「ワタリ……この世界で、もう少しだけ生きてみたくなりました」
その日、一人の天才が世界に生きる希望を見出した。
彼はその時、初めて心から生きたいと願った。
自らの命が、限りあるからこそ……そう感じられた。
―――これがデスノートに書かれる、最後の名前です
―――キラという大きな悪を倒す為の、小さな犠牲です
死神が人間界に落とした、究極の殺人兵器デスノート。
彼は自らの命を犠牲にする事により、その存在をこの世から完全に抹消させた。
―――人間には、未来を変える力があります
―――だから、あなたは生きてください……それがワタリの、最後の望みです
人間の手で生み出された、ウィルスという名の死神。
彼は限りある命の全てを使い、その死神を滅ぼした。
「そろそろ時間です……一人にさせてもらえますか?」
デスノートに書かれた運命は絶対。
死神ですらも、その定めを覆す事は出来ない。
しかし、彼に悔いは無かった。
生きる希望が、自分の中に芽生えてくれたから。
自分自身を救う事が、出来たのだから。
安らかに瞳を閉じ、彼は最期の時を迎え入れた。
その日……L=Lawlietは、安らかに眠りについた。
「……ここは……?」
しかし……運命は覆った。
世界は、彼に新たに生きる権利を与えたのだった。
まだその頭脳が……多くの命の為に、必要であると。
~L change the world after story~
――――――空港火災、その日彼は運命的な出会いを果す
「おい、ここは民間人立ち入り禁止……」
「ここの通路は危険です、直に崩壊します。
最短の迂回ルートはここの階段です、これを使ってください」
「え……?」
その直後、Lが支持した通路の天井が崩れた。
彼の言ったとおりになった事に、局員達は驚きを隠せない。
そしてLはというと、冷静に状況を分析して局員達へと更に指示を飛ばす。
局員達が、その通りに一斉に動き始めた。
本来ならば、素性の知れない民間人に現場の指揮を任せるというのは、かなりの問題行為である。
しかし……その問題行為というマイナスを帳消しに出来るほど、Lの存在は大きなプラスであると局員達に認識されたのだ。
側にいた女性局員―――八神はやては、彼のその手腕にただただ驚嘆するしかなかった。
「凄い……」
「出すぎた真似をしてすみません。
ですがここは、少しご協力をさせてください……私もこういう事態には、なれてますので
事後処理が面倒かもしれませんが、今は目の前にある命が最優先です」
「……分かりました。
こちらこそ、ご協力に感謝……」
「はやてちゃーん!!」
その時、はやての元へと掌サイズの少女―――リインフォースが飛んできた。
Lは彼女を見て、一瞬だけ目を大きく見開くも、すぐに元通りになる。
死神なんていう存在を見た彼にとって、小人だの妖精だのは可愛い方である。
それにこの場が自らの推測どおりならば、正直何がいても不思議ではない。
「リイン、どないしたん?」
「今、主都からの応援部隊が到着しましたです!!
これで大分、状況も……あれ、そちらの方は?」
「ああ、この人は……」
リインに聞かれ、はやては彼の事を紹介しようとする。
ここでようやく彼女は、自分が彼の名前をまだ聞いていなかったことに気付く。
それを察したのだろうか、Lは指揮を止めて二人へと向き直る。
そして……静かに、自らの名を告げた。
「はじめまして……私は、Lです」
――――――それは、新たな戦いの幕開け
「えっと、つまり……Lさんは自分が時空漂流者やって、分かってたんですか?」
「はい、95%の確率でそうであると思っていました。
最初に目が覚めたらいきなり見知らぬ場所にいた時には、色々な可能性を考えましたが。
しかし、貴方達時空管理局という名前を聞いて、もしやこれは時空を越えたのではないかと」
空港火災が全て解決した、その翌日。
はやての部屋で、彼女の友人である高町なのは、フェイト=T=ハラオウンの両名を交えてLは話をする。
自分は気がつけば、空港内に居た事。
その場に居合わせた局員達の事を知り、即座に自分が異世界へと渡ったと悟った事を。
ただし余計な混乱を避けるため、自分が本当ならば死んでいる人間であるという事だけは伏せて。
「それで……でも、それにしてもえらい順応が早いですね。
普通やったら、それなりに驚くもんやのに……」
「確かにそれが普通の反応でしょう、しかし。
貴方方の言う次元世界、それに近い存在を私は一つだけですが知っています。
ですから異世界というものを、すんなりと信じられたのでしょう」
全ての発端となった死神達が住まう、死神界。
その存在を知っていたからこそ、Lは異世界という概念をあっさりと信じられた。
――――――新たなる戦いの舞台
「古代遺物管理部機動六課。
その後方支援と指揮を受け持つロングアーチの一人として、私をスカウトしたいと……本来ならば、無理と断る所です」
「そんな……待ってください、Lさん!!
私達は……!!」
自分の申し出を断ろうとするLへと、はやては食い下がった。
そんな彼女にLは、箱から取り出したショートケーキを差し出す。
そして自分の分のそれを、口に運んだ後、彼は答えた。
「ですが、はやてさんには何かとお世話になりました。
あなたの御蔭で、ミッドチルダでの衣食住を何とか確保する事ができました。
そして私は、そのお礼をまだしておりません」
「え……それじゃあ……!!」
「それに他の人から頼まれたならば兎も角、あなたからの頼みならば別です。
分かりました、私もロングアーチとして機動六課に加わりましょう」
途端に、はやての表情が明るくなる。
その側で座っていたリインフォースも、同様に笑みを浮かべた。
「Lさん……本当、ありがとうございます!!」
「よかったですね、はやてちゃん」
「うん……でも、Lさん。
さっき、私からの頼みなら別って……あれ、どういう意味です?」
「……私は一時期、ある人達と仲間として行動していました。
その中でも、私と最も親しかった人達が重なって見えましたから……『ヤガミ』さん、あなたとね」
――――――組織に走る亀裂
「基礎を重点的にし、土台をしっかりと固める……成る程。
確かに下手な技術などを教え込むよりも、そうした方がずっと実質的です」
「お、流石はL。
やっぱ分かってんじゃん」
ヴィータと共に、訓練場を見下ろすL。
目下では、なのはとフォワードの四人による訓練の真っ最中である。
Lは彼女等の訓練の内容を察し、それが正解であると口にする。
しかし……その危険性にもまた、彼は気付いていた。
「ありがとうございます、ヴィータさん……しかし。
このやり方では、いずれ問題が出るやもしれませんね。
恐らくは、そう遠くないうちに……」
「え……?」
「では、私は失礼します。
片付けておかねばならない事がありますので……」
「待てよ、L!!
今のやり方がまずいって、一体どういうことだよ!!」
――――――新しい家族
「うわぁぁぁぁん!!」
「……参りましたね」
機動六課が引き取る事となった一人の少女、ヴィヴィオ。
Lは彼女をあやそうとし、逆に彼女を見事に泣かせてしまった。
六課の面々は、その光景を苦笑しながら見ている。
流石のLも、この事態には戸惑わざるを得ない。
少しして、なのはが来てヴィヴィオを落ち着かせる。
「よしよし、ヴィヴィオ……すみません、Lさん」
「いえ……しかし、改めて実感できました」
「え?」
Lはかつて、一人の少年を引き取った時の事を思い出す。
ワタリが死した為に、彼に代わり自分が面倒をみる事となったが……
あの時も思ったが、やはりそうだ。
「やはり私には、子守は苦手分野のようです」
「あはは……Lさんにも、やっぱり苦手分野ってあるんですね」
「……はい」
――――――価値観の違いと、その理解
「私は、質量兵器の全てが悪いとは考えておりません」
「え……Lさん、どういうことですか?」
事故現場からの帰還中。
質量兵器に関する話題が出た時、Lはフェイト達の意見へと反論をした。
ミッドチルダで忌み嫌われている質量兵器の存在に関し、自分の考えを述べ始める。
「確かにフェイトさん達の言うとおり、質量兵器には危険なものが多く存在します。
核兵器なんかがそのいい例で、国を一つ簡単に滅ぼせる危険なものです。
他にも……短時間で発症して人を死に至らしめる上、感染力が極めて高い殺人ウィルスなんてものもありました。
これらは確かに、使い方を覚える必要こそありますが、覚えさえすれば誰にでも使えます。
魔法と違いリンカーコアの有無等を関係無しに、高い威力のものも魔力の大小等を関係無しに。
ですが……逆に言えばそう言った力は、魔力を持たない人にとっては身を守る為の強力な力ともなりえます」
「そう言われると、確かにそうですよね……」
「それに、魔法だって使い方を間違えれば危険な力です。
アルカンシェルなどは、下手な質量兵器を大幅に上回った恐ろしい武器ですしね。
他にも、それこそ私達の敵である人達の力だってそうです。
強い力そのものが悪いというわけではない、質量兵器も同じです。
様は、それを手にした者の使い方次第であると私は思います……レジアス中将も、そうお考えではないのでしょうか?」
「……確かに、それはあるかも」
「まあ、しかし……魔法が環境に優しいからという点に関しては、確かに賛成です。
廃棄ガスや放射能といった、環境汚染物質を撒き散らすものが質量兵器にはありますしね」
環境に与える影響に関しては、実に魔法は優れているとLは考えていた。
彼のいた世界では、環境汚染というのは相当重要な問題だったからだ。
その為に、生まれてしまった犯罪組織もいた。
彼等は地球の生態系を乱し続ける人類の数を減らし、地球を浄化させようとした……Lが最後に戦った者達である。
あの様な存在を生み出さないという点では……質量兵器に反対という意見は、Lも賛成であった。
――――――明かされる真実
「Lさん……今、何て……!?」
「驚かれるのも無理はありませんが、事実です。
私は本来なら、デスノートによって命を落とした筈の人間です」
決戦の時は近い。
そう悟ったLは、機動六課の面々へと全てを話した。
自らの世界に存在していた、デスノートという最強最悪の殺人兵器の事を。
キラを止める為に、自らデスノートに名前を書き込んだ事を。
そして最期の時が来た時、何故か自分は死なずにこのミッドチルダにいた事を。
「このミッドチルダが死後の世界である筈がない、それは断言できます。
ならば何故、死んだ筈の私がここにいるかですが。
恐らく私は何らかの理由で、死亡直前にミッドチルダに来て、そしてデスノートが無効化されたのではと考えています。
それ以外には、現状を説明する事が出来ません」
「どして……そんな事を、今になって話したんです……?」
Lは何故、自分の事を今になって明かしたのか。
他に話すタイミングはあった筈だし、それに黙っておくという選択肢もあった筈である。
それを何故、決戦の時が近い今を選んだのか。
これが最後かもしれないと考え、話す事にしたのだろうか。
もしそうだとしたら、絶対に許せない。
はやては真剣な面持ちで、Lの言葉を待った。
しかし……この直後に彼の口から出た言葉は、はやての予想を裏切るものであった。
「……私の様な真似を、皆さんにはして欲しくないからです」
「え……?」
「決戦のレベルは、これまでとは比較にならないでしょう。
命賭けの戦いになるというのは確実です、ですが。
だからこそ、命を無駄にして欲しくないんです……命を大切にしてください。
必ず、生きて全員が帰ってこれるように……それが言いたかっただけです」
――――――対峙する二人の天才
「成る程、流石だ。
ゆりかごを沈める手筈は既に整っているか……だが!!
私には、まだ手が残っている……全ての戦闘機人には、私の子が宿っているのだ!!
一人でも生き延びれば、やがては私の意志を持った私の分身が生まれる!!
私は不滅だ、世界は私の手で変わるのだよ、L!!」
スカリエッティの最後の切り札。
それは、全ての戦闘機人に宿してある自らのクローンだった。
一人でも戦闘機人が生き延びれば、スカリエッティの記憶と人格を持った新たな存在が生まれる。
スカリエッティは不滅。
フェイトは、それを聞いて嫌悪感を露にする。
一方Lはというと、表情を変えずにスカリエッティを睨み……ゆっくりと口を開いた。
「……私は、あなたと同じように世界を変えようとした一人の天才と戦いました」
「ほう……?」
「しかし、彼は世界を変えられませんでした……彼は私の、初めての友達でした」
Lはスカリエッティを前にして、あの男の事を思い出していた。
デスノートの力を使い、世界を変えようとした天才。
そして、Lの初めての友達であった存在……キラ、夜神月。
彼もスカリエッティも、道を誤りさえしなければ……その頭脳を正しい事に使えさえしていれば。
そんな思いが、ふと過ぎったのだ。
「……スカリエッティ。
どんな天才でも、世界を一人で変えることは出来ません。
あなたも戦闘機人も、全て確保します。
私達の手で、あなたの野望は阻止します」
――――――彼は、新たな戦いに臨む
――――――新たなる仲間達と共に
――――――己の命の全てを賭けて
~L change the world after story~
「私は……機動六課の皆さんと会えて、本当によかったと思います」
最終更新:2008年06月10日 18:01