――渇くのだ。
「罪とはなんだ?」
――狂おしいのだ。
「私は決して後悔などしない」
――”四月に降る雪”のように、如何なる事象も心に溶けて、何も残らない。
何一つ満足出来ない。
だから、だから――
「無限の欲望と嘲笑うならば笑え。狂人だと罵るならば、好きにするがいい」
私は世界を手に入れよう。
ただ一つの悪として、“望まない正義”を打倒する。
ただ一つの人間らしさを演じるために、復讐を開始する。
武器はただ一つ、この頭脳のみ。
作り上げられた偽りの肉体。もはや遠き果てに消え去った理想郷の残骸。
――質量兵器。
――戦闘機人。
――AMF。
――IS。
魔法には届かない、古ぼけた技術たち。
されど、奇跡を否定する手段。
「魔法なぞ使えやしない。しかし、人の武器はそれだけではない」
不完全な肉体。
活性化しないリンカーコア。
魔法という奇跡には届かない手。
求められたのはひ弱な科学者。開発者。ただの手駒。
古ぼけた盲目の正義を掲げる亡霊の命じるままの生涯。
――ふざけるな。
それに従順するのは、盲目的に従うなどと、決して許せない。
人として、狂人という名の人として、私は逆らうだろう。
私から奪うな。
――自由を。
私から欲しがるな。
――全てを。
私は奪うものだ。
なにもかも奪いつくし、私は私が望む結果を弾き出す。
そのためならば“世界”すらも敵に回して見せよう。
「正義の敵。世界の敵。それを相手にするならば、悪として相応しいと思わないかね?」
――死は何もかも引き付ける。まるで重力のように、まるで欲望のように。
ならば相応しき死なんだろうか。
無限の欲望に相応しき結末は。
私は突き進む。
私は止まらない。
幻覚の少女が嘲笑う中で、私は奇跡を否定し、得るはずだった魔法の代わりに銃を持った。
弾けるように、どこまでも死を自分自身に刻み付けるために。
世界に反抗する手駒は12。
魔法という奇跡には届かない道具。
奇跡から見捨てられた人形たち。
盲目の亡霊たちが命じるままに作り上げられた、正義の犠牲者たち。
理不尽には立ち向かえない。
魔法には届かない。
下らないトリックだけしか能が無い。
されど、それで私は世界に反抗する。
本当の正義に叩き潰されるまで。
――過ちだと分かっている。
「許されざる行為だと、自覚している」
――幾多の犠牲を出した。
「私の力が届かぬばかりに」
――友が死んだ。
「私は救われぬだろう」
否、救われることなど当に期待していない。
あの日、あの時、友の背中を掴めなかった。
そして、その事すらも踏み台に、私は生きている。
盲目の正義たちに、僅かな反抗をしながら生かされている。
こんな正義のために、友は死んだのか?
あの日、望んだ正義は、平和はこのような世界を作り上げるためだったのか?
奇跡など望んでいない。
輝くような光景など望んでいない。
御伽噺のような結末など望んでいない。
ただ、欲しかったのは――当たり前の情景。
誰もが平和に生きて、ただそれを守るだけの力と心を求めていただけだった。
一握りの力が、全てなのではないのだ。
才能で、全てが決まってはいけないのだ。
誰もが守れる世界を望んでいたのだ。
特別など必要ない。
奇跡なんて起こす必要も無い。
欲しかったのは、当たり前の平和だった。
永遠絶対の結果など、身に余る願いなのだと気づいている。
夢を抱くには歳を取りすぎた。
だから。
だから――
「五十……いや、百年の平和を築き上げるのだ」
そのためならば、この身など悪魔に売り捌いてやろう。
悪を名乗る怪物に、誇りすらもくれてやる。
罪深い。
私は悪だ。
本当の正義のための、生贄になるのならば本望だ。
「英雄など欲しくは無い」
英霊よ。
幾多の私が救えなかったものたちよ。
私を呪うがいい。
私を殺すがいい。
犠牲無き平和を築くことの出来ない無能を罵るがいい。
「願わくば、友の手によって死ねる日を祈る」
世界に生まれたのは二つの悪。
正義を掲げる偽善に作られた未完成の怪物。
正義を掲げる偽善に抗う無力な老骨。
誰にも理解される必要も無く。
誰もが罵るであろう悪。
その結末を知るのは世界のみ。
彼らは世界の敵か?
それとも――
全ては“ニュルンベルグのマイスタージンガー”の調べと共に。
「君は……世界の敵か?」
自動的な世界の敵の敵が訪れる。
リリカルなのはクロス【アンリミテッド・エンドライン】
胎動編 今夜投下予定。
最終更新:2008年02月28日 21:36