デジモン・ザ・リリカルS&Fsideofspirit 第二話
「炎の闘士」
何処までも続く荒野の中をユーノとエリオは走っていた。ユーノは余裕綽々だがエリオは既に息が上がっていた。
「ハァハァ、ユーノさん速いです」
「何言ってるんだこんなの普通じゃないか!」
息を切らしながらも、エリオはユーノに言う。ユーノはどこぞのスポ根漫画のごとくエリオを特訓しながらも旅を続けていたのだ。
その理由は、一時間前のことである。
エリオにユーノはスピリットについて説明したのだ。
スピリットとは、古代デジタルワールドを救った十体のデジモンの力そのものでそれぞれ2種類あるのだ。ユーノの力はいわば、古代十闘士の力を借りているというものである。
「何故、僕らがこの力を使わないといけないか。それは今、デジタルワールド、いや全世界が崩壊の危機にさらされているからだ」
「じゃあ、ユーノさんはその為に…」
「そんな大層な理由じゃないんだ…。ただ、大切な、とても大切な人を守りたかっただけさ…。エリオは、何の為に戦ってるんだ?同じだろ。ただ、大切な人達を守りたい。それだけだろ」
「あ、そうか、そうですね」
「大切な人や皆に笑っていてほしい。だからこそ僕は戦うんだ」
ユーノの話を聞いてエリオは考え込んだ後、何かを決心した様子でユーノに頼み込んだ。
「ユーノさん!」
「何、改まって」
「お願いします!僕を強くしてください!」
「何の為に?」
「皆の笑顔を守りたいそれだけです」
「分かった。けど、特訓はキツイよ?なんたって師匠直伝だからね覚悟してね?」
「はい!頑張ります。」
そして今にいたる。
今のエリオの身体はとてつもなく重い。疲れたからではなく、本当に重いのだ。エリオの両手両足には五キロのアンカーが付けられ、背中には十キロのマントを纏っているのだから。
「ユ、ユーノさん?お、重いです」
「何言ってるんだ。この程度で!これでも、僕の四分の一以下なんだからね!」
ちなみにユーノもエリオと同じで両手両足にアンカーを付けたりしているが、両手両足のアンカーは二十五キロ、背中のマントは百キロで、約二百キロを軽々と装着し、まるで、付けてないかの様に振る舞っている。
「そんなことより、ほら見えて来たぞ。アレが『炎の街』だ」
ユーノが指差した先にあったのは目的地であり、火のスピリットの眠る場所、『炎の街』であった。そこには、デジモン達が平和そうに暮らしていた。特に一際目立っているのは大きな駅であった。その駅は『炎のターミナル』と言い、各地を走る、トレイルモンの駅の一つである。
「早く、スピリットが安置されている場所に行かなきゃな。そこまでダッシュだ!」
「ほ、本気ですか?」
「本気」
「ハァ…」
エリオは諦めた。これ以上言っても無駄だからだ。
「これは、酷い…」
「そんな…」
外から見ると平和そうに見えていたのだが、実際、街に入って見るとそこらじゅうの建物があるものは崩れ、あるものは燃え盛っていた。
「あんたら、人間だね。旅人かい?」
「わ、あなたは?」
ユーノ達が荒れ果てた街の様子を観察していると、後ろから声が響いた。そこには、ゴツゴツした岩のようなデジモンが居たのである。
「スマン、スマン。久しぶりに人間にあったもんでつい。わしゃあこの街を仕切っとった、インセキモンと申します。以後、お見知りお気を」
「あ、どうも。僕は、ユーノ・スクライアと言います。で、こちらにいるのが一緒に旅をしているエリオです」
「エリオ・モンディアルです!ヨロシクお願いします!」
「悪いことは言わん。早く、ここから逃げたなさい」
「待ってください、インセキモンさん、何が起こったんですか?」
「説明が必要じゃのう。あれは、三日前のことじゃった。近くの岩山に住み着いとる、ケルベロモンが突然、街を襲ったんじゃ!何でも『力を試すんだ』と言ったらしい」
「それで、こんなに街が荒れてるんですね」
「その通りじゃ…」
「街の人達はどうしたんですか?」
「皆、避難したよ。ここにおるのはわしだけじゃ」
「何で、ずっとここに居るんですか?」
「ワシには此処しか無いんじゃよ。」
「それも終わるんだなぁ!」
インセキモンが話していると、その場に声が響いた。ユーノが声が聞こえた場所を見ると三つの首を持つ黒きデジモンがいた。
「ケルベロモン、まだ壊し足りんのか!」
「まだだ、まだ焼き足りねぇんだよぉ!」
「外道が…」
「何だ、文句でもあんのか。俺は強くなったんだ!強さこそ全てだ!」
「強くなった?笑わせるんじゃない!貴様は弱い、心も覚悟も意志も弱いんだ!」
「そうかよ、まあいい。俺は忙しいんでな。いけ、野郎共!」
そう言ったケルベロモンの周りには大量のクワガーモンがいた。
「じゃあな!」
「待て!クッ、まずはこいつらか!二人共下がってて!スピリットエボリューション」
その声と共にユーノはヴォルフモンとなりクワガーモンの大群へと挑んでいった。ヴォルフモンはとてつもない強さでクワガーモンを蹴散らしていくが何せ数が数だ。時間がかかる。その間にケルベロモンは、口から火を放ち、次々と建物を燃やし尽くした。
「燃えろ、燃えろ、燃え尽きろぉ!」
「止めろ、止めてくれ!」
ケルベロモンが街を燃やし尽くす中、エリオは己の無力を痛感した。
「僕は、何も出来ない。無力なんだ…」
「そうだ、無力だぁ!」
「でも、でも、目の前の命を全てを救いたいんだぁ!」
叫ぶエリオの心には、不屈の炎が燃え盛っていた。それに呼応するかの様に、エリオのディースキャナが真紅の光を放った。
その瞬間、エリオの周りを灼熱の業火が包んだ。
「この…、ウオォ、あちぃ!」
ケルベロモンは攻撃しようとするが自らの身体が逆に焼けてしまった。エリオの目の前には赤き鎧、「火のスピリット」が現れ、エリオへと吸い込まれていった。そして、エリオは決意と共に叫ぶ!
「スピリットエボリューション」
刹那、エリオの身体は赤き炎に包まれ、その身に、古代十闘士『エンシェントグレイモン』の力を宿す、火の戦士が誕生する。
『アグニモン』
アグニモンは地面に降り立つとケルベロモンを指差し宣言した。
「お前は、僕に勝つことは出来ない」
「ふざけんなぁ!くらえ、ヘルファイアー!」
ケルベロモンはアグニモンに向けて、地獄の業火を放つがアグニモンは片手で受け止めると、
「こんな炎は炎とも呼ぶに値しない」
そう言って一瞬で消しとばした。
「くそぉ!ふざけんなぁ!」
ケルベロモンが勢いよく飛びかかって来たが、アグニモンは回し蹴りで遠くに蹴り飛ばした。
「こちらからいくぞ、サラマンライダァーキック!」
ケルベロモンが突っ込んだ壁に向けて、ダッシュ。すると、炎の龍となってケルベロモンを更に吹き飛ばした。
「このまま…、やられてたまるか」
「これで、終りだ!サラマンダァーブレェェイクゥ!」
アグニモンはそう言うと回転しながら炎のキックをケルベロモンへと叩き込んだ。
「グギャアァ!」
そう言い残し、ケルベロモンはデジコードへと姿を変えた。そして、そのデジコードにディースキャナをあて、元の姿に戻ったエリオは言葉を呟きながらスキャンした。
「汚れた悪の魂を、このデジヴァイスが浄化する!」
ケルベロモンの浄化を終え、ユーノの元に走ると、ユーノは案の定最後の二体と対峙していた。
「ユーノさん!」
「来るな!これで終わらせる。」
すると、その右手には獅子の形にエネルギーが集まっていた。
「師匠直伝、獣王拳!!」
「ギャアァァ!」
右手から放たれた獅子の形をしたオーラは、二体のクワガーモンをあっという間に消し去った。
「ユーノさん!」
「大丈夫、何ともないよ」
「ありがとうございます。おかげで街が助かりました。お詫びと言っては何ですがしばらく泊まりなさい」
「いいんですか?」
「えぇ、どうぞ。丁度あの娘も帰って来たみたいですし」
「あの娘?」
ユーノとエリオが首をかしげると辺りに声が響いた。
「お~い、インセキモンのおじいちゃ~ん、戻りましたぁ!」
長老の視線の先にはショートカットの似合う一人の女性がいた。ユーノはそれを見た瞬間、スッコケた。
「おぉ、無事に戻ったか、エイミィ!」
「え、エイミィ(さん)!」
次回
デジモン・ザ・リリカルS&Fsideofspirit 第三話
「乙女旋風」
お楽しみに!
最終更新:2008年02月13日 19:40