うすい雲がかかったように混濁した意識のなか、状況を見て取ろうと首をめぐらせ、ここが地面から数メートルもはなれた場所だと、フェイトはようやく気がついた。

(あ……そうだ。たしか、妖怪におそわれて……)

 魔法がつかえなくなったなのはを庇い、妖怪の前にとびだしたところまでは覚えている。だが――そこから先の記憶がまったく存在していなかった。
 手足と胴にからみついた木の蔓が身体をささえているらしい。靴はどこかにおとしてしまっていたが、黒いソックスはそのままだった。脚を捕らえる蔓はソックスの上からまきついていた。
 胴回りにかなり巨大な蔓がまきついて、がっしりと身体を支えているため、想像よりも安定感があったが――。
 足にからみついた蔓は、彼女の足を大きく広げ下着の色をあらわにしていた。彼女のバリアジャケットの主色とおなじ色の、黒い下着。

(う……)

 顔をあからめながら、スカートのすそで下着を隠そうとするものの、腕にまきついた蔓のちからは想像よりもつよく、自由にならない。

(はやく……もどらないと……)

 もどかしさをかんじつつ、魔法の術式をあたまに思い描く。バルディッシュを破損されていても、ある程度の魔法は使える。魔力弾を形成して、蔓を焼ききる――発動しなかった。

「え……?」

 もう一度、頭に浮かんだ数式とリンカー・コアを結びつけて魔法を発動させる。しかし発動の手ごたえがまったく感じられなかった。眉をひそめる。
 呼吸を一つ。冷静になってもう一度。結果はおなじだった。

「ど、どうして――?」

 何十万回とくりかえした動作が、結果を生まないというあせり。
 焦燥にかられ、フェイトは拘束を解こうと手足を振り回した。蔓は軋みの音を立てるだけで決してフェイトをはなさない。

 フェイトが格闘している間に、一本の蔓がフェイトの背後から隙をうかがっていた。
 蔓の正体が妖怪「木霊」のものだと、フェイトは知らなかった。
 妖怪に趣向はあっても主義はない。ただ捕らえた雌を機械的に、そして効率的に生殖の苗床にするだけ。
 空中につる下げることで身動きを封じ、ゆっくりと捕食にはいる――。
 木霊という妖怪はそんな性質をもっていた。
 そして木霊は生殖行動を開始する。フェイトが油断しているうちに、一斉に。

「ひっ!? なっ、なにっ!?」

 いきなり数十本におよぶ蔓が視界に飛び込んできた
 鹵獲している彼女の脚へ緑色の蔓が殺到する。指先ほどの蔓が脚を先行し、フェイトのスカートのなかに消えていった。
 プリーツ・スカートの内側で、蔓はまさに人間の指の器用を発揮し、先端を下着のゴムに先端をひっかけた。行為に邪魔になりそうな布をとりさる行為。下着を徐々に膝元へとずらしていく。
 まあるい尻の半ばまで下着をずり下げられ、フェイトはやっと触手の行為を理解した。

「や、あああっ……! なんでっ!」

 下着はすでにプリーツ・スカートの裾から露出するほど下げられ、月のような滑らかさをもつ尻部は、抵抗の動きにあわせてたぷたぷとダンスをおどる。
 股を閉じて触手の動きを阻害しようとするものの、触手の力にはかなわず、下着はソックスに包まれた膝を越え、足首を超え、最後につま先を抜かれる。

 布地にかくされていた部位がすべて暴露される。まだなにものにも進入をゆるしていない、フェイト・T・ハラオウンの秘処が。

「――ッ! み、みないで……! みないでぇ……!」

 顔を紅くしながら顔をそむけ全力で股をとじようとするが、それはあまりにも無力な行為だった。 あらたな触手が伸び、その形をフェイトのふとももに刻む。
 フェイトの力ではふとももにまきつく蔓をはらいのけることもできない。おもいきり股をひろげられた。
 金色の茂みにかこまれた股間に、ひとすじ通った、淡いピンクをにじませた肉の切れ目。股を限界にまでひらかせているというのに、ほころびもせず柔らかに閉じ、彼女の処女をまもっている。

「ひ、ぎぃい……とじ、てぇ……」

 股関節や膝が軋むほど、股に力を入れる。ここまでされれば、性に比較的うといフェイトでも、貞操の危機を感じるというものだ。
 全身を丸裸にされるような、心細さ。普段意識すらしない部位に空気がふきつけ、勝手にひくひくとうごめいてしまう。
 木霊は一つ、いままでくりだしていた蔓とは形の違うモノをフェイトの眼前にさらした。
 コブを先端につけ、節くれだった蔓。
 中等部の授業で見た男根に似たそれ。いびつなそれはフェイトの全身を硬直させた。

「あ、あ――」

 確定した。この蔓の郡は自分を犯そうとしている――。
 未知への恐怖がフェイトの精神を汚染していく。奥歯ががちがちとかみあわない。

「や――あ――」

 男根蔓は先端をゆっくりと彼女の下腹部に向かって伸びていく。目指す場所は生殖に耐えうる苗床。
 フェイトは頬をひきつらせながら男根の行方をみまもっていた。そしてソレは想像通り――スカートの裾の向こうへ見えなくなった。
 みせつけるように、触手の一本がスカートをまくりあげた。
 恐怖が炸裂する。男根は秘処の向こう、数センチむこうで鎌首をもたげていた。

「いやあああああああッ! やめてっ! 離してぇっ!」

 もう対面もなにもなく、髪をふりまわしながら迫る男根をとおざけようと腰を引くだが手足を拘束された状態でできることなどタカが知れている――。

 あばれるフェイトを押さえるため、母体により卵をうみつけやすくするため、手首の蔓は、必要最低限フェイトをささえる分量をのこし、後の物は、制服の袖にもぐりこんだ。
 敏感な肌の上を蛇のようにのたくりつつ、蔓はブラジャーの肩紐の下をすりぬけ、乳房を囲むカップに忍び込む。

「! な、なに!?」

 服の内側でごそごそと蔓がはいまわる。年齢にしては不釣合いに張った双丘を、蔓はなめまわす。
 乳房の付け根から乳首のさきまでまきついた蔓は、ふるふると自身を震動させ、くみついたフェイトの乳房をもみほぐす。

「はっ――うぅ――!??」

 服のしたでいきなり始まる愛撫に、フェイトは身をすくませた。内側で暴れまわる蔓は、ときどきブラウスと制服の上着を押し上げるだけで、視界にはいってこない。
 ただ乳房にまきつき、乳首に触れる蔓が、どうしようもない切なさを与えてくる――。
 木霊の巧みな攻めはまだ「快楽」という言葉を知らないフェイトに、着実に性の愉悦を教えこんでいく。

「あ……あぁ……ぁぁ……」

 こしゅ、こしゅと乳首への愛撫を続く。蔓は針金のような細さをもつ先端で、生理現象によって充血してきた乳首にまきついた。
 まきついた乳首をひねりあげ、さらに引っ張る。

「う――ううう――やだぁ! やめて、よお……」

 経験のない刺激が、思考をかすませていく。乳房に感覚の八割が集中し、そこから意識をそらせない。
 強制的に精神すら揉み解されていく感覚からのがれるには、フェイトはまだ幼すぎた。
 しかし、フェイトは涙でゆがんだ視界の向こうにうごめく、先ほどの男根型蔓を見てしまった――。

 ちゅ、く。
 すずめの涙ほどもぬれていない秘処に、蔓が男根の頭をあてていた。
 なにものも受け入れていない、綺麗な秘唇へのキッス。

「――――ッ!」

 声にならない悲鳴を上げるフェイトをよそに、未開地のそこに、ついに植物の蔓が進入した。
 けっしてやわらかくない、けば立った蔓の表面が膣道を強引に押し通っていき、子宮へと迫っていく。するどく、はやく。
 一瞬にして処女膜を打ち破られ、フェイトは痛みに絶叫した。

「んっ! あ、あああ――!!」
 けれど木の蔓はそれに頓着せず、具合を確かめるように動き始めていく。

「あ……ああ……はいっちゃだめぇ……」

 抵抗感を失ったフェイトの中に蔓はさらに容赦なく進入していった。

「はあぁ……やっ……いやぁ……」

 身をくねらせてところで、木の蔓には何の障害にはならない。
 細かい蔓が一本二本と、男根型のあとを続いていった。

「あ……お腹が……あ……痛い……」

 すでに十何本もの蔓が入った秘処は、ぎちぎちと軋みをあげそうなほどひろがっていた。

「はぁっ!」

 そのフェイトの目がカッと見開かれる。
 体内で蔓がうごめきはじめたのだ。
 内壁をかき回すもの、さらに深く子宮まで蔓をのばそうとするもの、それら複数の意思がフェイトの体内で自在に動く。
 母体となる部分を傷つけないように蔓たちは慎重に動き、自分達を受け入れやすくなるよう愛液を分泌させていく。胸の愛撫もやめない。
 それは決してやさしさからではないが、自然、フェイトの痛みは徐々にうすれていった。
 変わりに、膣から快楽が引き出され、フェイトの息があらくなる。

「ん……あ……あああっ! あ、あああっ!」

 奇妙な感触に、フェイトはおもわず首を後ろにそらそうとした。
 まだ外にとどまっていた蔓の何本かが、後ろの穴に伸びはじめたのだ。

(まさか……)

 けれど菊座をなでまわす何本もの細い蔓たちに、わずかにのこっていたフェイトの正気が警鐘をならした。
 フェイトは身体をねじるが、蔓は秘処の愛液を掬い取って後ろの穴に深くすりこませていく。

「や……そ、そっちはぁ……」

 梁のように細い蔓が一本、嵌りに入り込んだ。

「んっ!」

 細い蔓は、その程度では苦痛にならない。
 しかし、精神的には、かなりの打撃をフェイトは受けていた。
 ずるり、ずるりと腸壁を刺激しながら、一本一本、蔓が直腸内に伸びていく。
 やがて男根とほとんど変わらないほど太く束ねられたか蔓が、フェイトの腸粘膜を圧迫した。

「ああああぁ……」

 フェイトには、もう動くことすらできなかった。
 だが、代わりに蔓が、膣内と腸内で同時に動いた。
 それは人間の男にはできない細かな動きだった。
 無数の蔓の先端が、前と後ろの粘膜それぞれをくすぐるようにうごめき、その胴体は波のようにさざめき立った。

「ひあああんっ!」

 やがて、構造をつかんだ蔓たちは、連動して内壁をなでるようにうごめき始める。

「や……そ、それだめぇ……!!」

 入れる限界まで蔓は伸び、先端で子宮と直腸をなでて回った。

「ひぁっあっ……ああっ……いやぁぁっ……」

 拒絶しても強引に快楽が引き出され、肉体は追い詰められる。
 愛液を吸収し、蔓は膨張を開始する。

「あ……ひあぁっ……わっ……お、おかしくなっちゃうよぉ……あんっ……ああああっ!!」

 それに伴い動きは活性化し、さらにフェイトを高みへと導いていく。
 前と後ろを同時にせめられ、フェイトはもうあらがう声もだせない。

「わっ、あっ、ああっああああ!!」

 喘ぎ声を漏らしながら、フェイトの腰が激しくゆれうごいた。
 蔓は前後運動を繰り返し、そのたびに秘処孔から愛液が噴出して、外の蔓たちに活力を与えていた。
 フェイトの膣と括約筋が急速に収縮を開始し、蔓を締め上げる。

「ああああ――っ!」

 フェイトの絶叫とともに、ついに蔓たちも種の混じった樹液を膣にぶちまけた。

「ひっ……あっ……いやぁ……いやあああ……」

 二つの穴に激しく注がれる液体の感触に、フェイトは弱々しく首を振った。
 それはすなわち、フェイトの体内で妖怪の命が芽吹くことを意味していた。
 手足を拘束され、フェイトには逃れるすべはない。
 おまけに、軽い絶頂をあじあわされたフェイトに抵抗するだけの体力ももはや残っておらず、仲間が助けにくるまでの間、彼女は何度も大量の種をすえつけられることになった。

「いやあ……たすけて……なのはぁっ! ユーノっ! おにいちゃんっ!」

 闇をつめこんだ虚空に、フェイトの悲鳴はいつまでも響きわたっていた。



「フェイト……ちゃん……」

 となりのなのはが崩れ落ちる音を、クロノはどこか遠いところで聞いた気がした。
 見上げるほどの位置にいるフェイトは、裸身を暗闇にさらしている。本人は意識をうしなっているらしい。
 四肢をだらりと脱力され――妖怪のされるがままになっていた。束ねられた蔓が、意識のないフェイトを犯し続けている。フェイトの内股や尻には、黒い種子のまざった精液がこびりついていた。

「フェイト――ッ!」

 クロノは機能をほとんど停止し、棒きれ程度にしか役に立たなくなったデバイスで木霊に襲い掛かった。



 けだるい射精感からかいほうされると、あとに残ったのは罪悪感だけだった。
 フェイトが陵辱されている現場をみてしまったクロノは、フェイトがどの箇所に種子をうめつけられているのか知っている。後孔と膣。その両方を犯さなければならない――。
 だがどれだけ治療という名目があったとしても、義妹の後孔を犯した事実はかわらないような気がした。
 クロノは気息を整えながら、フェイトをみる。
 まろいしりを突き出したまま、フェイトは固まっている。布団に顔を押しつけている。
 いまさっきまじわったところから白濁液が流れ出て、重力に引かれて下方へながれていき、精液はそのまま下流し、あざやかな花弁をまもる金色の陰毛にひっかかった。

「う――ぐう――」

 苦しげにうめくフェイトに、クロノはわずかな違和感を抱いた。

「……?」

 覗き見る。
 いつからそうしているのだろうか。フェイトは呼吸一つ逃すまいと、シーツを深く噛みしめていた。これでは満足な呼吸はできない。
 クロノはフェイトの前へとまわりこんで、両手でゆっくりと頬を押さえた。

「フェイト……そんなことはしなくてもいい。ほら」
「う……ぐす……」

 呼吸の不足で真っ赤になった彼女の表情を、クロノは痛々しく思った。
 やはり、ユーノに任せるべきだったか――と考え、すぐに打ち消す。クロノを治療の相手にえらんだのは、フェイトだからだ。
 体内に産み付けられた妖怪の卵は、男性とのセックスによって治療によって中和することができるという。
『卵をうみつけられた場所に、男性の精液をうちこむ』。
 しかもやっかいなことに交合自体が儀式であり、たとえば精液だけをスポイトで流し込んでも効果はえられない。
 フェイトを妖怪の残滓から開放するには、これしか手がない。後ろの孔の治療は手早くすんだ。
 あとは、秘処部を突いて膣で射精し、卵を中和すればいい。

「ごほ……ごほ……ごめん……でも、聞かれたくなかったから……」

 咳き込みながら、うめくように言うフェイトの背を白衣のうえから撫でる。
 クロノを治療の相手にえらんだのはフェイトだった。クロノがそれを承諾したのは、一番の被害者であるフェイトが望む方法をとってあげたいと思ったからだ。

 フェイトが妖怪に襲われたという事態に、本人以外で一番衝撃をうけていたのは間違いなく、なのはだった。フェイトはなのはを庇った結果、妖怪に連れ去られてしまった。
 フェイトの傷ついた姿をみてその場に泣き崩れ、こわれかけのラジオのように「ごめん……ごめんね……フェイトちゃん……」とあやまり続けるなのはの姿が記憶にうかんだ。

 フェイトがユーノを選ばなかったのは、なのはに遠慮したからだろう。今日数時間再会しただけでも、なのはがユーノを想う様子はみてとれたし、ユーノがなのはを想っているのは周囲に伝わりきっている。
 クロノの義妹フェイト・テスタロッサ・ハラオウンは、どんなに自分が傷ついていようが、他人をおもいやる人間だ。

 なのはは想い人――ユーノと親友――フェイトが布団をともにする、という事態に傷つく。おそらくそれを予見して、フェイトはクロノを選んだのだ。
 しばらく背を撫で続けていると、フェイトが言った。

「もう、大丈夫だから。クロノも綺麗にしてきて……」
「……ああ」



 クロノはほうったらかしになっていた息子に始末をつけるために、部屋のすみにおいてあるティッシュ箱にむかった。
 常時は排泄物を出すところにつっこんだモノを、そのまま使う気にはなれなかった。



 背をなでていた手が離れた。フェイトは上体をおこしながら、部屋の隅へあるいていくクロノを見送った。
 クロノはそのまま、いそいそと背をむける。

「……」

 こちらをみていないのを確認して、さきほどクロノの男根をうけいれていた尻孔に指をあててみた。
 粘着質な液体が指に触れる。油と軟膏と精液がまじった液体。指にひっついたそれを顔の前にかかげて、月明かりにさらしてみる。
 少し時間がたっているからか、指についた液体は透明だった。ほかの油が混ざっているからかもしれない。
 クロノとの行為の証明だったが薬品とからんでしまった精液はどこまでがクロノのもので、どこからがそうじゃないのか、もうわからない……。
 鼻先にちかづけてみる。
 初めて嗅ぐ精液の香りは生くさく、好きになれるたぐいのものではなかったが――。

 クロノはまだ、布団にもどってこない。
 汗でぬれた白衣と背中を、やさしく撫でてくれたクロノ。
 あまりやさしくしないでほしかった。これ以上やさしくされたら、体面もなにもなく、すがりつきそうだった。
 これはあくまで治療だし、クロノには婚約者がいる。
 治療という行為以外で、彼とまじわってはいけない。いけない――が、フェイトの心は、いまも大きく揺れていた。
 覚悟をきめるには、時間が足りなかったから。

 たしかに、クロノの予見は半分以上正解している。
流すべき涙は全部、なのはが流してくれた。もしもなのはが男性だったなら、と頭のかたすみで考えてしまうほど、自分のために泣いてくれるなのはがいとおしかった。
 自分のために涙してくれるなのは。その想い人に自分の治療――セックス――を頼むなど、できない。
 ここまでは、きっとクロノも予想している。なのはとユーノの関係をずっとみまもってきたのだから。

 だが、それだけではない。治療の相手にクロノを選んだのは、なのはのためだけではなかったから。
 親友――なのは、はやて、アリサ、すずかにも絶対に語らない、秘めるべき心。

 フェイトは、クロノのことが好きだった。愛していた。

 治療のことを聞いたとき、ずっと胸の奥底にとどめていた感情があふれてくるのを感じた。
 さびしかった。妖怪に処女をちらされ、体中をなぶられた。だれかにすがりつきたい気持ちでいっぱいだったのだ。
 すがいつきたい相手は、結婚を間近に控えた義兄であり、フェイトが異性としてはじめて愛した、クロノという男性。

 もしかしたらなのはとユーノを引き合いにだしたのは、ただのいいわけなのかもしれない。
ただクロノになぐさめてほしい、甘えさせてほしいだけなのかもしれない。

 部屋のすみで布ずれの音がした。
クロノの準備が終ったようだ。
どうかこのまま、クロノが何も気がつかず、行為をおえてくれますように。それが一番、関係をこわさない方法だ。
 フェイトは表情と感情をとりつくろってから、乱れた袂を整えた。

 クロノは息子にこびりついていた精液をすべてぬぐい、白衣の帯をひきしめた。
 二戦目をするにはインターバルが足りない気がするが――すでに息子はなすびのような大きさをとりもどしている。
 理性とはべつの、美しい女性がもつ優秀な遺伝子を求める本能が、男根をふくらませていた。あらがいがたい快楽をもって。
 布団へむかうと、フェイトはすでに身体をよこたえていた。

「フェイト……大丈夫か?」
「うん。はやく、すませたいから」

 本人がそういうなら仕方がない。クロノは彼女の脚側にひざむずき、白衣のあわせを開いた。ついで脚をひらかせ、金色の茂みをかきわけて、愛液を光らせる秘処にふれる。

「ひ……んっ……」

 フェイトが指のうごきにあわせて震えた。
 割れ目をなぞり、指をしめらせてから秘処の間に指をつきいれていく。
 異物を排出するために、膣道が指をしめつける。だが粘膜でぬれそぼっているソコは、クロノの指を完全には阻めず、侵入をゆるしていった。

「は……あ……」

 フェイトがもらす鼻にかかった息吹を、極力無視しながらクロノは指をすすめ、膣のうちがわをくすぐった。
 クロノの男根は平均よりも大きい――らしい。
 遊びで購入した張子バイブとクロノのいちもつを膣内で交互に比べたエイミィは、あとでそんな感想をもらしていた。バイブのサイズはMだった。
 これを平均的な男根のサイズだとすれば、クロノの男根は平均よりも巨大だということになる。
 エイミィ以外の女性を抱いたことはないし、怒張時の男根を他人と比べあう趣味もなかったクロノは、いちもつがどこまで女性に負担で、女性はどこまで男根の大きさに耐えられるのかわからない。
 エイミィよりも小柄なフェイトを、エイミィとおなじようにあつかっていいものか――。

 ちなみにクロノはしるよしもなかったがクロノのいちもつは、フェイトの秘処を犯した木霊より巨大だった。

「クロノ……?」

 ものおもいにふけり、指をとめていた。指をつっこまれたままのフェイトは不安げにクロノをみつめる。
 軟膏と油をぬりたくれば安全か、と薬品がつまった小瓶に手をのばした。
 指のさきが空をなめた。

「あ……」

 先ほど使い切ってしまったのをおもいだした。

「フェイト……すまない。軟膏がきれたようだから、替えをもらってくる……」
「え……?」
「すぐに戻るから」

 薬品をつかわない方法がないでもなかったが――。あまり使いたくない方法だった。
 フェイトへの負担が大きくなるし、なにより、クロノが行為を治療と――おもえなくなる可能性が大きかった。
 もう深夜といえる時間だったが、だれかしら起きているだろう。クロノは膝をおこしてたちあがろうとした。

「ま、まってっ!?」
「うおっと……」

 フェイトに袖をひっぱられた。バランスはなんとか立て直せたが、再び布団に膝をついてしまった。
 フェイトは上半身をおこして、クロノの袖をにぎったままうつむいている。

「あ、あの……大丈夫だよ、さっきみたいに、その、入らないわけじゃないし……こっちは、そういう風になっているみたいだから――」
「そ、それはそうだが、あまり身体をさわられたくはないだろう? こちらもそちらのほうが安全だ」
「あん……ぜん……? どういうこと?」
「それは……」

 頭を片側に傾けながらフェイトが目を瞬いた。
 なんと説明しようか迷ったが――聡い子だ。クロノの嘘くらい見破ってしまうだろう。
 クロノは素直に話してしまうことにした。

「僕のコレが」

 クロノは視線で自分の息子をさした。フェイトの視線がつられてクロノの下半身に向く。

「大きすぎるんだ。君には。いや、フェイトのそこは広がるし、条件を満たせば十分に可能だとはおもうけど……」
「条件って……えっと、さっきの薬みたいにぬれてなきゃいけないってこと……?」
「端的にいえば、そうだ。このままじゃかなりの激痛を伴うはずだ。回避するには……フェイトの身体にふれて、準備をしなきゃいけない。性的なことだ」
「……どんなこと?」
「は? いや、だから性的な――」
「だって、わたし初めてだし……さっきはお尻を触られただけだし……ね。わからないよ、クロノ」
「フェイト……」
「おねがい……。それとも――こんな汚い身体、治療でもさわりたくない?」

 そこで初めてクロノは自分の考えが足らないことに気がついた。

「大丈夫だよ――。初めてくらい――治療でも――普通のセックスがしたいよ、クロノ――」
「フェイト――」

 フェイトは涙こそ見せなかったが、白衣の下の華奢な肩がふるわせていた。
 妖怪と云う怪物に犯されて傷ついた少女をなぐさめたい――。フェイトの目をよく見れば、寂しさが瞳からあふれている。
 どうしていままで気がついてやれなかったのか。クロノは体面やらなにやらを気にしていた自分をする。
クロノはいまにもなきだしそうなフェイトをおしたおした。

「クロノ――」
「なにもいわなくていいから」

 フェイトの抵抗が消える。
 いちど行為に及ぼうとすると、クロノの頭に獣欲がみなぎり、それは堰を切ったダムのように理性を押していった。
 エイミィの顔はすでにおもいだせなくなっていた。
 視線は目の間にいる少女にはりつけになっていた。フェイトはもう、かわいい義妹ではなくて――。一人の、傷ついた女性にかわっていた。

 クロノは、本心からフェイトを抱きたいとおもってしまった。あらん限りの快楽をあたえて、妖怪の記憶を上書きさせたいと。
 フェイトを思う理性と、フェイトを求める本能が合致した。
 クロノはせかされるように、フェイトの唇をうばった。

「んふっ――!?」

 驚くフェイトをほうったまま、舌を口内につきいれていく。控えめに固まっていた彼女の舌をひきだし、からめる。
 にちゃにちゃといやらしい水音が二人の口内に響き渡った。
 からめているうちに、フェイトもおずおずと舌を蠢かして、クロノのそれとからめていく。
 舌感を刺激しあっていくうちに、呼吸があらくなっていく。息ぐるしさを感じたクロノは、一度顔を離した。

「ふは……クロノ……」

 めのまえには頬を果実のように瑞々しく高潮させ、陶然とするフェイトがいた。
 そのなまめかしい色気におされるように、フェイトの腹部にひっかかっていた帯をとき、袂を開いた。
 思わず飲み込みそうになった生唾をがまんする。白衣という薄皮をはがされ、年不相応にみのった二つの果実が顔をだした。

「……はずかしい」

 言葉のとおりなのだろう。わずかに身体をひねって、身体を隠そうとするフェイトのいじらしさにそそられて、クロノは胸に手をのばした。
 男の身体にはぜったいにないやわらかさを、手のひらでもてあそぶ。しっとりと汗をかいた乳房に、綺麗な桜色の乳輪と乳頭がのっている。まず断言して――美乳といっていい。
 充血した乳首はつん、と上をむいていて、色を添える乳輪はバランスがよく、このまま――なんの手をくわえずとも、ヌードモデルができるくらい、美しかった。
 フェイトは目じりに涙をためて耐えていた。

「痛くはないか?」
「……平気だけど、ときどきなんていうか。不思議な感じがする」
「それなら大丈夫だ。身体が準備をはじめているだけだから」
「ん……まかせるよ、クロノ」

 フェイトは目をとじ、クロノは愛撫を再開した。ぷっくりと充血した乳首を、指の腹でやさしく触れてみる。フェイトはまつげをふるわせるだけで、静止したりはしなかった。
 本当に、クロノに全部まかせる気らしい。
 乳房を手のひらでつつみ、指と指のあいだに乳首をはさんだ。乳房を上下させる運動にくわえて、指の間隔をせばめる動きを追加する。

「ひあ……あっ……あ……あぅ……」

 あまり強くしたつもりはないが、フェイトの声にときどき強いものが混ざり始めた。

「フェイト? 痛かったら我慢せずに」
「き、気にしないで……大丈夫、んっ、だから……」

 大丈夫なのはほんとうらしい。
 悲鳴には時々、あまやかな悲鳴が混ざっている。それが乳房を揉むタイミングとおなじなら、もう疑う余地はないだろう。
 フェイトは感じている。
 胸のやわらかさを十分にあじわい、それでも片手で胸の愛撫をつづけながら、クロノはそろそろと手をフェイトの股間にのばしていった。
 袂を大きく開かれた白衣は、フェイトの股間を隠すのを放棄している。陰毛が広がっていた。
 やわらかく、繊細な、逆三角形に生えた陰毛をかきわけ、再び割れ目にふれる。入り口に指をあてただけでも、そこが濡れそぼっているのがわかった。

「ひ、ん……」

 フェイトはうめいた。指先は襞に触れ、第二関節のあたりが陰核にふれていたらしい。
 決して嫌がるそぶりはなかった。
 クロノは体勢をかえると、そこに唇をつけて、豊かな寒露をすすりこんだ。
 フェイトが笛のようなか細い悲鳴を上げる。さらに、木の芽のように尖った桃色の陰核をくちびるの先でくわえて、顔を左右に振るようにすると、フェイトは悲鳴に近いよがり声を発した。

「ひぃ! いや、いやぁ!」

 唇と舌と指を駆使して、フェイトのそこを愛撫し、括約筋の緊張を解きほぐしてゆく。

「あいや、あああっ! いやぁぁ、ぁっ、ぁぁぁ――!」

 フェイトの悲鳴が一段と大きなものになる。頃合をみはからって、クロノは臨戦態勢になっていた巨砲の先端を、濡れそぼった花園におしあてた。

「いくぞ……フェイト」

 腰をすすめて、聖門を一気に貫く。

「――っ!」

 思わずのけぞる、フェイトの細く白い喉。そこに唇を押し当てると、クロノは彼女の締め具合をじっくりと味わう。
 夫でも恋人でもない男が、初めての相手だ。すまない――と心で詫びながら、ゆっくりと腰を使う。
 とろけるような肉壷に、己を突きたてつづけた。
 おもったよりも負担はないらしい。突き上げるたびに胸がゆれ無意識なのか、焦点のあわない目でクロノをみあげてくる。
 もう喘ぎ声と悲鳴の判断はつかなかった。フェイトはクロノの下で泣き叫ぶ。

「あっ、あっ、いやぁっ、あ、あ、ああああ!!」

 もう意識がまわっていなのか、口の端からよだれがこぼれる。
 クロノはそれをなめとった。そのまま耳の穴に舌をつきこむ。

「ひ――ッ! やっ! くすぐっ、たいよぉっ!」

 泣き叫ぶフェイトの膣道がいっそうクロノしめつけた。
 さきほど後孔で精をはなったばかりだが、クロノは強い射精感をかんじた。長くは持たない。
 クロノはグラインドを大きなものにかえた。早く、つよく、息子の先端を子宮へおしこんでいく。


「あ――ッ――やぁっ、や、や、やぁ――ッ!」

 動きの早まりにしたがって、フェイトの悲鳴がはげしくなった。背中へまわされた片腕が、クロノを強くつかんだ。快楽に耐えているようなしぐさだった。
 いつのまにか、フェイトも腰を動かし――おそらく無意識に――クロノの射精をさそっていく。
 おもわぬ動きに、クロノの限界がはやまってしまった。

「だすぞ……フェイトッ!」
「あ、へ、なっ、なにを――?」

 フェイトの質問にこたえるまえに、クロノはフェイトの膣内に精をまきちらしていた。
 妖怪の卵を中和するために、なるべく奥へ精をはなつ――。

「いやあぁぁぁぁ、ぁ、ぁ、ぁ」

 最後のひとおしだったのか、フェイトは背をおおきくのけぞらせ、身体をびくびくと痙攣させた。
 膣が最後の一滴までのがすまいとするのか、クロノの男根をねじ切るような強さで締め付けた。
 なんどか脈動ののち、クロノは射精をおえた。
 いまだのけぞったまま、形のいい腹部を天井につきだしていたフェイトも、身体から力をぬいていた。

「っ……と」

 クロノは射精の忘我からめざめて、フェイトの様子をみる――。

「……フェイト?」

 疲労にまみれた顔がそこにあった。肌は上気し、呼吸はあらい。
 だが、目はとじられていた。

「フェイト、フェイト。大丈夫か……?」

 答えはなかった。
はじめての絶頂のせいか、フェイトは気をうしなってしまったらしい。
 今日一日でフェイトは陵辱を経験し、男性とのセックスまで経験してしまった。
 体力的にも、精神的にも限界に近かったのだろう。なんどか呼びかけてみたが、安らかな寝息で答えられてしまった。

「……起こすのも、な」

 だが、このままおいていくのもどうだろうか。
 クロノはフェイトの白衣を直そうとして、気がついた。フェイトの手が袖を握り締めている。
 どうやら交わりをはじめてからずっとつかんでいたらしい。クロノはまったく気がつかなかった。

「……はぁ」

 ため息をつきながら、最初の考えとはうらはらに性欲の対象としてフェイトを抱いてしまったことに後悔した。
 目の前にエイミィの顔が浮かぶ。だが――。

 クロノはフェイトからいちもつを抜いた。膣の内圧によって、自らはきだした精液がとろとろとこぼれてくる。
 妖怪の卵を中和した精液は、生殖機能をうしなうためフェイトが妊娠することはない。
 クロノが問題にしているのは、量だった。二度目にしては多すぎる。

 考えられる理由はフェイトとの相性が抜群によい、とかだ。
 そういえば処女をうしなって数時間しかたっていないのに、セックスで絶頂に達したフェイト「も」クロノと相性がいいのかもしれない。
 どちらにしろ、フェイト夢中になって抱いたのは確かだった。

「いかんいかん……相手はフェイトだ」

 それに自分には愛するエイミィがいる。いる、が――。腰のあたりにのこっている快楽はなんともしがたい。
 後始末をおえ、袖をはなしてくれないフェイトの白衣をととのえ、クロノはフェイトのとなりへ横になり、ブランケットと上掛けを肩までひきあげた。

 フェイトの安らかな寝顔をみながら、クロノは床についた。
 だが、それほど気にする必要はないのかもしれない。もう二度と、フェイトと肌をあわせることなどないし、あってはならない。もちろん、妖怪におそわせる気など、毛頭ない。

 寝息を立てるフェイトは、情事をかわしたばかりとは思えない寝顔でとなりにいる。
 ふるふると、口ぶるがふるえた。どうやら寝言をいっているらしい。
 静かな夜だ。クロノはその小さな本人の自重とは無関係の本音を聞いてしまった。

「クロノ……愛してるよ……」
「ぶっ!?」

 おもわず噴出しそうになった
 明晰な頭脳は、いまつぶやかれた言葉を安易に反芻する。

 クロノ……愛してるよ……

 クロノは金魚のように口を上下させた。とんでもない告白に心臓がとびあがりそうだった。

「た、ただの寝言だ……そうだ、寝言……」

 フェイトはやすらかな寝息を続けていた。
 クロノは目をつむり、睡眠に勤めようとする。頭のなかでは、しつこく、そしてあまく、フェイトの寝言がリピートされていた。

 クロノ……愛してるよ……



 ごめんね、クロノ。
 もう朝も近い時間にフェイトは目をさましてしまい、隣で眠るクロノの髪を梳いていた。
 頭のなかに真っ白い空間がひろがって、そのまま意識をうしなってしまったらしい。後頭部が鈍痛をうったえ、四肢がけだるい。
 はやてやアリサがいっていた絶頂とか、オルガスムスとかいうものだろうと判断した。とりあえず大事はないはず、だ。

「うっ……でも、どうしよ……」

 情事をおもいだすととたんにオロオロと落ち着かなくなる。
 結局、フェイトの覚悟は最初のうちしか持たなかった。
 クロノが油をとりにいこうとしたとき、耐え難い孤独におそわれ、ついクロノをとめてしまった。胸に穴が開いてしまいそうだった。
クロノをそのままいかせれば、フェイトの意図どおり、無難に治療はおわっていたかもしれないが、あの瞬間かんじた、孤独は本当に耐えがたいものだった。
 クロノをさそってしまったのも、その孤独感が原因だった。もっとそばにいてほしい。そんな感情が先にたっていたのだ。
 自重という言葉をおもいだしたのは、クロノにおしたおされる少し前までだった。
 エイミィの顔をおもいだし、すさまじい罪悪感に顔がひきつったが――責めがはじめると、もうなにもかも忘れてしまっていた。

快楽が我慢できるレベルをこえていたのだ。
 妖怪がのこしていったのは卵だけではなく、性感もめざめさせていったらしい。

 口内に舌をつきいれられたときは――目の前が白く染まり、
 乳房をもまれたときは――せつなの間意識が飛び、
 陰核をもてあそばれたときには――もう上下の感覚がなくなっていた。

 秘処をつきこまれたときにはすでに、半分意識がなかった。自分がどんな言葉をさけんだのかもわからない。
 目の前にあったはずのクロノの顔すらおぼえていないという、ありさまだった。

「クセになったりしない、よね。気持ちよすぎだよ、クロノ……」

 エイミィの顔が浮かんだり、消えたりしている。
 罪のにおいがたちこめている気がした。まだ成長しきっていない、未熟な心でそれに耐えるのはむずかしかった。
 そろそろと、とフェイトは手を下半身におろしていった。
 寝息を感じるほど近くにまで顔をよせ、指先で陰核をこすりはじめる。

「んっ、んあっ……クロノ……」

 クロノの吐息をすいこみ、クロノの汗のにおいに抱かれながら、フェイトは自分をなぐさめはじめる。
 みだらな考えと、頭を痛くさせる問題を忘れるための手段としての。
 罪から逃げる手段として――。
 フェイトは自慰におぼれていった。



 フェイトの初夜は、こうして過ぎ去っていく。

 クロノはフェイトの寝言が楔となり、フェイトはクロノへの想いと与えられた快楽が鎖になった。
 これがのちのちどういう結果をもたらすかを知るものはいない。

 ただ二人の心情を明確に読みとることができる人物はいた。
 光の加減によっては緑色に見える長い髪をゆらす女性――音羽葉子。

「あらあら、どうするのかしらね、これから……」

 水杜神社の社務所で、音羽葉子はこまったようにわらった。
 思いがけず――余人が知ったら間違いなく首をかしげる――葉子は二人の想いを知ってしまった。
 葉子としては、いくら治療といっても性行為にはかわらないのだから、たのしめばいいじゃないかと思うのだが。
 二人とも生真面目すぎて、その辺の融通がきかないらしい。

<<……心配している顔じゃないですよぉ、ぬし様……>>

 葉子の心情をさとった『誰か』が消え入りそうな声で言った。

<<そやな。こりゃ、完全に二人がただれた関係になっていくのをたのしんどる顔や。
 大体フェイトっちゅうんは、わいの相棒になる子やろ? あんまりいじめんときや>>

 先の声にこたえたのは、これまた『誰か』。アクの強い関西弁で葉子をいさめる。

「まあ、これはわたしが同行しなくっても、ただれていくと思うし……」

 葉子は『誰か』にわらいかけた。ちなみに社務所のどこにも人影は存在しない。フェイトをのぞいた住人、居候はそろって眠りの中、だ。
 葉子のほかには、社務所のテーブルに置かれた、燃え上がるように紅い刀身をもつ刀と、氷を研いでつくったかのような刀身をもつ薙刀があるだけだった。

「それよりも。わたしとしてはなのはちゃんとユーノ君、幹也さんと音羽姉妹のほうが気になるわ。ま、急場をしのげるくらいには協力しなさい、火嶽、冷軋――」

<<ま。まかしとき>>
<<が、がんばりますです>>

 『誰か』の返答に、葉子は満足げにうなずくと、刀と薙刀の刀身を撫でまわした。

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:
最終更新:2008年03月08日 13:00