『どうしようも無かったんだっ!!
軍曹も! 中尉もっ! すっかり奴らに『感染』されちまってたんだっ!!
奴ら突然そこいらじゅうから湧いてきやがって、中尉たちは逃げる暇さえ……。
……あっという間だったんだっ、あのクソ蟲共が中尉たちに飛び掛って……。
皮膚のっ、皮膚の下を這いずり回っているのが見えたんだ……。
そうしたら倒れてた中尉たちが急に立ち上がって……喋りだしたんだっ!
あぁ畜生っ、あの声が耳から離れない!
頼むから誰か! 誰かあの声を止めてくれえぇぇええぇぇぇっっ!!
…………畜生……ちっくしょうぅ……俺のせいじゃないっ……。
こうするしか無かったんだっ! 二人を止めるにはこうするしか無かった!!
俺は二人を助けたんだ! 助けてやったんだ!!
……うっうぅ…………なあ頼むよ……俺を…………俺も、助けてくれないか』
<国連宇宙軍海兵隊ヴォイ駐屯基地所属
ケニー・ローガン伍長(9・27・2553KIA)最後の会話ログより>
『運命は存在するのか?』
この問いの答えは実に多様だ。
ある宗教家は言う。
――それは神の御導きなのだ、と。
ある無神論者は言う。
――私はそんなものを見た事が無い、と。
ある学者は言う。
――それは統計から見たとき観測される不確定要素だ、と。
その答えが正しいかは誰にも分からない。
だが、世の中には数奇な事件がある。
冗談のような奇蹟もあれば、
悪魔のような偶然も存在する。
きっと人は、理解できない因果関係を『運命』と一括りにするのだろう。
そういった意味では、『ソレ』は正しく最悪の運命だった。
新暦72年。
その年、管理局本局で新たな次元世界が観測された。
次元世界が新たに発見された場合、調査艦を派遣し対象次元世界で、魔法技術もしくは次元世界移動技術が存在するか確認することが管理局法によって定められている。
その調査結果によって、国交を結ぶか管理外世界として監視を行うかが決定される。
観測された次元世界は第180観測指定世界と名称され、同年8月、最新型のⅩⅤ級大型次元航行船『ユミル』が調査艦として第180観測指定世界へ派遣された。
調査艦ユミルが対象次元世界へ転移して48分後、彼らは想定より遥かに――もはや事故と表現して差し支えないほど早期に、当該世界の知的生命体との接触を果たした。
調査を開始したユミルの広域スキャンが天体、それも人工物と思われる衛星規模の天体を発見した直後、『彼ら』は現れた。
突如ユミルの前方を塞ぐ形で転移してきた3隻の所属不明艦。
大質量の転移という高等魔法技術を用いながらも、該当データの存在しない艦船。
曲線で構成された暗紺色の艦船は、優美さよりもむしろ不気味さを覚えさせるほど機能性を追求した無駄の無い船体。
ユミル艦長G・ロバーツ提督は勤続40年のベテランであり、現役魔導士時代には執務官として管理・管理外世界を問わず様々な相手との交渉を経験した有能な人材である。
突発的事態にも関わらず狼狽することなく提督は、当該世界を高度の魔法技術を有する次元世界と判断し『彼ら』との交渉及び此方に戦闘意志が無いことを証明するため対象艦船との通信を図った。
通信規格変換のための十数分間の沈黙の後、ユミルは『彼ら』との通信に成功する。
――――それが悪夢の契機だった。
もしも、観測されたのが後2年遅かったならば。
もしも、調査艦ユミルが太陽系圏内に転移したのならば。
もしも、提督が交渉を断念し撤退していれば。
どれか一つでも要素が違っていれば、結末はより穏便なものとなっていただろう。
だが現実はまるで歯車が噛み合うように、悪魔のような偶然が重なっていた。
重なってしまったのだ。
ユミルのブリッジに映し出されたのは、一人の亜人だった。
下顎が存在しない、肉食昆虫のような二対の強靭な顎。
二足歩行でありながら、ホモサピエンスとは根本から異なる爬虫類のような体躯。
2メートルを優に越える長身。
人間のソレを遥かに上回る鍛え抜かれた筋肉。
機能的でありながら、同時に相手を威嚇するように作られた鎧。
――亜人は正に、生まれながらの『戦士』であった。
『オオオオオォオオォォォッッ!!!』
突如ユミルのブリッジに獣のような雄叫びが響く。
亜人がモニター越しにユミルの乗員へ向け、雄叫びを上げていた。
それは恐れでも、警戒の声でもない。
――戦の狼煙を上げる咆哮だった。
――衝撃。
大きく揺れるユミル船内。
船内の明かりが消え、代わりに非常用のレッドランプが点灯する。
再び衝撃。
何人かのスタッフが衝撃により吹き飛ばされる。
レッドランプが慌しくブリッジを照らし、合成の警告音声がアラートと共に騒々しく鳴り響く。
ブリッジに提督の怒号のような指示が飛ぶ。
――衝撃。
それが、後日回収されたブラックボックスが最後に記録した映像である。
ユミルが当該世界での知的生命体との接触を報告した直後、同艦から発信された救難信号。
管理局本局はユミルが対象種族との交渉に失敗したと判断。
即座にユミルの姉妹艦であるⅩⅤ級大型次元航行船『ヒュンドラ』を旗艦とし『ナルヴィ』『ボルソルン』の3隻で構成された捜索隊が第180観測指定世界へ派遣された。
第180観測指定世界に到着した調査隊が発見したものは、デブリの海と化した『ユミル』と、彼らの目前に鎮座している3隻の所属不明艦だった。
否、所属不明艦たちは鎮座していたのでない。
所属不明艦――『敵』は戦闘機を発進させ、救難艇で脱出したユミル乗員生存者を執拗なまでに虐殺していたのだ。
現状は明確だった。
最新鋭艦ユミルは敵性艦船の攻撃を受け沈没、生存者は無し。
ユミルが残した通信と敵性艦船の行動からして、『敵』は攻撃に一切の躊躇も無い。
到着した3隻の目前には敵性艦船が3隻。
現状は明確――戦闘状況である。
彼らの判断は迅速だった。
救援信号を出した同僚は既に宇宙の藻屑と化し、目前には砲口をこちらへ向けた敵。
救助という目的は消失している以上、これ以上当宙域に留まり戦闘を誘発させるのは徒労でしかない。
『ヒュンドラ』『ボルソルン』の両艦長は直ちに転送魔法を準備。敵へ向けた砲塔は、あくまでも時間稼ぎのブラフ。
通信を行わずとも実行された一糸乱れぬ連携は、現役時代から同僚としてコンビを組んできた両艦長こそが為せる技だった。
だが、ここで問題が発生する。
ヒュンドラがナルヴィへ撤退を指示する前に、ナルヴィが敵艦へ向け突撃を開始したのである。
ナルヴィ艦長は若年でありながら昨年提督に就任したばかりであったが、高ランク魔導士として多くの任務を成功させてきた優秀な執務官であったことが調査隊選抜の決め手となった。
だが、彼は若すぎた。
先月結婚式を挙げたばかりの妻が、二週間後にはオペレーターの職を辞し家庭に入る筈だった最愛の人が。
彼へ助けを求める声諸共、救難艇ごと宇宙の藻屑と消えていった光景を看過するには。
彼は、あまりにも若すぎた。
ヒュンドラ・ボルソルン両艦長の制止を振り切り、ナルヴィは突撃を敢行。
ナルヴィが敵艦との交戦距離に突入した直後、ナルヴィ周辺で大規模な磁場の歪みが発生。
――大質量転移、その数6隻。
先行したナルヴィの周囲を、後続のヒュンドラ・ボルソルンと分断する形で新たな敵艦が転移してきたのだ。
彼我戦力は3:1、陣形は此方に圧倒的に不利。
暦が新暦に変更されて以来数える程度にしか発生していなかった艦隊戦の幕は、最悪の状態で切って落とされた。
ユミルと調査隊が遭遇した知的生命体は――『コブナント』
複数の種族で構成された異種族間連合の総称であり。
彼らが交戦したのはコブナントの中でも最強の戦士種族『サンヘイリ』
何よりコブナントたちは。
――――ホモサピエンスと生存を賭けた種族戦争の真っ最中だったのだ。
もしも後2年調査が遅れていれば、コブナントと人類との戦争は終結していたのに。
もしもユミルが第180観測指定世界にも存在する太陽系に転移していれば……否。コブナントの本拠地、人工都市『ハイチャリティ』近辺に転移していなければ。
事態は悪夢のような最悪の要素を以って発生したのだ。
結論から言えば、管理局とコブナントのファーストコンタクトは最悪の形となった。
ⅩⅤ級大型次元航行船『ユミル』……撃沈、生存者無し。
フライトレコーダーは後日、極秘編成された調査隊によって回収。
同型船『ナルヴィ』……撃沈、生存者23名内重傷者8名。敵突撃艇により艦内に敵部隊が侵入、武装隊との激しい戦闘が行われる。
艦長K・ミヤジマ一佐は脱出指揮の際戦死。
同型船『ボルソルン』……大破、本局まで自力航行するものの半年後廃艦。生存者56名内重軽傷者合わせて25名。
ナルヴィ脱出艇を救助するヒュンドラを援護、文字通りヒュンドラの盾となり救助活動を支援する。艦長D・ケーニッツ二佐は救助支援指揮の際負傷、帰還中死亡する。
同型船調査隊旗艦『ヒュンドラ』……小破、重軽傷者5名を出すが
死亡者無し。
帰還後、艦長B・マクレガー提督には査問会への出頭命令が下る。査問会では提督に責任無しとの判断が下されたが、提督は査問会終了後自主的に管理局を辞す。
最新鋭艦を3隻失い、佐官以下150名を越える死者を出した今回の事件は、管理局上層部に大き過ぎる衝撃を与えた。
最新鋭の装備、優秀な人材の喪失、そしてそれを為した正体不明の種族。局内の混乱を抑えるため、上層部は事件を最上級機密事項に指定した。
だが、上層部は被害よりも注目したものがあった。
ヒュンドラ・ボルソルンの交戦データでは敵艦船から――魔力を一切検知できなかったのだ。
つまり、『敵』は“魔法技術を一切使用せずに”大質量転移を行い、管理局の最新鋭艦隊を完膚なきまでに撃破したのだ。
管理局史上最大の衝撃である。
たしかに過去の歴史ではミッドチルダでも質量兵器は運用していた。
だが、それはあくまで魔導を主力機関としたものである。
それを『敵』は魔導の力を一切行使せず、未知のテクノロジーだけで管理局と拮抗……否、上回ってみせたのだ。
古今東西、未知の文明に触れたときの人間の感情は主に二種類だ。
――未知の敵への畏れ。
――未知の技術への欲望。
人間は、見知らぬ力に恐怖を抱き、同時にそれを渇望する。
恐れを知るからこそ人は、恐怖から逃れるために、恐怖を使役する力を欲するのだ。
第180観測指定世界を隔離世界に指定しながらも、管理局上層部は内密に調査を続けた。
――第180観測指定世界は本当に魔法技術が存在しないのか?
――管理局ですら認識できないロストロギアを『敵』は保有しているのではないか?
――そもそも管理局の戦力と拮抗でき、人類に無条件の敵対行動を取る『敵』を野放しにして良いのか?
――ならば調査せよ。世界を守るため、正義を守るために行動せよ。
欲望を正義という大義名分で覆い隠しながら、彼らは静かに行動を開始した。
表向きは隔離世界として一切の移動を禁じた第180観測指定世界へ、上層部は新たに極秘の調査隊編成・派遣した。
派遣された調査隊はこれまでの調査手法から大きく逸脱した異色なものだった。
本来調査任務には不慮の事態への対応能力と、長期任務に適した生活環境を持つ大型次元航行船が調査艦に任命される。
だが選ばれた艦船は、通常ならば長期調査任務には決して選ばれない早期警戒レーダー艦。
ステルス性を追求するため居住性を捨て小型軽量化した船体は、長期任務では乗組員に多大な精神負荷を与える。
選抜された調査員は全てAランク以上の精鋭。さらに希少性から虎の子扱いされる補助魔法特化型のAAA魔導士が、調査隊隊長として任命された。
管理局にとっては己の血液同然の精鋭魔導士。
彼らを劣悪な環境に押し込みながらも、第180観測指定世界への調査は極秘に、かつ執拗に行われることとなる。
調査が開始されてから数年。
調査隊は現地種族との小規模な戦闘を繰り返し、決して戦死と認められぬ死亡者を出しながら、彼らは上層部が望んだ以上の成果を出した。
ユミルたち調査隊を沈めた敵の名前が『コブナント』であること。
第180観測指定世界が、『あの』第97管理外世界に酷似していること。
第180観測指定世界にも太陽系が存在し、第97管理外世界にある地球とほぼ同様の『地球』が存在すること。但し、その暦は第97管理外世界のソレより500年以上進んでいること。
その『地球』では人類が30年近くに渡り『コブナント』との戦争状態にあり、人類は絶滅寸前であったこと。
コブナント内で内乱が発生し、それが原因で戦争は新暦74年時点で終結したこと。
――そしてなによりも。
コブナントたちは『フォアランナー』と呼ばれる、既に滅んだ文明の遺産を利用していること。
彼らの技術の多くは『フォアランナー』の技術を流用したものであり、その技術は管理局ですら観測したことがない高度構築文明であった。
新暦77年8月。奇しくも最初の調査隊が撃沈されてから丁度五年後。
この報告を受け、本局上層部は第180観測指定世界への『特別調査』……事実上の強制執行を決定する。
調査隊にSランク魔導士フェイト・T・ハラオウン執務官及び執務官補佐含むAランク魔導士数名を派遣。
ハラオウン執務官を小隊指揮官とし、調査隊隊員及び増援人員でロストロギア回収部隊を編成。コブナントが管理する遺跡――人口環状惑星の残骸へ投入した。
磁気嵐を利用し、コブナントの哨戒網を欺いた回収作戦は成功。ロストロギアと思われる長さ2メートル・高さ50センチの“棺状”の『箱』を回収した。
しかし、ここで問題が発生した。
『箱』を回収した際にセキュリティが発動。彼らの作戦がコブナント全部隊に発覚してしまったのである。
調査艦はレーダー艦であるため対艦船が可能な武装を有しておらず、潜入した小隊は援護を受けることもできずに、遺跡内でコブナントの戦闘部隊を交戦することとなった。
小隊は負傷者を出したもの、ハラオウン執務官の尽力により撤退に成功。調査艦からの転送により『箱』の回収に成功する。
だが、転移直前に小隊隊員二名が負傷。
負傷した彼らを援護するために執務官補佐一名が交戦するものの、調査隊隊長の判断によりロストロギア回収が優先され、執務官補佐以下三名は遺跡に取り残されることとなった。
調査隊隊長はハラオウン執務官の救助要請を却下。調査隊は三名の欠員を出しながらも管理局本局へ帰還した。
作戦成功から26時間後、第180観測指定世界で回収されたロストロギアはミッドチルダの研究施設へ移送される。
ミッドチルダ辺境アルトセイム地方。
37年前に発生したクラナガンでのエネルギー駆動炉「ヒュードラ」暴走事件。
その経験を反省し、最悪の事態を想定して必要以上の被害を出さないため、周囲に人口が存在しない山中に建造された大型研究施設――『ナーストレンド』
大規模な研究施設に加え、研究員とその家族のための居住区域を備えた“研究都市”とも言える此の地に、『箱』は移送されてきた。
新暦77年8月14日。
真夏の日差しとミッドチルダ南部独特の気候により、酷く蒸し暑い一日。
その日、『ナーストレンド』――なんの因果か、第97管理外世界の神話において『死者の都』と称されるその都市に“棺”が運び込まれた。
かつて、一つの銀河を喰い尽くした災厄。
ひとたび開かれれば、死者が踊り生者が喰われる地獄を産み出すパンドラの箱。
数多の世界を管理する正義の使者。
彼らの寝屋に今――――災厄が静かに降り立った。
「HALO StrikerS ~GunGirl with SwordMen~」
Level0――『発端』
For next level――1.
世界観説明
BUGiE社が開発したFPS(一人称シューティング)ゲーム。現在三作品がシリーズ化されており、「HALO」「HALO2」はPC・XBOX。「HALO3」はXBOX360で販売されている。
典型的なSF型FPSだが優れた操作性やシステム面を持ち、現在コンシューマー機でのFPSの代表作とされる。
ストーリーは良くも悪くもハリウッド的、壮大かつ大雑把。事前情報が無いと途中でストーリー把握に混乱を生じる。
アメリカ人に与えると興奮しますので、必要以上に与えないで下さい。
2100年代、人類は216の紛争を経て地球統一政府を樹立する。
その後2200年代に入ると恒星間移動の研究が始まり、2300年代には太陽系外の惑星に入植を開始。2400年代末期には植民地惑星の数は800を越える。
しかし2525年、最辺境の植民地惑星ハーベストからの通信が途絶える
統一政府は調査艦隊を派遣するものの、艦隊は壊滅。唯一帰還した艦により『コブナント』の存在が確認される。
その後コブナントより宣戦布告、内容は「神の敵である異端者は滅ぼす」という一方的な殲滅宣言だった。
コブナントの持つ高い技術力と物量により、人類は各地で苦戦を強いられ、2553年には殆どの植民地を失うこととなる。
2553年、人類はコブナントに対する総反攻作戦を計画。僅かに残された植民地惑星リーチにSPARTANⅡ部隊を含む機甲部隊を集結させる。
しかし作戦を察知したコブナントは大艦隊を派遣し、リーチでは激しい戦闘が繰り広げられる。
その結果、惑星リーチは文字通り崩壊。
人類の艦隊が唯一残された領土である地球へ撤退していく中、大型戦艦「オータム」は友軍の撤退を援護するため単身コブナント艦隊の囮となり、当ての無い逃避行を実行する。
そのオータム艦内には、僅か数名となったSPARTANⅡ生存者、SPARTAN-117こと「マスターチーフ」が冷凍睡眠に就いていた。
→「HALO1」作中へ続く。
最終更新:2008年02月28日 20:56