今日は、第97管理外世界の日本国に於いては、節分の日である二月三日。
ここ、ミッドチルダはクラナガンにある、時空管理局の官舎内にある高町家に於きましても、
あの光景が、子供『達』によって繰り広げられているわけであります――。
「「「おにわー、そとー」」」
「「「ふくわー、うちー」」」
元気よく、ヴィヴィオとニジュクとサンジュが、『鬼』さん『達』に、豆を投げています。
「いて、いてて。ちょ、お前ら、力一杯に投げつけるなっての」
「やーん、もう勘弁してー」
「えーん、降参ですぅー」
「何であたしまで、……とほほ」
高町家の中を、ヴィータにシャマル、リインにアギトと言った面々が、涙目になりながら鬼の面をかぶって逃げ回っていた。
「はい、鬼のみんな、がんばれがんばれ♪」
「なのはッ! てめぇ、人事だと思って」
「しゃーないやろ、ヴィータ。くじ引きでこうなったんやし♪」
「とは言っても、……痛い痛い、……もういい加減にしませんか、はやてちゃん」
「いやシャマル、まだ福を呼び込む必要がある。もう少し色々と頑張ってもらわないとな、ふふッ」
「シグナム、あんたの方が鬼に見えるよ……」
「アギトに、全面的に同意ですぅ。……いったぁい」
彼ら四人の「鬼」達の弱り様に、
「おぅいっ、そこの二匹と一人、鬼どもはかなり弱っているぞ、あと一息だぁッ!」
コウモリのセンが、腕を振り回して子供達に檄を飛ばす。
「おーっ」
「わかったのー」
「かかれー」
子供達は、ここぞとばかりに更に激しく豆を投げつけます。
「いってぇッ! おいッ、コウモリ、てめぇ後で覚えてろよッ! アイゼンで潰して、コウモリ煎餅にしてやるからなッッ!!」
「ちくしょー、それならあたしは、絶対焼きコウモリにしてやるぅ。……いてぇ、止めろぉッ!」
「ならなら、私、フォークで串刺し、ってこんなの私のキャラじゃ、……いたたぁ」
「コウモリの氷付け、絶対にしてやるですぅ。……それより、早く止めてぇッ!」
鬼は皆、口々に『後の楽しみ』を叫んでおります。いやいや、実に楽しそうですなぁ。
「「「「どこが楽しそうだ、この、バカ作者ッッッッ!!!!」」」」
――作者は、韜晦して『人として軸がぶれている』を口ずさんでいた。
「皆さぁん、豆まきはそこまでにしませんかぁ。そろそろ、次の準備が出来ますよぉ」
パンパンと手を叩きながら、キッチンの方から、黒い旅人のクロが出てきた。
トレードマークとも言える黒い帽子とコートを脱いで、エプロンを着けた姿で。
「おッ、そう言う姿を晒すと、、やっぱり女だってのがよく解るなぁ、クロが」
不意に、クロの背後が微かに黒く揺らぐ……。
「セン、……コウモリの酒蒸しって、美味しいのかな……?」
「……すんません、謝ります。だから、そんなに凄まないで」
なかなか、コウモリの土下座というのは、見られないものではなかろうか。
「ははッ、全く、珍しい光景だねぇ」
そう言って居間に入ってきたのは、『不敗の魔術師』ヤン・ウェンリー。
「ああッ、提督、何でそんなトコにいるんだよッ」
ヴィータが思わず叫ぶ。何故なら。
「あんたも、鬼だったろーがッ!」
そう、鬼を決めるくじ引きの際、ヤンもまた鬼の一人に決定していたのだ。
その証拠に、あのおさまりの悪い髪に鬼の面が乗っている。
「いや、豆まきが始まってすぐに、生理現象が来てね。今までずっとトイレにね」
後頭部を掻きつつ、にっこりと笑った。
「ま、しゃーないですなぁ」
「そういう事情じゃあ、ねぇ」
「我慢は、するものではありませんしね」
はやて、なのは、シグナムはしみじみと、さも残念そうな顔で話す。
「そんな訳あるかぁッ!」
「理不尽にも程がありますッ!」
「ずるなんて、提督の風上にも置けない行為ですぅッ!」
「おい、ヴィヴィオ、ニジュク、サンジュッ!」
ヴィータが子供達に叫ぶ。
「ヴォルケンリッターの誇りある鉄槌の騎士の名において許すッ! あのペテン師に、お前等の豆で天誅を下してやれッ!」
「つまり、お仕置きしてやれッ、てことですぅッッ!!」
「「いいの、リインちゃ(ちゃん)?」」
「はいですッ」
「おじさんに、投げていいの?」
「かまわねぇから、やっちまえッッ」
「よおっし、魔術師のおじさん、かくごぉッ」
「「かくごぉっっ」」
ヤン提督はたちまち、子供達の豆まきの洗礼を受けました。
「「「おにわー、そとー。ふくわー、うちー」」」
「あいたたた、……いや、ははッ、済まない、あはは」
子供達に追い回され、ヤンは右へ左へと逃げ回る。
しかし、その顔はどことなく嬉しそうに見えるのは、気のせいだろうか……。
そして、その洗礼は、
「はいはい、もう『まるかぶり』の準備が出来ますからね。皆さん、席について下さい」
クロのこの一言によって終わりを見たのだった。
「えー、皆さん、落ち着いたところで……」
全員が席に着いたところを見計らって、はやてが言った。
「自分の恵方巻きを、ご確認下さい」
全員の目が、一斉にその目の前を見つめる。 その目に映るのは、海苔巻き寿司。
出来たてほやほや。
スーパーにあるようなしなびた様子なんてない、おろしたてのシャツのようなパリッとして艶々と黒光りする海苔。
これまた、一粒一粒が明らかに鍋の中で立っていたであろうと見て取れる、しゃきっとした存在感のある寿司飯。
そして、具は――。
「……流石に、そこまでは解らないだろう、作者クン?」
提督、ごもっともで御座います……。
とにかく、一見して作った人間のこだわりが見て取れる巻き寿司だった。
「わー……」
「おいしそうなの……」
「ねぇねぇ、まだダメ、なのはママ?」
「だぁめ。はやてちゃんの合図があるまではね」
「はぁい……」
「「クロちゃ(ちゃん)……?」」
「我慢だよ、二人とも」
双子は指をくわえてしょんぼりしています。
「でも、三人の気持ちも解らんでも無いわぁ」
「いや、ギガ美味そうだぜ……」
「ヴィータ、はしたないぞ」
「よだれたれてるわよ、ヴィータちゃん」
「えっ、おっとっと……(フキフキ)」
「リインにアギトも、たれてるで」
「あっ、ごめんなさいです(フキフキ)」
「(フキフキ)……それにしても、あの旦那にこんな特技があったとはなぁ」
しみじみと、アギトが呟く。
「全くだね」
ヤンが頷いた。
「と言うか、今日は殊の外こだわって作っているねぇ」
「へえー。あの人、そんなに料理が出来るんですかい、ヤンさん?」
センはヤンに尋ねた。
「趣味の範囲では結構やる方じゃないかな」
「ですね。でも、今日のは提督の仰るように、気合いが入りまくってる感じ」
「なのはちゃんに同意や」
「私も、手伝っている傍で手際とか見させてもらいましたけど、結構玄人裸足って感じでしたね」
「ああ、クロさん、本当に料理の方は任せっぱなしでごめんなさい」
「いいんですよ。その分、あの二人のことを見ていただいたんですから、おあいこですよ」
「でも、ごめんなさい」
「いやいや、そんなことは……」
「はいはい、そこまでや」
はやてが謝り合戦になりそうな、なのはとクロを制す。
「何だか、また賑やかになってきたかな?」
そう言って、キッチンから顔を出したのは、頬に一筋切傷痕のある男。
頭にはバンダナを巻き、体にはエプロンを身につけ、海苔巻き寿司の載った皿を手にしていた。
「ブーメランのおじさん、遅いよぉ」
「おそいのぉ」
「おなかぺこぺこなのぉ」
「ははっ、すまない」
笑いながら、ジェイムズ・ブッカーは子供達に謝る。
「ついつい、熱が入ってしまってね」
「ジャックさん、熱を入れるのも程々にしてくれよな……」
「ははっ、ヴィータも、他のみんなも、すまなかった」
軽く頭を下げる。
「しかし、これで最期だ」
そして、自分の席に最期の巻き寿司を置いた。
「お疲れさま、少佐」
「はッ。お待たせし、申し訳ありませんでした」
ブッカー、バンダナとエプロンを外し、ヤンにラフに敬礼。
「さて、みんな揃ったところで」
はやてが口を開く。
「今年の恵方は、南南東やから……」
方位磁石を取り出し、方角を確認する。
「こっちやね」
そして、南南東を指さして、
「えー、事前にレクチャーしたとおり、こっちに顔を向けて、この太巻きを食べます」
一拍おいて、
「ただし、食べとる間は何も喋らんこと」
コホンと咳払い。
「福が逃げたり、願いがかなわんようになってしまいますので」
そして、全員の顔を見渡して、
「解りましたね?」
全員、こっくりと頷いた。
「「あいっっ!!」」
白い双子を除いてですが。
「それでは……」
はやては、宣言した。
「まるかぶり、開始やッ!」
瞬間、その場は沈黙に包まれ、ただ黙々と海苔巻き寿司を食べる光景が展開された。
ヴィヴィオとニジュクとサンジュは、大人のものより一回り小さいものを、黙々と食べる。
リインとアギトは、更に小さいスペシャルサイズを黙々と食べていた。
ただ、ただ。
誰もが黙々と食べていた。
何を願っているのかは、解らない。
大体の察しはつくが、それを探ろうというのは野暮の極みであろう。
そっと、見守ればいいのである、彼らの幸せを祈りながら。
やがて、誰もが食べ終わった。
流石に、子供達は少し残してしまったのだが。
「うーん、おいしかったけど……」
「残っちゃった……」
「もう、おすしたべないの……」
「それでは、こんなのはどうだい?」
そう言ってブッカーが子供達に差し出したのは、オードブルの載った大皿。
様々な一口サイズの料理が、所狭しと大皿を着飾っていた。
「わあー」
「おいしそうなのっ」
「おじさん、すごいっ」
「クロさんのお陰でもあるんだよ」
クロをブッカーは見やった。
「彼女もなかなか手慣れててね。特に、彼女の郷土料理は興味深かったし、実際、なかなか美味かった。
お陰で、おれの料理のレパートリーも増えそうだ」
「へぇ。ほな、今度あたしも教えてもらおうかな、クロさんに」
「良いと思うよ、わたしも少し習ったし」
「私で良ければ、いくらでも」
「じゃあ、私も――」
「「お前は止めておけ、シャマル」」
「えー、二人して何でそう言うの、シグナムにヴィータちゃん」
「オードブルも、美味しそうですぅ……」
「うわぁ、もう我慢できねぇ」
アギト、フライングである。
「あー、まだだめだよぉ」
「ずるっこ、いけないの」
「はやてお姉ちゃんが良いって言わなきゃ、だめなのっ」
「ははッ、やれやれだね」
クロに向かって、ヤンは肩をすくめる。
「ふふッ、全くです」
苦笑して、クロは同意した。
そして、ささやかな宴が始まった。
その様子は、――皆さんのご想像にお任せしますね。
『棺担ぎのクロ。リリカル旅話』
小話其の一・了
セン「それにしても、もう少しキャラがいてもよくね?」
ヤン「いやあ、私以外に都合がつかなくてね……」
ブッカー「零の奴も連れてこようとしたら、「俺には関係ない」と言われてな……」
なのは「フェイトちゃんや他のみんなも、都合つかなくて……」
はやて「まあ、ぶっちゃけ、まだ本編やインターミッションに出てない人が多いからやけどな♪」
ヴィータ「はやて、それ言っちゃダメだって(汗)」
ザフィーラ「……ここでの私は、空気だったか」
――ごめん、入れられなかったんじゃよ……。
最終更新:2010年01月10日 02:09