Pyrophobia
スバルを取り巻く山林、木漏れ日の様に注ぐ月光がその少年を照らしていた。剣を持ち、衣服を血に濡らした少年を。
……何だろ、見覚えがある様な……?
その顔立ちにスバルは誰かの面影を見る。だが気のせいだったのか、はたまた付き合いが薄い相手だったのか、誰を重ね見たのかは解らなかった。
「あの」
と、少年が声と共に踏み込んできた。それに対してスバルは、
「……!」
後ずさる、という行動で応える。そうする理由は、一重に少年への不審と疑心だ。
「待って下さい! 僕は……」
そんなスバルを少年は追いかけた。手を伸ばしてこちらを掴もうとし、直後、
「皆殺しだああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーッ!!!」
憎悪の咆哮が山間に響いた。
「―――っ!?」
込められた狂気に鳥肌がたつ。それは少年も同様だった。2人は足を止めて声のした方向、隣接する山の頂上部を見た。
満月を傍らに掲げる山頂、そこに声の主はいる。
……一体、誰が……?
スバルは固唾を飲み、硬直した。大音の後の静寂、緊迫が山腹に張り詰め、そして爆発した。
「!!」
山頂よりも僅かに下方、その位置で天上方向への破壊が放たれたのだ。遠目にも木々と土砂が、半端ではない質量が舞い上がったのが見て取れる。
「まずい!」
少年が焦りを含んで叫ぶ。声にこそ出さなかったが、スバルもそれは同様だ。
……あれだけの質量が、あの高さから落下したら……!
そうでなくとも、それだけの質量を浮かせる破壊が生じたのだ。その三つが重なって起きる事態は、
「――崩落!!」
上り詰めた所で質量は落下し、再度の轟音を立てて山頂付近に激突した。破壊によって緩んだ地質は再度の打撃によって瓦解し、落下した質量と共に流れ落ちる。
その方向は、自分達のいるこの山だ。
「く……っ!」
迫る怒濤を回避すべくスバルは動いた。足場に魔法陣を出現させ、右の拳を地面に叩き付ける。
「ウイングロード!!」
宣言はスバルが遺伝した先天系魔法の名、空中に架け橋を作る能力だ。蒼の帯が空中へと伸びたのを確認し、スバルはその上を駆ける。
……急げ!
マッハキャリバーがいない為、スバルの移動速度は格段に下がっている。息を切らして走る間も崩落は迫り、やがてスバルがいた場所へと到達した。
「うあっ!」
自然災害の圧倒的な威力に、ウイングロードの基点が呑み込まれた。振動、倒壊、そして消滅、基点部からウィングロードが分解していく。
分解を視界の端に捉えたスバルは離脱を決行、幸いにして高低差も少なく、草の上を数転しただけで着地する事は出来た。
……助かった……
振り返った先で、ウイングロードが完全に消滅する。加えて見れば、今まで自分が立っていた場所は土砂によって完全に埋まっていた。
と、被害を見やった所でスバルは一つの事実を思い出す。
……あの子は、どうなっちゃったんだろ……
自分と対峙していた、剣を片手にした血塗れの少年。彼は崩落から逃れられたのだろうか。
「あ」
思いと共に見回した所で、さした時間もかからずに少年は見つかる。少年は、空中に立っていた。
「…飛行魔法」
それは魔導師にとって、優秀と凡庸を分ける目安。それ単体ならば簡単でも、他の挙動や魔法との同時並行は困難な、ある意味では“基礎にして奥義”とも呼べる技能だ。
……それを、あんな小さな子が……
その事実に、嫉妬を通り越して驚きに至ってしまう。自分や今はいない相棒が、憧れて止まないその技能を、年端もいかない少年が使う事に。
何時しか少年は降下を始め、積もった土砂の上に足をつける。その表情は、緊迫の一色。
「――何者だ」
少年は手に持つ剣を構え、一方へと声を放つ。誰かいるのか? その疑問にスバルは視線を向け、
「……え?」
人影を見た、と言って良いのだろうか。月光に浮き出るその輪郭は、巨大な両腕の人型だった。
「―――ッ―――ッ―――ッ」
巨大な両碗を土砂に突き立て、その人型は唸りを漏らす。
「一体、どうやって……」
そこまで言って、スバルは一つの推測を閃いた。荒唐無稽で、しかし恐らく正しいだろう推測を。
……まさか、土砂に乗ってきたの!?
恐らく咆哮の主もこの人型だろう。そして殺意を持った人型は攻撃手段として、移動手段として崩落を起こした。
「何て無茶苦茶な……」
思わず想到しそうしそうになる無茶だった。とスバルが驚愕する内に、人型は暗がりから土砂によって開けた場所へ進み出た。その姿にスバルは、え? と驚きを零す。
その人型に、見覚えがあったからだ。
「……ナンバーズ12、ディード」
ジェイル・スカリエッティによって制作された戦闘機人、その12号機だ。しかし今の様子を見て、スバルは自分の知るディードと重ねる事が出来なかった。
……そりゃ、あの子とはそんなに交流は無かったけど……
だが、希薄な感情と冷静沈着な性格をした女性だった筈だ。だが今の彼女はまるで獰猛な獣に見える。そもそも自分が知るディードは、あんな腕をしていない。
「……一体、何が…」
ディードの異様にスバルは息を飲む。
「――見つけたぁ」
あたかも頬まで裂けている様な、そんな笑み。狂気と獰猛を混濁させた感情が放たれた。
「奴をぉ……出せぇ……っ」
「だ、誰の事……? 奴って……」
後ずさるスバルにディードはにじり寄り、決まってる、と続ける。
「糞野郎を………セフィロスを、出ああああぁぁぁぁぁぁぁせえぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっッ!!!」
巨大な両腕を振るい、ディードが疾走した。
●
崩落した土砂の上を駆け、ディードは狙うべき獲物を見定めた。
……タイプゼロ・セカンド……ッ!!
見た事も無い子供がいるが、そちらは後回しだ。勿論逃がすつもりは無いが、かといってタイプゼロ・セカンドより優先する程ではない。
……セフィロスを引っ張り出す、餌ぁ……っ!!
幸先が良い、とディードは思う。このゲームが始まって早々、セフィロスに繋がる
参加者と出会えた事は。
「らあああああああああああッ!!」
振り抜くのは左碗、三つ指が環状に並んだ義手だ。三本の尖鋭を窄めれば、それは一本の巨大な槍となる。
「………っ!!」
焦燥と共に避けたタイプゼロ・セカンド。その座標を左腕が抜き、先にあった樹木の腹を貫く。尖鋭と大出力の貫徹により、左腕は肘辺りまで埋まる。
一般的に見れば失策、だが、
「それで避けたつもりかぁっ!!」
作業用アームから転用された義碗は更なる出力を発揮、樹木から引き抜くのではなく、横に抜いて樹木を破った。それによって樹木の上半分が倒れ、木片が散弾の如く飛び散り、
「うあ……ッ!」
中空のタイプゼロ・セカンドを撃った。
細々とした木片群がタイプゼロ・セカンドの柔肌に刺さり、彼女の着地体勢を崩す。山林部から土砂の上へと落ち行く彼女に、ディードは更なる追い打ちをかけた。
右腕で左肩を触れる様な準備態勢、腰を存分に捻り、そして、
「うぅぅぅぅぅぅらああぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっッ!!」
さながらホームラン狙いでバットを振るように、高速を持って右腕が振り抜かれた。その射線上にあるのは、体勢を崩したタイプゼロ・セカンドの体躯。
「……が…ッ」
強固にして鈍重、それを慣性のままに振り抜く一撃は強力無比。右腕がタイプゼロ・セカンドを跳ね飛ばし、土砂に叩き付けた。
土砂の上を転がり続けるタイプゼロ・セカンド、それを追ってディードは跳ねる。
「――はッ!!」
両腕を上から振り抜いて地に叩き付け、その反動によってディードは高速を得た。そして横転が止まり、体を軋ませるタイプゼロ・セカンドに向けて、再び腕を叩き付ける。
かに見えた。
「――――――――ぶっ!!?」
だが叩き付けられたのは、ディードの方だった。
中空で構えた直後に感じたのは、顔面に感じた強固で平たい打撃。慣性としては自らその打撃に突っ込んでいるのだ、その威力は一入に加わり、
「がぁああああアァァぁっ!?」
体躯を若干捻りつつ、ディードは打ち返された。
……な、にが……?
鼻腔に流血と粉砕を感じつつ、ディードは着地する。そして視線をタイプゼロ・セカンド、たった今自分が打撃を喰らった地点に向ければ、
「餓鬼ぃ……ッ!!」
優先順位を下と定めた、血塗れの少年が剣を構えていた。察するに、自分の顔面を打ったのはあの剣の腹か。
「そこまでだ!」
少年の凛とした声が山間に響く。
「時空管理局執務官、クロノ=ハラオウンだ! これ以上の戦闘行為を行うつもりなら……僕が相手をする!!」
……クロノ=ハラオウン……?
少年の宣言、その内容にディードは疑問を持つ。直接の面識こそ無いが、クロノ=ハラオウンという人物についてはDr.からある程度知らされていた。
若年にして執務官を勤めた優秀な魔導師、後にフェイト=テスタロッサの義兄となり、大型次元航行艦の提督となった傑物だ。ちなみに二児の父親らしい。
……だが……
今目の前にいるのがそのクロノ=ハラオウンというのか。どう見ても10歳かそこらの子供にしか見えない。それこそ回想した情報の一つ、“若年にして執務官を勤めた優秀な魔導師”の様だ。
……しかも、名乗りも執務官……
どういう事だ、と思う。
まさか、今目の前でクロノ=ハラオウンを名乗った少年は、過去から来たとでも言うのか。
●
どういう事か、とスバルは思う。自分とディードの間に立ち、宣言した少年について。
……クロノ…ハラオウン……?
名前ぐらいなら聞いた事がある。機動六課の後見人の一人で、フェイト隊長の義兄。そして本局でも有数の能力を誇る優秀な人材。
……でも……
そのクロノ=ハラオウンは自分よりも歳上だ。目の前の少年がそのクロノ=ハラオウンと同一人物とは思えない。
「君は……」
「――どぉでもいぃ」
滲み出る怨嗟の呟き、それがスバルの注意をクロノからディードへと移させた。口角と鼻から僅かに血を滴らせる彼女は、巨大な両碗を揺らして立ち上がる。
「お前達が何なのか、は、どぅでもいぃ……」
こちらに向けた双眸は怨嗟一色。そして、
「殺されてくれれば……あいつを見つけ出せれば……どぅでもいぃッ!!」
疾走。
「まだやるつもりか!?」
向かってくるディードに対し、クロノは再度剣を構える。
……駄目…ッ!
それでは抑えられない、とスバルは判断する。先ほどは顔面、不意打ち故にどうにかなったが、敵対者として認知された今、華奢な少年の身体能力で対応出来るとは思えない。
「私がッ!」
ディードを迎え撃つべく、スバルはクロノの脇を抜けて走る。
「いけない……戻って下さいッ!」
走り抜けるスバルの背に少年の声がかけられる。それを無視してスバルは自身の能力を起動させた。
「――IS、発動ッ!!」
叫びと共に起こるのは変色、スバルの双眸が金色へと変ずる。戦闘機人としての覚醒だ。
……振動拳で、ぶちぬくッ!
狙うは自身のインヒューレントスキルによる両碗の粉砕。機械、特に戦闘機人に対して絶大な攻撃力を持つこの能力なら有効だ、とスバルは判断する。
「おぉ………ッ!!」
「らあああああああぁぁァぁぁぁぁッ!!」
叫びの交差は体躯の交差。ディードは左腕を、スバルは右腕を振りかざし、互いを打ち抜こうを疾駆する。
「「―――――――――――――――――――――――っッっ!!!!」」
迫り、到達し、動きは起こり、そして、
「――まぁまぁ」
と、
「ワシの為に争っちゃイヤん」
隻眼の老人に、ディードとスバルの乳が鷲掴みされた。
……あれ?
何だろう、何か変だな、そんな風にスバルは思う。確か自分はディードと決死の一撃を交わそうとして、緊迫の中で疾走した筈なのに。
「ふむふむ」
その筈なのに、
「ほうほう」
一体どうして、
「どちらも中々どうして……」
突然現れた老人に、
「絶品じゃのう!」
乳の品定めをされているだろう。
「い、いやああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!?」
気がついた時には絶叫、止まっていた右拳を老人の顔面に叩き付けた。この反応はディードも同様だったらしい。叫びこそあげなかったが、止まっていた左腕が老人の後頭部を打つ。
結果は大打撃の挟み撃ち。
「ぶほおおおおおおおおおおおおおッッ!!?」
珍妙な叫びと共に老人が吹っ飛んだ。
「はぁ……はぁ……はぁ……」
思わず肺腑の息を使い切り、全力全開で一撃を振り抜いてしまった。両腕で胸部をがっちりと隠し、へたり込んでスバルは息継ぎする。
ふと見やれば、後方ではクロノが頬を赤くして明後日の方向を見ていた。
……な、何だったんだろう……?
否、誰だったのだろう、と言うべきか。突如現れた老人にスバルは疑問を馳せる。そうしてその姿を見ようと吹っ飛んだ方向を見やり、
「…あれ?」
いなかった。影も形も無く、老人の姿はなかった。
「ど、どこに……」
辺りを見回して、
「ふぅむ、随分派手な挨拶じゃのう、お嬢さん」
「――っ!?」
すぐ隣にいた。前触れも無く、気配もなく、余韻も無く、スバルの隣に隻眼の老人はいた。
「あ、あなたは?」
先とは別の意味で、スバルは老人を警戒する。気配も無しに吹っ飛ばされた位置から自分の隣に移る。それを出来る人物が、ただ者である筈は無い。
「ありゃ、忘れちまったかの?」
警戒心を剥き出しにするスバルを、老人は意外そうな表情で見返す。
「わしわし、八竜の虚空。崩や塁とかと一緒に顔見せしたじゃろ?」
●
聞き慣れない単語に、思わずスバルは問い返していた。
「はち、りゅう……? 崩に塁って……人の名前ですか?」
「異な事を言うの、お嬢ちゃん。……確か、スバルちゃんじゃったか?」
ほとほと不思議に思ったのか、虚空なる老人は腕を組んで首をひねった。
「お前さん、烈火やら紅麗やらと一緒におったじゃろうが」
「烈火? 紅麗……? 誰の事ですか?」
「……本気で覚えとらんのか?」
眼帯に覆われていない片目を細め、虚空は思案するようにスバルを見る。
「覚えてないとか、そういうんじゃなくて……本当に、知らないんですけど」
勿論お爺さんの事も、とスバルは付け加え、対する虚空は、ふぅむ、と唸って天を見やった。
「一体全体どうなっておるのか……忘れさせられた? 確かに記憶を操る魔導具もあったが……」
「何をぉ……ごちゃごちゃとぉ……ッ!!」
悪寒。次いで脊髄反射。
「うわ……ッ!」
飛び退いたスバルと虚空、つい先ほどまでいた地点がディードの義碗によって叩き潰された。
「和むなぁ……人のぉ……触ってぇ……糞爺ぃ………ッ!!」
気のせいか殺意が強まってる様な、とスバルは思う。
「死ぃねぇッ!!」
と、ディードは再び迫る。身構えるスバルだったが、
「ふむ、やれやれ」
虚空がそれに先んじた。
「随分と曇った戦い方をするの、お前さん」
「……ッ!!」
突かれた左腕、しかし虚空は跳ねてそれを躱す。
「そんな戦い方じゃ、ワシみたいのは捕まえられんがなぁ」
「黙れ!!」
振られた右腕、それも虚空は空中で身を回して逸らした。
「ほれほれ、ワシはここじゃよ?」
「がああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっッ!!」
乱雑に両の義碗を振るディード。五月雨と言っても良い連撃を、しかし虚空は適切に躱す。
「……すごい」
いつの間にか隣に並んだクロノが呆然と呟く。声にこそ出さなかったが、スバルもまた同様だ。
……やっぱりあの人、ただ者じゃない……
まるで川を流れる木の葉みたいだ、と虚空の体術を表現してスバルは息を飲む。あれ程の体術、格闘派のシグナム副隊長やシスター・シャッハでも出来ないだろう。
「あああああああああああああああああああッっ!!」
そんな中、ディードが痺れを切らしたように吠えた。
「これでッ! 死ねッ!!」
渾身の一撃、そう表現出来る振り抜きが果たされた。果たしてそれは、虚空の胴を捉えた。
「お爺さんッ!!」
身を乗り出したスバル、その先で老人は義碗を受け、
「え」
消えた。
否、消失した訳ではない。花びらにも似た欠片の群へと変じたのだ。赤い様でいて時に金色を放つそれは、
「……火の粉?」
呟いたのはクロノだった。それを切っ掛けにして、変化は起こる。
「――――!!!」
大気に揺らいでいた火の粉が突如として旋回、次第に火力を強め、さながら竜巻となって夜天に渦巻いた。
竜巻はやがてうねり、一つの形を作る。顎を持ち、目を持ち、しかし手足は無い。その姿は、
「蛇…ううん、これは――竜!」
『――左様。これぞ八竜が一角、虚空の姿ぞ』
竜と化した炎、それが放つのは先ほどまで老人だった、虚空の声だった。圧倒的な威圧を宿し、竜の言葉は三人に降り注ぐ。
『さあ、まだ戦うか娘よ。この儂の姿を見て、未だ戦意をまき散らすか……!?』
圧力を向けられたのはディードだった。彼女はへたり込み、呆然と虚空を見上げる。
……戦う、なんて言える筈無いよね……
協力してくれているとはいえ、虚空の威圧はスバルにも及んでいた。息も詰まる緊張を強いられる感覚、それを向けられて、尚も戦闘継続と言える筈は無い。
そう、スバルは思っていた。
「……ぃ」
だが紡がれた言葉は、スバルの予想に反していた。
「………ひ、ぃ」
「――え?」
スバルの見やる先で、ディードが崩れ始めていた。
全身を震わせ、双眸は焦点を結ばず、嗚咽するように喉を痙攣させ、そして、
「火いいいいいいいぃぃぃぃいぃぃぃ嫌ああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっッっ!!!?」
「「『――――――!?』」」
それは狂乱だった。火の竜と化した虚空を見て、ディードは狂ったように鳴き叫ぶ。
「嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌あっ!!
こないで寄らないで焼かないで御免なさいやめて下さいいぃぃぃぃぃぃッッ!!
腕、うでっ! 燃えるっ! 焼かれる! 灼かれる!! 爛れちゃうよ溶けちゃうよ痛くなっちゃうよぉっ!!
やめてお願いだからもう焼かないでええええええぇぇぇぇぇぇッッ!!!」
……ど、どうしちゃったの!?
その異様にスバルは驚愕する。先ほどまで暴力の限りを尽くしたディードが、これでは一辺して愚図る赤子ではないか。こんな様子を、そうなる理由を、スバルは全く知らない。
「やだやだやだやだやだやだもうやめてぇ!! もうやめてよおぉっッっ!!!」
泥に、涙に、鼻水に、唾液に、そして恐怖に塗れてディードは腕を振り回す。
まるでこの場にいない誰かを振り払うように。
そして、
「……いけない!!」
クロノの叫びは、両腕を上げたまま身を逸らしたディードに向けたもの。
「きえてえええええええええええええええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇえぇぇぇぇぇっ!!」
そのまま地に叩き付けた。
「しまった!!」
危機感がスバルの脳裏を走った。見やるに今の一撃はディードの全力全開、そして彼女の一撃は崩落を引き起こすだけの威力を出せる。
……つまり……!!
スバルが足場の揺らぎを感じた、直後、
「「―――――――――――――――――――――――――――――っッっ!!!」」
スバルとクロノが立つ土砂塗れの大地が、再び崩落した。
【一日目 AM0:40】
【現在地 G-7 山麓】
【ディード@魔法少女リリカルなのはStrikerS 片翼の天使】
[参戦時間軸]11話中。自室で寝ていた頃
[状態]健康・憎悪・錯乱・鼻骨骨折
[装備]両腕の義手
[道具]支給品一式、救急箱
[思考・状況]
基本 セフィロスを殺す
1.火嫌っ! 火怖い!! 火消えてよぉ……ッ!!!
[備考]
※主催者から直接送り込まれた、いわばジョーカーです。食糧は他の参加者よりも充実しています
※左の義手からはAMFバリアが外されています
※腕の構造上、手持ち武器を握って使うことができません
※炎熱に対して極度の恐怖心を持っています
●
人為の災害に呑まれつつも、スバルは生存を断念しない。
「ウイングロード!!」
再度発現される、青い架け橋。地を基点にするとまた土砂に砕かれてしまう為、空中にそれを生じさせてスバルは飛び移る。が、
「う、うわ……!」
崩落を足場とした跳躍は不完全だった。ウイングロードの端に手はかかるが慣性を殺し切れず、
……振り落ちる……!?
危機感、瀕死の予感が走る。だがそこに救いの手はあった。
「手はいるかな? お嬢ちゃん」
「お爺さん!」
虚空と名乗り、そして炎の竜に変じた老人が自分を見ている。いつの間にか、ウイングロードに移動したようだ。
彼の助力でスバルはどうにか路上に這い上がる。その際、尻を掴まれた気もするがとりあえず置いておく。スバルの望みは、自身の生存だけではないからだ。
「あの子を……!!」
クロノ=ハラオウンを名乗ったあの子は、どうなってしまったのか。ウイングロードの上からスバルは崩落を見回し、やがて見つけた。
土砂に呑まれつつある、少年を。
「……助けなきゃ!」
望みと共にウイングロードは伸張、流されるクロノに並ぶ。スバルは路上を駆け、クロノへと手を伸ばす。
「掴まって!!」
「……………ッ!!」
伸ばされたスバルの手に、少年もまた手を伸ばす。だが、それは救済を求めた手ではなかった。
「――え」
スバルが握ったのは、少年の手ではなかった。固いその感触は人のそれではなく、器物のそれ。
掴まされたのは、少年の握っていた剣だった。
「ま、待ってよ!」
……私が掴みたいのは、こんなんじゃない!!
しかしクロノは、最早スバルの届かない程に埋もれ、流されている。
……私が掴んでも一緒に引きずり込まれちゃうから? だから君は私の手を掴まないの!?
「これを使ってくれって、君はそう言うの!?」
持たされた剣の意味をスバルは問う。そして見やる先で、少年は答えた。
「――生きて下さい!!!」
土砂に呑まれながらも、死に呑まれながらも、その少年は、確かに笑んでいた。
【クロノ=ハラオウン@マスカレード 死亡】
【一日目 AM0:45】
【現在地 G-7 山麓上空】
【スバル=ナカジマ@反目のスバル】
[参戦時期]STAGE9 C.C.に気絶させられた後
[状態]膝に擦り傷・体のあちこちに木片が刺さっている・ウィングロード発動中
[装備]エスパーダ・ロペラ@リリカルなのはMS
[道具]虚空@FLAME OF SHADOW STS・支給品一式・ランダム支給品0~2個
[思考・状況]
基本:ルルーシュを探す
1:あの子を…助けられなかった………っ!
2:ルルーシュに会わないと……
[備考]
※名簿はルルーシュの名を見つけた時点で見るのを中断しています。よってフェイト・エリオ以外の六課メンバーの存在を知りません
※「参加者はそれぞれ別の時間から来ているのでは?」という疑念を持ちました
[虚空 思考・状況]
基本:この殺し合いを止めたい
1.極力、自分の攻撃力を使わずに戦闘を止める
2.スバルを支えたい
※まだスバルの体内に宿っていません。宿るまでスバルは虚空の能力を使えません
※参加者の体に宿っていない間、虚空の取れる行動は以下の通り。
①人間形態での独立行動(異常にすばしっこい事を除けば常人並み)
②火竜形態への変身(姿が変わるだけ。特殊能力は使用不可)
③神出鬼没
※G-8山頂付近が削れ、G-7山麓に土砂が積もっています
※崩落による土砂がH-7の川に流れ込みました。この区域のみ川が浅瀬になり、横断出来ます。尚、土砂の中にクロノ=ハラオウン@マスカレードの死体が埋まっています
【火竜】
・扱い/支給品指定。デイバックの中に“力の塊”として収納されている。火竜は、その状態では一切の行動を取る事が出来ない(虚空は例外)
・使用方法/“力の塊”状態の火竜に触れる事。それによって火竜が体内に入り、使用可能となる。その場合、腕に火竜の頭文字が刻まれる
・備考/体内に宿る参加者が死亡した場合、再び“力の塊”状態となって体外に出る。その状態なら別人が宿す事も可能。ただし火竜の記憶は維持
・制限/①能力発動の際に、火竜の頭文字を描く事
②ある程度の体力・精神力を残している事
③使用する度に体力・精神力を消耗する事。度合いは発動する能力の規模に比例
最終更新:2008年03月23日 19:54