脳天へと振り下ろした。
黙ってダメージを受けるアギトでは無い。一発入れられながらも、攻撃のチャンスは逃さない。
振り下ろしたストームハルバードをさらに回転させ、反対方向でスネイルを斬り付けようとするも、今度はスティングフィッシュにそれを邪魔される。
再び横切った空飛ぶオルフェノクに、ストームハルバードを弾かれたのだ。
スティングフィッシュはまた、アギトを翻弄する様に空中を飛び回る。
だが、アギトには少しだけ希望が見え初めていた。この敵は二人共、攻撃にパターンがあるのだ。
攻撃前には旋回。それを防げばもう一体が殴り掛かって来る。アギトは、旋回するスティングフィッシュに視線を送った。
その時だった。
「うわわわわわわっ!!」
「何……!?」
なんと、アギトの目の前に現れた魔法陣から、一人の若者が放り出されたのだ。
「な、何ここ……僕……さっきまでアースラにいたはずなのに……!」
若者……良太郎は、キョロキョロと周囲を見渡す。見れば、そこは怪人3人が交戦しているただ中。
イマジンが表に出ていればまだまともな対応が出来たのだろうが、そこは良太郎である。全くもって不幸なタイミングで自我を取り戻してしまったのだ。
「(今だ……!)」
アギトは思った。ついに見付けた勝機に、仮面の下で自信に満ちた表情をする翔一。
突如現れた良太郎に、スティングフィッシュが一瞬だけ動きを止めてしまったのだ。
パターン性があるとはいえ、それを乱してしまったスティングフィッシュオルフェノクは、もはや敵では無い。
アギトは、ストームハルバードをスティングフィッシュへと投げ付けた。
投げられたストームハルバードは、切っ先を目標に定め、真っ直ぐに飛んで行く。
スティングフィッシュオルフェノクは、飛んで来た青き槍を咄嗟に弾き落とした。
一瞬隙を見せたのは確かにミスだが、それでこの状況を打開出来るとは言えない。
しかも、自分から武器を手離してしまったアギトには、防御の手段が無い。そう踏んだスティングフィッシュは、アギトに向かって加速した。
そして、スティングフィッシュオルフェノクは自分の目を疑う事となった。
アギトの手にする武器が、赤き炎の剣へと変わっていたのだ。それだけでは無い。アギトの右腕から、胴体にかけての色が燃えるような赤へと変わっていた。
だが、それがどうしたと言わんばかりに突撃するオルフェノク。同時に、アギトの持つフレイムセイバーのクロスホーンが展開。
燃えたぎる炎を刃に宿し、オルフェノクに向かって構えるアギト。
そして。
「ハァッ!!!」
アギトは掛け声と共に、フレイムセイバーを振り下ろした。フレイムセイバーは、上空を通過するオルフェノクの頭にヒット。
そのまま、飛んで来たオルフェノクを、頭から足の先まで、真っ二つに切断した。
二つに別れたオルフェノクの体は、燃え盛る炎に焼かれながら、爆発。そのまま、ワームとしての生涯も終え、緑の炎と化した。
「す……凄い……」
尻餅をついたまま、アギトを凝視する良太郎。良太郎の目に映るアギトの姿は、まさに子供の時に見た特撮ヒーローを彷彿とさせた。
だが、そんな事をしている場合では無い。残ったスネイルオルフェノクが、良太郎に襲い掛かって来たのだ。
「う、うわぁっ!?」
咄嗟に、スネイルオルフェノクから距離を取る良太郎。次の瞬間には、スネイルオルフェノクの体を赤い剣が取り押さえていた。
「……え……え?」
訳もわからずに、目の前に現れた赤い戦士―アギト―を見つめる良太郎。
アギトは逃げろと言わんばかりに、良太郎に赤い視線を向けている。だが、良太郎は元々あまり機転が効くタイプの人間では無いのだ。
固まったまま、アギトを見詰めるしか出来ない良太郎。アギトはそれを察知してか、スネイルオルフェノクを出来るだけ遠ざけようと剣を振るった。
逃げられないのならば、自分がこの敵を出来るだけ引き離し、被害の及ばない場所で爆発させる。そう考えたのだろう。
アギトは、華麗な剣捌きでスネイルオルフェノクを良太郎から遠ざけて行った。
「ぼ、僕は一体どうすれば……」
今にも泣き出しそうな顔でアギトを見守る良太郎。何の能力も持たない一般人が、いきなりこんな場面へ放り出されては、こうなるのも無理は無い。
そうしていると、暫くして良太郎の右隣りに、砂で出来た鬼の様な怪人が現れる。
「何やってんだ! 戦えよ!?」
「う、うわぁっ……!?」
灰色の、砂で出来た怪物は、イライラした口調で良太郎に迫る。
「逃げてんじゃねぇよ! っていうか俺にやらせろよ!?」
「あ、悪霊退散……悪霊退散……!」
「誰が悪霊だ!」
二本の角に、向きだしにした歯。地面から上半身だけが実態化したその姿を見ては、良太郎が悪霊と勘違いしても仕方が無い。
「そいつはそういう類いの物じゃないよ……もっと早く気付くべきだったんだよね……君が特異点だってことに」
後ずさる良太郎に、聞き覚えのある女性の声が聞こえた。ゆっくりと近付いてくる声に、振り向く良太郎。
「ハナさん……? と、特異……点……」
相手はハナ。まだ名前程度しか知らないが、良太郎はこの女性に確かな見覚えがあった。
「やっと見付けたのに……こんなとこで君を失う訳には行かない……」
「な、何言ってるの……? ハナさん……」
立ち尽くし、ぼーっとハナを見つめる良太郎。砂で出来た怪物も、良太郎を見詰めている。
「ハッ! フン!」
スネイルオルフェノクの攻撃を華麗に防ぎながら、フレイムセイバーでダメージを与えていくアギト。
しばらくの間組み合った二人は、随分と良太郎から離れた場所にまで来ていた。
スネイルオルフェノクは、左腕をアギトに叩き込もうと突撃するが、アギトはすれ違い様にフレイムセイバーを横一線。
火花を散らしながら、アギトとスネイルオルフェノクの位置が入れ代わった。そのまま、チラッと良太郎を見るスネイルオルフェノク。
アギトには苦戦を強いられるが、あのひ弱そうな若者を人質に取れば、少しは勝率が上がる。
咄嗟にそう判断したスネイルオルフェノクは、良太郎に向かって走り出した。
しまった! とばかりにスネイルオルフェノクの後を追うアギト。
「君なら電王になれる!」
「で……でんおう……?」
言いながら、定期券のパスケースにも似た何かを差し出すハナ。
「受け取って! 早く!」
「えぇ……う、うん……」
ハナは、少し大きめのパスケースを良太郎に押し付ける。パスケースにしては機械的で、尚且つ重い。
良太郎は、訳も解らずにパスケース―ライダーパス―を受け取り、同時にアギトの方向を見る。
こちらに向かって来るスネイルオルフェノクを見た良太郎は、またしても白目を剥き、意識が飛びそうになる。
……が、今度は倒れる前にハナに支えられ、正気を取り戻した。
「しっかりして! パスを使って、変身するのよ!!」
「へ、変身……!?」
「戦って! 変身して、あいつと戦うのよ!!」
「む、無理だよそんなの!?」
だんだんと接近するオルフェノク。オルフェノクを指差すハナに、良太郎は、泣きそうな声で叫んだ。
もう時間が無い。このままでは、アギトの助けが入る前にオルフェノクが良太郎に接触してしまう。
そんなのは嫌だ。怖い。逃げたい。良太郎は、悲痛な面持ちでオルフェノクを見詰めた。
こうしている間にも、良太郎とオルフェノクの距離はだんだんと縮まっていると言うのに。
「バカ! 死にたいの!?」
「おいしっかりしろよ! 何度も言うが、お前が死んだら俺まで道連れなんだよ!!」
ハナに胸倉を掴まれ、苦しそうな表情を見せる良太郎。同時に、砂の怪人も良太郎を激励する。
30m……20m……。だんだんと接近するオルフェノク。このまま死ぬくらいなら、最後に賭けてみるのもいいかもしれない。
産まれてこの方、本当に不幸な出来事しか無かった少年……良太郎は、ハナに背中を押され、勢いよく立ち上がった。
「へ……へんしんっ!!」
ライダーパスを握り閉め、叫ぶ良太郎。だが、良太郎の姿は変わらない。変わったのは、腹に巻かれたベルトくらいだ。
「な……何……?」
「もうっ……!」
ハナは、苛つきながらも良太郎の腹に巻かれたベルトを、赤と青の矢印が示すままに接続した。
銀のベルトには、4色のボタンが施され、中心にはパスと同じ白いマークが輝いている。
ベルト上部には、そのシステムの名前がハッキリと印されていた。大きく描かれた『DEN-O』の文字。そして、その下に印される小さな『DEN-O
SYSTEM』の文字。
良太郎は、何も変化の無い体に違和感を覚えながらも、偶然にも手に持ったライダーパスをベルトに近付けてしまった。
こうして、故意では無いとは言え、ライダーパスはベルトの中央部―ターミナルバックル―にセタッチされた。
それにより、ターミナルバックルは白く光り輝く。白き輝きと共に、白黒というシンプルな配色のスーツが良太郎の体を包んだ。
良太郎……いや、『電王 プラットフォーム』は、自分の体を見渡し、ハナに向き直る。
「な、何これ!?」
「来るよ!」
「えぇ!?」
再びスネイルオルフェノクを見詰める電王。もはや、オルフェノクは電王の目前にまで迫っていた。
「うわぁっ!?」
電王に飛び掛かるオルフェノク。もちろん電王は対応出来ずに、オルフェノクに弾き飛ばされてしまう。
いてて……と立ち上がる電王に、じわじわと詰め寄るスネイルオルフェノク。
「うわぁ~っ!」
しかし、電王はあろうことか、オルフェノクに背を向け、逃げ出したのだ。
そんな電王を遠目に見守るアギト。スネイルオルフェノクはもはや電王しか眼中に無い。ここは少しだけ様子見だ。
逃げ回り、工場の中に入った電王は、ついにスネイルオルフェノクに追い詰められていた。
スネイルオルフェノクは、ゆっくりと電王に近づき、その鈍器の様な左腕で電王を殴り付けた!
「うわぁあああっ!?」
軽く吹っ飛ぶ電王。
『俺を呼べ!』
「えぇ……!?」
良太郎の頭に響く、砂の怪人の声。呼べとか言われてもさっぱり訳が解らない。解る筈が無い。
電王は再び立ち上がり、オルフェノクから逃げながらも、大きな声で叫んだ。
「よ、呼ぶってどうやってぇっ!?」
走りながら声を出せば、その速度が落ちる事は容易に想像がつく。ましてや、良太郎の走力ではオルフェノクから逃げ切るのは不可能だ。
すぐに追い付かれてしまった電王は、さらにスネイルオルフェノクの攻撃を全身に受けて行く。
一発、また一発と打撃を受ける電王。良太郎はうめき声を上げながら、仮面の下で顔を歪める。
アギトみたいに上手くいかないのは何故だろう? 自分が剣を持っていないから?
違う。良太郎が、弱すぎるからだ。自分の弱さに、心身共に打ちのめされる。
「うぅ……っ!」
これじゃあ変身したって一緒じゃないか……。ただ防御しながら耐えるしか無い。反撃の手立ても無い。
そして、再びスネイルオルフェノクの左腕が電王の胸に減り込んだ。
「うわぁああああああっ!!」
またしても吹き飛んだ電王は、工場に積まれていた荷物の山を突き破り、大きな埃を立てる。
「うぅ……」
なんとか崩れた荷物から這いずり出た電王の体は、埃にまみれ、真っ白に汚れていた。
黒いスーツは白く、汚らしい色に見え、その姿が電王の圧倒的なまでの不利さを物語っている。
そんな中、再び頭に声が響いた。
『馬鹿野郎! だから俺を呼べっつってんだろ!?』
「だから、どうやってぇ!?」
崩れた荷物を払いどけながら、叫ぶ良太郎。呼べ呼べと言われても、正直困る。
その時だった。
「ベルトのボタンを押してっ!」
スネイルオルフェノクの逆方向から聞こえるハナの声。ハナの声に気付いた電王は、慌ててベルトを探った。
「え……えと……ボタ、ボタン……ボタン……?」
パシパシと手探りでベルトを叩く電王。ターミナルバックルに、4色のボタンが見えた。
赤・青・黄・紫。4色あるが、今はなんでもいい。電王は適当に、赤いボタンを押した。
先程までは白かったバックル中央部が、赤く輝き、点滅を始める。そして同時に、まるで電車のミュージックホーンの様な音調を奏で始める。
電王は、点滅するベルトに、再びライダーパスをセタッチした。
『Sword Form(ソードフォーム)』
ベルトの電子音声が、その名を告げた。どこからか現れた赤い光は、電王の周囲を渦巻く。
電王の後頭部に現れた桃のような形をした仮面―電仮面―は、電王の顔のレールを走り、顔面に位置を定める。
顔面に装着された電仮面が真っ二つに割れ、電王の周囲を飛び交っていた赤い光も、オーラアーマーとなり、電王の体に装着される。
胸・背中・肩……それぞれに装着されたオーラアーマーは、お互いのパーツを繋ぎ合わせ、赤く輝く。
鳴り響く汽笛音に合わせ、ベルトの中央と、電仮面も赤く輝き、薄暗い工場を照らし出した。
「俺……」
赤い装甲を身に纏った電王は、ゆっくりと親指を自分の顔に突き立て……
「再び参上ッ!!!」
両手を広げ、派手な決めポーズで言った。というより叫んだ!
僅かな光を反射する赤い装甲。大きな赤い二つの目。赤く染まったベルト。
『仮面ライダー電王 ソードフォーム』がここに、誕生した。
「今まで散々遊んでくれやがって……」
言いながら、左腰に装着された2番パーツ・4番パーツを取り外し、二つを繋げる。
それを空中に投げた電王は次に、右腰に装着された1番・3番パーツを取り外し、投げた2・4番パーツに連結させる。
電王システムに標準装備された武器、『デンガッシャー』だ。
デンガッシャーを組み替え、ソードモードに連結合体する事で、剣先の赤い刃―オーラソード―が巨大化する。
さぁ、ここからはスーパーヒーロータイムの始まりだ!
電王は、走って突撃して来るスネイルオルフェノクを、腹から叩き斬った!
「ぐわっ!?」
「ヘヘッ……」
後ずさるスネイルオルフェノクに、ゆっくりと近づく電王。何と言うか、オーラが違う。さっきまでとは、オーラが違う。
スネイルオルフェノクも本能的にそれを感じ取り、少し距離を取る。
それを逃げと取った電王は、「ふざけるなよ?」と言わんばかりにもう一度スネイルオルフェノクを斬り付けた。
「俺に前フリはねぇ……最初っからクライマックスなんだよッ!」
要するに最初から潰しにかかると言いたいのか。電王は軽快なステップで、剣を振り回し始めた。
スネイルオルフェノクの体は、ストームハルバード、フレイムセイバーに引き続き、今度はデンガッシャーの刃に傷付けられてゆく。
しかも、力任せに斬りまくる電王は、ある意味でアギトよりも悪質だ。
工場の壁まで追い詰められたスネイルオルフェノクは、反撃に出るべく、電王に向かって走り出す。
だが……
「オラァッ!」
たやすく斬り返され、おまけに重い前蹴りまで入れられてしまう。
蹴りの反動で吹っ飛んだスネイルオルフェノクは、工場の壁を突き破り、外へと叩き出されてしまった。
フラフラと立ち上がるスネイルオルフェノク。眼前に立ち塞がるは、夕闇にオーラアーマーを輝かせる電王。
電王は止まる事は無かった。ズカズカとオルフェノクに近寄り、縦、横、斜めと繰り返しながら、斬って斬って斬りまくる!
地面に転がったオルフェノクを見た電王は、「ヘヘッ」と笑いながら、ライダーパスを取り出す。
再びライダーパスをベルトにセタッチすることで、ベルトは赤い輝きを点滅させ始める。
そして、次にベルトが発した音声は。
『Full Charge(フルチャージ)』
フルチャージの音声に合わせて、赤い光がデンガッシャーのオーラソードにチャージされる。
ライダーパスをポイッと投げ捨てた電王は、デンガッシャーをゆっくりと構えた。そうすることで、赤く輝く剣先は、ゆっくりと空へと舞い上がる。
「ヘヘッ……俺の必殺技……!」
掲げたデンガッシャーに合わせ、電王の頭上に浮かぶオーラソード。
「パート2ッ!!」
そして、それを一気に振り下ろした!
振り下ろされたオーラソードはスネイルオルフェノクの体を中心から真っ二つに切り裂き、切れ目から赤い光が漏れる。
そして次の瞬間、オルフェノクは爆発した。大きな爆音と共に、跡形も無く。
恐らくアーミーサリスを正体とするであろうオルフェノクの爆発により、緑の炎が空へと昇っていた。
「かぁーっ! 気持ち良いーっ!!」
ガッツポーズで、喜ぶ電王。久々の大暴れだったらしい。
その日、電王という新たな戦士が誕生した日。夕闇空に勝利を喜ぶイマジンの声が響いたという……。
次回予告
電王の登場により、新たなステージへと突入する物語。
新たな敵に、新たな仲間。
だが、そう簡単に一つの物語は終わらない。
再び行動を起こした天道総司!
そんな天道に、管理局は……電王は一体どう動くのか……
そして、初めて経験する仲間の「死」に、なのは達は……
今こそ放て!怒りのハイパーキック!
次回、魔法少女リリカルなのはマスカレード
ACT.17「それぞれの傷」
に、ドライブ・イグニッション!
スーパーヒーロータイム
「NEXTSTAGE~プロローグ・Ⅰ~」
その女は、当てもなく、街をさ迷っていた。
黒い挑発を揺らし、やつれた顔をした女性は、フラフラと街を歩き続けていた。
女には記憶が無かった。曖昧な記憶ならば、頭のどこかに眠っている気がした。
だが、それも定かでは無い。ハッキリと覚えているのは、誰かに教えられた気がする、自分の名前。そして……
『はやく逃げないと、また襲われてしまう。』
その思いだけだった。下手をすれば命を奪われるかもしれない。その言いようの無い恐怖が、女の足をさらに急がせた。
どれだけ歩いたのか、何日歩き続けたのか。女はついに、どこか、知らない街で力尽きた。
生きてはいるが、もうそろそろそれも限界に近くなってきた。生きる事が、辛くなってきた。
『私……死ぬのかしら……』
女はそう思い、目を閉じた。
………………
…………
……。
「大丈夫ですか!?」
聞こえる声に、私は薄目を開ける。目の前にいるのは、長髪の男。
『貴方は……?』
「あぁ、俺? 俺は城戸……城戸真司って……そんなことより、大丈夫かよアンタ!?」
男は、名を名乗った。誰かとまともな話をしたのが、ずっと久しぶりだった気がした。
『私……死んで無い……?』
死にかけの私に、手を差し延べる男……名前は城戸真司。
「死ぬなんて言うなよ、ほら!」
『…………』
私は、城戸真司の手を掴んだ。
何故か、その手はとても暖かい気がした。心が暖まるような……ずっと忘れていた感覚だった。
「お姉さん、何があったんですか? 家は?」
『何も……解らない……』
「……じゃあ、名前は?」
『名前……?』
「そうだよ、名前だよ!」
名前……それだけは、何故か覚えてるような気がした。
『私は多分……プレシア……テスタロッサ……』
私は、私の名を名乗った。
多分なんて言えば、怪しまれるのは当然だった。だがこの男は、そんなそぶりをまるで見せなかった。
「じゃあプレシアさん……でいいんだよな。プレシアさん、取りあえず何か食べません? 俺腹減っちゃって……」
『……ええ……』
腹減った……なんて、初対面でしかも、死にかけの女に言う事じゃないだろうと思った。けど、今は別に突っ込む気にもなれなかった。
だから、苦笑いする真司に、私は薄く微笑んだ。少なくとも、微笑んでいたと私は思った。
To Be Continued.