夢を見ていたんです・・・いつも見る夢とは違う別の夢を
とても穏やかで、温かく、優しい夢を・・・見続けていたのです。
早朝、診療所跡の廃墟にやけに楽しげな声が響く。
「カッズマく~ん、ツイてるか~い?ノッテルか~い?ツイてないなら出てくるなよ伝染するから!」
薄汚れたジャケットを着た声の主は診療所のドアをげしげしと叩いた。
「・・・とうとう不運が祟って逝っちまったか、かなみちゃんは俺が保護してやるから安心しろよ、エイメン」
「~!朝から不吉な事言ってんじゃねぇ、何かの嫌がらせか君島ぁ!」
急に勢い良く扉が開いてにゅっと腕が伸び君島と呼ばれた男は胸倉を掴まれた。
「やっだなぁ~朝の軽いジョークじゃないか、カズマ君。ん、かなみちゃん取られるのやっぱジェラシー?」
扉から出てきたのは少々猫背ぎみだが体格の良い男、近所じゃ喧嘩で有名なカズマと言う男である。
「何わけの判らん事言ってんだ、子供に妬いてどうするんだあ?」
カズマは君島の襟元をつかんで激しくシェイクした。
大声で馬鹿騒ぎをしてると建物の奥から恨めしそうに声が聞こえてきた。
「子供、カズ君は私に妬いてもくれないんだ・・・」
扉の奥からポニーテールを大きいリボンで留めた10歳前後の可愛い少女が恨めしそうにカズマを見ていた。
名前は由詑 かなみ、カズマと一緒に診療所跡に住む少女である。
「んぁ、じゃなくてだな朝からやかましいから怒ってるわけでな、別に妬くも妬かないも無いだろ?」
カズマは意に介せずしれっと答える。
「・・・お茶いれて来るから、それと君島さんを離してあげてねカズ君」
かなみは不機嫌な顔で診療所の奥へ引っ込んだ。
「はいはい、悪かったから放してくれないかなカズマ君、後でかなみちゃんのフォローいれておくからさ」
急に胸倉を離され尻餅をつく君島、何度もこんな事をやってるのか慣れたもんである。
「たくっ朝からややこしいマネしてんじゃねーよ、朝っぱら何だ?景気のいい話じゃなきゃゆるさねーからな」
「残念、バッドニュースだよ良かったね~♪」
「朝から騒いでそれかよ、良くねーだろ!」
再び君島の胸倉を掴んでシェイキング
「まぁ待てって今回はマジな話なんだからさ、奥で話そうぜ」
君島の緩んだ顔が真剣になる。
「OK、じゃ奥で話すぞ。かなみに聞かせるんじゃねーぞ」
部屋の奥に移る。診療用のベッドにカズマは腰を下ろし、君島も何故か部屋にある木製のベンチに腰を下ろす。
「カズマ、お前HOLYとどれくらいドンパチやったか覚えているか?」
「数は覚えてないがかなりやった気はするぜ」
カズマが住むこの大地はロストグラウンドと呼ばれ、アルターと呼ばれる人外の力を持つ人間がいる。
物質の分解と再構築、構成されるものはほぼ武器に順ずる物と言って良い。
ロストグラウンドではこの力を持つ人間と、そうでない人間、この二つに分類される。
アルターがあるために混乱を極め、日本いや世界から見放された地、それがロストグラウンド。
HOLYはアルター犯罪を治めるために作られた、アルター能力者の集団である。
だがHOLYはアルター能力者だけでなく持たない者も『市街』に登録されたない人間は全て弾圧されるのだ。
カズマと君島は偶発的に交戦したHOLYとの敗北を皮切りに、次々にHOLY部隊を排除していった。
「今までにデカイ銃やら玉玉ウルサイ奴やらけっこうやったよなぁ」
「派手に暴れまわったおかげで本土が重い腰をあげてな・・・HOLYに大規模な追加要員が来るそうだ」
君島は懐から紙を取り出した。
「市街の情報屋が本土から届く荷物の情報をを掴んでな、本土から届く武器が最近馬鹿みたいに増えてる。
それと受け取りに来たHOLY隊員の噂話を聞いたってよ」
「はん、くだらねぇ。そんなもん全部ボコればおしまいだろうが」
腕を組みふんぞりかえるカズマ。
「バカかっ!その噂話じゃお前が今までボコったHOLY隊員は格下。
今度送られる隊員が本土のアルター能力者のエリート部隊なんだよ!」
「だったら俺は宇宙一だな!」
カズマはあごに指をあてポーズをきめる。
「アホか!裏が取れるまでHOLYとのドンパチ禁止!お前がパクられたら俺も商売あがったりなんだぞ」
「お前の為かよ!」
君島の胸倉の掴む(以下略
「カズく~んお茶と朝ごはんだよ」
話の流れを遮りトレイに朝食とお茶を載せてかなみが部屋に来た。
「おお~♪すまないねかなみちゃん、朝まだだったんだよ」
「金払えよ」
かなみは腰に手をあて一刺し指を立てる。
「も~カズ君をそんなにケチんぼに教育した憶えは無いよ」
「へいへい、君島と大事な話があるから子供は向こうにいってな」
ピシリ、何か空気が凍る音を君島は聞いた。よく見ればかなみの顔に青筋マークが見えた。(ような気がした)
「・・・じゃあカズ君大人なんだ、じゃあ大人なら朝ご飯ひとりできるよね♪」
えらくにこやかな顔でかなみはカズマの朝食をさげていった。
「ちょっ待て、かな・・・」
「じゃ君島さんごゆっくり♪」
ピシャリと扉が閉まりかなみは出て行った。
「飯・・・やらないからな」
君島は頬をハムスターのようにトーストを詰め込んだ。
「そえにかまみひゃんだっれろびひしららまういらろ」
「君島、飯食うか喋るかどっちかにしろ。朝メシとらねーから」
「それにかなみちゃんだって飛び火したらまずいだろ」
お茶で流しながら君島は喋った。
「まぁな・・・とりあえずしばらく大人しくしてりゃいーんだろ?まぁ向こうから売って来たら別だがな」
「OK、流石カズマ先生~しばらくそうしてくれると助かるぜ」
「しばらくしたら情報入れるから待ってろよ」
君島は診療所の前に停めていた車にキーを入れた。
「っとかなみちゃんかなみちゃんこっちこっち」
君島かなみを手招きする。
「何ですか君島さん?」
「あのな、実は朝にかなみちゃん取るぞってけしかけたらけっこうマジな顔してキレてたんだぜ」
君島はかなみに耳打ちをした。
「っへ?っえ??」
「カズマの方が精神的にガキなんだから、奥さんであるかなみちゃんが落ち着いてなきゃな?」
「はは・・・はい;」
かなみは顔を赤くしながら答える
「何コソコソ話してるんだ?」
カズマは微妙に不機嫌そうな顔をする。
「カズマがガキだって話さ、なー?かなみちゃん」
「カズ君が子供で困るって話してたんだよー♪」
かなみと君島はけらけらと笑った。
ロストグラウンドの市街、中心にそびえ立つ建物がHOLY本部がある。
その最上階に近い部屋、隊長室にHOLY隊員が集められたいた。
「ジグマール隊長、用件の言うのは何でしょうか」
しなやかで引き締まった体を持ち、鋭い眼光を持つHOLY隊員の劉 鳳がジグマールと呼ばれる人物に質問をした。
隊長と呼ばれる男の名前はマーティン・ジグマール、HOLYの隊長である。
「以前より言ってた事だが、本土より追加要員が来ることになった。本日の夜に到着する予定だ」
「噂のアレですか、誰よりも早く動ける俺に迎えに行けと、そう言う事ですね!」
嬉しそうに答えたサングラスの隊員、顔だちから髪型サングラスまで鋭角的な特徴を持つ男。
名をストレイト・クーガー、自称(他称)世界最速の男である。
「ってそんなわけないでしょクーガー」
クーガーの台詞を聞いて頭を抱えてるショートカットとミニスカートが特徴的女性隊員、
名前はシェリス・アジャーニ、劉 鳳 とよく仕事でパートナーを組んでいる。
劉 鳳 、シェリス、クーガーは3人でよく仕事を組まされる。今回も指令が来ると思っていたのだが・・・
「君たち3名はHOLYの顔みたいな存在だからな、是非迎えに行ってもらいたい」
ジグマールは目の前の3名に命令を言った。
「えー、ただの迎えですか?そんなのクーガーに」
「私はね、何でも速く走らせる事ができるんですよ!この世の理はすなわち速さどと思いませんか?
物事を早く成し遂げれば時間を有効に使えます、100年あれば嫁でも傑作脚本が書ける、
豚でも50年あれば傑作アニメを作る事ができる、つまり速さこそ有能なのだ、文化の基本・・・」
「我々が迎えにいく事に何か意味でも?」
劉 鳳はクーガーの最速的な口上を遮りジグマールに質問をする。
「そうだな今回来る追加の隊員は少々変わってな、本土にもHOLYのようなアルター使いの集団がいるのだよ。
今回来る彼ら、いや彼女らはその組織の象徴的な存在だ」
『彼女ら』と言う言葉に後ろで速さを語っていたクーガーがピキーン!と反応する。
「女性なんですか!素晴らしい、殺伐とした仕事に女性がいてくれるだけで光り輝く!
女性が職場にいる事自体が華です、ここに速さは必要ありません。人生は光陰矢のごとしと言いますが、
生まれた瞬間から限りある人生、やはり女性に使うべきでは無いでしょうか?
趣味や食事に時間を裂くのも必要ですがやはり女性に捧げるのが一番良いと思うのです。
そして愛を育み子儲け慈しみながら育てるのがより良い時間のすごし方では無いでしょうか!
そう、それこそが至上の人生の過ごし方と言うものでは無いでしょうか?」
いいかげんうざくなったのかシェリスは踵でやたら早口で喋るクーガーの足を踏んで黙らせた。
「話の続きをいいかな?今回来る追加要員は特例中の特例でね、彼女らはアルター使いであるがHOLYに所属しない。
いわば外部スタッフとして行動するのだ、考えてもみたまえHOLYは組織だ。
組織である緊急の事態には対応が遅くなる。
そこで少人数で編成された遊撃部隊を編成しHOLYの命令系統とは外れて独立行動を取ってもらうのだよ。」
「つまり外部の人間による独立遊撃部隊ですか・・・」
劉鳳はわずかに眉を歪めた。
ジグマールは厳しい顔で言う。
「つまりHOLYの仕事を不服とし本土が介入を始めたようなものだ、これがどう言う意味か判るな」
「要するにナメられないようにビシっと牽制してこいってわけですね」
何故かシェリスは嬉しそうに答える。
「ふっ頼もしいな、牽制だけで無く今後の仕事も頼むぞ」
ジグマールは劉鳳にリストを渡した。
「今日来るは先遣隊だ、隊長以下隊員達は後日やって来る事になる」
劉鳳は先遣隊のリストに目を落とす、そこにはアルターランクS+の人物があった。
「特別に今回編成される部隊名を教えておこう、StrikerSと言うらしい」
アルター独立遊撃部隊StrikerS スターズ分隊
スターズ分隊 隊長 ナノハ・タカマチ アルターランクS+
スバル・ナカジマ アルターランクB
ティアナ・ランスター アルターランクB
「どうだ劉鳳、お前と同じSランクだ・・・」
ジグマールはにやりと笑った。
「へっくし!あ~誰か噂しとるんかなぁそれとも風邪かなぁ?」
空港でスーツの女性が派手にくしゃみをした。
童顔にスーツ、『HAHAHA!まだ学生だろ?』ともコメントされかねない女性だ。
何を隠そう彼女がジグマールが警戒する噂のStrikerS の隊長八神はやてである。
「やっぱりパジャマ着て寝た方がいいかもね・・・」
にはと笑うポニーテールをサイドに結った幼さが残る女性、
待ってました皆のヒーロー魔砲少女にしてスターズ分隊の隊長
高町なのはである。
「・・・魔砲?」
「ん、どうかしたんですかなのはさん?」
聞いたのは新人のホープ、目指せ主人公!ハチマキが特徴的なボーイッシュな少女
スバル ナカジマである。
「出番食われないようにがんばります!」
「二人とも妙な電波受信してません?」
冷静にツッコミを入れたのは
ティアナ ランスター、ツインテールが特徴的なスバルの愉快なパートナーである、あとツンデレ。
「ツンデレ?ビキビキ・・・」
「本当に御免な、本来ならウチが先に行って挨拶せないかんのやろうけど」
はやては手の平あわせてなのはに謝った。
「あ~仕方無いよ、計画が前倒しになったんだから仕方が無いよ」
なのはも気にしてないようである。
実は言うとアルター能力者はロストグラウンドだけに留まっていないのである。
数十年前、神奈川県の一部で突如横浜を中心に原因不明の大規模な隆起現象が発生しロストグラウンドが誕生した。
アルター能力者はロストグラウンドでしか生まれないとされているがそうでも無い。
ロストグラウンド発生直後の混乱で本土に流れた者、地方で散発的に『向こう側』のチャンネルが開いたりもする。
アルター事件の発生率はロストグラウンドに比べて極めて低いが、日本でも発生するのだ。
それを鎮圧、アルター使いを保護するのが本局アルター管理部と呼ばれているのだ。
本来、八神はやてを筆頭に『本局アルター管理部機動六課』を立ち上げる予定が、急遽ロストグラウンドに派遣が決定。
「せっかくやから赤・・・コホンコホンカッコよく名前かえへん?」
とまぁはやての鶴の一声によりStrikerS隊誕生となったわけである。
「ま、今回の前倒しもあの蛇おじさんの嫌がらせじゃない?」
「かもねぇ」
スバルとティアナは嫌な他部署の上司の話をした。
「こ~ら、人様の悪口言ったらいかんていうたやろ!」
「「すいませ~ん」」
しっかりユニゾンするあたりは名コンビと言うべきか。
「まぁまぁ、その話はまた今度にね?」
なのはが止めに入る。
はやての説教は長いのだ、聞いていたらフライトの時間など過ぎ去ってしまうだろう。
「そうやな、え~とお土産って必要やろか?なら今のうちに売店でも・・・」
「いやいや、それいらないって」
素早くはやてにツッコムなのは、伊達に十年親友はやっていない。
「まぁ頑張って来るよ、ちゃんとしっかりやってくるからまかせて」
ビシとなのはがVサインを決めた所で飛行機のアナウンスが流れた。
「あ~もう時間かぁ、ほな頑張ってな」
「それではStrikerS隊スターズ分隊行って参ります」
敬礼を交わすなのはとはやて、こうしてロストグラウンドに飛び立ったのである。
夜にカズマは高層ビルの廃墟の屋上に座って空を見ていた。
夕方に君島が現れしっかり夕飯にあずかりながら教えに来たのである。
「空港の警備が厳重になってきたぞ本土の重要人物が乗ってるて話だ、噂は本当かもな」
まぁそんなわけでこんな場所にいるのだが・・・全く君島の忠告を聞いてなかった。
「ん、ここにいる理由なんて判るだろお前も!」
誰に言うまでも独り言を言った。
何か本土側の空から光がこちらにやって来る。
「ビンゴだな、じゃあ派手に挨拶してやるか・・・」
カズマは深く息を吸い吐く。周りのコンクリートを分解しながら右腕を再構成させていく。
黄金の右腕と背中の3枚の赤いフィン、カズマのアルターシェルブリッドだ。
「さぁいっくぜぇ!」
右腕で屋上の床をぶち抜き跳躍する、ビルの上空に軽々とカズマのカラダは空に舞う。
だがまだ飛行機に届く高度では無い。
「まだまだぁ、衝撃のファーストブリッドぉ!!」
カズマの背中のフィンの1枚が分解し巨大な推進力に変わる。
緑の光が尾を引きさらにカズマを上空に追し上げる。
「きゃっ何、乱気流・・・じゃあ無いよね」
なのは達を乗せた飛行機が文字道理に『衝撃』襲われた。
スバルが窓をガクブルと指差していた。
「って何、嘘でしょ!」
ティアナもスバルと同じようにガクブルと指を刺す。
「ん、何々・・・人!?」
そりゃなのはもびっくりしただろう。
飛行機の翼の上に人がいるのだ、驚かないはずが無い。
「さーってと中に骨のある奴なんていそうにねぇけどなぁ・・・」
飛行機の窓から機内の様子を見るがいまいち判らない。
「まぁいいか、ビッてるなら良しだ、アバヨ!」
ご丁寧に飛行機の翼に穴を開け、地上にカズマは落下した。
「さて最後のシメだ、いっくぜぇ撃殺のダブルブリッドォォォォ!」
カズマの背中ののフィンが2枚同時に割れ1枚の時以上の推進力をはじき出す。
アルターの流星となったカズマは廃墟ビルに突撃し、盛大な爆音とともにビルを爆砕した。
ビルを爆砕した衝撃は飛行機の機内にもビリビリと伝わっていた。
「ってあれがロストグラウンドのネイティブですよねなのはさささんっ」
「って少し落ち着きなさいスバル」
混乱してるスバルを落ち着かせるティアナ、よく心得ている。
「ねぇ・・・窓のネイティブの特徴わかった?」
何やらなのはは思考してるようだ。
「暗くてあまり特徴が判りませんでしたけどおそらく融合型、右腕と背中に2枚のフィンが付いてました」
「よっく憶えてるねぇティア、全然わからなかったよ」
スバルがしきりに寒心していた。
「シェルブリッド・・・」
なのははそう呟いた。
「チッ狙いがそれて隣のビル砕いちまったか・・・まだまだ使えねぇな」
ビル跡の中心にカズマは立っていた。
笑いがこみ上げて来た。
「さぁ喧嘩をやろうぜははははは!」
カズマの笑いがロストグラウンドの夜空に響いた。
夢を見ていたんです、夢の中で私はいつも見るあの人と違う人になってました。
夢の中の私は思わぬ再開に驚いていました。
そして同時に悲しくもありました、夢の中で再開した人は敵。
再開した人は私の言う事を全く聞かないでしょう。
ならば倒さなければならない。
その人の心の痛みはとても強く、その思いも強かったのです。
私は叫びました、大丈夫きっと思いは通じると。
思いはきっと通じると叫び続けたのです。
予告
第2話
「高町なのは」
ロストグラウンド、都市部の華やかさとは裏腹に情念渦巻く最果ての地。
自立できない経済、機能しない政治、横行する犯罪
なのは達の祈りを飲み込む程に傷は深く、簡単には癒えない。
最終更新:2007年08月14日 11:47