酷く荒んだ大地である。地面には大きな溝やクレーターが幾つも作られ、草木がまったく見当たらない。
とても生物が生きていけるような環境にない。いやそもそも、この星は今、終わりの時を迎えようとしていた。
空に巨大な丸い物体が見える。それは圧倒的な質量を持って近付いてきていた。
この星は今、巨大隕石の衝突の危機に曝されているのだ。
辺りの岩が空に舞い上がり、大地の表面が削れて行く。
あと数分もしないうちにこの星は死を迎えるだろう。
そんな運命にある星で二人の男が対峙していた。
一人は上半身の服は完全に破れ、身体もいたるところに傷ができた男。
そのような身体になっても足は大地をしっかりと踏みしめている。
髪は金髪で、緑色の瞳は力強く輝いている。
一人は異常なまでに筋肉が隆起し、同じく上半身を露出させているが、身体や服には傷はない。
かなりの身長があり、3m近くもある大柄な男である。
緑がかった金髪を逆立たせ、その目は白目で埋め尽くされているが、確かな意思・・・確固たる狂気を持っていた。
二人はお互いの力を最大限まで高めていく。その力が、巨大隕石の接近と相まって地面を割り、大地がせり上がる。
先に白目の男が、次いで緑色の目の男がお互いに向けて駆け出す。
「ウオオオオオオオアアッ!!」
「でやありゃあああああっ!!」
己の拳が届く範囲に入り、二人が拳に、自身の全力を乗せて繰り出す。
「エヤアッ!!」
「許さねぇぇ!!!」
同時に拳が繰り出される。緑色の瞳をした男の方が早い。
だが白目の男はそれに何も臆することはなく拳を振るう。
今まで自分の身体に傷を付けることができた者などいないのだから。
この身を”終わらせてくれる”人間など、存在しないのだから。
故に男は止まらない。だが・・・
「グオオォ?!」
白目の男の筋肉を突き破り、拳がめり込んでいく。
初めて傷つけられた身体。その傷が元になり、相手のパワーと自身の強大なパワーが狂い、身体を駆け巡る。
元々制御できていなかった力が溢れ出し、己の身体を崩壊へと導いていく。
瞬間、赤子の時の記憶が、走馬灯のように浮かび上がった。
ベッドに寝かされた二人の赤子。
片方の赤ん坊が泣き声をあげ、もう一人の赤ん坊がその泣き声によって泣かされていた。
泣き声に悩まされている赤子が自分で、もう一方が、今現在対峙している男。
唯一自分を泣かせ、父親以外で唯一覚えていた同じ種族。
そして奇しくもこの身体に傷を付けることができたのがこの男。
自分の始まりの記憶と、今まさに終わりの記憶を与えようとする男。
「馬鹿なああああああああああああああああああッッ!!!!!!!!!!」
(死ぬ。オレが・・・このオレが・・・・・だが・・・)
男は、自分が死に向かっていくことを実感しながら、どこか安堵していた。
(これでオレは、何も破壊しなくてすむ・・・・貴様のことは憎いが・・・感謝するぞ・・・)
薄れゆく意識の中、近付いてくる巨大隕石を見る。
星々を破壊してきた自分が、星と共に命を終える。
それも悪くない。そう思い、男は意識を手放した
意識が無くなる直前、突如目の前現れた光を、キレイだと思いながら――――
「星がキレイやな~。」
「ええ、そうですね。主はやて。」
八神はやてとシグナムは、家のベランダから夜空を眺めていた。
この日は晴天で星がよく見えていた。夜空に輝く星はまるで宝石のようでとても綺麗だ。
人工の光にはない優しい光が、はやては好きだった。
そしてそれ以上に、大切な家族と共に過ごす時間が大好きだった。
「前にも、こうやって星を見たな。」
「ええ、あの時もこのような星空でした。」
二人ともどこか遠い目をして過去を振り返る。
過去といっても一ヶ月も経っていない。だというのに、何故か二人とも黄昏ている。
直視したくない現実から逃れようとするかのように。
「はやてちゃ~ん。シグナム~。ご飯ができたわよ~♪」
「・・・できてしまいましたね。」
「せやな・・・・・。」
リビングから聞こえてきた弾むような声に、二人はこの世の終わりのような顔をしてため息を吐いた。
今日の夕食はあろうことか、ヴォルケンリッター毒殺担当・シャマルが作っていたのだ。
そう、彼女の作る料理は壊滅的なのである。
普段ならはやての手伝いに専念しているから、横で注意を促すことができるが、
今日は病院の診査が遅れ、夕飯を作る時間に間に合わなかったのである。
電話でそのことを伝えたのだが、おそらくこちらに気を使って先に料理を開始していたのだろう。
帰ったときには修復不可能な状態になってしまっていたのだ。
「さて、逝こか。」
「主、漢字が間違っていますよ。」
諦めた様子で二人は部屋の中に入っていく―――
「ッ!」
突如シグナムが今までいた空間を凝視する。はやてが何かあったのかと後ろを振り返る。
先程いた場所、何の変哲もないベランダの空間がゆらいでいく。
「主・・・御下がりください。」
「シ、シグナム。なんなん、あれ・・・。」
シグナムははやてを下がらせようとするが、はやては目の前の光景に釘付けになっている。
(まさか時空管理局の連中に嗅ぎつけられたか?だとしたら、主だけには被害が出ないようにしなければ。)
警戒しながら目の前の空間を凝視する。
ゆらぎから光が溢れ、光が収束したあと中から人影が現れる。
「来る・・・!」
シグナムが己が獲物を取り出そうとするが、光の中から現れた人物を見てその手を止める。
その人物は、瀕死の重症を負った男だった。もはや意識がないのか、目には生気がない。
そしてそのまま地面へと倒れ付してしまった。
「・・・・・・・・はっ。シ、シグナム!早くこの人助けな!」
「か、かしこまりました!シャマル!来てくれ!」
「どうしたの二人とも?!今、次元が揺れた感じがしたけど・・・。」
「はやて!大丈夫か!?」
しばらく固まっていたが、はやてが我に返り声を上げる。
リビングからシャマル、ヴィータ、ザフィーラが駆けてくる。
シャマルは目の前の光景を見て息を呑むが、すぐに自分がやるべきことを理解し、
男に治癒魔法を施していく。
しばらくしてシャマルが治療の手を止め一息つく。
「どうだ?助かりそうか?」
「なんとかね・・・本当に危ない状態だったけど、この人の回復力が高いおかげもあるのか、助かりそうよ。」
「こいつ、次元漂流者かな?」
「次元漂流者?」
ヴィータの発言を、はやてがオウム返しに聞き返す。
「それについては、後ほど説明いたします。まずはこの男を布団に寝かせましょう。」
「では俺が運ぼう。」
ザフィーラが男の身体を抱え上げ家の中へと入っていく―――
これは悪魔と呼ばれた、決して救われることがなかった男の
ありえない奇跡がもたらした物語
伝説のスーパーサイヤ人 ブロリー
彼はここで、破壊をもたらすのか。それとも・・・
『魔法少女リリカルなのは。超戦士は眠れない』
このような物語が始まると思っていたのか!
最終更新:2008年03月23日 16:25