◇  ◇  ◇

……燃え盛る炎の中、一人の少女が泣いていた。

 逃げ遅れ、取り残された彼女の背後で、何かがひび割れるような音がする。
 そこにあるのは、巨大な女神像。それが熱に炙られ、今まさに少女の上に倒れ込もうと……

「あぶねぇ!!」

 轟音、宙に浮く感触。

 気が付くと少女は、一人の男の腕の中にいた。
 巌(いわお)の如く鍛えられた胸板と、その奥にたぎる熱き魂。ややあって、その男、いや漢が、女神像を鉄拳で粉砕し、自分を助けたと理解する。

「あ、ありがとうございます!私、スバル・ナカジマと……」
 少女、いや、スバルの自己紹介に漢も名乗り返す。

「俺は天花寺(てんげいじ)大悟。日本人だ!」

『ダブルクロス・リリカル・トワイライトStS 天からの快男児』

 夜空に走る、一筋の魔力光。
 二人の要救助者、スバルと大悟を抱えた高町なのはがゆっくりと舞い上がり、そして安全地帯に降りてきた。
「メーフィッフィッ!流石の高町君も、天花寺君を抱えて飛ぶのは辛かったようじゃな」
 軽口を叩きつつ、待機していた老医師がスバルを受け取り、手当を始める。
 その体の秘密に気が付きはしたが、特に何も言わない。この場では。

「あ、テンゲイジさん、でしたか?」
「大悟でいいぜ」
「では大悟さん、何故、あの場所に?」
「何故って……困っている人を放って置けない質でな。ま、面倒は嫌いなんで、俺は行かせて貰うぜ」
「え!? あ、大悟さん!色々と、お話を聞かせて貰いたい事が……」
「話す事なんかないさ。後ドクター、変な事するなよ?」
 去っていく大悟を止めようとしたなのはを、更に老医師が引き留める。
「細かい事は気にするだけ無駄じゃよ。何故ならあ奴は、快男児じゃからな」
「……先生、彼の事を知ってるんですか?」
 問われた老医師は、懐かしむようにぽつりと、
「昔、人の道を外れたワシに、償いをしろ、とな……」

そしてスバル。彼女の幼き心にその背中は焼き付き、

「私も、強くなりたい!」

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最終更新:2008年03月29日 13:49