い、いやぁ……やめてぇ……ゆるしてぇ……
故意に光量をおとされた室内に、少女の悲痛な声がひびきわたった。
気がついたとき、少女はこの見覚えのない部屋にいた。
天井のアームからのびる特殊な照明。さまざまな機器がのせられた台座。みまわしても心当たりの
あるものは一つもない。
ベッドにはシーツなどという上等なものはなくむき出しだった、少女はそこに、ある意味裸身より
も羞恥をかんじさせる、衣服というにはあまりにも頼りない極薄のワンピースを纏わされ、ねかされ
ていた。
膝の上、ふとももの中ほどまでしかない丈の簡易な服。
照明にてらされ、よく鍛えられた脚があらわになっている。脚の付け根と胸にあってしかるべき下
着の感覚はない。あまりにも心細かった。
清潔とは言い難いベッドの上で、少女は首をふるい涙をながして傍に立つ奇妙な人影のシルエット
に懇願する。特徴は男性のもの。そして乙女に恐怖を与えるには十分なシンボルだった。
いやぁ……だめぇ……だ、めぇ……
奇妙な髪型の男は――わずかに眼球が血走っているのをのぞけば――無表情。少女が涙をながそう
が、悲鳴を上げようか、決して変わらぬのではないかとおもわせる鉄火面で、少女の指先から足先、
さらには整った相貌を凝視する。
目からこぼれた涙は、白磁のようになめらかな頬を伝い首元へ消える。涙でぬれる顔は恐怖でひき
つり、歯の根はがちがちとかみあわない。
男は口をひらいた。
「……だァ。わ……み……ァ」
注意しなければ聞き取れないほどの小さな声だった。熱病におかされ、死のふちに遺言をのこさん
とする末期の声色。
意味不明の台詞をつぶやきながらは少女に手をのばす。
少女は頭をふるい、ベッドから抜け出そうとした。しかし、手足には三十キロほどの枷が嵌められ、
下腹部のあたりにはベッドの隅から伸びる極太のベルトが回っている。身動きが完全にふさがれてい
るとわかっていても、少女は身体をゆすり、男の魔手からすこしでも逃れようと身を反らした。腰ま
で届くとおもわれる長い髪がベッドと身体の上を流れ、極薄の衣服の下で形の良い双丘が踊る。
枷にはめられた手が、少女自身の動きで内出血する。白い肌でそこだけが赤かった。
ある種の趣向をもった人間なら狂喜しそうな光景のなかで、男は機械仕掛けのようになめらかに行
動を開始した。少女の左手の指先をなでまわす。
ひっ!?
少女があわてて手を引こうとし、枷にはばまれる。男は細かく震える少女の指先を、手触りをたし
かめるような怪しげな手つきでなでまわす。
少女の指は細すぎず、太すぎず、みずみずしかった。名匠といわれた人物が渾身の力をこめて彫刻
を仕上げたとしても――彼女の指や身体をみれば道具を折りかねない。なにかに作られたかのような、
完全な美神の造詣を少女はもっていた。
爪の先をすべり、間接をさすり、手の甲をなでまわす。男の指は冷たい。少女はぞわぞわと這い回
る男の指先にふるえた。
生理的な嫌悪感が胃の中のものを逆上させる。めまいがした。
男はそんな少女にむかって、笑みをむけた。いままで石のように固かった表情にヒビがはいり、口
角がつりあがる。あまりに急激な感情の露出に、少女は我をわすれ、
い、いやぁぁぁぁぁ……! たすけて! たすけてよぉ! スバル! なのはさん! フェイトさん! おとうさん!
恐怖にたえきれず、泣き叫んだ。無意識に親しい人間のなまえを叫ぶ。
少女の懇願すら――男は興奮の材料にしてしまうのか。
男は今度は明瞭な声量で、さきほどと同じ言葉を吐いた。
「これだァ! わたしはドリルに漢をみたァ!」
空気が冷たいほどに凍りついた。時の動きがすべて凍結したと言っても過言ではあるまい。あまりの
意味不明っぷりに、ギンガ・ナカジマは涙をとめてしまった。
えっと、ドリルがどうしたって?
がしょ~ん。部屋のドアが開き、骸骨にそのまま皮をはりつけたんじゃないかと思わせる、人相の
悪い男が入ってきた。
「ミ、ミザルさま! となりでレリックの移植をおこなっているスカリエッティ博士が『うるさい。
少しだまってろ。幼女の悲鳴が聞こえないじゃないか』とお怒りに……」
「ふん。あんな変態などほうっておけ。自分のこのみで戦闘機人をすべて女にする男だぞ。それより
もこちらの方が大切だ。アルコ」
ミザルと呼ばれた男――いままでギンガを散々もてあそんだ男は、室内に入ってきた男に向かって
凄絶な笑みを浮かべた。妄執にとりつかれた者にしか不可能なトチ狂った笑み。
ギンガはやっとそこで自分の真横にある機材の正体にきがついた。
ドリルだ。ドリルがある。スクラップのようにも見えるが、たしかにドリルだ。
「え?」
ギンガは思わず惚けつつ、ミザルの顔をうかがう。
「いいかアルコ。おまえはまだドリルのすばらしさを理解していないのだ」
「は、はぁ……」
まるで、興味の無いはなしを無理やり聞かされ、有無もなくうなずかされている部下の図を展開し
ながら、ミザルはアルコに向かって説教を垂れる。
「そもそもドリルは、動力やとりまわし辛ささえクリアーしていまえば、これほど理想的な刺突を実
現できる武装なのだ。ゲッ○ー2を見てみろ。あれこそ地面を掘削できるほどの動力と、増殖チップ
による携行性を理想的に具現化している見本だ。さらにドリルはグレートマイトガイ○やガオ○イガ
ーの合体プロセスにも組み込まれ、認知度は言わずもがなだ。そしてドリルにはロマンがある。その
ロマンは天○○○ グレン○○○に象徴されている。ギガ○リ○ブレイカー! に漢を見た人間はお
おい」
「ギガドリルブレイクじゃあ……」
「わたしにはカ○ナがそう叫んでいるように聞こえた」
「え、でも公式ではギガドリルブレイクが」
「アルコ。貴様はまだましいでドリルとカ○ナの魂を感じてはいないようだな。フェルナンドともど
も拾ってやった恩、忘れたか。ヤツはドリルのおかげで神化に成功したぞ」
「はっははぁ! もうしわけございません。わたしはまだまだ未熟者でしたぁ!?」
アルコが顔色をうしないながら床に頭をこすりつけ、渾身の土下座をした。
「うむ。ドリルの魂をマスターした折には『変震のアルコ』を名乗るがよい。そして君は」
ミザルはギンガをねめつけた。
「『激拳のギンガ』を名乗るといい。少々語呂は悪いがな」
ギンガはさきほどとは別の感情で首をふるった。イヤすぎる。
どれくらいイヤかって? 機動六課の隊舎前で衆人環視にさらされながらストリップするよりもイ
ヤだった。そんなこっぱずかしい二ツ名などつけられたら生きていけない。みずから舌を噛んで死ぬ。
「まあいい……スカリ博士のマインドコントロール化にはいったときにでも、そう名乗るように頼ん
でおこう。とりあえず今は――改造だ!」
ひっ! いやああああああああ――!!
ギンガの声が室内をひびきわたった。
「ギ、ギン姉……」
スバルの目の前にいたのは、スバルが知るギンガ・ナカジマではなかった。
ガ○ナ立ちするギンガの肩からは極太のドリルが生え、左腕からは比較的細めのドリルが生え、右
腕からは機械的なアームが伸びている。身体を支える膝部からも太いドリルがせり出していた。背に
はスタビライザーのようなドリルが伸び、目元を隠すV字型サングラスの上、少女の額には赤い回転
衝角がとりつけられていた。
あまりにも悪質なパロディ。
というか版権無視の具現化。
人を人と思わないような改造。
ドリル増やせば良いもんじゃないだろう。
頭部につけられた赤いサングラスがどこか哀愁を感じさせる。サングラスは涼やかなはずの目元を
完全に隠していた。
「ギン姉……」
スバルはあまりにも変わってしまった姉の姿に眩暈を起こした。
「スバル――ごめん。わたし汚されちゃった。全部――いじられちゃった――『激拳のギンガ』にされちゃったよぉ……イグニション」
各部のドリルがぎゅぃぃぃぃんと回転をはじめた。
「ギン……姉ぇ!」
「だけどね……ドリルってすばらしいんだよ。なんていったってロマンがあるし、フロイト的な解釈
によるとドリルと道端の道祖神って同じものなんだ。あとユーノ・スクライア司書長も、概念として
はおなじなんだよ……」
もう聞いていたくなかった。スバルはリボルバーナックルを振りかぶり、ギンガに向かって走る。
叩いて直すしか方法がない。だが――
「ドリルブーストナックル!」
「うわっと!」
「ドリルニィー!」
「ちょ、ちょっと!」
「マッハスペシャル!!」
「う、うわぁ!」
手数が違いすぎた。疾風三連撃を彷彿とさせるながれるようなドリルコンビネーション。
ギンガの体中から生えたドリルにはそれぞれ名称があるのか、ギンガは叫びながら攻撃してくる。
ドリルの嵐に足を止めてしまったスバルは、ギンガの間合いにつかまってしまった。アームとドリル
をたくみに使い、器用にスバルの動きを封じ込めるとおもいきり身体をのけぞらせ、頭部のドリルを
ぎゅいんぎゅいん鳴らした。スバルはそのドリルの危険に目をむいた。
「ギ、ギン姉――! それは死ぬ――死んじゃうよぉ――!」
「大丈夫。わたしたちはじょうぶだかららららららら」
額のドリルの振動がつたわり、ギンガの口調が不明瞭になった。
「さぁ……いっしょにいこう、ミザル様のところへ……」
「い、いやあああああぁぁぁぁ! もうドリルはいやだぁぁぁ!?」
「ドリルゥ……インフェルノォ!」
紅い衝角が、自分の額に迫るのを見て――スバルは気を失った。
――次は~終点。暗室、拘束室、手術室、ドリル室。
ひぃ……やぁ……そんなとこいじらないでぇ……
ふふ……だめだよ、スバル。ココはちゃんとドリルにしないと……
すこし前までギンガが寝かされていたベッドに、スバルがくくりつけられていた。ギンガはすばる
の腹のあたりに乗りながらアルコールに浸された脱脂綿をピンセットでつまみ、スバルの身体を消毒
していく。
スバルが着せられているのはギンガが着せられていたのと同じ、極薄のワンピース。膝上までしか
ないソレからスバルの健康的なふとももがまろびでる。
スバルは天敵に魅入られた雌鹿のようにふるふると震えながら、ギンガをひきはがせずにいた。
ドリルをすべてはずされ、身体はすでに普通の少女のもの。ギンガもまたワンピースをまとわされ、
ドリルのはずされた膝をさらしている。顔のつくりが似ている姉妹の、ともすれば官能的な姿に興奮
しない男などいない……はずなのだが。ドリルにしか興味のない男が一人。
「ふふふ……今度はどこにドリルをつけるか。ギンガ、どこがいいと思う?」
ミザルの問いに、ギンガは恍惚とした表情で微笑んだ。以前ミザルが浮かべた笑みと同じ、妄執を
感じさせる笑み。
「この子は発育がいいですから……むねとかどうでしょう。オッパイドリルミサイル」
「ぜ、ぜったいいやぁぁぁ!!!」
すっかり、ドリル中毒になってしまったギンガは妖艶に微笑みながらスバルのどこにドリルをくっ
つけようか、考察して――乳房に脱脂綿をおしつけた。じわり、とスバルの天頂あたりにシミがつき、
その形をあらわにする。ギンガは微笑みながら言った。
「やっぱり、むねですね」
「ひぃぃぃぃぃ!?」
ギンガはミザルにそう告げ、ごくりと生唾をのむと――本格的な消毒をほどこすために、スバルの
薄布を剥ぎ取った。
その後、胸にドリルミサイルなるものを仕込んだ戦闘機人が管理局の記録にのこされたとか、のこ
されていないとか。
――FIN
あとがき
ミザル「激震のミザルだ。今回のドリルのリストを紹介しよう。まずはゲッター2のドリル。原作で
は左腕だが、ギンガにあわせて左右逆につけている。肩のドリルは超銀河グレンラガン。空中でひと
つのドリルになるが描写はされなかったようだな。さらに美しい、まるで絹糸のような髪とともに背
部に伸びるドリルはスレートゲルミルのものだ。額の衝角もスレートゲルミルからいただいた。ドリ
ってるだろう? ドリ肌ものだろう? 膝ドリルは――言うまでもないな。ドリルニーだ。ちなみに
スパイラルドリルとストレイトドリルはスバルに実装の予定だ。
ああ、そうだ。タイトルバックをわすれていた。この話のタイトルは
【天元突破しそうな修羅の人がスカと手を組んだようです】
だ! 元ネタをくれた住人GJ! 感謝の印として『お守り代わりのグレン○ガンドリル』を親展し
よう! ちなみにゲッター線で三日ほど漬け込んだものだ!」
ギンガ「あ……そんな……わたしだってほしいのに……」
スバル「だ、だめ! それ絶対死亡フラグだからぁ!!?」
ミザル「では、またの機会に参上しよう。では次回も――わたしはドリルに漢ををみたァ!」
ギンガ「わたしはドリルに漢をみたァ!」
スバル・アルコ「「なんかもう、いやだ……もうドリルはイヤだぁ!」」
最終更新:2008年02月08日 11:01