タカタカタ、タカタカター♪

 家族の帰りを心配するはやての為に、コンビニに行くついでに探してくると慣れない優しさで
外出した黒龍。
 だが、その途中怪しい気配を放つ結界を見つけた。シグナム達の気配を感じ取りその結界に
突入するがその途中妖しい集団が襲ってくる。一瞬で打ち倒しビルに駆け上がった瞬間彼の目に
武器を突きつけられたシャマルの姿が在った。
 そのシャマルの窮地に、自らの心を抑えきれなくなった黒龍は拳を振るいクロノを吹き飛ばす。
 そしてクロノに向かい、龍の怒号の如き怒りの宣告をする黒龍であった。
 戦いの場に黒き龍が舞い戻った瞬間であった。

情に目覚めし黒き龍第3話「聖衣装着、復活の暗黒聖闘士」

「こ……黒龍?」
 呆然と、黒龍に向かって私は呟いた。
 ありえない場所で、ありえない事が起きている。
 管理局の執務官に後ろを捕らえられた私を救ったのは、ここに居てはいけないはずの黒竜。
 彼は一体何をしたの? 魔力を持たない彼が、誰にも気づかれる事無くこの場に居るなんて不可能なのに。
 その思いが表情に出たのだろうか、黒龍が振り向いた。
「シャマル、今は何も聞かない。その前にやらなければいけない事があるからな」
 そう言うと彼は、何も無い空間に視線を合わせた。
 何時の間にか拳が横にかざされている。そして、凄まじい音と共に何かが弾き飛ばされて壁に激突した。
「こそこそと隠れてる羽虫が。気配を隠そうとするのなら、完全に闇と同化するぐらいしてみせろ」
 激突音がする方を見ると、そこには仮面をつけた男が壁にめり込んでいた。
 私が……、サポートを得意とする私が全く気がつかなかった相手を見つけ出すなんて、本当に黒龍に魔力は無いのだろうか。
 私が心の中で考えてる間に、仮面の男は早々と転移していく。私達が抜け出せない結界内で転移するほどの相手に
有無を言わさない一撃、黒龍は一体どういう存在なの?

「シャマル避けろ!」
 更なる思考の淵に沈もうとする私に、黒龍が警告を告げる。
 慌てて横に飛ぶと、立っていた場所を通りすぎる砲撃魔法。
 危なかった、全くの無防備状態であのクラスの砲撃に当たっていたらそれでアウトだった。
 危うく回避した私の前に、守るように立つ黒龍。振り向きもせず、私に言葉をかける。
「シャマル……、確かアイスは抹茶が好みだったな」
 そうそう、私はあの抹茶の渋味が良いのよねって、この緊迫した雰囲気の中突然言われてしまい思わず乗りかけて
しまう。
「アイスを買いに行くという名目で出て来たのでな、一応確認という事だ」
 そう言った瞬間私は気づかないうちに黒龍に抱きかかえられ、隣のビルの屋上に移動していた。
「シャマル、この小僧は私が相手をしよう、下がっていてくれ」
「無茶言わないの、空を飛ぶ相手にどう戦うの? さっきみたいに行かないわよ」
 そうだ、黒龍は肉体的には凄いのかもしれないが魔法は全く使えない。上空から遠距離攻撃されれば
それだけで終わってしまうのだ。
 だが、そんな私の不安を吹き飛ばすように黒龍は優しく微笑んだのだ。
「何、私にはシャマル達のような魔力はないが、それを補う物がある」
 そう言うと、先ほどの執務官の方を向き戦意を張り巡らせ告げるのであった。
「小僧、お前は知るだろう。人に知られずに存在した伝説の存在を」


同時刻、八神家
「はぁ~、黒龍はもうすぐ帰ってくると思うけど……一人はいややなぁ」
 はやては一人になってしまったリビングで頬杖をつきながら帰りを待っていた。
「うぅ、アカン少し冷えてしまったわ、トイレ、トイレ」
 体が冷えたのか、トイレに向かおうと黒竜の部屋を通りすぎようとしたとき、扉の隙間から漏れる黒い光。
「なんや? ひょっとして泥棒なんか」
 心配になったはやてが、意を決して扉を開け覗きこんだ瞬間黒い閃光がはやての目を眩ませた。
「ちょ、ちょう何が起こったんや!」
 驚いたはやてが眩しさから立ち直り、目にしたのは触っても開ける所がなかった黒龍の箱が開かれていたのと
粉々になっている窓ガラスであった。
「あ、……ちょい漏れてもうた」
 どうやら、刺激が少々強かったらしい。


 結界内に満ちる強烈な何か、その何かを感じ取り戦っていたシグナム達も一斉に黒龍が立っているビルに目を向ける
そこには一切の星が無い、闇空を塗り固めたような光沢が無い漆黒の竜のオブジェが浮んでいた。
 黒龍はコートを脱ぎ捨てると、驚いているシャマルに投げ渡す。
 慌てて受け取るシャマルに苦笑いすると、真面目な表情に戻り告げた。
「直ぐに片がつく、少しの間持っていてくれ」
 意を決し、黒龍は天に届けとばかりに叫ぶ。
「聖衣(クロス)よ!」
 黒龍が叫ぶと同時に、無数のパーツに分解し変形展開され聖衣は黒龍に降り注ぐ。
 レフトニー!
 ライトニー!
 動きを重視するように、両膝のみをガードする膝当て。
 バックル!
 模様と彫刻が施されたバックル。
 レフトアーム!
 ライトアーム!
 台座が縮小し盾となり装着された左腕と、シンプルな手甲の左右非対称の両腕。
 チェスト!
 ブレスト!
 ショルダー!
 重厚な厚みを感じさせる両肩と、それに飾られる龍の腕。
 ヘッドギア!
 首が二つに分かれバンドが伸び、分かれた首が耳当てに変化する。
 次々と装着されていくのを誰も彼もが、ただ黙ってみている事しか出来なかった。
 一つ、一つ装着されていく度に、高まる何かに心が恐れを抱いたのだ。
「此処にドラゴンの暗黒聖衣(ブラッククロス)装着完了」
 漆黒の長髪が、体から発せられる小宇宙(コスモ)によってうねり荒れ狂う。
「時間がない、さっさと片付けさせてもらおうか」
 構えを取ると、クロノに向かって不敵に微笑み、そして黒龍はクロノに突撃した。  


 次の瞬間、周りの人間が見たものは間合いを零にした黒龍の拳とクロノが張ったシールドが火花を散らす
光景であった。
「ほう、この程度のスピードには対応できるか、先ほどの集団とは少しは違うようだな」
「お前か、武装隊を倒したというのか!」
 余裕の表情で僅かばかりの賛辞を告げる黒龍と違い、クロノは搾り出すような声で答える。
(早い、フェイト以上の速度で動いてくるなんて反則も良い所だ)
 次の対応を考えるために、シールドをバーストさせる用意をしていたクロノの考えを読んだかのように黒龍は反動を利用して
屋上に着地する。
 この行動に、一つの疑問を感じたクロノは念話を使いアースラと連絡を取る。
(エイミィ、あの男から魔力は感じられたか?)
 その問いに、エイミィは信じられないという風に声を震わせながら答えた。
(……冗談じゃないから真面目に聞いてね、一切の魔力を感じないのよあの動きにもあの鎧にも)
 この返事に、疑問は確信に変わる。
(どうやら向こうは魔力を持たないか、もしくは著しく低く空を飛べないようだ。どんなに早くてもそれならやり方なんて幾らでもある!)
 急上昇し、間合いを広げるクロノ、そして屋上にいる黒龍に向かって己の最大の攻撃を叩きつけた。
「いくぞ! スティンガーブレイド・エクスキューションシフト!!」
 無数の光り輝く剣が、黒竜に唸りを上げ豪雨の如く降り注ぐ。
「黒龍!」
 シャマルの悲痛な叫びが上がるなか、シグナム達も動こうとするがそれはなのは達によって阻まれていた。
 その衝撃による粉塵が舞う中、クロノは構えを解かなかった。
(あの男のスピードならある程度は回避されたはず、だがかなりのダメージは確実に与えたはずだ)
 煙の向こうにいるはずの黒龍の姿を捕らえんと、目を凝らし意識を集中する。
(煙が晴れて向こうの姿が見えた瞬間、ブレイズキャノンで王手だ)
 しかし、クロノの予想は大いに外れる事になる、なぜならば
「威力は高いが、悲しいかな遅すぎる」
 黒龍は既に、クロノの遥か頭上に跳躍していたのだ!
「バカな、あの一瞬に頭上に移動だなんて」
 驚愕するクロノに対し、黒龍は空気を蹴り急速落下の勢いのまま踵を振り下ろした。
「おまえ達の常識で、聖闘士(セイント)を測かろうとするのが間違っているのだ!」
 重い一撃がクロノを打ち据える、凄まじい衝撃がBJを貫いて脳を勢い良くゆらす。
 勢い良く揺らされた為に、意識を失いかけ地面に落下しかけるがあわやという瞬間に辛うじて意識を取り戻し
急制動かける、そして踵落としの勢いのままこちらを追撃する黒龍に反撃のスティンガースナイプを打ち放ち自
らもS2Uを構え急上昇を開始した。


「オォオオオオオ!」
 らしくない雄たけびをあげ全速力で突撃するクロノ、それに対し黒龍は、左手の盾でスティンガースナイプを打ち払うと
人を指差すような奇妙な構えを取って迎え撃つ。
(くそ、魔力を感じないからって甘く見すぎた、遠距離がダメなら近づいて直接魔法を叩き込む!)
 唸りを上げて黒龍の指とクロノのS2Uが激突する、クロノはこの瞬間に己の全てを篭めたブレイクインパルスを
発動させた。
 空中で静止する両者、周りが固唾を飲み決着を見守るそして……
 黒龍の指とぶつかり合っていたS2Uが、澄んだ音を発て砕け散り全身から血を噴出しながらクロノは崩れ落ちた。
 地面に顔面から落下するクロノ、ビクビクと体が痙攣し、地面には血溜まりを作り上げる。
 その状況に、悲鳴を上げ近づこうとするなのは達であったが、それを止めるかのように着地した黒龍がクロノの
頭に足を添える。その行動に動きを止めるなのは達、動きが止ったことを確認すると黒龍はこの場にいる全員に聞こえる
ように残酷な言葉を放つ。
 「この結界を解いてもらおうか、解かないというのならばこの小僧の頭を砕く」
 それを証明するかのように、冷たい眼差しをクロノに向け黒龍は足に僅かに力を篭めた。
 


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最終更新:2008年04月12日 22:04