魔法使いが落ちていく

『あー、あー。聞こえますか?
 私は、時空管理局機動六課に所属している――』
「この声、なのはさん……!?」

マッハキャリバーが自分には移動手段として不向きということで、
新たな移動ルートをマッハキャリバーと考えていたレイは拡声器で増幅された声を聞く。
しばらく聞きいっていたが、誰かと言い争うような声が聞こえ、その後爆音が響いたところで我に返る。

「いけない……行こう、マッハキャリバー!」
『異議はありません。しかし戦闘に巻き込まれた場合戦闘力の無い仮マスターは危険です』
「そ、それはそうだけど……」

冷静に状況を分析するマッハキャリバーにレイは進みかけていた足を止める。
確かにマッハキャリバーは非力な自分には扱えず、デュエルモンスターズのカードもデュエルディスクがなければただの紙だ。
戦闘になっているのだとしたら、自分等が行っても足手まといになるのがオチであろう。

「だけど……そうだ! なのはさんにマッハキャリバーを投げ渡してすぐ逃げる! これならいいかも!」
『……扱われ方に抗議したいですが、高町なのはと合流するという点ではよい考えかと』


「エリオ……」

もはや体温を感じなくなったマサキの体を抱えながら、なのははただ歩き続ける。
一度でも立ち止まってしまったら、再び動きだせる自信がなかったのだ。

「病院……急がないと……」

急ぐ必要などない、すでにマサキが絶命していることにはなのはも気付いていた。
ならば何故歩みを速めるのか――認めたくないだけだ。
自分が拡声器など使わなければ、エリオに気づき止められていれば、この青年は死なずにすんだかもしれない。
名も知らぬ青年の死、その原因が自分であると認めたくなく、かといってエリオの――自分が殺した者のせいにすることもできず、なのははただ目の前の死から目を逸らす。

「なのはさん!」
「え……?」

聞き覚えのない声に背後から呼びかけられ、思わず振り返る。
当然足は止まり――両腕に遺体の重さがかかり、マサキの死体のことを知覚してしまう。

「あ…ああ……!」
「なのはさん……? その人は……」

明らかに様子のおかしいなのはに、レイは先ほど考えていたことも忘れ問いかけようと一歩近寄る。
見知らぬ人間が接近する、それは今のなのはに動揺を与えるには十分なことであり、バランスを崩してマサキの体を落としてしまう。

「あ」
「え?」

レイの目に飛び込んできたのは、男の体にあった大きな傷となのはの血まみれの体。
男の体は重力にひかれてべしゃりと地面に叩きつけられたまま動かず、
なのはは今まで男の影になっていたのだろう、一本の剣を持ったまま硬直している。

「え……まさか、死んで……なのは、さん……?」
「あ、ああ……ち、ちが、私じゃ……!」

もしもレイが異世界の事に気づいていなければ、なのはがこんな事をするはずがないと思ったかもしれない。
もしもなのはがもう少し冷静でいれば、抜き身の剣を持って警戒されている相手に近づくなどという真似はしなかったかもしれない。
ifは起こらず、レイは「異世界の一つには残忍ななのはがいるのでは」という考えてしまう。
ifは起こらず、なのははただ自分の無実を伝えようと今の自分の姿も忘れてレイへと近寄る。
――結果。

「いやぁぁぁぁぁぁ!!」
「っ!?」

レイは悲鳴を上げ、なのはは怯んで動きを止める。
それは第三者から見れば「少女を襲う殺人鬼」としか見えず――

「はぁ!」
「きゃっ……!?」

男に背後から殴りかかられるのを、咄嗟に転がり回避。
すぐに体勢を立て直して襲撃者を見ると、その男――影山は自分とレイの間に立って戦闘態勢に入っていた。

「まさかあんたが殺し合いに乗ってるとはな」
「ち、違う! 私は殺したりなんて……」
「とぼけるな! その男の死体は何だっていうんだ!」
「――っ!」

なのはが言葉に詰まっている間に、へたり込んでしまったレイへ一足のローラーブレードのような物を投げ渡す。
戸惑うレイに、影山は無愛想に言葉をかけた。

「さっさと逃げろ、そこにいられたら邪魔だ」
「で、でも……」
「いいから――ああ、金髪のシャマルって女を見かけたら俺が……影山がこう言ってたって伝えてくれ、絶対脱出する手段を見つけるからって」
「あ、は、はい……そうだ、お願い、マッハキャリバー」

影山の殺し合いには乗っていないという言葉に安心し、レイはマッハキャリバーを首からはずす。

『何でしょう、仮マス――!?』
「あの人を助けてあげて!」

言葉を最後まで聞きもせず、影山へマッハキャリバーを投げ渡す。

「デバイス……!?」
「助けてくれてありがとうございます……気を付けて!」
「……あ、ああ」

戸惑いながら影山が頷くのを見て、レイは今受け取ったローラーブレードを履いて町の方へと逃げ出していく。

【早乙女 レイ@リリカル遊戯王GX】
【一日目 現時刻AM3:07】
【F-6 丘】
[状態]:健康・悲しみ・不安
[装備]:スバルの自作ローラーブレード@魔法少女リリカルなのはStrikerS
[道具]:支給品一式(E・HERO バーストレディ@リリカル遊戯王GX、E・HERO ウイングマン@リリカル遊戯王GX
    融合@リリカル遊戯王GX、北高女子用制服@ティアナ・ランスターの憂鬱)
[思考・状況]
1 あの場から離れる
2 影山さん、大丈夫かな……
3 異世界のなのはさんが、あんな人だったなんて……!
4 信頼できる人間(遊戯王メンバー)との合流
5 シャマルに会ったら影山からの伝言を伝える
6 十代を正気に戻す
7 ゲームには乗らない

レイが立ち去ったのを見て、影山は今だに動かないなのはへと向き直る。

「意外だな、お前はこんな殺し合い、一番嫌うと思ってたんだが」
「だから……違うの! 私じゃ……私、じゃ……」

――私じゃない。
そう言いきることがどうしてもできない。
そう思ってしまえば楽なのに、事実自分が攻撃したわけではないというのに、
どうしても否定することができなかった。
そんななのはを見て、影山は大きく溜息を吐きながらマッハキャリバーを起動する。

「殺しはしない……シャマ姉が悲しむから」
「シャマ姉……? シャマルさん……?」
「これ以上殺しなんて考えられないよう、叩き潰す!」

叫びながら影山は走りだし、リボルバーナックルで殴りかかる。
咄嗟に永遠神剣で受け止めるも、続いて放たれた素手の拳は剣で受けるわけにもいかずにまともに喰らってしまう。

「あくっ……!」
「どうした、そんなものか!?」
「お願い……話を聞いて……」
「そんな言葉に騙されるか!」

いいように攻め続けられ、なのはは少しずつ応戦する気持ちが薄れていく。
エリオを殺してしまった自分がのうのうと生き延びていいものか、仲間にどんな顔をして会えばいい?
それならいっそ、この男の拳を受けてそのまま眠りにつきたい、
殺す気はなくともリボルバーナックルの一撃を頭に食らえば、威力としては十分だろう。
ほら、次の一撃なんてよさそうだ、剣を下げて、このまま拳を受けよう。

「なっ――!?」

驚いてる……当然だよね。拳を止めようとしてるみたいだけど、もう遅いよ。
ごめんなさい、あなたを人殺しにさせます。
ごめんねエリオ、そっちで謝らせてね。
ごめんねスバル、ティアナ、アーカードさんとならきっと大丈夫だよね。
ごめんねはやてちゃん、シグナムさん達は、きっと全力で守ってくれるんだろうな。
ごめんね……フェイトちゃん。

「何やってんだ、この馬鹿!」
「っ!?」

結論か言うならば、影山が拳を止めるのは間に合った。
なのはに当たる直前にマッハキャリバーを解除し、わずかに短くなったリーチが彼女の命を救ったのだ。

「お前のその瞳、本当の闇を見たのか……何があった」

散々暴れて冷静になったか、なのはの顔を見ながら影山はようやく話しを聞く体勢に入る。

「私は……エリオを、殺した……!」
「エリオを、だと……? あの男の事はは無関係とでも言う気か?」
「違う……あの人も私のせいで、私が止められなかったから……」

要領を中々得れなかったがなんとかなのはから話を聞き、何があったのかを知る。
そういった事情ならなのはは殺し合いには乗っておらず、エリオの事も正当防衛と言えるだろう。
――今の話を信じるなら、な。
無論、なのはが真実を言った証拠などありはしない、自分を騙すための作り話という可能性もある。
――だけど、この瞳の闇は本物だ。
地獄を見た者にしか判らないであろう瞳に宿る闇。
なのはの瞳には矢車や影山と同じ絶望の闇が宿っていた。

「おい」
「え……?」
「お前、俺の妹になれ」

【影山 瞬@リリカルなのはStrikerS+仮面ライダー】
【一日目 現時刻AM3:22】
【F-7 山】
[状態]:健康
[装備]:マッハキャリバー(待機状態)@反目のスバル
[道具]:支給品一式、不明支給品1~2個
[思考・状況]
1 これでいいんだよね、兄貴
2 シャマルを探し出し守る
3 あの女の子(レイ)、探すべきか?
4 脱出する方法を探す
5 兄貴はどうするのかな……

【高町なのは@NANOSING】
[時間軸]第八話終了後
[状態]精神的疲労極大 、魔力消費中、体力消費中
[装備]永遠神剣"求め"@リリカル×アセリア
[道具]支給品一式、不明支給品0~1個(なのはが確認済み)、不明支給品0~2個(マサキが確認済み)
[思考・状況]
基本 みんなで生きて帰る……自分にみんなといる資格があるのか疑問。
1、いもう、と……?
2、私は、みんなとどう会えばいいの……?
3、エリオ……

050 本編投下順 052

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最終更新:2008年03月12日 18:07