「……なるほどな。話は分かった」
私達は今、杜王町の郊外で承太郎さんと向かい合っている。周囲に人影は無い。
バス停で出会い自己紹介を済ませた後、ここじゃあマズイという承太郎さんに連れられてやって来たのだ。
そこでこちらの調査内容を告げ、返ってきた答えがこれだった。
この数分間で分かったことなのだが、承太郎さんは必要最低限のことしか話さない。
これが意外と厄介だった。普通の人ならただの無口で済むのだが、承太郎さんに無言で見つめられると何だか叱られている気分になってくる。
「それで……その、何か、心当たりはありませんか?」
恐る恐る、といった感じでスバルが聞く。承太郎さんの無言のプレッシャーに耐えきれなかったのだろう。ちなみに私もそろそろ限界だった。
「……おそらく、君達が捜している『違法魔導師』と、俺達が追っている『殺人鬼』は同一人物だろう」
『殺人鬼』。この穏やかな町にはふさわしくない言葉だと思った。
「殺人鬼……」
「そうだ。この杜王町には殺人鬼が潜んでいる。そいつは十五年間誰にも知られる事なく人殺しを続けてきた。
杜王町での失踪者の大半はそいつの犠牲者だ」
データで見た限りでも杜王町の失踪者は五十人以上居たはずだ。その大半は既に、殺されている。嫌な事実だった。
「……そして、君達はそいつを『違法魔導師』だと思っている様だが……おそらくそうじゃあない」
「『魔導師』じゃあ……ない……?」
私達にとっては信じがたい事だが、承太郎さんは何か『確信』を持っているようだった。
「……数日前に、その殺人鬼に殺された少年がいる。名前は矢安宮重清。友人には重ちーと呼ばれていた。まだ中学生だった……」
「……ッ!」
思わず息を飲んだ。私達がやって来るほんの少し前にも人が殺されたのだ。
胸の中に黒いもやもやとした何かが浮かんでくるのが分かる。
承太郎さんは話を続ける。
「……ここからが本題なんだが、『重ちー』はある『特殊な能力』を持っていた」
「『能力』……ですか?」
「そうだ。俺達はその能力の事を『スタンド』と呼んでいる。どんなものかってーのは後で説明する。
この『重ちー』の『スタンド』はかなり強力でな……同じ『スタンド使い』でも勝てるヤツはそうそういないだろう」
この世界では魔法は確認されていないはず。
『スタンド』。魔法ではない謎の能力……
更に、承太郎さんは“同じ”スタンド使いでも、と言った。それはつまり……
「『スタンド使い』は何人もいる……ということですか……?」
「そうだ。『スタンド』はある条件を満たせば発現する一種の『才能』だ。才能さえあれば人に限らず犬やネズミすら『スタンド使い』になる」
「承太郎さんは犯人は『スタンド使い』だと考えているんですか?」
承太郎さんはああ、と短く、だが確かな自信を目に宿らせて肯定した。
「で、でも……殺された子が『スタンド使い』だからって、犯人も『スタンド使い』とは限らないんじゃ……」
おずおずとスバルが意見を述べた。まだ承太郎さんに萎縮しているのだろう。もちろん私もビビっている。このプレッシャーには慣れそうもない。
「ああ、その通りだ。それだけでは『スタンド使い』が犯人だと言い切ることはできない。君達の言うように『魔導師』の可能性もある」
「え!?」
あれほど強い口調で断言した割に、承太郎さんはあっさりと認めた。
予想もしていなかった返答にスバルは戸惑いを露にしている。
「……君達にはこれが『見える』か?」
立てた親指で自分の背後を指しているが、何も『見えない』。注意深く見てみてもやはりそこには何も無いように思える。
スバルにも何も見えていないらしく、うんうん唸りながら目を凝らしている。
「その様子じゃ『見えていない』らしいな。……『魔導師』ならもしや、と思ったんだがな。
だが、これで分かったぜ。やはり犯人は『スタンド使い』だ」
もしこれがマンガなら私達の頭の上にはクエスチョンマークが三つほど並んでいることだろう。
承太郎さんは何か納得したらしいが私達にはサッパリ分からない。
「話していなかったが、俺も『スタンド使い』だ。そして今俺は『スタンド』を……『スタープラチナ』という名前だが、発現させている」
「え!? でも何も……!」
スバルは言いかけて気付いたようだった。承太郎さんは『見えるか』と尋ねた。それはつまり、『見えない者』がいるということ。
「『スタンド』は『スタンド使い』にしか見ることは出来ず……そして『スタンド』は『スタンド』でしか倒せない。
……後者についてはまだ分からないがな。魔法でなら倒せるかもしれん。
だが、『スタンド』が見えないヤツに重ちーが負けるとは思えない。殺人鬼は『スタンド使い』! これは間違いないだろう……」
「犯人について分かっていることは『三つ』!
- 性別は男・スゴ腕のスタンド使いである・今も杜王町に潜んでいる!
これだけだ。犯人は十五年間この町で殺しを続けている……他の町へ逃げたりはしないはずだ……
だからこそ、犯人を追い詰めることができる!」
そう言った承太郎さんは、コートのポケットから何かを取り出した。
「この『ボタン』は遺言だ……『重ちー』が最後の力で届けた、唯一の『証拠品』。
今はこいつの聞き込み調査を行っている。
……だが、どうにも人手が足りなくてな。時間が掛かっている。君達にも協力してもらいたいんだが……頼めるか?」
「は、はいっ!」
先に答えたのはスバルだった。少しばかり声が上擦ってしまっていたが、『絶対に殺人鬼を捕まえる!』という決意が伝わってきた。
こういう時に恐れず、迷いなく自分の正義を貫こうとするスバルを羨ましく思う。
正直に言えば、私は少し恐かった。JS事件を経て、成長したという自覚はある。
それでも、得体の知れない能力を持った殺人鬼を私は恐れているのだ。……いつまでも変われない自分が嫌になる。
だが、怯えていたのでは仕事にならない。恐怖を押し殺して返事をする。
「……大丈夫です。任せてください」
スバルには気付かれたかもしれない。あの娘は妙に敏感なところがあるから。
「ン……そう言ってもらえると助かる。
ホテルに部屋を取ってある。杜王町にいる間はそこを自由に使ってくれて構わない。
それと……これは捜査協力者のリストだ。何か分かったらそいつらにも教えてやってくれ。
聞き込みは明日から始めてくれればいい。
俺はちとヤボ用があるんでな……今日はこれで失礼させてもらうぜ」
承太郎さんが去ってからも、私はそこから動けなかった。
「……今日はもうホテルで休もっか? 承太郎さんも明日からでいいって言ってたし。ね、ティア」
「ゴメン、先に行ってて……ちょっと一人で考えたいの……」
気を使ってくれたようだったが、今はそれが辛かった。
「ティア……」
「大丈夫……大丈夫だから……お願い」
スバルはそれ以上何も言わずに立ち去った。時折心配そうにこちらを振り返っていたが、気付かないフリをした。
「何やってんだろ、私……」
心の中に立ちこめた暗雲は、しばらく晴れそうになかった。
TO BE CONTINUED
最終更新:2008年02月19日 20:11