それは大切な出会い、故郷を追われ、当てもなく彷徨っていた私を救ってくれた
暖かくてとても大きな人。
 私に人の生き方と、人間の強さを教えてくれた偉大な剣士、我が師サイ・オー。
 ゆえに私は竜召喚師としてではなく、剣士として生きる事に命をかける事にしました。
 殺の一文字心に抱いて、キシュラナ流剛剣術士キャロ・ル・ルシエが推して参ります。

なのはSTS×影技クロス  「剛剣無頼」

 ザッザッザッ、薄汚れた外套を纏った幼い少女が無人の道を一人歩く。
 その背には不釣合いな一本の太刀、そして肩には小さな竜。
「ねぇフリード、今日中には次の戦場に辿り着くかな?」
 おっとりと優しげな声で、不穏当な発言をその小さな竜フリードに問い掛ける。
「キュクル~♪」
 その声に分かっているのかいないのか、楽しげに声をあげ頬に擦り寄るフリード。
 元々答えを期待していなかったのであろう少女は溜息をつくと、またゆっくりと歩き出した。
 暫らく無言で歩いていたが、ふと振り向くと何もいないはずの木の根元を斬りつける。
「傭兵の私に何か用ですか、ラッド・カルタスニ尉?」
 少女は何の感慨も無く、つまらなそうにそこに誰か居るかのように声を発した。
「いや、申し訳ないですね狂乱(マッドネス)キャロ・ル・ルシエ殿」
 斬りつけた木の上に、何時の間に居たのであろうか、管理局の制服を身に纏った二十代半ばの青年が腰をかけていた。

「しかし、いきなり斬りつけてくることはないでしょうに」
 心底嫌そうに、頭を掻きながら苦笑いをするラッド。
 そんな彼の様子を、冷めた目で見ていた少女、キャロは当然と言った口調で答える。
「この程度で、ラッドさんが斬られる訳無いですから、ただの挨拶代わりですよ」
 ラッドは肩を竦めると、枝から飛び降りキャロの前に立つ。
「申し訳ありませんですが、依頼の変更です」
 ラッドの言葉に、意外そうな顔を見せたキャロは訝しげに質問をする。
「依頼の変更ですか? 私に何を期待するのでしょう? 只の剣士の私に」
 この質問に、ラッドは頭をガシガシと掻くと、本当に申し訳なさ全開で土下座した。
「申し訳ない、うちのバカ大将がどうしても彼方に護衛を依頼したいと!」
 護衛という言葉に驚くキャロ、誰が好き好んで自分みたいな少女に護衛を依頼するというのだ。
「何を考えているんですかナカジマ三佐は、私に護衛を頼むなんて正気じゃないですよ」
 狂乱(マッドネス)この名が示す通り、自分に護衛が向いていないのは分かりきっているだろうに。
 何を考えているのか分からないでもないが、この予想が当たるなら今すぐ引き返したくなる。
「まさかと思いますが、ひょっとして……」
 一縷の望みをかけ、ラッドに声をかけるキャロ、だがその希望はバッサリと断ち切られた。
「そのまさかです、娘のスバル嬢の護衛を頼みたいと……」
 沈痛とすらいってよい、沈んだ声でラッドは答えた。
「あの親バカは、何をトチ狂っているんですか! ついに痴呆でも始まったとでもいうんですか!」
 もはや敬称すら付けず声を荒げ、地面を何度も何度も蹴りつける。そのたびに僅かに地面が揺れる。
「前金はいつもの倍、報酬及び依頼中の生活は一切保障すると隊長は言っています」
 その条件に、キャロの思考は冷静かつ足早に計算を始める。
(いつもの倍の前金と、生活が保障されるなら問題ないよね。最近はフリードの餌代もバカにならないし)
「分かりました、依頼は受けさしてもらいます。正し、何か事態が起こったら私に自由にやらせてください」
 そう言うと、ラッドに手を差し出す。
「これが、私の条件です」
 その差し出された手を握り、ラッドは片膝立ちになると頷き答えた。
「ありがとうございます。護衛対象のスバル嬢がいる先は、遺失物管理部対策部隊機動6課になります」
 その長い部隊の名前に、何故か嫌な予感を抑える事が出来ないキャロであった。


 それから数日が経った。

機動6課部隊長室

 そこでは、部隊長であるはやてが書類の束の前で頭を抱えていた。
「幾らなんでも強引すぎや、でも通さないと不味いし、アカンどっちに転んでも良くないわ」
 そんなはやての様子に心配の余りオロオロするリインと、失礼しますと言いながら、書類を手にとるシグナムの姿。
 読んでいくうちにシグナムの眉間が皺を寄せ、頬が微妙に引きつっていく。
「主はやて、この文に書いてある事は一体なんの冗談ですか?」
 シグナムが書類を改めて眺める、そこには地上本部からの監察官として、6課に人員を一人加える事と、その人物
のプロフィールが書かれていた。
「地上本部からの横槍は、予測されていた事態ですし、年齢は実力主義の管理局なら問題ありません」
 バシッと書類を叩きつけながら、シグナムは激昂する。
「その監察官が管理局にキチンと所属しているならです!」
 そこに書かれていた監察官のプロフィールは、色々な意味で問題が記されていた。
 尉官待遇の傭兵、しかも経歴にはその管理局相手に、戦闘を行っているとすら記入されているのだ。
「主はやて、私はこの少女を実際に見たことがあります」
 あの時出会った姿を思い出す。内乱に介入した戦場で見た数多の局員と、反乱軍の屍の上で返り血に全身を染めな
がらも、まるで花畑にいるような優しげな笑みを浮かべていた、あのイカれた傭兵の少女。
「私に言えるのは、彼女を迎え入れた場合新人たちの精神の保証はできないと言うことです」
 それはシグナムの直感であった、数多の戦場を駆け巡った将としての判断が彼女を危険と判断する。
「でもなシグナム、この監察官を支持したのナカジマ三佐なんよ」
 疲れた顔ではやては、シグナムに伝える。その推薦人にシグナムは一瞬驚いた顔を見せたが、直ぐに表情を引き締め直す。
「本当に、ナカジマ三佐なのですか? 三佐ぐらいならば彼女の経歴を事前に知る事ができるはずですが」
 言外に、何か裏が在るのではとのニュアンスを込め、シグナムは自らの主たるはやてに問い掛けた。
「私も何か裏が在ると思うんやけど、ナカジマ三佐ならマイナスの影響を与えるような事をしないと思うし」
 本当になんでなんだろうなぁと、不思議そうに答えるのであった。
「もしや主はやて、ナカジマ三佐はテスタロッサに、何かを期待してるのでしょうか?」
 その言葉に、頭を抱かえていたはやては、一縷の光明を見出したかのように面を上げる。
「そうか、フェイトちゃんは色々な所で子供を保護しとるから、その子の心を救ってもらおうと考えてるんか!」
 元気を取り戻したはやては、凄い勢いで書類を整理しはじめる。
 その様子に、表情を和らげるシグナム。迎え入れる為の書類を作成しているはやてに対し、一礼をし隊長室から出て行った。
 ちなみに、すっかり忘れ去られていたリインは、机のスミでゲームを始めていたのであった。

 一方その頃、陸士108部隊隊長室では会話の中心であったナカジマ三佐が、写真を両手に抱かえ踊っていた。
「ハッハッハ! これで俺の作戦は成功したも同然。 何だかんだで純真なスバルには、キャロの嬢ちゃんの狂いっぷりは
トラウマ物。これで危険な前線からは外れるって寸法よ」
 逝ってるとしか思えない、自分たちの隊長の行動を、醒めた目で見ているラッド二尉とギンガ。
「俺ァ、今でもスバルが局員でいる事に反対なんだよ! 怨むぜ高町一尉」
 華麗にイナバウアーを決めると踊りを止めて、血涙を流し懐から取り出した藁人形に、ひたすらズガズガと五寸釘を打ち込んでいく。
「隊長、ギンガ陸曹はよろしいのですか?」
 ラッドが呆れながら、隣にいるもう一人の隊長の愛娘の事を言う。
「いやギンガはなぁ、アリャもう手遅れだし、嫁の貰い手無さそうだし」
 素で答えるナカジマ三佐、ギンガが後ろに居る事が、すっかり頭から抜け落ちているようである。
「父さ……ナカジマ三佐、良くもまぁそこまで言ってくれました」
 BJを身に纏ったギンガが、左腕のリボルバーナックルをガシャコン、ガシャコンとカートリッジをフルリロード。
 それだけでは飽きたらず、空になった薬莢を、新しい物に取り替え、さらにリロードする。
「いや、事実だしなぁ……って、ギンガさんその放電現象まで起こってる左腕は何でしょうか……」
 ギンガの問いに、冷や汗混じりに答えたナカジマ三佐であったが、ギンガはそれに対し逝った笑顔で答える。
「それは三佐を、徹底的に殴る為ですよ♪」
 慌てて逃げようとする、三佐の襟首を捕まえ動きを封じる。
 ギュンギュン回転を始める左手、そうこれはギンガ必殺の……
「じゃあ、お母さんによろしくお願いしますね。リボルバァアアアア!ギムレットォオオオオ!!」
 高速回転でドリル状になった左手で、ひたすら殴り始めた。
「ちょ、それって殺害予告! ブバッ、ゲブッ、ブヒャー!」
 そんなギンガによる、ナカジマ三佐のフルボッコ劇を眺めていたラッドニ尉は、内線で救護室に連絡を取り始めた。
 隊長室から流れる豚のような悲鳴は、108隊のオフィスルームにまで聞こえていたが、隊員達はああ、またかと変わらず
業務に励むのである。
 そんな、平和な陸士108部隊の日常であった。 


同時刻、クラナガン廃棄区域
 日が落ちかけている夕暮れ時、キャロは瓦礫に腰掛けながら、一心不乱に肉に食いつくフリードを嗜めていた。
「フリード、お腹壊すから食べ過ぎたらダメだよ」
 口を血まみれにしながら、骨を噛み砕き、肉を引きちぎる。いかに体が小さくなろうが、獰猛な竜種の本能は決して薄れず
ひたすらフリードは肉を喰らい続けていた。
「クー、キュクルルー!」
 キャロの言葉に、残念そうに獲物から離れるフリード、離れた際に飛び散った内臓を、まだ食い足りないとばかりに見つめるが
主を怒らせまいとすぐに側に近づき肩に止まる。
「本当に、こっちのルートを選んで正解だったねフリード♪」
 無造作に地面に置かれている、血にまみれた大量の財布を手に取ると、札と硬貨を取り出し自分の財布へと入れ替える。
「悪党を切ればお金は入るし、フリードは餌に困らない。それに犯罪も減るから、一石三鳥だね♪」
 キャロは、先ほどまでフリードが喰らいついていた餌に目を向ける。
 それは、数人の風体の怪しい人の姿をしていた。しかしそれは辛うじて判るに過ぎない。
 四肢が切断され、胴体からは内臓を飛び散らしている。そしてその表情は、全て絶望に染まっていた。
「明日には仕事場に着くし、今度はどんな事が起こるかな? 命の取り合いが出来ると良いよね、フリード」
 そう言うと、キャロは立ち上がり、今宵の寝床を確保する為に辺りを散策するのであった。

 彼女が機動6課に到着するまで後1日

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最終更新:2008年04月20日 10:20