大食い地獄
なんでこんなことに――とユーノ・スクライアは絶望的な量のオムライスを見て思った。
皿は大皿料理のそれであり、どう見ても一人前の皿ではない。
その上にはこれでもか、トマトケチャップで真っ赤に染まったチキンライスが小山のように盛られ、黄色い卵の薄焼きがそれを覆い尽くしている。
真紅の血のようなケチャップがぶちゅう、という音ともにかけられていく。
ハート型。
なんのつもりだ。
ケチャップをかけた張本人――クロノ・ハラオウンがにやりと笑った。
「どうしたんだい、ユーノ。やはりフェレットで少食の君じゃあ荷が重い――」
だん、と机を叩いてクロノを睨みつける。誰がフェレットだ――。
「いや――食べられるね。そういう君こそ残すなよ」
「勿論だ、執務官をなめるな」
見ればクロノの前にも尋常ならざる量のオムライスがある。
男どもの見苦しい大食い勝負の、始まりであった。
『いただきます』
双方、スプーンを手に取る。
地獄開始。遠くでアホウ鳥が鳴いていた。
発端は、実にくだらないことであった。周りが奇特な女性ばかりで困り果てている野郎二人。友情が芽生えぬ筈が無い。
そういうわけで二人で雑談をしていたのであるが――ある一人の少女の話になったとたん空気ががらりと変わった。
少女の名は高町なのは。この野郎二人が――ユーノとクロノが絶賛片思い中な女の子である。
それまで和やかだった雑談が、剣呑な空気に変わる。
「――ほう。それじゃあ君は自分のほうが深い付き合いだっていうのかい」
クロノの顔がしめられた。
ユーノが何を当たり前のことを、という調子で言った。
「当然さ。僕がなのはに魔法を教えたわけだし――」
ふ、とクロノが笑った。
「僕はこの前一緒に珈琲を飲んだよ」
なに。
ピキリ、とユーノが固まった。
「それも30分ほどね。他愛の無い雑談だったけれど――」
指をきざったらしくクロノが3本立てた。
「30分だ。ユーノ――君の負けだ」
ぎり、と歯を鳴らしユーノが立ち上がった。
「いや……まだだ」
「何がだ――勝負は明らかじゃないか」
そのとき――高町なのは本人がサロンルームに入ってきた。
「あ、二人とも、なんの話しを――」
『なのはッ!!』
「うわ!ど、どうしたの?」
ユーノがこほん、と咳をして言った。
「いや――ちょっとクロノと勝負をしようと思ってね――。何で勝負するのがいいと思う?」
うーん、となのはが考え込む。
「お……」
『お?』
「大食いとか……」
ぱあん、と野郎二人の手が叩かれる。
『それだ!!』
異口同音に言った。案外仲が良いのかも、この二人、となのはは思った。
食堂に向かってクロノとユーノが駆けて行った。
食堂のおばちゃんも野郎二人の馬鹿さ加減に乗り気になり――冒頭に戻る。
そして――。
数十分後。そこには腹を押さえて倒れ臥したユーノとクロノの姿があった。
「う……」
「もう…食べられない……」
なのはが呆れた様子で言った。
「えーと、何がしたかったの……?二人とも」
な、なのは…そりゃないよ……と二人は心中で呟いた。
全ては、高町なのは撃墜の、数日前のことである。
穏やかな時間は――永久に失われようとしていた。
番外編完
最終更新:2008年03月01日 18:16