リリカル・グレイヴ エイプリルフール編 「魔道戦屍 リリカル・ファンゴラム 魔法の呪文はケルベロスなの♪」
時空管理局地上本部のある一室、そこに二つの影が佇んでいる。
一人はレジアス・ゲイズ、管理局に長く務める中将。そしてもう一人は彼の秘書であるオーリス女史である。
二人は空中に展開したモニターで、とある管理外世界で入手した死人兵士の各種データを眺めていた。
「オーリス、ファンゴラムの調子はどうだ? すぐにでも実戦に投入できそうか?」
「はい、身体能力や使用火器センターヘッドの整備も万全です。ですが一つ問題が‥‥」
「なんだ?」
「確かにファンゴラムは単純な戦闘能力でならば最強の死人なのですが、何分あの気性ですから他の部隊や魔道師との連携が上手くいっていません‥‥」
「そうか、よし! ではこうしよう‥」
△
「え~‥‥その‥では紹介します、今日から機動六課に配属された田中・ファンゴラムさんです」
「グウウウレエエイイイヴウウウゥゥッ!!!」
恐怖・緊張・困惑
その他諸々の感情でヒクヒクと頬を震わせながらはやてが脇に立った死人を紹介する。
紹介された最強最悪の死人兵士は幽鬼の如く低い声で意味不明の呻きを漏らした。
ファンゴラムを紹介された機動六課の面々は一様にはやてと同じく顔をひくつかせている。
まあ無理も無いだろう。
なんせ黒い帽子とコートに身を固め、顔には口元を覆う拘束具を付け、背中に2メートルは優に超える超巨銃を携えた死人が突然やって来たら普通の人間なら腰を抜かしてもおかしくはない。
ファンゴラムは通常魔道師との連携を養う為に機動六課に一時出向という形で配属になったのだ。
言うまでも無くこれはレジアスの差し金であるが、上層部で決められた事情をなのは達が知る由はない。
「ねえ、はやてちゃん‥‥」
「なんやなのはちゃん?」
「“何”から突っ込めば良いの?」
「‥‥‥できればあんま突っ込まんで欲しいんやけど‥」
「無理だよ! それ絶対無理だよ!! そもそも“田中”って何!? どう考えてもやっつけ仕事で考えてるよ!!!」
「まあ‥‥なのはちゃん‥少し落ち着いて」
「落ち着けないよ! しかもあの人(?)なんでスバルやティアナの隣にいるの!?」
「ああ、それなんやけどな。ファンゴラムさんはスターズに配属‥」
「ちょっ! こ、困るよ!! 私あの人と上手くコミュニケーションとる自身ないよ」
「そんな事言ったら誰だって同じやと思うんやけど‥‥ともかくよろしく頼むっちゅう事で‥」
「ま、待ってよぉ~」
はやて、そう言うとそそくさと立ち去っていく。
後には機動六課前線メンバーと最強最悪の死人兵士がぽつんと立っていた。
なのははチラリと異形の死人に視線を移す。
ファンゴラムは“指示待ち”とでも言いたげな様子でジ~っとなのはを見つめていた。
ぶっちゃけなのはは泣きたかったが、9歳のころから鍛え続けた鋼の精神で恐怖心を捻じ伏せてファンゴラムに笑顔で話しかける。
「そ、それじゃあ‥‥訓練を始めましょうか‥えっと、ファンゴラムさん」
「ぐるううああぁぁっ‥‥了ぅぅぅ解ぃぃぃっ」
ファンゴラムの言葉は完全に人外のレベルに入るくらいの滑舌の悪さであったが、その様子からなんとか最低限の意思疎通を図ることが出来た。
こうして奇妙な新人、スターズ05が生まれた。
△
「ぐるうううぅぅあああああぁぁっ!!!!」
野獣のような死人の叫びと共に、空気を震わせる超爆音が響き渡り地獄の番犬が壮絶な咆哮を上げる。
吐き出された巨銃の弾丸は大気を切り裂きながら正確に標的である訓練用ガジェットに命中する。
絶大なる破壊力を持つ無慈悲な弾頭は、容易く敵の装甲を貫き抉り爆ぜ飛ばす。
こうして機動六課の訓練場には死人の築き上げた無数の鉄屑の山が出来た。
その光景を確認した教導官は若干頬を引きつらせながらも、笑顔でこの日の訓練の終了を告げる。
「仮想敵ターゲットを全て撃破。よし、今日の訓練はこれで終了だね」
「「「「はいっ!」」」」
「ぐるあぁぁっ!」
フォワード5人(?)は元気良くなのはに挨拶して訓練を終える。
最初は不安だらけだったファンゴラムの機動六課への配属は思いのほか問題なく進んでいた。
訓練を終えたフォワード一同は食堂に行き食事の時間にする。
正直に言って、年頃の少女達に混ざってファンゴラムが食堂で食事をする姿はどこまでも悪夢的だった。
椅子のサイズは明らかに合ってないし、背中に背負ったセンターヘッドが邪魔極まりない、そして何よりも彼の食事風景は見るに耐えない惨事である。
ファンゴラムは食事を取る為に顔につけていた口を覆う拘束具を外す、すると頬から顎まで肉の抉られた顔が露になった。
筋肉やめくれた皮の内側の晒されたファンゴラムの顔はもはやホラー以外の何ものでもない。
あまりのグロテスクな光景に最初の内は吐く者さえいた程だ、今でこそ少しは慣れた光景とはいえど多くの者は青ざめた顔で頬をヒクヒクとさせていた。
「はははっ(乾いた苦笑い)、いつも大変ですねファンゴラムさん‥」
「そうでもぉぉないぃぃ」
ファンゴラムはスバルの言葉に相も変らぬ重低音の不気味な声で返す。
彼が同じテーブルにいるとかなり空気が重い気がするが、そこは鍛えた精神で耐え切る。
「そう言えばどうしてそんな風なケガしてるんですか?」
キャロのなんでもない質問にファンゴラムは突然カタカタ震えだす。
そして血涙でも流しそうな強い眼光で睨み、口を開いて腹の底から搾り出すような重低音の声で話だす。
「グウウウレエエイイヴウウゥゥッ!!!」
「グレイヴ?」
「仲間ぁぁぁ、殺しぃぃたあぁぁぁ、同ぁじいいぃぃ死人がぁぁぁ、このおぉぉ悪魔ぁぁめええええ!!!」
ファンゴラムの顔は目玉が飛び出そうな程見開かれ、口は筋肉とめくれた皮を大きくさらけ出して牙を剥く。
あまりの迫力に気を失うキャロとエリオ、スバルとティアナ涙目、食堂に集まったその他機動六課の一同も逃げ出す始末。
なのはとフェイトはこの惨事にいつもは決して出さない情けない声で泣いた。
「もうイヤ~! はやてちゃんレジアス中将に言ってなんとかしてもらってよぉ、このままじゃフォワードが壊れちゃうよぉ~(精神的に)」
「むしろ私はもう壊れかけだよぉ~」
しかしはやては既にリインや守護騎士達と一緒に逃げていた。
後にはただなのは達の悲鳴とファンゴラムの雄叫びが食堂に響き渡っていた。
終幕。
最終更新:2008年04月02日 21:53