『AMF』
元々は高ランクの魔道士及び騎士が使用し、また管理局では大規模事件の際に大型トラックに積載される発生器によって
運用されていた技術。
だがJS事件の首魁、ジュエル・スカリエッティが自身の被造物たるガジェットに搭載できるまで小型化し、さらに運用時間の
延長によって本来、高度な技術の塊であった『AMF』は各管理世界に流出、普遍的な物となり次元世界における戦争を
一変させていた。

『第97管理外世界』
高度な科学技術を持ちながら魔法技術がまったく無い故、管理世界の末席にすら並ぶ事はないとされた管理外世界。
だがこの世界の兵器体系に着目した一部の管理世界によって魔導関係の理論がもたらされた時、すべては一変した。
当世界における国家連合にいくつかの次元世界政府・企業が魔導技術の提供と引替えに管理世界では失われて久しい
各種技術を得る事になる。

『ヴァンツァー』
第97管理外世界に置いて開発・発展していった人型兵器。
障害処理、有視界・市街地における戦闘に威力を発揮し、第97管理外世界における戦場を一変させた兵器。
そしてそれは次元世界においても同じ事であった。
AMF発生器を搭載された管理世界製ヴァンツァーは魔道士・騎士と言った元来の戦力の有効性を低下させ、それらを主戦力と
していた時空管理局の地位を相対的に低下させた。

そしてそれらは再び次元世界における長き戦争の種火となる。
これはその戦争の時代を駆け抜けた一人の魔法少女の物語……。


「スバル!!また遅刻よ!!」
「だってぇ~、ティア~、ノーヴェが起こしてくれないんだもん」
「ちょっと待て、ハチマキ!!あたしは起こしただろーが!!」
「最後まで起こしてよ~」
街中にある何処にでもあるような公園。人々が行きかい、子供達は遊ぶ、平和な情景の中、スバルとノーヴェのナカジマ姉妹と
ティアナ・ランスターの三人は久しぶりの再開を果たしていた。
「ギンガさんは?」
「ギン姉は急な仕事が入っちゃって……」
「宜しく言っといてくれってさ」

「じゃ、撮るわよ?」
「早く早く」
「オレンジ、早くこいよ」
「オレンジ言わない!!」
デジカメのタイマーをセットしティアナはスバルとノーヴェの横に並ぶ。
フラッシュがたかれ、デジカメのレンズが写した光景、スバルを中心に両隣にノーヴェとティアナが並ぶ誰でも撮る様な
ごく普通のスナップ写真。
「じゃあ、もう一枚撮ろっか?」
「ハチマキ!!肩に手ぇ回すなよ!!」
「えーいいじゃん!!お姉ちゃんなんだから」
<Master!!ALERT!!>
<BUDDY、CAUTION!!>
「マッハ・キャリバー、どうしたの?」
「クロスミラージュ?何が・・・?」

爆発音。
単発のテロか?その場にいた三人は爆発音と同時に身構え周囲を確認する。
だが爆発音は一つではなく砲弾の飛翔音が聞こえたと思うと再び……。

「テロじゃねぇ!!AMF!!ハチマキ、オレンジ!!」
再び爆発音が響く。続いて拡がったのはAMF。そして……
「アレって……」
「ヴァンツァー!!」
『ティアナ?無事?』
「フェイトさん!?そっちはどんな状況ですか!?」
ティアナの上官、フェイト・T・ハラオウン執務官から通信が入る。それにも爆発音は響いていた。
『こちらにもさっきから襲撃が続いてる。でも大丈夫、さっき本局から増援の警察戦車大隊が到着したから持ちこたえてる』
「フェイト執務官、スバル・ナカジマです!!あたしとノーヴェもお手伝いします!!」
「あたしもかよ!!」
『久しぶりだね、スバルとノーヴェ。お願いするよ。でも気をつけて、戦闘ヘリがそちらに向かってる』
「私達三人は避難誘導と逃げ遅れた人の保護でいいですね?」
『そう』
「「了解しました!!」」
「あー、もう!!わーったよ!!手伝えばいいんだろ!!」

「何処に逃げればいいんですか!?」
ビルの地上階で隠れていた市民のグループを見つけた三人は早速非難を促す。
これは災害救助隊のスバルの本領、ティアナはサポートに徹し、ノーヴェも手伝おうとするがまだ動きはぎこちない。
「あそこの地下鉄のホームに逃げてください!!地上のビルは危険です!!」
「早く!!此処にヴァンツァーが来る前に!!」
「現地の警察は何やってんだよ!!」
ノーヴェが吼え、それを聞いた市民の一人が指差す。
「あそこだよ……」
そこでは警邏車両が燃えていた。運転手と助手席の二人を乗せたまま・・・・・・。
「嘘だろ……」
「ノーヴェ!!こっちはお姉ちゃんに任せて周囲を警戒して!!」
「だからまだ認めてわけじゃねぇぞ、ハチマキ!!」

「ハチマキ!!戦闘ヘリだ!!ヴァンツァーを追ってる!!」
「こんな時に!!」
「スバル、ノーヴェ!!隠れて!!」
ローラーダッシュで道路を高速で走りぬける巨体。後に風圧を残し三人と市民の動きを止める。
その後を飛ぶ三機の戦闘ヘリの機首が光る。それは機首に装備された多銃身機関砲が火を噴いている証明。
「みんな伏せて!!」
スバルが叫ぶ、彼女達の前方の道路が光る。その後に来るのは殺傷するほどの威力を持った大量の小さな破片……。
「私達がいるのは見えてるでしょうに!!一寸は遠慮しなさいよ!!」
だがロケット弾を使われないのは僥倖。使われていたら間違いなく死者が出ていた。
「だけどチャンスだよ、ティア!!」
「O.K、スバル!!皆さん、私達が援護します!!あそこの入り口まで走って!!」
言うが早いかティアナは道路の中央に立ちクロスミラージュを構える。だがAMF環境下では出来る事は少ない。
「来るんじゃないわよ……。今来られてもめくらまし位にしかならないんだから……」
一秒、一分が一時間、十時間ぐらいのように感じられる、気の遠くなるような時間。
『オレンジ!!来るぞ!!さっきから鬼ごっこやってる連中……!?』
「嘘……」
長い直線の道路のまだ遠い向こう側、“鬼ごっこ”をしてる一機のヴァンツァーが三機の戦闘ヘリの十字砲火に捉えられ
被弾、操縦不能になったと思しき機体は火を噴き近くのビルの地上階へと突っ込んでいった。
後に起こったのは爆発。そしてそこにいた人々の悲鳴……。
『ティア!!』
スバルの警告で思考が現実に引き戻される。もう眼前の距離にまでヴァンツアーは接近していた。
「!?」
当然の衝撃。思わず目を閉じる。風を感じ恐る恐る目を開けたとき、目の前にはノーヴェの顔があった。
「だからオレンジは駄目なんだよ!!」
AMFに影響されないIS:ブレイクライナーを展開、ティアナを間一髪で助け出していた。
「オレンジ、オレンジ、うっさい!!」
「助けられた奴が言う台詞じゃねぇぞ!!」

「スバル!!早く!!」
「でも……!!」
スバルが遅れていた。逃げ遅れた子供を抱えて逃げようとしたとき、スバルのすぐ近くでヴァンツァーが一機、旋回、
周囲に瓦礫と風を撒き散らしたため逃げ遅れてしまった。
「あー、もう!!」
ティアナの幻術、スバル達の頭上にいるヴァンツァーのセンサーに違う映像を混ぜ、さらに周囲に多数の幻影を作り出し
戦闘ヘリの火器を封じる。
「ハチマキ!!」
「スバル!!」
しかしヴァンツァーは容赦なく両腕のマシンガンを構える。
ティアナがスバルの元に走った。スバルの元にたどり着いたとき、ヴァンツァーがマシンガンを発砲、辺りを轟音で満たし、
大量のカートリッジを排莢する。その下にいる者達の事など考えず……。
「スバル姉!!ティアナ!!」
ノーヴェの悲鳴にも似た絶叫が響いた……。

「ティア……、ホントに大丈夫?」
「だからさっきから言ってるでしょうが!!大丈夫だって!!」
「オレンジ、病院の中だぞ」
清潔な消毒液の匂いすら漂う病室、スバルとノーヴェの二人は負傷したティアナを見舞っていた。
「ホントのホントに?」
「はいはい、もう分ったから……。そうそう明日、後方の病院に転院するわ。そこに行ってから本格的な治療ね」
「えらくまた急なんだな」
「負傷した人は一杯いるわ。私みたいな軽症は早めにベットをあけないとね……。スバル、デバイスだして」
ティアナがクロスミラージュを出し、スバルは待機状態のマッハキャリバーを差し出す。
ティアナがデータを転送する。それほど大きくないデータ。
「あのときの写真。ノーヴェには後でスバルからあげて」

病院の玄関、一台の救急車が止まり乗せられるべき患者を待っていた。
「オレンジだけなんだな」
「あの、ほかの人は?」
「先ほどの便で搬送しました」
「ティア、あっち着いたらちゃんと連絡してよ?」
「分かってるわよ!!」
その会話を聞いていたのか救急車に乗る初老の救急隊員が急げと言うジェスチャーか腕時計を叩く。
「じゃ、行くわね」
「うん!気をつけてね」
「早く治って来いよ、あん時の借りを返してないんだからな」
「あんた達と違って丈夫じゃないのよ、私は」
そう言うとティアナは救急車の中へと消えた。

「行っちまったな」
「そうだね……。あ、そうだ」
「なんだよ、ハチマキ」
「あの時さ、言ってくれたよね?“スバル姉”ってさ」
ノーヴェは後ずさる。
「聞いてたのかよ……」
「お願いだから~もう一度言ってよ~」
「馬鹿野郎!!知らねーよ」
スバルがノーヴェに甘えるように近づく。まるで妹離れできない駄目な姉である。
ノーヴェは顔を赤らめ回れ右、そのまま走り出す。
「あ、待ってよ~!!」
「またねーよ!!」

管理局は本紛争を明白な片方側の侵略行為であるとして本格的な介入を開始。
スバルとノーヴェは巻き込まれるまま原隊に復帰する事無く現地の集成警察戦車大隊に組み込まれた。
「スターズ03より本部、担当エリア内の掃討完了。次の指示を待つ」
『なあ、ハチマキ……、この任務が終わったら……』
「どうしたの、ノーヴェ?」
ノーヴェが珍しく秘匿回線を使い、弱気な声で話しかける。
『こちらロメオ・リーダーこちらもだ。補給を頼む』
それを他の部隊の通信が割り込み中断される。
『何だ!?ロメオリーダーがやられた!!』
『畜生!!早い!!スターズ03、そちらに……』
『タキガワ!!』
ロメオチームの反応がすべて消滅した。ロメオの存在したはずの空間の向こう側から接近する機体が一機。
「スターズ03より各機、交戦用意!!来るよ!!あたしが接近戦で止める!!援護して!!」

『来た!!距離二千!!』
「オレンジ色の・・・・・・、ゼニス?でも機体の外観が……、そんな!?」
マッハキャリバーが解析した相手の情報を表示する。それを見たスバルは信じられなかった。

[搭乗者:ティアナ・ランスター]
[管制デバイス:クロス・ミラージュ]

「嘘……」
『分隊長!!』
隊員の一人が叫ぶ。オレンジ色のゼニスとの距離は千五百を切った。
オレンジ色のゼニスが発砲、一機が直撃を受け、吹き飛ぶ。
「撃って!!」
スバルが叫ぶ。残った三機が発砲。発砲音が周囲を満たす。
『早く脱出しな!!銃、借りるぞ!!』
ノーヴェの機体は撃たれた機体からマシンガンを拾い上げると撃ち始める。
「ティア、嘘でしょ?ティア!!」
スバルが機体を駆り、加速。一瞬の躊躇、だがその間にもオレンジ色のゼニスの射撃は止まず、分隊は瞬く間に
スバルとノーヴェを残すのみとなった。

「あ!!」
オレンジ色のゼニスの射撃はスバルが回避する間を与えず命中弾を与える。
『ハチマキ!!脱出しろ!!』
「了解!!ノーヴェ、援護して!!マッハキャリバー、行こう!!」
『5カウント!!5、4、3、2、……ぃ!!』
スバルが脱出したとき、ノーヴェはスバルの盾になるように前進する……、筈だったが命中弾が容赦なくノーヴェの
駆る機体を打ち抜く!!
「そんな事……!!ノーヴェ、脱出して!!」
『……くそ!!脱出機構が作動しない!!』
スバルがオレンジ色のゼニスを見る。弾切れを起こしたライフルを捨て、腰にマウントされていた
ショットガンを取り出す。
「ノーヴェ、機動六課の時の周波数が判るよね?それにあわせて!!」
『六課の周波数って……、合わせたぞ』

「ティア!!ティアでしょ!?」
『誰?何で私の名前を知ってるの?』
『ティア!?オレンジか!?』
マッハキャリバーの解析はあたっていた。
「あたしだよ!!スバルだよ!!」
『あたしも居るんだよ!!ノーヴェだ!!』

『スバル……、ノーヴェ……?』
「そ、そうだよ!!あたし達だよ!!ナカジマ姉妹の次女と三女の!!」
『……っく!!私に話しかけないで!!』
オレンジ色のゼニスがショットガンを構えた。狙いは……脱出できないノーヴェの乗る機体。
「ノーヴェ、脱出して!!早く!!コックピットを破って!!」
『おい、ティアナ?!嘘だろ!!おい、嘘だろう!!』
ノーヴェがコックピットのハッチを破ったのと同時にティアナの放った弾丸が、ノーヴェの機体を蜂の巣にした。

『止めろ……、止めてくれ、ティアナ!!』
ノーヴェの絶叫を聞いてもオレンジ色のゼニスが歩みを止める事は無く、ノーヴェのコックピットブロックに手を掛ける。
『ノーヴェ……?』
「そうだよ!!それにはノーヴェが載ってるんだよ!!」
一瞬手が止まる。スバルはそれを好機に必死に呼びかける。
一瞬止まった手がまた動き、コックピットブロックを引き出す。
「なんで!?どうして私達が殺しあわなきゃならないの!?」
『知らないわ、そんな奴……』
「ティアーーーー!!!!」

発砲音が響き、オレンジ色のゼニス=ティアナがコックピットブロックを投げ捨てると踵を返し、離脱していく。
スバルはそれを追う事無く、ノーヴェの元へと駆け寄る。
「ノーヴェ!!しっかりして!!」
スバルが必死に力なくぐったりと倒れるノーヴェを引きずり出す。
「スバル姉……、何でこんな事になっちまったのかな……?」
「しゃべらないで!!今助けるから!!」
下半身はもはや血だらけ。腹部も脚部も戦闘機人の機械部分が露出していた。
「ティアナのこと……、責めたり恨むなよ……?あたしは戦闘機人。戦闘で倒れるなら本望だ……」
「そんな事ない!!死んじゃ嫌だよ!!」
「どうして……、やっと、仲良くなれたのに……」
ノーヴェの体から力が抜け、目が
「ノーヴェ……?嘘!?嘘でしょ、ノーヴェ!?ノーヴェ!!」
小雨が降る中、ノーヴェの遺骸を胸に抱きスバルは天を仰ぐ。
「妹一人助けられないで……、何が救助隊のエリートだよ……。あたしは……あたしは……!!」
<Master……>
マッハキャリバーの呼びかけ。スバルの返事を待たず通信ウインドウを開く。
『……両軍及び管理局派遣部隊に告げます。両軍及び管理局は1600をもって停戦に合意しました。両軍は集結地点にまで
撤退しなさい。繰り返します……』
ウィンドウに写るフェイトが呼びかけていた。
スバルは時刻を確認する。現在時は1611を過ぎていた……。
「遅いよ……。遅すぎるよ!!もう少し早ければ……、ノーヴェは死なないで済んだのに!!」
戦場であった場所の静寂にスバルの絶叫が響いた……。

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最終更新:2022年08月24日 22:33