足止めを続ける俺の射線に飛び込んできたのは援軍に来たヴィータとリインフォース。
地上に出ると同時に成されるレリックを奪おうとした少女達の速やかな捕縛。
そんなとき、無言だった少女の口が開かれて、
同時に索的レンジの中に発生したのは高エネルギー反応。
狙撃以外にありえない。そして対策はなにもとられていない。
速度と距離的になのは達が間に合うか怪しい。
ならば、手が届く俺がやることは1つ。
レールキャノンを展開。現状使える最大火力で最速の兵装。
アルファが悲鳴のような声を上げる。
第一宇宙速度の反動を受けても満タンドリンクで直せばいい。
そんな思考の中、巨大な魔方陣が6つも砲身に纏わり付くように激しく回転を始め、
後はトリガーを引くばかりとなる。
ターゲットまでの間に障害物は何1つ存在しない。外すはずがない状況。
しかし、トリガーを引く段階になって腕の震えに砲身が揺れ動く。
過剰ダメージ確定のレールキャノンでなにを狙えばいい?
魔法少女リリカルなのはStrikerS―砂塵の鎖―始めようか。

第12話 中破

全身が炎に包まれる。
ひよっこだったころならばパニックぐらいは起こしただろう。
だけど、火達磨なんて状態にはあまりにも慣れすぎた。
この程度ならたいしたことはないと炎に包まれながら思考する。
直撃したナパームが高粘度でへばりついて消えない炎に延々と炙り続けられたり、
丸焼きにされた戦車の中に閉じ込められることに比べれば、
ほんの数秒で終わる火達磨などダメージなんて言わない。
そしてなにより、装甲タイルがある。
バトー博士が再現したそれはあの荒野のそれと寸分たがわぬ同じもの。
決定的な違いは、戦闘中でも装甲タイルを回復できること。
魔力がある限り、装甲タイルは回復する。
装甲タイルがある以上、致命的な一撃は限りなく皆無。
キャロを守るついでに装甲タイルのトライアルとしてトカゲの攻撃を喰らってみたが、
貫通属性で抜かれてしまった。
本当に忠実に再現されている。
ならば、高出力の攻撃にも気をつけねばならないか。

「はんたさん!!」
「ノーダメージだ。さっさと立て直せ。」

スバルがわめいているが、即座に言い放つ。
アギトとか言ったか。
リインフォースⅡとどこか似た小さな個体。
それが絨毯爆撃のように炎をぶちまけてくる。
舞い上がる爆煙。
そんなとき、レーダーに動体反応を感知。マーカーはトカゲ。
舞い上がった爆煙にまぎれての奇襲か。
その程度で逃げられるはずが無いだろうが。
亜音速で振るわれる電撃鞭の手元に感じるのは絡みつく手ごたえ。
捕まえた。
魔法のおかげで電撃鞭の電力設定はつぎ込む魔力に応じて自由。
身体が覚えている最大電流はドクターミンチの死体蘇生1ギガワット。
人間なら即座に行動不毛になる電流を迸らせながら間髪置かずに引き寄せると
フォワード達から距離をとらせるべく反対方向へ投げ飛ばす。
鞭から開放されて再び轟音と共に下水の壁に突っ込むトカゲ。

「ガリュー!!」
「野郎!!」

少女が悲鳴のような声をあげる。
ガリュー。それがあのトカゲの名前・・・・・・使い魔というやつか。
怒りに震えるような声を上げて再びアギトが放った炎4発が直撃。
ダメージチェック・・・・・・・装甲タイル損傷・・・・・・回復完了。

「もっとデバイスの知識を手に入れて置くべきだった。」

思わず呟く。
炎を好き好んで使うということは炎属性に耐性があるからか、単に趣味か。
あの荒野ならば高確率で前者。
火炎瓶で火達磨にしても効果は薄い。
*すことさえできれば・・・・・・。
*す・・・・・・*せ・・・・・・*そう・・・・・・。
何度も最適に思える行動が脳裏によぎるのに、捉えられないもどかしさだけが胸に募る。

「ティア、どうする?」
「任務はあくまでケースの確保よ。撤退しながらひきつけたいのだけど。」
「こっちに向かってるヴィータ副隊長とリイン曹長と上手く合流できれば
あの子達を止められるかも・・・・・・だよね。」
「レーダーに機影2。ヴィータとリインが索敵レンジに入った。踏まえて現場指揮をしろ。
俺がデコイになるから撤退ルートの指示を。撤退はいい判断だ。」

ティアナの言葉に成長を感じる。
逃げるという選択肢が浮かぶようになったそれだけで、以前とは比べ物にならない。
以前のままだったら、相手を**することを優先とでも言っていただろう。
**ってなんだったか。
なんにせよ、ヴィータ達がくれば少しは楽になる。
レーダーに未だに健在の反応が苛立たしくてしかたない。
人間ならとっくに昏倒するダメージを叩き込んでいるのに、
まだ行動できるガリューとかいうトカゲはタフすぎる。
*してしまえればとっくにカタがついているのに!!

「なかなかいいぞ。スバルにティアナ。」
「「ヴィータ副隊長!」」
「私もいっしょです。二人とも状況を呼んだナイス判断です。」
「副隊長、リイン曹長、今どちらに?」
「アルファ、フォワード全員にレーダーをリンク。真上だ。」
「裁断機野郎。相手を串刺しにしてでも足止めしておけ。」
「・・・・・・了解。アルファ、リベットガン!!」
「了解しました。」

変形を始めるアルファ。
リベットガン。つまりは釘撃ち銃。
あの荒野では銃弾の代わりに五寸釘をぶちまけていたそれは串刺しに最適装備。
似た魔法に鋼の軛とかいう魔法があるらしいが、いったい誰が使う魔法なのか。
どうでもいいことだ。
まずは、相手を串刺しにしてでも動けなくするとしよう。
狙うのは関節部。
変形が完了したリベットガンの銃口をガリューに向ける。
好都合だ。
アギトと子供も一緒にいる。
まとめて行動不能にできる。
少し痛いだろうが泣かないでくれよ。
俺はトリガーを引いた。


========
「魔力反・・・・・・ルールー!!避けろ!!」
「え?」

視界に一瞬だけ映ったのはこっちに向かって飛んでくる大量の針。
次の瞬間、黒いものに全身を覆われる。
それがガリューのお腹だって気がついた。
お肉にナイフを刺したような音が止まない。
声を上げないガリューが震えながら、私とアギトをかばい続ける。

「リロード。」

そんな言葉と一緒に音が止んだ。
そっと頭を出すと、背中が針山みたいになったガリュー。
はっと息を飲む。
視界の向こうにいるのは爛々と光る赤いレンズの光。
ビル風みたいな音が響いてくる。
これはもしかして呼吸?
怖い。
初めてそう感じる。
目の前にいる人は物凄く怖い人。
ガリューと同じ使い魔かと思ったけれど、全然違う。
ドクターやクアットロよりもずっとずっと怖い人。
少しもやさしくない怖い人。
ケースを手に入れないとお母さんが眼を覚まさない。
でも、このままじゃガリューが・・・・・・。
そう思ったとき、怖い人から再び針が撃ちだされた。
再び聞こえ始めるお肉に針が突き刺さる音。
早く終わって!!
そう思ったとき、天井が割れる。
飛んでいた針が止んだ


========
「いくぞリイン。」
「はいです!!」
「おりゃぁぁぁぁぁぁぁ!!」

道を塞ぐ床をぶちやぶる。
舞い上がる土煙。
飛び込む一瞬で確認した全員の位置。
「射線に飛び込むな」とか声がした気がするけど今はそんなことよりこっちだ。

「リイン!!」
「捕らえよ。凍てつく足枷!!フリーレンフェッセルン!!」

忌々しいが見事としか言いようが無いほどに完全に相手が1箇所に固められてる。
チャンスとばかりにリインが唱えたのは捕縛魔法『凍てつく足枷』。
展開される氷の檻に閉じ込められる3人。
これでもう逃げられはしねぇ。

「おう、待たせたな。これでもう逃げらんねぇ。詰みだ。」
「皆、無事でよかったです。」

フォワード全員無事みてぇだ。
どこか呆然としたみたいにあたしらを見てる。

「副隊長達やっぱ強―い。」
「あの、局員が公共施設壊しちゃっていいんですか?」
「ギンガさんも壊してましたよね。」
「まぁ、この辺はもう廃棄都市区画だし・・・・・・大丈夫よ。たぶん・・・・・・。」
「ギンガさん、たぶんって絶対まずいですよ。」

あー、始末書になんのかな。
まぁ、必要な処置ってやつだ。
事件は会議室じゃなくて現場で起こってるんだ。
だからこれは現場の判断ってやつなんだ。
だからOK。問題なし。
そんなことを考えていたとき、無言でいた裁断機野郎のデバイスが声をあげる。

「敵、逃走します。同時に召還魔法の詠唱を確認。」
「なに!?」
「まさかそんなはずは!?」

その言葉にあたしは驚きの声をあげ、リインが慌てて凍てつく足枷を解除。
消え去った氷の檻の中にはなにもいない。
残されたのは穴の開いた床・・・・・・。
しまった。
まだ、下があったのか。
代わりとばかりに轟音が響くと激しく揺れ動き始める足場。
違う下水全体が揺れてるんだ。
揺れは収まる気配がない。

「なんだ!?」
「アルファさんがいったように、大型召還の気配があります。たぶんそれが原因・・・・・・。」
「ひとまず脱出だ。スバル!!」
「はい!!ウイングロード!!」

渦を巻いて天井へ伸びていくスバルのウイングロード。
これで脱出ルートは確保できた。
ケースはこっちが確保してる。
後は、こいつらを安全に脱出させて、あいつらを捕縛するだけ。

「スバルとギンガが先頭で行け、裁断機野郎は2人のバックアップ。
あたしは最後に飛んで行く。」
「「はい!!」」
「了解。ハンターフォーム。」

マッハキャリバーでウイングロードを駆け上っていく2人を裁断機野郎が追っていく。
裁断機野郎にぴったりのイカレた外見がいつもどおりの外見に戻っちまった。
なんで戻す必要があるかわかんねぇけど。
それにしてもあいつ足早ぇな。
人間ってマッハキャリバーの速度と同じぐらいの速さで走れるもんなのか?
傍らでなにかやってたティアナとキャロとエリオも駆け上り始める。
さぁ、とっととあいつらを捕まえるぞ!!


========
地上に逃げ出した私が呼び出したのは地雷王。
地雷王はさっきまで私達がいた場所の真上の道で電流を迸らせている。
あそこが壊れれば下はぺちゃんこに潰れる。
全部潰れてなくなる。

「駄目だよ。ルールー。これはまずいって!!埋まった中からどうやってケースを探す?
あいつらだって局員とはいえ潰れて死んじゃうかもなんだぞ!!」
「あのレベルならたぶんこれぐらいじゃ死なない。残念だけど。
ケースはクアットロとセインに頼んで探してもらう。」
「残念って全然よくねぇよ。ルールー。あの変態医師とかナンバーズ連中なんかと
関わっちゃだめだって!!ゼストの旦那も言ってたろ?あいつら口ばっか上手いけど、
実際あたし達のことなんてせいぜい実験動物くらいにしか・・・・・・。」

下で響き渡る轟音。
地雷王を中心に丸く陥没した地面。
ちゃんと落盤を起こせたみたい。
全部潰れたかな。

「やっちまった。」
「ガリュー、背中・・・・・・大丈夫?」

痛々しいほどに突き立てられた針は既に外したけれど、
ガリューの出血が止まらない。
全身が穴だらけのガリュー・・・・・・。
私に頷いてくれるガリュー。

「戻っていいよ。アギトがいてくれるから。」

一瞬、悩んだような仕草をしたけど、気のせいかな。
ガリューを送還する。
私はガリューに怪我をさせてばかり。
やっぱり怖い人はいなくなればいい。

「地雷王も・・・・・・。」

戻っていいと言おうとしたとき、突然展開される魔方陣。
拘束される地雷王。
抵抗するように地雷王が電撃を放っているけど、拘束はほどけない。
これは・・・・・・召還魔法?

「な、なんだ?」

横で驚いてるアギトを片目に、私は詠唱している局員の女の子を見つけた。
他には赤いのと、髪の長いのと短いのと・・・・・・。
数が足りない。
はっと気がつくと、建物の上から局員の女の人がシュートバレットを撃ってくる。
飛びのくアギトと私。
いつの間に・・・・・・あれ?
怖い人はどこ?
そう思った瞬間、全身に衝撃を受ける。
息が止まる。物凄く痛い。いったいなにが・・・・・・。
そう思う暇も無く、身体に巻きついたこれはガリューが捕まえられた鞭?
道のほうへ投げ飛ばされる私の身体が赤い髪の男の子に受け止められる。
2人ともいつの間にいたんだろう?
格好は全然違ったけれど、アギトを今捕まえようとしている緑色の人が
さっきの怖い人だって今更気が付いた。

「ここまでです。」

アギトと同じユニゾンデバイス?
小さな子が私とアギトにそう告げる。
氷の短剣に囲まれてアギトは動けない。
捕まっちゃった。どうしよう。

「子供を苛めてるみてぇでいい気分しねぇが、市街地での危険魔法使用、公務執行妨害、
その他もろもろで逮捕する。」

赤い人がそう言って拘束具を取り出す。
怖い人はなにをしているかな。
恐る恐る目を向けると私達を見ている他の局員とは違って、
1人だけ地雷王がいる地面を見ていた。


========
「ディエチちゃん。ちゃんと見えてる?」
「ああ、遮蔽物もないし、空気も済んでる。よく見える。でもいいのか、クアットロ。
撃っちゃって・・・・・・。ケースのほうは残せるけどマテリアルのほうは破壊しちゃうことになる。」
「ドクターとウーノ姉さま曰く、『あのマテリアルが当たりなら、本当に聖王の器なら、
砲撃くらいでは死んだりしないから大丈夫』だそうよ。」

そう言いながらも考えていることはまったく別。
死んでも死ななくてもどちらでも私は構わないの。
だって、壊れたらまた作り直せばいいだけなんですもの。
視界の下ではディエチちゃんが固有装備イノーメスカノンをくるんでいた布を剥ぎ取っている。
そろそろ撃ち落しごろかしら。
そんなとき、通信が入った。
相手はウーノお姉さま。

「クアットロ、ルーテシアお嬢様とアギトさんが捕まったわ。」
「あー。そういえば例のチビ騎士に捕まってましたねー。」
「今はセインが様子を伺ってるけど・・・・・・。」
「フォローします?」
「お願い。」

それだけで通信は終わり。
念話を使えばいいのにどうしてお姉さまは通信を使うのかしら。
さて、念話をセインちゃんに繋げてっと・・・・・・。

「セインちゃん?」
「あいよー。クア姉。」
「こっちから指示を出すわ。お姉さまの言うとおりに動いてね。」
「うん。了解。ところで、クア姉。私のインヒューレントスキルのディープダイバーって
索的されないはずだよね?」
「もちろんよ?どうしたの?」
「なんかこっち見てるのがいるから。」
「そうねー。警戒するに越したことはないから、地雷王は後回しになさい。」
「了解。」

私達の索的でも捉えられないセインのディープダイバー。
管理局ごときのシステムで捉えられるものか。
偶然に決まってる。
さて、さっさとヘリを片付けちゃいましょう。
ついでにルーお嬢様の救出も・・・・・・。
念話を繋げる。

「はぁい。ルーお嬢様。」
「クアットロ!」
「なにやらピンチのようね。お邪魔でなければクアットロがお手伝いします。」
「お願い。」

あら、なんて素直なルーお嬢様。
あまりにも素直すぎて笑っちゃいそう。

「はい。では、ルーお嬢様。クアットロの言うとおりに言葉を、その赤い騎士に。」

傍らではディエチちゃんのイノーメスカノンへエネルギーが収束を始めている。

「インヒューレントスキル、ヘビーバレル、発動。」
「『逮捕はいいけど、大事なヘリは放っておいていいの?』」
「あと12秒。11・・・・・・10・・・・・・。」
「あ、お嬢様。もう一言追加してもらっていいですか?
「『あなたは、また守れないかもね。』」
「発射。」

イノーメスカノンから噴出す砲撃のエネルギー光。
放たれた砲撃はヘリという的めがけて一直線。
今更なにかやってももう遅い。
これでおしまい。残念でした。
これから繰り広げられる光景を想像して、私の唇は自然と弧を描いた。


========
「市街地にエネルギー反応!!」
「大きい!!」
「そんな・・・・・・まさか・・・・・・!!」

騒ぎ始めたロングアーチ。
アルファの予測を信じなかったのか。
それとも・・・・・・。

「八神はやて、狙撃への対策は?」
「今、なのはちゃん達が向かっとる。」
「現在の高町なのはの速度では到達まで1.7秒±0.3間に合いません。」
「砲撃チャージ確認。物理破壊型。推定Sランク!!」

アルファとロングアーチの誰かの言葉。
なのは達の推進力がどかんと上がらない限り、間に合わない。
ヘリまでの距離を考えると、ソニックムーブで追いつくことも難しい。
狙撃もチャージが始まってしまったのならば止めようがない。
Sランクの砲撃をシャマルやヴァイスが受け止められるとも思えない。
残る手段はカウンタースナイプ。
今、手が届くのは・・・・・・。

「アルファ、マゾヒストフォーム、レールキャノン展開!!」
「無茶です、マスター!!!!!!」

悲鳴のようなアルファの声。
そう言いながらも変形をしてくれるアルファは優しい。
今まで俺はどれだけアルファに救われただろう。
たぶん、これからも救われ続けるのだろう。
なんて不甲斐ない・・・・・・。
そんなことを思ったのもほんの一瞬。
変形が完了したアルファから伸びる長大なバレル。
バレルを取り囲むように展開される○と△と幾何学模様の魔方陣が6つ。
どの魔方陣もどこかで見た気がするが思い出せない。
それらが一斉に回転を始める。
魔法陣が加速器の代わりだと感覚で理解。
わずか数秒で回転数がトップスピードに到達し、
同時に網膜に映るレールキャノンの表示がStandbyからReadyに切り替わる。
相手の位置も完全に補足済み。
狙撃はまだ放たれていない。間に合った。
後はトリガーを引くだけ。
だが、構えた瞬間に凍りつく。
なにを・・・・・・狙えば・・・・・・いい?
カウンタースナイプの定石である狙撃主を撃つか?
だめだ。これでは確実に*してしまう。
この砲撃の前には装甲もバリアもシールドも紙以下・・・・・・。
サディスト設定があったとしても意味は無い・・・・・・。
魔力ダメージのみにしても過剰ダメージ分はそのままダメージになると知ったから。
だが、撃たれる前に撃たねば相手に撃たれてしまう。
レールキャノン以外では狙撃するにも迎撃するにも間に合わない。
今から他の装備に変更していては間に合わなくなる。
まだ砲撃は放たれていない。
だが、時間はどんどん無くなっていく。
狙撃主を撃て、撃つな、撃て、撃つな、撃て、撃つな、撃て、撃つな・・・・・・。
早鐘を鳴らすように頭に鳴り響く2つの選択。
トリガーにかかった指が触れては離れてを繰り返す。
動揺を感じ取ったように震えるレールキャノンの長大なバレル。
まるでひよっこに戻ったみたいな見苦しい動揺。
だが、本当にどうすればいい?
*せ、*すな、*せ、*すな、*せ、*すな、*せ、*すな、*せ、*すな・・・・・・。
なにかとても重要な単語が欠落した最適解が、
脳裏によぎっては消えてよぎっては打ち消されて・・・・・・。

「マスター!!砲撃がなされました!!」

アルファの声に反応する。
高速で飛んでいく狙撃主からの砲撃。
これならまだ間に合う!!!!
アルファのデータを信じきった、完全なパラメータのみで行うブルズアイ。
アルファのデータが間違っているはずが無い。
高速で飛ぶ砲弾の到達位置めがけてトリガーを引く。
辺り一面に音速を突破した時に生じるブーム音が盛大に響き渡る。
発生したソニックブームに巻き込まれた周囲の地形が罅割れ崩壊を始める。
イエローから一斉にレッドに染まる俺のバイタル。
全力で抑えこんでも盛大に跳ね上がろうとするバレルを膂力に任せて押さえつける。
しかし、膝をついて必死にこらえても後ろに吹き飛ばされる身体は勢いを衰えさせることなく、
やがては俺の身体を道路から突き落とす。
いったい何mの高さがあったのか。
飛行できないマゾヒストフォーム。
当然のように俺の身体は下の地面に叩きつけられ、次に襲い掛かるのは全身の痛み・・・・・・。
装甲タイルの表示が駆け抜けるような速さで減少する。

「満タンドリンク投与します!!」

アルファの言葉と共に成されるのは、
まるでニトロオキサイドシステムのスイッチを入れたような爆発的な過給。
激痛が消えていく。
バイタルはレッドからイエローへ移行。
上の道やロングアーチが騒いでいるが、確信がある。
外すはずがない。
12000mの遠距離射撃に比べれば、この程度の狙撃・・・・・・。
ただ、薄々気がついていた欠点に確信を得てしまった。
走り回りながら戦えるように、あれが取り付けられていないのだと・・・・・・。
だから、反動で吹き飛ばされる。
普段、88mmを選んでいたのは無意識に身体が気がついていたからだと・・・・・・。
身体に合わせて武器を選ぶのではなく、武器に合わせて身体を作る。
明日が来るとは限らないあの荒野で当然の思考を反映した結果の欠点。
あまりにも脆弱。
どうしてこんなに俺の身体は脆い・・・・・・。
戦うのにあまりにも不向きなこの身体に感じるのは苛立ちだけ。
地面に転がったままアルファに尋ねる。

「ドーピングタブ何錠で耐えられるようになる?」
「・・・・・・。」
「アルファ!!ドーピングタブ何錠で耐えられるようになる?」
「・・・・・・無理です。致死量に至るほうが先です。」
「そうか。ハンターフォーム。ドリルアタッカー。」

起き上がりながらアルファに変形を指示。
バリアジャケットが分解され、再展開されると同時に、
金属音を上げながら変形を始めるアルファ。
ドリルアタッカー。分かりやすくいえば穿孔ミサイル。
古めかしくバンカーバスターなんていう名前で呼ぶべきか。
時折現れては消える微弱な反応への対策。
時間を止めるとか、召還のように空間を超越なんてファンタジーなものでないかぎり、
全てに対抗武器が存在する。
この状況で考えられる移動手段は召還と地中移動の2択のはず。
対熱、対冷気、対電気、対酸、対シェルター、対地、対空、対高高度、対遠距離・・・・・・。
それらの半分をカバーできるティンダロスやエクスカリバーはまだ使えない。
もちろん一番凶悪なミサイルも・・・・・・。
だが、対地武器はある。それだけで十分。
次に反応が現れたら、容赦なく撃ち込む。
さぁ、顔を見せろ。顔も知らぬ敵。
展開した翅によってのろのろと上昇をしながら、敵の出現を待ち構えた。


========
「砲撃・・・・・・ヘリに直撃?」
「そんなはず無い。状況確認!!」
「ジャミングが酷い。連絡つきません!!」

悲鳴のようなロングアーチからの声。
でも、大丈夫だ。
はんたさんが撃った物凄い砲撃が絶対になにか意味があったはずだから・・・・・・。
僕ははんたさんを信じる。

「そんな・・・・・・」
「ヴァイス陸曹やシャマル先生が・・・・・・?」
「てめぇ!!」
「副隊長おちついて!!」
「うるせぇ!!おい、仲間がいんのか?どこにいる!!言え!!」

激高しているヴィータ副隊長を止めようとするスバルさん。
でも、尋常じゃないくらいに起こっているヴィータ副隊長はスバルさんの腕を振り払い
女の子の胸倉を掴みあげる。
物凄い砲撃を放ったはんたさん。
たぶんなにか意味があったんだろう。
だから、きっとはんたさんが守ってくれたはず。
今は警戒するのが優先・・・・・・。
下水から出るときに共有されたはんたさんのレーダー。
僕達のレベルアップのために共有しなかったのに、
共有した現状がそれだけ切羽詰っていると考えるべきなんだろう。
僕達が未熟すぎて仕方なくっていうのもありそうだけど、なんでもいい。
とにかく油断だけはしない。
それに不意に現れた微弱な反応に僕は気がつき振り返る。
そこにあったのは・・・・・・指?
ほんの一瞬の戸惑い。
その動揺を読みきったように突然飛び出してきたなにかに腕を切りつけられる。
痛みで手放してしまうケースはそのまま相手の手元へ・・・・・・。
腕の痛みを我慢して、ジャンプ、詠唱。

「ストラーダ!!ソニックムーブ!!」
「Sonic Move.」

まだ、間に合う。
ストラーダの推進力に任せて飛び上がる。
腕を切りつければ向こうもケースを落とすはず。
相手は・・・・・・女の人?

「おっと。残念でした。」

かわされた!!
そんな言葉を残してすれ違いで落ちていった女の人は、
まるで水に飛び込むみたいに地面に消えてしまう。
足場が無いから連続で攻撃できない!!
ティアナさんが魔力弾を撃ち込んだけど、そこにあるのは変わらない地面。
逃げられた。
上昇しながら、周囲を確認。
下にいるはんたさんはなにを・・・・・・。
あれはミサイル?
あんなところで構えてどういう意味が?
考えるんだ、エリオ。
地面を水みたいにすり抜けられるなら相手はどうする?
そのまま下に逃げるのが一番自然。
足場が遮蔽物になるから追撃されない。
でも、下で待ち受けているのにはんたさんの反応は無い。
レーダーに変化もない。
つまり、相手はまだ逃げていない。
なにか狙いがあるから。
だとすれば、次に狙うのは・・・・・・。

「ヴィータ副隊長!!女の子の確保!!次に狙われるのはその子・・・・・・!!」

言うのが一瞬遅かった。
ヴィータ副隊長とティアナさん達が女の人がもぐった位置に走りよっている。
だから、女の子が完全にフリー。
案の定、現れた女の人が抱きしめるように女の子を連れてもぐってしまう。
大丈夫。
まだ、はんたさんがいる。
そして、反応は・・・・・・レーダーに機影1。
やっぱりこの機能は便利すぎる。
気がつけば見てしまう。
たしかに頼りきりになってしまうからとはんたさんがやめさせようとする理由が分かる。
そう思った瞬間、はんたさんのミサイルが火を噴いた。
立て続けに撃たれたミサイルは次々に地面に文字通り突き刺さりながら、
容赦のない爆風を巻き起こしていく。
・・・・・・刺さるミサイルってあるの?
やがて爆風が収まったとき、アルファさんの声が響いた。

「敵影の反応を消失。逃げられました。」
「直撃とまではいかないまでも、かなり至近弾になったはずなんだが。
思ったよりもタフな敵が多いらしい。」

呆然としているリイン曹長。
手元には何もいなくなった拘束具だけ。
着地する僕。

「ロングアーチ。ヘリは無事か?あいつら、落ちてねぇよな!!」

悲鳴のようなヴィータ副隊長の言葉が響きわたる。
そんな悲痛な空気とは正反対に、響いたのははんたさんのどこまでも淡々とした声。

「スバル。ウイングロードの展開を。狙撃主を追撃する。距離はいらない。
飛行の出だしができればいい。」
「りょ、了解。ウイングロード!!」

即席で作られたウイングロードのスロープ。
かなりの傾斜があるそれを身体強化がかかったような速度ではんたさんが駆け上がり、
空中に身を躍らせた次の瞬間、姿が消えた。
・・・・・・あっ!!

「そうだ。はんたさんなら詠唱0のソニックムーブが使える!!」

まだ終わってない!!
ヴァイス陸曹達も無事に決まってる!!
はんたさんがいて誰かが死ぬはずがないんだ!!
レーダーには凄まじい勢いで飛んでいく機影が1つ。
間違いなくはんたさん・・・・・・・あれ?
この位置にあるマーカーは・・・・・・・ヘリ?
それとその近くにある別のマーカーはなのはさんとフェイトさん!?

「ヘリも全員無事です!!」

僕の言葉にぽかんとしたような全員。
ああ、はんたさんの気持ちが少し分かったかもしれない。
僕でさえレーダー見てよって言いたくなってしまった。
ひょっとしたら僕達を見る度にこんなもどかしさをずっと抱えていたのかもしれない。
しかし・・・・・・以前も驚いたけど索的範囲が冗談みたいに広い。
これでもまだ全力って気がしないのは、僕の買いかぶりすぎなのかな。
けれど、どうしてもそう思えなかった。
さて、これからどうするか。
僕達の足じゃ追撃できない。
ケースは奪われてしまった。
陸戦魔導師ばかりの僕達にできることはない。


========
「スターズ2とロングアーチへ。こちらスターズ1。ぎりぎりセーフでヘリの防御成功!
別方向からの物凄い砲撃の余波でけっこう危なかったけど、もしかしてはんた君の狙撃?」
「あぶなかったー。ぎりぎりや。」

通信越しのはやての言葉に思わず同意しそうになる。
限定解除があと少し遅れていたら・・・・・・。
けれど、もしも間に合わなくてもヘリは撃墜されなかっただろう。
かなりゆれることにはなっただろうけど。
でも、高速で飛ぶ砲撃を何km先から迎撃したの!?
それにヘリ狙いの砲撃よりもはるかに早くて高火力・・・・・・。
もしかすると私達の持っている砲撃魔法のどれよりも早いかもしれない。
驚くのは後。今は、捕縛が最優先。
容疑者を確認。
プラズマバレットを撃ち込む。
相手を追い立てるような軌道で・・・・・・。
この軌道だと、着地できる足場はあそこ!!

「見つけた。」
「こっちも!?」
「早い!!」

私の声に驚いたように逃げ出す2人。
追跡開始。
もちろん追い込む方向は決まっている。
まずは、管理局の規則を守って相手の罪状を述べていく。

「止まりなさい!!市街地での危険魔法使用および殺人未遂の現行犯で逮捕します!!」

周囲にプラズマランサーを展開。
いつでも撃てるけど、撃たない。
この先ではやてが待っているから。

「今日は遠慮しときますー。」

私の言葉にそう答えた容疑者の姿が消えていく。
まるで幻影魔法で作られたフェイクが消えるみたいに・・・・・・。
これはいったい・・・・・・。

「LOVEマシン1323、トリガー。」
「え!?」

いつの間に!?
私の横にいたはんた君に驚く。
でも、それ以上に驚いたのは消え去った容疑者の姿が元通り現れたこと。
幻影魔法破り!?
相手も戸惑っていることがはっきり分かる。

「なんで?どうして?私は解除してないわよ!!もう1回!!インヒューレントスキル、
シルバーカーテン!!」
「LOVEマシン1323、トリガー。」

消えた瞬間に再び姿が浮かび上がる。
パニックを起こしている容疑者。
これなら絶対に成功する。

「はやて!!」
「位置確認、詠唱完了。あと4秒。」
「はんた君、はやての広域攻撃が行われるから退いて!!」

上昇しながら逆方向に進路を変える。
念話ではんた君に状況を伝えながら・・・・・・。
急ブレーキをかけて戻り始めるはんた君。
私の下を平行するように戻り始める。
ああ、そういえば上昇が苦手だったっけ。
でも、速度さえあれば上昇は簡単なはずなんだけど・・・・・・。
今はどうでもいいか。
戸惑う容疑者達。そして4秒が経過。

「遠き地にて闇に沈め。デアボリックエミッション!!」

はやての広域空間攻撃、デアボリックエミッションが発動。
球状に展開された純粋な魔力攻撃。
私となのはが9歳のとき、闇の書事件で初代リインフォースが使っていた魔法。
この魔法に逃げ場は無い。
悲鳴を上げて逃げ出す容疑者2人。

「We won’t surrender. Just as there is danger escape.
(投降の意思なし。逃走の危険ありと認定)」

デアボリックエミッションの射程の外、
バルディッシュの声を受けて、トライデントスマッシャーの詠唱に入る。
反対側でもなのはが同じように詠唱を始めている。
飛び出してきた2人の容疑者は視界に移った状況に驚いたのか。
固まったように脚を止める。
逃がさない!!

「トライデント・・・・・・」

動かない容疑者2人。
バルディッシュが稼動し魔力カートリッジが重厚な音と共に装填される。
詠唱完了。
後は放つのみ。

「・・・・・・スマッシャー!!」

三叉の光条が2人の容疑者に突き進む。
反対側からも同じように発射されるなのはのエクセリオンバスター。
2つの砲撃魔法に挟まれた容疑者。
そして着弾。
響き渡る激しい炸裂音。
爆風で満たされる一帯。

「アハハハ、ビンゴー!!」
「じゃない!!避けられた!!」

ロングアーチのアルトの喜ぶ声を打ち消すように響いたのはなのはの言葉。
私も気がついている。
まるでソニックムーブを使ったような高速移動で2人を一瞬でさらっていった。
かろうじて分かったのは何かが通っていったというだけ。
視認しきれなかった。
あれはいったい・・・・・・。

「直前で救援が入った。」
「アルト、追って!!」
「ハンター1。依然追撃中。」
「「「ええ!?」」」

シャーリーの言葉に私達は驚く。
気がつけばさっきまで私の下を飛んでいたはんた君がいない!!
あ、そうだ。
はんた君は詠唱0でソニックムーブが使える。
もしも動きを見切れたなら・・・・・・追跡できる!!

「アルト!!位置情報教えて。私たちも追いかける!!」
「はい!!」

逃がすものか!!


========
「トーレ姉さま。助かりましたー。」
「感謝。」
「ぼうっとするな。さっさと立て。馬鹿どもめ。監視目的だったが来ていてよかった。
セインはもうお嬢とケースの確保を完遂したそうだ。合流して戻るぞ!!」

そう言った直後に飛来した何かの直撃を受ける。
くそっ、なんだ!?いったいなにが・・・・・・。
まさか、事前に待ち伏せされていたとでもいうのか?
こんなイレギュラーな事態予想できるはずがない。
ならばレーダーさえ振り切り視認さえ出来ない速度で移動する私のライドインパルスを
追跡したとでもいうのか。
ありえない!!
だが、私の思いとは逆にレーダーがなにかを捉えている。
嫌な汗が滴り落ちるのを感じる。
私が動揺するだと!?

「市街地での危険魔法使用および殺人未遂および逃亡扶助の現行犯と認定。
逮捕するにあたり昏倒させて捕縛します。フェイトが述べたのでいまさらですね。」
「「「なっ!!」」」

響いたのは女の声。
だが、目の前にいるのは男・・・・・・インテリジェントデバイスか!?
いったいどうやって私達を補足・・・・・・。
いや、そんなことより、どうやってこの場を切り抜ける?

「クアットロ、シルバーカーテンを展開。一気に距離をとるぞ。」

私達の同類か?
いや、それ以上にヤバイ人型の何かだ。
いったいどこの誰がこんなやつを作り上げたって言うんだ!!
時間を稼げるかさえ怪しいが、まずは少しでも情報を集めなければ・・・・・・。

「は、はい。インヒューレントスキル、シルバーカーテン。」
「LOVEマシン1323、トリガー。」

これは!?
解除されたクアットロのシルバーカーテンに驚きを隠せない。
まさかこいつ対戦闘機人用の!?
そんなことを考えた瞬間さえ惜しかった。
空中にいた緑の男が高速で移動する。
無詠唱のライドインパルス!?

「ディエチ、クアットロ!!避けろ!!くそっ。インヒューレントスキル、
ライドインパルス。」

言っても間に合わない。
だが、分かっていても言わずにいられない。
奇妙な塊となったデバイスで殴り飛ばされるディエチとクアットロ。
響いた鈍い音が攻撃の重さを知らせる。
銃のように見えるのに、扱いがまるで鈍器じゃないか!!
吹き飛び瓦礫に突っ込むとそのまま昏倒してしまった2人。
回収して即座に撤退しなければ・・・・・・。
だが、まさかと思う事態が目の前に発生する。
首を撥ね飛ばしたと思った瞬間に響く鋭い音。
肉を抉った感触があったが、
実際は足首についているインパルスブレードが僅かに相手の左肩を切り裂いただけ。
こいつもライドインパルスの速度域が見えているのか!?
だが、確認している暇も休んでいる暇もない。

「高速振動剣。」

緑の男が告げると同時に私の目の前で変形を始めるデバイス。
チャンス。どうやら戦いなれていないようだな。
こんな高速戦闘の真っ最中にデバイスを変形させるのだから!!
2度目の攻撃に移る。
相手のデバイスは変形中。
全身にインパルスブレードが展開されている私と違って、
デバイスしか持たない相手には避けるしか選択肢は無い。
この攻撃で相手を吹き飛ばして、クアットロとディエチを攫って逃げるしかない。
可能な限り遠くへ・・・・・・。
こんなやつが管理局にいるなんて聞いてないぞ!!
紛れも無く必殺の一撃を叩き込む瞬間、割り込むように変形中のデバイスが差し込まれる。
ふん、なんのつもりだ。デバイスの変形中は脆くなっていることも知らん馬鹿か。
だが、次の瞬間、起こったのは噛み砕かれるように潰される私の右脚。
高速戦闘の最中に意識が驚きに染まる。
しまった。
他の思考に意識が飛んだ一瞬が命取り。
姿勢を崩して着地した私の視界に移ったのは、追撃を仕掛けてくる男。
右手には変形を完了した相手のデバイス。
ライドインパルス発動には時間が足りない!!
腕を犠牲にしても諸共にやられる!!
そう思ったまさにその瞬間だった。
まるで出来の悪い機械の電源を落としたように、ぴたりと止まる緑の男。
目の前に叩きつけられる相手のデバイス。
いったいなにが・・・・・・。
いずれにせよ、チャンスだ。

「インヒューレントスキル、ライドインパルス!!」

このとき、目の前の男の撃破ではなくクアットロ達を連れての逃走を選んだのはなぜか。
ずっと分からないままだった。
レーダーに入り始めた管理局の人間のせいかもしれない、
あるいは戦力分析をした結果、無意識に導き出した結論なのかもしれない。
屈辱だった。
戦闘用の私達以上に戦闘用の対戦闘機人なんてものが存在するなんて!!
もっとも、アジト戻った私達の目に映ったのはずたぼろになったセインとお嬢の姿。
ディープダイバー対策までなされているというのか!?
その事実に戦慄を覚えると同時に、違和感を覚えた。
・・・・・・あれは本当に管理局の人間なのか?


========
「すまない。取り逃がした。」
「仕方ないわ。みんなで油断しとったってことやな。」

意識を取り戻した俺の周囲に着地するなのは達。
はやての言葉にギリリと奥歯が鳴る。
目の前に転がっているのはさっきまで戦っていた相手の脚か。
たしか、トーレとか言っていたか。
フェイトのように高速戦闘をする女。
もっともそんなことよりも別のことに意識は向いている。
レッドフォックスもどき。
俺からすればそう表現すべき相手。
彼女と比べるなんてあまりにも愚かしいけど・・・・・・。
転がった脚の断面から見えるのは機械の配線が見えている。
アンドロイドか、サイボーグか、それともスバルが話していた戦闘機人か・・・・・・。
ヴィータやティアナからの報告が入り始める。
レリックは守りきったらしい。
幻影魔法でキャロの頭に隠していたとか言っている。
応用が利くようになったのは成長だろう。いいことだ。
逆に俺は・・・・・・。
かなり危ういことに嫌でも気がつく。
さっきの戦闘においてどのあたりから意識を無くし始めたか境目が思い出せない。
高速振動剣に変形を指示したところまでははっきり覚えている。
だが、そこから先は・・・・・・。
最近周期が早くなってきたことを切実に感じる。
時折起こる意識の喪失は、まぎれもなくあの薬の重度中毒症状。
ほんの数秒に過ぎないが、戦いの中では致命的。
刻み込まれた遺伝子の記憶で身体は勝手に戦いを続ける。
だが、そうなれば識別なんてありはしない殺戮マシン。
それでは高町なのはとの約束が果たせなくなる。
それでは駄目だ。今しばらくは持ちこたえねばならない。
バイタルはとっくに全てがイエローアラート。
決してグリーンに戻ることはない。
満タンドリンクでも直らない。
だけど、壊れるときはきっと全身がレッドアラートになってから・・・・・・。
感覚がそう教えてくれる。
だから、まだ戦い続けられる。
最後まで強くあり続けた彼女のように最後まで・・・・・・。
彼女を理解するまでは壊れられない。
だから、バイタルに赤と黄色の明滅を繰り返す部位があることを俺は黙殺した。
機械にとって一番怖い状態はどんな状態か?
壊れすぎて完全に動かなくなる大破では無い。
大破したならば、部品を交換すればいいのだから。
壊れるときにかかった負荷はあちらこちらにダメージを残す。
そのせいで全体的には壊れやすくはなるが、部品さえ変えれば元には戻る。
以前のようにとまではいかなくとも動けるようになる。
壊れているけど致命的ではなく動くことが出来る小破でも無い。
それは歯車の1つが欠けたようなもの。
元通りの性能で動けないだけで致命的にはなりえない。
動かし続けてもいいし、部品を交換してもよい。
では、致命的な損傷が起こっているのに動けてしまう状態は?
例えるならそれは全ての部品に皹が入ったエンジン。
いつ崩壊するか分からず、なぜ動けてしまうのか不思議なほどに絶望的な状況。
明らかに性能は落ちているのに、動けてしまうエンジン。
万が一そんな状態で動かし続けたらどうなる?
しかも、だましだましなんてレベルじゃない次元で稼動させたならば・・・・・・。
エンジンは修復不可能なまでに壊れてしまう。
大破よりも絶望的に、跡形も無く、エンジンと分からないほどに・・・・・。
致命的に壊れているのにまだ大丈夫と動かせてしまう。
中破と呼ばれるのはそんな状態。


 

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最終更新:2008年04月02日 21:45