キャロ、エリオの攻撃をも跳ね除けて猛威を振るう新型ガジェット。
 無論ノーダメージというわけではあるまい。
 が――AMFの前では、果たして魔法がどれほど通用するだろうか。
 このままでは目的であるレリックを盗まれてしまうのも時間の問題。
 そう判断したスバルが、パートナーへと声をかける。

「ティアナ! 先にレリックを!」
「わかった!」

 二挺拳銃を手に七番車両――重要貨物車へと飛び込む。
 厳重なロックも、今では殆どが壊れてしまい用を為していない。
 危なかった。間に合わなければ奪われていたかもしれない。
 冷や汗をぬぐいながら扉を開ける

 其処にあるレリックこそがドローンが狙い、彼女たちが護ろうとした存在。
 レリックだと聞かされていた。重要な物資だと。
 だからそれを護るのだと、そう思っていた。

 だが――レリックではなかった。

 其処にいたのは一人の人間だった。椅子に腰掛けた男。
 撫で付けられた黒髪。装飾の少ない、まるで神父服のような衣服。
 それだけならば、単に実直で、神経質な人間だと受け取ったろう。
 だが、その一切を裏切っているものがあった。
 深淵を覗き込んだように暗い瞳。
 およそ「単に実直で神経質な」男の目ではない。

「え? え、えぇと……?」

 目の前の現実を一瞬理解できず、不思議そうに首をかしげるティアナ。
 が、戸惑っていられるほど事態は穏やかではない。
「ティアナ、後ろ!」
 叫び声に振り返る。――しまった。
 スバル達を掻い潜ってたどり着いてしまったのだろう。
 無機質なドローンの姿が、其処にあった。

「伏せるんだ」
「え?」

 たった一言。その静かな呟きにティアナが反応するよりも早く、男の両腕が動いた。
 手首のフラップをはずし、射出型ホルスターから飛び出してきた格闘用拳銃を二挺握り締める。

 ガジェットが動く。触腕六本。接近兵装。機体中央に熱線砲を確認。
 各腕の配置より連続した白兵攻撃と予想。軌道演算開始。近距離より目標を優先して撃破。
 光量等から熱光線発射まで3プラスマイナスコンマ秒と判断。問題無し。
 各目標のコンマ1秒後、コンマ1,5秒後の位置を演算。完了。射撃開始。

 二挺拳銃が火を噴いた。
 マズルフラッシュは十字。聖なるリヴリアの紋章である。
 まずは一射。水平に持ち上げたまま、左右から迫りくる触腕を迎撃。
 銃撃で弾き飛ばした刹那、すかさず両腕を交差し、続く二つの攻撃を退ける。
 更に重ねて振るわれる残り二つの触腕を身を屈めることで回避しながら、
 まるで羽を広げるかの如く左右に腕を伸ばし、それを付け根から銃撃で吹き飛ばす。

 ここまで2秒。
 立ち上がった男は銃を胸の前で上下に交差させ、流れるような動きで右腕を伸ばす。
 左腕は肘のところで折り曲げられ、半身に構えた体を中心に、左右の銃が平行線を描く。
 蛇咬の型。攻夫を基にしたこの構えは、そう呼ばれている。
 そして徐々に光を増し、射撃に移ろうとする熱線砲を鋭く銃弾で貫く。

 その光景を――ティアナを助けようと駆けつけたスバル・ナカジマもまた目撃していた。
 見たことのない武術。
 だが、聞いたことのある武術。

 そう、いつだったか彼女の父親が話してくれた。
 あれは何年か前の――そう、朝食の時だったろうか。
 辺境の土地で起きた動乱を知らせるニュース。
 何故そんな事が起きたのか、気になったスバルは父に問いかけたのだ。

「――管理局は、先の戦争における原因のすべてを質量兵器であるとした。
 だが、それとはまったく違う選択を取った者もまた、存在していたんだ……」

 彼らが害悪と断じたのは『感情』。
 怒り、憎しみから、喜びや愛情、情熱といった心まで。
 そのすべてを封印し、押し殺した社会を築き上げた。
 それが正しいか、間違っているかは、誰にもわからない。
 唯一言えるのは、その管理国家――リヴリアは長きに渡って平安を保ち、
 たった今、感情を取り戻すべきと主張した叛乱勢力の手によって崩壊を迎えたという事。

 そして、そのリヴリアの秩序を保ち、同時にリヴリアを崩壊に導いた存在がある。

「スバルも、ギンガも、格闘技を扱うならば覚えておいた方が良い。
 銃の弾道すら見切り、たった一人で数十人を相手取って勝利する。
 気合や直感、気配といった曖昧模糊なものに頼らず、
 計算と理によって勝利する存在。彼らの身に着けた武術」

 グラマトン・クラリック。
 その戦闘技術ガン=カタ。

 そして、リヴリアを滅ぼした男。
 特一級クラリック、ジョン・プレストン。
 現在広域指名手配犯であり、その危険度は「レリック級」とされる人物。
 今回、機動六課が保護を命令された――その正体であった。

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最終更新:2008年04月11日 20:07