静謐の暗室に一筋の光が差し込んだ。
 光源は扉の解放によって外部から差し込んだもの。そして光ある外部から暗室に入ってくるのは一人の女性、栗色の長髪を左側で結わえた高町なのはだ。
「…………………」
 入った所で扉を閉め、なのはは暗室の奥へと歩を進める。何も見えない空間を幾らか行くと、
「――待ちくたびれたよ」
 若さのある男の声がした。聞き届けたなのはの表情は、怒り。
「貴方なのね? ……フェイトちゃん達を昏睡させたのは」
 なのはの憎々しい声色に、しかし軽薄な男の声が返される。
「ちょっと違うかなぁ。……フェイト=T=ハラオウン、八神はやて、クロノ=ハラオウン、シャッハ=ヌエラ、etcetc……。そいつ等全部、俺がやったよ」
「……誰なの」
 その答えになのはが叫んだ。
「貴方は一体誰なの!? どうしてこんな……みんなを元に戻して!」
「それは出来ないな」
「……っ!?」
 なのはが息を飲んだ瞬間、暗室が純白に包まれた。照明が灯ったのだ。
「…………………貴方が?」
 しばらくして目が慣れ、なのはは視界を取り戻す。
 そして見定めるのは、何もない無機質な内装と、部屋の中央に立つ一人の青年だった。
「落ち着けよ。アンタに暴れられたら、俺にはどうしようもない。……困っちまうんだよ」
 妙に長いマフラーを巻いた青年は歩み寄り、なのはの顔を覗き込んで嗤う。
「――俺、そんな顔してるだろぉ?」
 していない、となのはは思う。そしてその笑みに、その相違に、生理的な嫌悪感を抱いた。
 鋭く飛び退いて、一瞬でレイジングハートを組み立てる。
「フェイトちゃん達を起こして、それで、目的を全部話してもらうからっ!!」
 管理局の制服をバリアジャケットに組み替え、なのははデバイスに魔力を通わせる。蓄えられた魔力は無数の球体となり、青年を昏倒させる魔力弾となった。
 が、
「止めなさい、高町さん」
 一人の老婆によって制止された。
「………ミゼット議長!?」
 否、ミゼットだけではない。レオーネとラルゴ、最高評議会が失われた今、実質的に管理局を指揮している三人が現れた。
 青年の後ろに、まるで組みしているかの様に。
「どういう事ですか、ミゼット議長! まさか貴方達は、みんなが昏睡した原因に関わっているんですか!?」
「必要な……そう、必要な事なのよ、高町さん」
 なのはの糾弾にミゼットは頭を振る。
「フェイトさん達はただ眠っている訳じゃないわ。肉体を離れ、意識だけを離してとある任務についてもらっているの」
「意識だけで行う、任務?」
 そう、とミゼットは頷いて、そしてこちらを試す様に言い出した。
「高町さん。貴方は――もしこの歴史が消えかけているとしたら、どうしますか?」
 その言葉をなのはは即座に理解出来なかった。
「……どういう事ですか」
「私達が生きているこの歴史はね、過去のとある時間から分岐した未来の一つなの。そして今、どの未来が採用されるのか、決断の時が来たのよ」
「しかし歴史は……我々のいるこの未来ではなく、別の未来が採用されようとしている」
「そうなれば、どうなるかわかるじゃろ?」
 三提督の説明、荒唐無稽と思いつつも信じるしか無いなのはは答えた。
「消えるっていうんですか、私達が」
「私達だけじゃない。私達からすれば、世界も過去も未来も、あらゆる全てが消滅するという事なの」
「故に我々は、我々がいるこの未来を採用させるべく、過去へ赴いて工作を施す事にした」
 告げられたその事実になのはは驚愕した。
「――過去へ!? そんな、時間移動なんて出来る筈が無い!!」
「出来るのだよ。この青年、カイの力があればな」
 レオーネが示したのは先ほどからにやけ顔で問答を見ていた青年だ。
「カイは歴史の一区切り毎に存在する特別な人間、特異点だ。彼の力があれば、私達は過去へ跳ぶ事が出来る」
「でも、そこに一つ問題があってねぇ」
 言葉を継いだのは青年、カイだった。
「俺が物体を跳ばす事は出来ないんだよ。だぁかぁら、意識だけをひっぺがした状態……イマジンにして過去へ送るしかなかった」
「……それが昏睡の原因、ということですか」
「理解が早くて嬉しいよ」
 そういう顔してるだろ、とカイは嗤う。その表情から目を背けて、
「フェイトちゃ……執務官達が選ばれたのは、彼女達が優秀だからですか?」
「そう、身体を持っていた状態で強い力を持つ者は、意識だけになっても強い力を持つ。だからこそ、過去での工作には彼女達が必要だった。過去には、私達を妨げる敵がいるから」
「自分達の歴史を採用させたいって考えるのは、どいつも同じなのさ」
 そう答えてカイは、なのはの目前まで迫る。
「さあ答えろ高町なのは。過去へ飛んでこの歴史を護るべく戦うか、それとも拒んで歴史が消えるのを待つか」
「……………ッ!!」
 そんな事は答えるまでもない。
 成る程、フェイト達が軒並み過去へ跳ばされた訳だ。こんな問いかけをされては、断る事等出来ない。
「――解りました。私も、過去へ跳びます」
「良い答えが聞けて嬉しいよ」
 そんな顔してるだろ、とは聞こえなかった。
 そうなる前に高町なのはの意識は、この時間から離れていたから。



……こ、れが……っ!?
 全身の体重が失われた様な浮遊感を感じる。
 視界が光と歪みの渦でいっぱいになり、乗り物酔いにも似た吐き気を味わう。
……あ、あぁ、あ………ッ!!!
 呻く口も無い。
 よじる身も無い。
 自身を抱く腕も無い。
 一瞬か悠久か、あらゆる感覚が失われて、
『――――――――――――――――――――――――――』
 その苦しみから解き放たれた。
 そうして見えるのは、白雲を諸処に散らした青い空。
『ここ、は……』
 呟こうとして、しかしそれは声にならなかった。
『……?』
 気付けば空を見ているのも、目という臓器を使ったものではない。まるで正確に過去の風景を思い浮かべている様な、意識に直接来る視認だ。
『ていうか手も脚も無いし……』
 これが肉体から離れ、意識だけになるという事か。
『こんなので、どうやって任務をこなすんだろう』
 なのはは疑問に思う。と、
――この時代の人間に宿れ。そうすればその人間のイメージを受け、擬似的な身体が造れる
『……カイ!?』
 突如として、あの青年の声が聞こえた。
――お前の任務は簡単。宿主の願いを一つ叶える事だ。そうすれば更なる過去への道が開く
『更なる時間跳躍って事? そんな事してどうするの』
――それはそん時に教えてやるよ。ま、無事に成功すればだけどな
 どういう事か、と問う間もなくカイは告げた。
――今まで更に過去へ飛んだ奴らは……みんな電王にやられてるからな
『電王?』
――邪魔者であり、また裏切り者だよ。俺の、そしてお前のな
『……邪魔者で、裏切り者…』
 どういう事だろうか。裏切り者という事は、自分達の仲間がまだ見ぬ敵対勢力に寝返ったという事か。
……どうしてそんな事を……
 自分達の歴史が大事じゃないんだろうか、なのはは思う。
――ま、目的さえ果たすんなら後は個人行動だ。上手くやれよ、高町なのは――
『え? あ、ちょっと待ってよ!』
 カイの声が遠のいた。なのはは呼び止めるがそれに応じてくれる様な相手ではない。
 幾許の間となく、カイの気配は完全に消えた。
『……この時代の人間に宿れって言われても、どうすれば良いの………?』
 誰でも良いんだろうか。まあ、個人行動と言われているんだから良いんだろうが。意識だけの状態となったなのはは飛行、青空の対、この時代の市街へと降りる。
『誰か、いないかなぁ……』
 意識だけで町中を飛ぶのは不思議な感覚だった。なった事は無いが、まるで幽霊にでもなった気分。
 やがてなのはは道路の先、草木に溢れた広場に到達する。
『公園、だよね』
 ここならば人は多そうだ、となのはは判断。人間を捜して奔走する。
 そうしていると、やがて一つの人影を見つけた。
『……何してるんだろう』
 それは作業着を着た初老の男、彼は芝生にしゃがみ込んでいる。何をしているのかと思い、回り込めば、
『あ……』
 初老はペット用の食品を受け皿に流し込み、猫や鳥達に餌を与えていた。
 その行動になのはは閃く。
『この人なら……危ない願いは言わないかも』
 カイには願いを叶えろと言われたが、誰かを傷付ける様な願いをされるのは御免だった。だがこの人物ならば大丈夫な様に思える。
『じゃあ……お邪魔しますっ』
 初老に向かって、レッツ突撃。意識が潜入した直後、初老の身体から白い砂が噴き出した。
 そして初老のイメージがなのはに流れ込む。
『これは……鳥? うん、梟、かな』
 そのイメージが意識だけとなったなのはに形を与える。
『ん、ん……』
 身体を得たなのはが初老の目前に現れた。と言っても、願いを聞いていない今は不完全体。
 半透明の上半身だけが大地に現れた、かなり奇怪な姿だった。
「おおおおおおおおおっ!?」
 驚いた初老が尻餅をつく。まあそりゃそうだよね、となのはは思う。
『あ、え、ええと、すいませんっ。驚かすつもりはなかったんですけど……』
 後退りした初老を追うなのは。その容貌は栗色の髪を流した女性のものではなかった。
 両肩に大きな肩当て、首周りを羽毛で埋め、顔には仮面が備えられている。背には大きな翼が伸びており、その全てが白で統一された姿は、鳥人と表現出来た。
『あー、なんか怪人っぽくてヤダなー……』
 実際怪人なのだが、それをなのはは自覚していない。
「な、ななな、何なんだアンタ!?」
 不完全ながらも形を成した我が身を感想するなのはを、初老は問いただす。
 そんな彼に返すなのはの答えは一つ。
『――願いを言って下さい、どんな願いも一つだけ叶えます。……貴方が払う代償は、たった一つだけ』


 かくしてオウルイマジンへと変貌を遂げた高町なのは!

―――フェイトが、
「……どこだろ………。早くあの子のキーホルダーを見つけてあげなきゃ……。あの子がお母さんと約束した、大事なキーホルダー……」

―――はやてが、
「任せといて旦那さん! 絶対絶対、カスミちゃんに会わせたるからな!!」

―――スバルが、
「空手のトップになりたい? よーし解った、私が協力してあげる! ……さあレッツ道場破り!!」

―――ティアナが、
「……アンタバカじゃないの? レギュラー選手になりたいんだったら、努力しなさいよ努力」

―――エリオが、
「何で邪魔するんだ! あの人は……あの人はただ、妹に星を見せてあげたいだけなんだ!!」

―――キャロが、
「大丈夫です、貴方は人なんて殺してませんっ! 私がそれを証明してみせます!!」

 機動六課がまさかまさかのイマジン化!?
 仮面ライダー電王との、新しいクロスオーバーがここにあり!!!

――――魔法少女リリカルなのはStrikerS VS 仮面ライダー電王!!!
――――時を超え、魔法少女、参上!!

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最終更新:2008年04月02日 22:01