周りが笑っているのに俺1人だけ笑えない。
周りが慌てているのに俺の心にはさざなみさえ起こらない。
頬をいくら抓っても顔は表情を作らなくて、気がつけば引き千切っている自分がいる。
孤独感ばかりが加速していく。
そんなある日、六課で1匹の犬が吼える。
まさかと振り返った先にいたのは懐かしい姿。
見間違いかとさえ思ったけれど、駆け寄るそれはまぎれもなく……。
ほんの一瞬だけ歓喜に満たされ、直後に感じるのは泣き出したいほどの絶望。
ああ、どうして・・・・・・。
なんで来てしまったんだ。
この窮屈な地獄にお前まで付き合う必要はなかったのに……。

第13話 1人と1匹と予言

とある荒野が広がる世界の片田舎。
ゴミの山の横に生まれた町の片隅にひっそり建っている施設。
大破壊前に開発されたとある装置が設置されたその建物の中で声がする。

「なぁ、やめねぇか?今ならまだ間に合うぜ?」
「嫌だ。答えは同じだ。さっさとやれ。」
「ああ、くそっ。なんでクソニンゲンどもはオレサマをこんな装置の使い方が
わかっちまうクソノウミソにしやがったかなぁ。
操作できるなんてぽろっと漏らすんじゃなかったぜ。くそっ。
ああ、そっちのバカヅラぶらさげたデブとスカシもなんか言ってやれよ。」
「漢はやるときにはやるものだ。」
「言い出したら聞かないと分かっていてですか。それはあまりにも愚かしいでしょう。」
「ああ!!融通効かないクソどもが。こういうときぐらい『行かないで』とか
『飛びきり上等の雌紹介するから行くな』とかそういうこと言うもんだろうが!!」
「それでもオレの意思は変わらないよ。御主人が全てに優先される。
御主人を世界中探したけれどいなかった。違ったのはバトー博士と助手もいなかったことだけ。
機械娘もいなかった。オレには転送事故しか思いつかない。」
「だからって1匹でモンスターぶちころしながら世界中走り回ってきてすぐに転送事故
起こせなんて抜かすバカがどこにいるってんだよ。しかも事故だぜ事故!!
ここから御主人に発情してたメガネとかヒステリーのとこに転送するのとは
全然わけが違うんだよ。行った先に御主人がいる保障もねぇ、
行き先が火山のど真ん中かも知れねぇ。ミサイルの着弾地点かもしれねぇ。
高度12000mに足場さえない状態で出るかも知れねぇ。
空気があるかどうかさえわからねぇ。最悪それを全部あわせたやつかもしれねぇ。
奇跡と偶然とまぐれと何かが手をかさねぇ限り絶対無理!それでもお前はやるのか?」
「やる。」

「ああ、くそっ。もう狂ってやがるとしかいいようねぇぜ。クソッタレ。
ああ、分かったよ。やりゃいいんだろ、やりゃあさ。ああ、クソッタレ!!」
「ありがとう。」
「漢なら兄弟の頼みに黙って手を貸すものだ。」
「私達の中で一番のインテリを自称していたのに吠えるしかできない能無しでしたか。」
「うるせぇ!!てめぇら揃ってバカでクソイヌでくたばっちまえって感じだったが、
特にてめぇは死んでも治らんクソイヌだ。今すぐふっとばしてやるよ。」
「ありがとう。ベルナール。」
「漢はやるときにはやるものだ。」
「照れ隠しにしてはずいぶんと露骨ですね。隣の酒場に住んでるマスターに発情する雌と
同じでツンデレってやつですか。」
「黙ってろ、クソイヌ2匹!!OK。完璧だ。あとは、このボタンさえ押せば事故る。
最後の確認だ。本当にやっちまっていいんだな。後悔しねぇな。
動かしちまったら『やっぱやめた』なんて通用しねぇし、ミスっても蘇生がきかねぇぜ?ドクターミンチのクサレマッドのところにもっていく死体さえ残らないからな。」
「ベルナール。構わずやってくれ。タロウ、ラリー。御主人の家族を頼む。」
「漢は漢同士なにも言わなくてもわかりあうものだ。」
「マスターの家族は我々におまかせない。あなたに祝福を・・・・・・。」

ゴウンゴウンと音をたてて施設が稼動し始める。
ガラス製のシリンダーの中、粛々と佇む1匹。
そして赤い警告灯が灯り、警告音がけたたましくなり始める。

「さぁ、おっぱじまったぜ。神…天使…機械神…犬神…ああ、くそったれ。
龍神はマスターがぶちころしまったし、ろくな神様いねぇじゃねぇか!!
ポチ!!赤い悪魔にでも祈ってろ。あの雌が一番まともで願いを聞きそうだ。」
「漢は困難に立ち向かうときガタガタ抜かさないものだ。」
「いってらっしゃい。よい旅を・・・・・・。」

閃光がほとばしる。
後に残ったのは空のガラス製のシリンダーと残された3匹だけ。
パネルから飛び降りようとしたベルナールが設定の表示されたディスプレイを見て
思わず声を上げる。

「あ……。やべぇ……。」
「どうしました?ベルナール。」
「いや、別にたいしたことじゃねぇ。」
「漢は嘘をつかないものだ。」
「同感ですね。ベルナール。あなたは去勢してましたっけ。」
「漢の風上にも置けないやつは去勢するべきだ。」

「ああ、待った待った待った。まじで潰そうとするな、落ち着けデブ!!
本当にたいしたことじゃねぇんだよ。ただ・・・・・・。」
「ただ?」
「桁1つ間違えただけだ。」
「……でも事故は起こりましたよ?」
「まぁな。だからたいしたことじゃねぇって言ってるんだよ。この話はこれでおしまい。」
「漢は終わったことで騒がないものだ。」
「いいこというじゃねえか。デブ。今度わんわんグルメおごってやるぜ。」
「しかし、ベルナール。その言葉遣いどうにかなりませんか?」
「しかたねぇじゃねぇか。それにニンゲンドモにはどうせ『わんわんわん・・・・・・』としか
聞こえねぇんだぜ。てめぇらが気にしなけりゃいいんだよ。」
「やれやれ。なんにせよ、マスターの家族護衛シフトはあなたを一番忙しくしますからね。」
「ああ!?なんでだよ。スカシ。」
「口止め料です。」
「誰への口止めだよ。くそっ。言わなくていい。ああ、分かった。分かったよ。
やりゃあいいんだろ。やりゃあさ!!
ああ、この間見かけた雌犬には振られるし、毛並みは荒れるし、
兄弟は1匹ぶちきれてボスのとこ行くとか抜かして自殺志願するし、
デブは融通きかねぇし、スカシは脅すし、クソのキレは悪いし、
今日はまじでついてねぇ!!」

ボストンテリアの遠吠えが町に響き渡る。
何度も何度も途絶えることなく・・・・・・。
そしてその夜、誰もが眠りについた頃。
ベルナールは1匹、眠らないでぼんやりと星を眺めながら考えていた。

「しかし、なんで事故ったかな。あの設定だと事故る確立が桁5つか6つは下がって来るんだが。
0.00001%きってて事故るなんてアイツがオレサマ以上についてないのか。
それともまじで赤い悪魔が連れて行きやがったのか?」

終わっちまったことだからいまさらか。
抜けた兄弟の穴を埋めるべく、体力を温存しねぇとな。
とっとと眠るとしよう。
西瓜さえ飲み込めそうな大きなあくびをするとベルナールは眠りについた。

 

========
気を失っていたのか。
ぼんやりとしていた意識が瞬時に覚醒し、現状を確認する。
体に染み付いた獣の本能ゆえに……。
息はできる。血が沸騰するわけでも身体が破裂するわけでもない。
銃声も砲撃音も炸裂音もノイズもローター音も無い。
焦げる臭いも毒ガスのにおいもしなければ、死臭もしない。
御主人がいるかどうかは別として、とりあえずどこかには出られたわけだ。
そんなことを考えつつ、別の意識は自己診断を続けている。
体表面80%の損傷を確認。
内臓に損傷はなし。自己修復を開始。
装備の状態を確認。
ドッグバズーカ、大破。
ドッグアーマーLV8、中破。
せいぜい投げつけるぐらいが関の山の鉄くずに成り下がった武器。
無いよりマシだと思うとしよう。
だが、せめて回復カプセルか満タンドリンクを持ってくればよかった。
休みもとらずに世界中を駆け抜けたせいで残量は0。
備蓄分は全部犬小屋に置いたまま。
今更後悔しても始まらんか。
幸い、敵になりそうな生き物は周囲にいない。
それに、ここは外敵に見つかりにくい茂みの中。
傷が治るまでこのままでいるとしよう。
しかし、目の前の巨大な建物。
どことなく病院とか言う施設と同じ薬品臭がする。
それに外壁が罅割れたりしていないことをみればずいぶんと平和なのか、金があるのか、よほど頑丈なのかのどれかなのだろう。
そんなことを考えている間に身体は自己修復を始め、
ぎちぎちと音をたてて引き裂けて血塗れだった皮膚が再生していく。
だが、その速度は酷く緩慢。
エネルギーが足りんな。
腹が減って仕方ない。
空腹など幾らでも耐えられるが、どうしても再生にまわすエネルギーが減る。
仕方ない。
背に腹は変えられん。
茂みの草をかじり、咀嚼する。
美味くないな。
わんわんグルメなんて贅沢言わないからぬめぬめ細胞でもテロ貝の身でも
トンボの目玉でもいいから喰いたい。
二口目を食べて気がつく。
そういえばこの草、どうして噛み付いてこないんだ?

 

========
「すみません、シグナムさん。車出してもらっちゃって。」
「なに、車はテスタロッサからの借り物だし、向こうにはシスターシャッハが
いらっしゃる。私が仲介したほうがいいだろう。」

ベルカ領にある聖王病院。
そこにこの間の事件で保護した子供が入院している。
その子に会いに行くためにシグナムさんが車を出してくれている。
事件に巻き込まれた無力な子供。
そう思いたいのに、どうしても心が重い。
はんた君やアルファの考えを聞いたせいなのかもしれないけれど。
ギンガの考えを併せても何一つ愉快な答えが見つからない。
私はそんな子供にどう対応するべきなんだろう。
そんなことを考えながら、シグナムさんの心遣いに感謝の返事を返す。

「しかし、検査が済んでなにかしらの白黒がついたとして、あの子はどうなるのだろうな。」
「うん……。当面は六課か教会で預かるしかないでしょうね。
受け入れ先を探すにしても長期の安全確認が取れてからでないと……。」

それこそ犯罪者の餌食になりかねない。
あるいは自分の手で犯罪者たちに引き渡す形にさえ……。
でも、六課や教会で預かるのも簡単なことじゃない。
身元不明でレリックと関わりがあるという大前提があるから……。
引き取るという選択肢が頭によぎっては消えてを繰り返す。
フェイトちゃんがエリオ達を保護しているように、わたしがあの子を……。
けれど、人間1人を保護するというのがどれほど大変なことかもわかっている。
それがわたしに二の足を踏ませる。
御両親がいればいいんだけど、望み薄だろう。
そう考えると気分はどんどん悪い方向に傾いてしまう。
誰かの欲のために作りだされた子供。
人間としてではなく、道具として作られた子供。
そんな子供にわたしはいったいなにができるだろうか。
そんなときに不意に端末が開く。

「騎士シグナム!!聖王教会、シャッハ・ヌエラです。」
「どうなされました?」
「すいません。こちらの不手際がありまして……。」

その言葉にわたしとシグナムさんが息を呑む。
不手際。
偶然か故意かでぜんぜん意味が変わってくる言葉。
そしてあの子は先日の事件で保護された子供。
事件性が低いと考えるほうがおかしい。

「検査の合間にあの子が姿を消してしまいました。」

聖王病院にわたし達が到着するなり、息を切らして駆け寄ってくるシスターシャッハ。
病院内を必死に走り回って探したのだろう。
けれど、焦った表情のままであるのが、いまだに見つかっていないことを教えてくれる。
わたしはきっと硬い表情をしていただろう。

「申し訳ありません!!」
「状況はどうなってますか?」
「はい。特別病棟とその周辺の封鎖と非難は済んでいます。
今のところ飛行や転移、侵入者の反応は見つかっていません。」
「外には出られないはずですよね。」
「ええ。」
「では、手分けして探しましょう。シグナム副隊長……。」
「はい。」

他にありえるとすれば、子供が殺されている可能性、監禁されている可能性、
内部犯による誘拐……。
はんた君達のおかげか物騒な考えばかりが頭によぎってしまう。
最悪の事態だけは起こらないで……。
そう祈りながら必死に感情を押さえ込むと、努めて機械的にシグナムさんに声をかけた。

病院内はシスターシャッハとシグナムさんが探している。
他にいるとすれば病院敷地内。
迷子だとすれば子供の背丈からして背の高い茂みや木があるところ……。
そう考えると足は自然と病院内に設けられた広場に向いていた。
あたりを見回す。
けれど、あの子に限らず、なにかがいる気配さえ無い。
いったいどこに……。
そう考えたとき、傍らの茂みががさりと音を立てる。
反射的に視線を向けると、茂みから飛び出してきたのは縫いぐるみを抱きかかえた女の子。

「ああ、こんなところにいたの……。」

無事でよかった。
こわばったような表情を浮かべたまま、
うさぎの縫いぐるみを力いっぱい抱きかかえた女の子の姿にほっとする。
だけど、わたしの言葉に女の子は子猫が警戒するかのように身を強張らせる。

「心配したんだよ。」

そう言って歩み寄り始めたとき、突如目の前に飛び出してきたのはシスターシャッハ。
バリアジャケットを纏ったその姿は臨戦態勢そのもの。
鋭い目で女の子を見つめながら、その手にヴィンデルシャフトが構えられる。
怯えたように後ろに下がり始める女の子。
その手から縫いぐるみが零れ落ち、怯えたような声をあげ、
そんな様子にシスターシャッハと私が気を抜いた瞬間だった。
突如、横の茂みから飛び出してきた塊にシスターシャッハの身体が吹き飛ばされる。
まるで車に跳ねられたような勢いで転がるシスターシャッハ。
女の子と私の間に割り込んだものが睨み合う。
とがった耳、茶色の短い毛並み、ふさふさした尻尾。
そして小柄な体躯に4本の足を持ったそれは……。

「い、犬!?」

飛び出してきた犬は牙を見せて威嚇を始める。
けれど唸り声はかけらも上げない。
その様子はまるで機械が識別をしているような印象さえ覚える。
でも、どこかで見覚えがある目と雰囲気……。
どこだっただろう?


========
さて、どうしたものか。
反射的に飛び出したが、現状に戸惑いしか覚えない。
もっとも、人型の雌の身体が戦車よりは軽いようでいくらか心は平静を取り戻せた。
もしも戦車よりも重かったらさっさと逃げ出すことを選んだだろう。
この程度ならどうとでもできる。
正面にいるのは人型の雌が2匹。
同類の臭いがしないあたりからすればたぶんニンゲンだろう。
どうやらここは赤い悪魔や機械娘の同類が歩いている世界というわけではないらしい。
あんなのがごろごろ歩いている世界などぞっとしない話だ。
その証拠に吹き飛ばしてやったソルジャーのような雰囲気を纏う胸の無い雌は
多少ダメージをもらうだろうがこのまま追撃を仕掛けてその喉笛を食いちぎってやれる。
それこそ一呼吸の隙さえあれば……。

しかし、転がすのが目的とはいえそれなりに力を入れて叩き込んだ一撃だったが……。
視界の先で起き上がる胸の無い雌。
ダメージらしいダメージが無いように見えるのは気のせいか。
たしかに妙な手応えではあったが……。
装甲タイルとも違う感触に首を傾げるが、一笑に伏す。
たいしたことではないか。
少なくとも四肢をばらばらにすれば動けないだろう。
ハラワタをぶちまけても満タンドリンク1本で治ったオレや御主人からすれば
たいしたことじゃない。
御主人や機械娘や赤い悪魔やムラサメよりも近接が得意でない限り、
オレの命は脅かされるはずがない。
あるいはティアマット級の火力でもない限りは……。
だが、白いほうは見た目以上に手間取りそうだ。
見た目と纏った雰囲気がずいぶんとチグハグな雌であることに警戒する。
ついでに言えば胸の無いほうは特に融通効かない顔をしている。
気を抜けばすぐに殴りかかってくる種類のニンゲンだ。
とはいえ、背中にかばったこの小さいニンゲンの雌はオレと同類の匂いがするだけで、
オレを連れてどうこうできそうな雰囲気でもない。
ドッグバズーカは壊れている。
ドッグアーマーも無いよりマシというレベルの襤褸切れ。
見つけた人間が御主人でない以上はさっさと逃げ出すのが正解なんだろうが、
身体が再生してまともになり始めた感覚が感じている。
この建物を檻のように囲むこれはなんだ?
オレ達は捕らえられたと判断するべきなのか。
なんでもいいか。
御主人を見つけるまで、邪魔物は喰い殺してぶち壊して貪り喰らう。
ただ、それが全て。
そんなことを考えていたとき、白いほうが呟いた。

「……はんた君そっくり。」

呆然としたような様子で紡がれたその言葉に耳をぴくりと動かす。
白い雌の呟き。
偶然か、それとも聞き間違いか?
不意に思い出されるのはベルナールの言葉。
たしかに御主人に惚れていた雌の中で一番強くて一番御主人に執着していた雌だったな。
機械娘と仲が悪かったあの赤い悪魔は・・・・・・。
獣1匹を覚えていたなんて思えないが、もしもそうなら感謝するとしよう。
どうやらこの白い雌が御主人を知っているらしい。
従順な振りをして大人しくしておくとしよう。
人違いならさっさと失せればいい。
それに、暴れるのはそれからでも遅くは無いだろう。

 

========
目の前で傷が音をたてて治っていく様はまさに生体兵器。
今まで見てきたどんな生物よりも飛びぬけて歪なあり方。
犬の姿をしているけれど、まったく別の生物。
なぜ、犬の姿をとっているのか。
そんなことを考えながらも無意識に口が動く。

「はんた君そっくり。」

呟いたその言葉に反応するように犬の視線がわたしに向けられる。
そうだ。どこかで見たことがある目だと思ったら……。
初めて会ったときのはんた君と物凄くそっくりの目をしているんだ。
そういえば、バトー博士が皆にアダナをつけた日、はんた君が犬を飼ってると言っていた。
でも、ありえるはずがない。
だって、事故で同じ世界に漂着するなんてそんな・・・・・・。
それに多くの世界があるというのに、その中でこのミッドチルダに漂着して、
起動六課から少し足を伸ばせば辿り着けるような聖王病院に漂着できるなんて。
けれど、もしかしたらと思って呼んでみた。

「……ポチ?」
「わふ。」

わたしの呼びかけに一声鳴くと、威嚇が止まった。
まさか、本当に!?

「シスターシャッハ。ちょっと、よろしいでしょうか。
それと、犬のほうには手は出さないでください。以前それで痛い目にあいました。」
「あの……はぁ……。」

戸惑ったような声を上げるシスターシャッハ。
その表情の困惑を隠しきれないままだったけれど、デバイスを下ろしてくれる。
泣き出しそうな顔のまま座り込んだ女の子。
置いてけぼりになっちゃってたね。
ゆっくり近づいていくと、立ち塞がっていた犬が道を譲ってくれる。
本当にはんた君の飼い犬なのかな。
足元に転がっているのはうさぎの縫いぐるみ。
シスターシャッハが出てきたときに驚いて落としちゃったのかな。
しゃがんで女の子と視線を合わせると、縫いぐるみの砂を払いながら話しかける。

「ごめんねー。びっくりしたよね。大丈夫?」
「……うん。」

戸惑いながらも頷いてくれる女の子。
目に涙を浮かべながらも、わたしの手から縫いぐるみを受け取ってくれる。
噛み付いてきたり、攻撃してきたりする様子はない。
危険は無さそう。
これで危険なんて言ったらはんた君は……。

「立てる?」

安心させるように笑みを浮かべて女の子に問いかけると、
女の子がゆっくりと立ち上がる。
警戒させないように服についた砂を払ってあげながら、シスターシャッハに念話を繋ぐ。

「緊急の危険はなさそうです。ありがとうございました。シスターシャッハ。」
「あ……はい。」

背中のほうで雰囲気が変わった。
たぶん、シスターシャッハが警戒を解いてくれたんだろう。
傍らの犬もどうこうする様子はない。
まずは女の子と話をしよう。

「初めまして。高町なのはって言います。お名前、言える?」
「……ヴィヴィオ。」
「ヴィヴィオ……。いいね。かわいい名前だ。ヴィヴィオ、どこか行きたかった?」
「ママ……いないの……。」

ヴィヴィオの言葉にはっとする。
人工生命であるヴィヴィオに母親はいない。
けれど、どうやって伝えたものか。
あなたは作り物だからお母さんはいませんなんて言えるはずが無い!!

「ああ、それは大変。それじゃ一緒にさがそうか。」
「……うん。」

笑みを浮かべてそう言ったわたしの言葉に、
泣き出しそうな顔をしながらも頷いてくれるヴィヴィオ。
傍らにいた犬がどこか呆れたような視線を向けていたような気がしたのは気のせいか?

 

========
なんだかいろいろ忘れ始めている気がする。
なにを忘れてしまったのか思い出せない。
けれど、なにかおかしいって自覚し始めた。
一番大切な戦闘技能はなにも忘れてはいない。
けれど、やっぱりなにかが足りない。
思い出すべくアルファを変形させ、技能を反復するように身体を動かす。
遠距離射撃はできる。
構えた時点で照準も揃う。
高速振動剣も淀み無く延々と振り回し続けられる。
リロードアクションもクイックドローも他のあらゆる技能全てによどみは感じられない。
膂力が衰えるわけでもない。
では、何を忘れてしまったのだろう。
レッドフォックスとの記憶はどれもが鮮やかに思い出せる。
それこそ、最初から最後まで、今さっきあった話を話すようにどこまでも正確に……。
倒してきたモンスターの記憶も倒してきた賞金首の記憶も忘れていない。
敵性体の情報を忘れるなんてそんな愚かしいことできるはずがないだろう。
父親の名前、母親の名前、妹の名前、相棒の名前、旅を共にした仲間の名前も忘れてはいない。
キョウジ、ニーナ、エミリ、ポチ、ベルナール、タロウ、ラリー、ミカ、キリヤ、シャーリィ、ラシード。
誰も忘れていない。
いったい何を忘れているのだろうか。
わからない……。
そんな思考に没頭して訓練場で佇んでいるときだった。

「わん!!!!」

振り返るとこっちに駆けてくる犬がいる。
そういえばこの世界で犬を見かけた記憶がないな。
狼やトカゲや虫はいるのに……。
しかし、ずいぶんと速い。
下手な飛行やクルマよりずっと速い。
あんな速さで駆けられる犬はあまり知らない。
それにあの茶色の毛並み。
まるでポチにそっくりじゃないか。
揃いのドッグバズーカにドッグアーマーまで背負って……。
……なぜこの世界に寸分たがわぬドッグバズーカとドッグアーマーがある?

「わんわん!!!!」

吼えながら駆けてくるその犬はオレの前で立ち止まる。
ピタリとその足を止めるが尻尾は激しく振るわれるまま。
そして信頼をこめた目を向けて、命令を待つかのようにこっちをじっと見つめている。
まるであの荒野にいたころのポチそのままに……。
まさか……。

「まさか、本当に……ポチ……なのか?」
「わふ。」

尻尾を振ってじゃれついてくる。
抱きとめてやると、頬を激しく舐めてくる。
ああ、この感じは覚えている。
紛れも無くこれは……。

「アハハハハハハハハハ。ポチ。ポチだ。アハハハハハハハハ……。」
「わふ!!」

抱きしめる腕に力がこもる。
笑いが止まらない。
ああ、ポチ、ポチ、ポチだ。
あの荒野を共に駆け抜けた相棒。
頼もしき戦友。
なにを好んで俺と共に来たのか未だに分からぬ俺の家族の一員。
久しく忘れていた感情で心が満たされる。
これは……歓喜?
俺は嬉しいのか……。
あまりにも久々過ぎて戸惑いばかりが加速するけれど、
それでも笑いが止まないのはきっと嬉しいからなんだろう。

「アハハハハ……ハハ……ハ……。」
「わふ?」

けれど、笑いは次第に尻すぼみになっていく。
変わりに俺の目から零れ落ちるこれは涙……。
ああ、そうか。
ここに来てしまったということは……。
なんで来てしまったんだ、ポチ。
あれもこれもそれもなにもできないこの窮屈な世界に……。
息をすることさえ辛いほどに……。
たとえ姿が見られなくてもあの荒野で暮らしていたならそれだけでよかったのに……。
ここは地獄だ。
ああ、あれもこれもそれもとはなんだったか。
やはりなにかを忘れている。

 

========
御主人。オレの御主人。
白い雌と胸の大きな雌に連れられて来た施設で見つけたオレの御主人。
無事であったことがただただひたすらに喜ばしい。
姿形は違えど機械娘も共にいる。
オレ以上に御主人のことなら省みることを知らぬ機械娘。
アレがいたのならば御主人に害をなす有象無象はすべて排除されてきただろう。
それを認められるぐらいの信用と信頼があの機械娘にはある。
けれどなんだろう。
ご主人から受けるこの奇妙な感覚は……。
まるで首輪付きにされた挙句、手械足枷をつけて全身を鎖で雁字搦めにされたよう。
ひどく息苦しそうで、辛そうで……。
あの荒野で出会った最後の日より、さらに何かがおかしい。
いったいなにがあったのか。
そして、気のせいだと思いたかったマスターから漂うこの臭い。
御主人の身体に染み付いた吐き気さえ覚えるほど濃密な血の臭いと硝煙の臭いは相変わらず。
だが、それに加えてもう1つ別の臭いが混じっている。
どことなくドクターミンチのところで散々に嗅いだ臭いに近いそれから感じるのは
濃密な死の気配。
間違いだと信じたかった。
顔色は昔と変わらない。
呼気も何も変わらない。
どこか窮屈そうでも変わらぬ在り方のままの御主人の姿。
けれど、親愛をこめて舐めた御主人の頬の味に本能が悲鳴を上げる。
間違いだと信じたかったのに、本能が間違いではないと確信してしまった。
……終わりが近いのか。
せっかく出会えたというのに……。
ならば、オレはどうすればいいのだろう。
世界最強の獣の飼い犬として……。
ただ1人認めた主のために……。

 

========
聖王教会。
ヴィヴィオの世話をフォワードの皆に任せてやってきた場所。
はやてちゃんは六課設立の本当の理由を教えてくれると言ったけれど。
六課の後見人に聖王教会の騎士カリムがいるというのも知っているけど、
なぜここでなのだろう?
はやてちゃんが口頭で教えるのではだめなのか?
そんなことを思いながらノックをして部屋に入ると敬礼する。
隣でも同様にフェイトちゃんが……。

「いらっしゃい。初めまして。聖王教会騎士団騎士、カリム・グラシアと申します。」

促されて席に着く。
先に席についているのはクロノ君。
フェイトちゃんと硬い挨拶をしているのは公私の区別をつけているからだろうか。
でも、少しお久しぶりって言葉、公私の区別をつけるつもりならおかしいよ。
そんなことを考えていたのはわたしだけではなかったみたい。
微笑んだカリムさんが口を開く。

「ふふっ、おふたりとも、硬くならないで。私達は個人的にも友人なんだから、
いつも通りで平気ですよ。」
「……と、騎士カリムが仰せだ。普段と同じで……。」
「平気や。」
「じゃあ、クロノ君、久しぶり。」
「お兄ちゃん、元気だった?」

フェイトちゃんの言葉にあからさまに顔を赤くするクロノ君。
フェイトちゃんがハラオウンの家族に加わってから10年経ってるのに。
それにエイミィさんと結婚までしてるのになんで顔を赤くするかな。

「それはもうよせ。お互いもういい歳だぞ。」

照れを隠すように憮然と告げるクロノ君。
でも、お兄ちゃんをお兄ちゃんと呼んでもぜんぜんおかしくないと思うけどな。
わたしもおにいちゃんは今でもおにいちゃんって呼んでるし……。

「兄弟関係に年齢は関係ないよ。クロノ。」

フェイトちゃんの言葉に黙り込んでしまうクロノ君。
微笑ましそうに控えめな笑いをするカリムさん。
和やかな雰囲気に包まれる。
そんなとき、はやてちゃんが咳払いをすると口火を切った。

「さて、昨日の動きについてのまとめと改めて起動六課設立の裏表について。
それから今後の話を……。」

光を遮るようにカーテンがひかれ、部屋が暗がりに包まれる。
はやてちゃんの言葉を引き継ぐように話し始めたのはクロノ君。

「六課設立の表向きの理由はロストロギア、レリックの対策と独立性の高い少数部隊の実験例。
知ってのとおり、六課の後見人は僕と騎士カリム、それから僕とフェイトの母親で
上官のリンディ・ハラオウンだ。
それに加えて非公式ではあるが、かの三提督も設立を認め協力の約束をしてくれている。」

切り替わったウィンドウと共に映し出された人達に驚く。
まさか、そんなに上の人が関わっているなんて思ってもいなかった。
実験部隊にしては権限が大きいとは薄々思っていたけれど……。
フェイトちゃんもわたしと同じみたいで驚きを隠せていない。
ウィンドウを消して、代わりに前に歩み出たカリムさんが手元の紙束のリボンを解く。
単なる紙束ではないそれが宙に展開されていく……レアスキル!?

「その理由は、私の能力と関係があります。私の能力、預言者の著書(プロフェーティン・シュリフテン)。
これは最短で半年、最長で数年先の未来、それを詩文形式で書き出して預言書の作成を行うことができます。
二つの月の魔力がうまく揃わないと発動できませんから、ページの作成は年に1度しか行えません。
予言の中身も古代ベルカ語で解釈によって意味が変わることもある難解な文章。世界に起こる事件をランダムに書き出すだけで、解釈ミスも含めれば的中率や実用性は割りとよく当たる占い程度。
つまりはあまり便利な能力ではないのですが……。」

それでも未来がわかるのは十分すごい能力だと思います、カリムさん。
それに、古代ベルカ語って……ヴォルケンリッターの皆は普通に読めるんじゃ……。

「聖王教会はもちろん、次元航行部隊のトップもこの予言には目を通す。
信用するかどうかは別として、有識者による予想情報の1つとしてな。」
「ちなみに地上部隊はこの予言がお嫌いや。実質のトップがこの手のレアスキルとか嫌いやからな。」
「レジアス・ゲイズ中将だね。」

いつだったかの演説を思い出す。
管理局きっての武闘派。

「そんな騎士カリムの予言能力に数年前から少しずつ、ある事件が書き出されている。」

クロノ君の言葉にカリムさんが頷くと、紙片の1つを読み上げ始めた。

「古い結晶と無限の欲望が交わり集う地
死せる王の下 聖地より彼の翼が蘇る
死者達が踊り 中津大地の法の塔は焼け落ち
それを先駆けに 数多の海を守る法の船も砕け墜ちる」
「それって……。」
「まさか……。」

わたしだけじゃない。
フェイトちゃんも読み上げられた内容がわかったのだろう。
思い当たる単語が多すぎるその詩文。
その意味は間違いなく……。

「ロストロギアをきっかけに始まる管理局地上本部の壊滅と、そして管理局システムの崩壊。」

あまりにも桁外れの内容。
でも、その光景が映像と共に想像できてしまうのはやはりはんた君の影響か。
思い直せば破壊するだけなら心当たりが数多くあった。
ジュエルシードの暴走。
フェイトちゃんのお母さんがやった次元振の誘発。
それを押さえ込んだリンディさんもリミッターさえなければ可能だろう。
それに闇の書ことリインフォース。
暴走するがままにした場合に起こる事態でも同じことが可能。
アルカンシェルを使ってもいい。
そしてわたし、フェイトちゃん、はやてちゃん、それにヴォルケンリッターの皆も
リミッター制限さえなければ十分に可能。
おそらくははんた君も……。
ただ、やる理由が無いというだけに過ぎない。
けれども、地上本部を壊滅させるだけなら容易であることに気がつく。
でも、管理局というシステムを崩壊させることは可能なのか?
疑問が尽きない。

「それが六課設立の裏の理由だ。各部署にそれとなく警告はしているが、
肝心の地上本部の対応はほとんど無いと言っていい。
僕や騎士カリム、三提督をはじめとして多くの人が未然に防ぐべく動いてはいるが、
いつ、どうやって、誰が、どのような手段で行うのか情報が欠落している。
注意だけは十分にしておいてくれ。」
「「わかりました。」」

わたし達の言葉をきっかけにカーテンが再び開かれる。
光が差し込むのに合わせて、硬い雰囲気に包まれた暗い空間が少しずつ切り裂かれていく。
誰もが緊張していたのか、皆が一斉に紅茶を口にする。
明るい部屋とは対照的なまでに重い沈黙が続く。
そんな雰囲気を払拭するような話題を振ってきたのは意外なことにクロノ君だった。

「ときに、母さんから六課設立時に愉快な人をねじ込んだと最近聞いたんだが、
どんなやつなんだ?」
「ああ、はんた君のことだね。」
「どんなって言われても……。」
「えーと、その、なんだ。……頼れるいい男なのか?」

憮然として言い放つクロノ君。
そんな様子に思わずフェイトちゃんと顔を合わせて苦笑い。
はやてちゃんは必死に笑いをこらえようとしているけれど肩が震えている。
微笑ましそうに控えめな笑いを浮かべながらカリムさんが口を開く。

「こんなに可愛い妹さんと同じ職場に頼れる男性がいたらお兄さんとしては不安ですからね。」
「ち、違う!!あくまで、そうあくまでこれは後見人としての考えであって、その、つまりあれだ。
少しでも皆の安全が確保できるのならばとだな……。」
「お兄ちゃん、私が心配じゃないの?」
「あ……あう……。」

しどろもどろに必死に言い訳をするクロノ君に追い討ちをかけるように
フェイトちゃんが言葉をかけると、今度こそクロノ君は言葉に詰まって言葉を失った。
そういえば気にしたこと無かったけれどはんた君って何歳なんだろ?

「まぁまぁ、でも、私も気になりますね。いきなり空曹兼陸曹という立場につくぐらいですから、
能力は高いのでしょうけれど、私達はその方を書類でしか知りませんから。お聞かせ願えますか?」

カリムさんの言葉にはやてちゃんとフェイトちゃんと顔を見合わせると、
思いつくことを片っ端からあげていく。

「そうですね。まず能力は高いですね。」
「経験も豊富やな。」
「魔力適正も私達と同等ぐらいです。」
「思考も早いし、頼りになるよね。」
「物凄く合理的な思考する人ですね。」
「最近言わなくなったけど四六時中殺す殺す言っていたもんね。」
「でも陸士試験とかどうしたんだろ?」
「そういえばそうだね。退屈そうにこなしそうな感じはするけど。」
「あとは不思議なデバイス使ってて本当に近距離から遠距離までそつ無くこなすなぁ。」
「……僕の聞き間違いであってほしいと思うんだが、ろくに士官教育受けていないSランク魔導士が
リミッター制限もなしに六課で放し飼いになっているって聞こえるのは気のせいか?」
「諸所の問題はリンディさんがクリアーしてくれたんよ。それにレジアス中将もはんたには好意的やしな。」
「大問題だろうが!!なんでそんな危険人物が管理局にいるんだよ!!母さんも何を考えてるんだ!!」
「あー、でも生身で六課潰せるような人間を手元に置いておけると思えば……。」
「あの、生身でということはその方はベルカ式の使い手なのですか?」
「あー、なんというかなぁ……。」

激高するクロノ君をおいてけぼりにしながら、疑問をはさんだカリムさんにはんた君の世界のことを話す。
人間VSその他すべてが生存競争をする狂気じみた世界の話を。

「そんな世界が……。でも六課を生身でというのは些か言葉が過剰ではないのでしょうか?
現在こそリミッター付きとはいえ、Sランク魔導士とヴォルケンリッターがいるのですよ?」
「2人庇っとったけどなのはちゃんが半死半生にされたし、
リンディさんから提示された条件として生身の丸腰で地上本部半壊させたし、
言葉としては適切じゃないかと思います。」
「あれは完敗だったよね。」
「もしも、バトー博士がでてこなかったらって思うとかなり怖いものがあるよね。」

きゃらきゃらと笑い声が上がる。
頭痛を抑えるかのようにうつむいていたクロノ君がようやく顔を上げて口を開いた。

「その危険人物の人柄を言い表すとどんな言葉で言い表せるんだ?」
「誠実で不器用。」
「合理的で機械的。」
「ベテランで戦闘狂。」
「あらあら、うふふ……。」

見事に分かれた3人の言葉にカリムさんが笑い声をあげ、
頭痛が増したかのようにテーブルにつっぷすクロノ君。
そんなとき、はたと思い出したようにカリムさんがプロフェーティン・シュリフテンを展開する。

「もしかしたら、この一説をその方なら解読できるかもしれませんね。
あまりにも支離滅裂すぎて解読さえ十分にできていない一説なのですが、
その中にもかの翼という言葉がでてくるので注目しているのですが。
どうにか意味を通るように解読させたのですが、なにぶん該当するものがまったく無くて……。
何かしらの固定観念で考えが凝り固まってしまっているからかもしれませんね。」

そう前置きをはさんで言葉を続ける。

「つがいをなくした鋼の獣は鋼の竜を駆りて かの翼に挑みかかる
母の胎を知らぬ獣と 人であるのに人ではない人を従者として
荒れ狂う嵐の中 やがてかの翼は真の姿を現す
しかし鋼の獣に傷つけられて真の姿を現した翼は地に落ち 数多の死者達は冥府へ再び還る
鋼の獣は立ち止まらない すべてはなくしたつがいのために」

まったくわからない詩文。
つがいをなくした鋼の獣?
鋼の竜?
母の胎を知らない獣なんているの?
人なのに人じゃない人って?
かの翼がなにか分からないのに、真の姿ってなに?
重要なことを書いてあると核心があるのに、まったく意味がわからない。
ただ、1つだけ……。
どうしてだろう?
鋼の獣という言葉を聞いて、はんた君の顔が思い浮かんだのは……。


 

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最終更新:2008年04月02日 21:45