第0話 未知との遭遇
はるか昔の、ある世界のお話です。
その世界には「魔法」と「科学」というものがありました。
どちらも人々にたくさんの喜びと、同時に悲しみも与えられるものでした。
最初は、みんなはその二つを喜びのためだけに使おうとしていました。
でも、次第に悲しみを与えることに使おうとする、悪い人も現れて行きました。
その数はどんどんと増えていきます。
ついに、「魔法」と「科学」は、人々が憎しみ合うためのものでしかなくなってしまいます。
そして、その二つの力によって人々はもちろん、世界も疲れ果ててしまいました。
その時、一人の正義の魔法使いが現れます。
魔法使いはたくさんの人々や動物たち、植物、さらには大地までも他の世界に移動させる大きな魔法を作り上げます。
でも、それではみんなを助けることはできません。
たくさんの人々を助けるといっても、助けられない人のほうが多いのです。
魔法使いは考えます。
どうしたらみんなを幸せにできるだろう?
そんなこと、魔法使いであっても一人の人間にはできる筈はありません。
魔法使いはあることを考え出しました。
そんなことをできるのは神様だけです。
それなら、神様を作ればいいじゃないか。
魔法使いは早速神様を作り始めます。
そしてたくさんの時間をかけて、ついに神様のたまごを作り出しました。
でも、それはあまりにも遅かったのです。
世界はもう死んでしまいました。
魔法使いは生き残ったわずかな生き物と、少しの大地をほかの世界に移動させます。
魔法使いはその世界の空に、大地を浮かせ、空の大地に人々を住まわせました。
空に浮かぶ大地は、そこに住む人々に「大陸」と呼ばれるようになります。
魔法使いは前の世界のようなことにならないよう、神様を育てることにしました。
でも、魔法使いはこの大陸を管理するのに精一杯です。
そこで神様を育てる人を選ぶことにしました。
神様の力はとても、とても大きなものです。
だからその力を悪用しないよう、神様が「悪魔」にならないよう、心の清らかな人が選ばれました。
神様はたまごから孵ると、「親」の下で成長し、世界に「平和であり続ける力」を与えます。
そして、その後、神様は再びたまごに戻り、残した力が切れるまでの千年という長い間を眠り続けます。
千年後再び神様は目覚め、「親」の下で成長し、再び眠り、その千年後に目覚めるというサイクルを繰り返すのです。
こうして、空に浮かぶ大陸と世界は、神様――「神獣」の加護の下、いつまでもいつまでも平和にあり続けました。
無限書庫に存在する、ある童話より
(―――スバル!西側の遺跡から回り込んで!
エリオとキャロは上空からフリードで追撃!
一気に追い詰めるわよ!)
(オッケイ、ティア!)
(了解しました!)
一人の男を機動六課フォワード部隊スバル、ティアナ、エリオ、キャロ、それにフリードリヒが追跡する。
男はフリードの放つ火球や、エリオの電撃などの攻撃を掻い潜り、密林におおわれた、かつての古代文明の都市の跡地を低空飛行する。
機動六課フォワード部隊は次元犯罪者五名を追跡していた。
普通、このような仕事は、執務官やその配下の武装隊が担当するものである。
古代遺物管理部の一課である機動六課が犯罪者を追跡しているのは訳があった。
その日、ある世界で正体不明のエネルギー反応が感知された。
このような「正体不明」のエネルギー反応である場合、ほぼ全てといっていい割合でその原因はロストロギアである。
その反応の強大さから、「奇跡の部隊」である機動六課にそのロストロギアの確保が命じられたのだ。
六課のフォワードメンバーがその世界に到着したとき、現場の古代遺跡は五人の男によって荒らされていた。
ロストロギアを不法に入手しようとする盗掘者であった。
彼らはそれぞれ一つずつ、虹色に光る宝石を所持していた。
それが件のロストロギアであろう。
機動六課と盗掘者達。
両者にとって互いの存在はイレギュラーであったが、別段気にすることではなかった。
ただ六課にとってはロストロギアの盗掘者を確保という仕事が増えただけであり、盗掘者達にとっては邪魔ものの排除という手間ができただけ。
真に予想外であったことと言えば、
―――――互いの力が、予想以上に大きかったということだけ。
衝突する。
盗掘者の一人の槍から放たれたこれ以上にないという奇襲は、シグナムの剣によって防がれた。
互いが愕然とする。
今の一撃は盗掘者のうちの最高の実力者が放った、最高の奇襲であり、最高の技でもあった。
対して、六課のメンバーは今の一撃にシグナムしか反応できていなかった。
一言で言うのならば、彼女の近接戦闘能力に加えて騎士としてのカンの成果であろう。
そして、この状況から導き出された事実をその場にいた全員は一瞬で理解する。
盗掘者達は目の前の者たち、少なくとも桃色の長髪の女は自分達より実力が上であるということ。
六課メンバーは盗掘者達の実力が自分たちと伯仲しているということ。
今のやり取りで捉えられた情報の、わずかな相違。
六課は相手を「強敵」として認識し、
盗掘者達は、「逃げた方が良い強敵」として認識した。
閃光が走る。
先手を取ったのは盗掘者の側であった。
盗掘者の一人が放った閃光の意味を、六課は理解できない。
それが攻撃のための目くらましであるのか、攻撃に伴った二次的な作用の光であるのか。
結果、導き出される最良の行動は退避だ。
シールドを張りつつ後方へ跳躍する。
そして放たれるべき攻撃に備える。
光が晴れるとそこには―――
「いない―――!?」
そこで彼らは理解する。
盗掘者の放った閃光は、逃げるためのモノであったのだと。
「一流の騎士ではなく、一流の盗掘者であったというわけか――!」
シグナムは不快気に漏らす。
あれほどの一撃を放った男に、彼女は内心で称賛を与えていた。
槍型のデバイスとそれによる一撃により、彼女はかつて自身が屠った、誇り高い一人の騎士を思い出していた。
盗掘者を誇り高い騎士と重ね合わせたことを恥じ、心のうちで彼に詫びた。
「スターズ01からロングアーチへ。盗掘者およびターゲットを見失いました。
至急補足をお願いします。」
なのはが指令部であるロングアーチに通信を入れる。
無論、盗掘者達を追跡するためである。
「はい、補足は完了しています。
盗掘者はその遺跡の外を各個別れて逃走中です。
それぞれの座標は…」
通信士主任のシャリオから盗掘者からの座標が告げられる。
そしてスターズ、ライトニング両分隊の隊長格は4人が個別に盗掘者を追い、残りの4人が協力して最後の一人を追うことになった。
「急いでください!遅ければ多重転送で補足ができなくなる恐れがあります。」
シャリオからの通信、次いで。
「ここでやつらを逃がしたら大変なことになるかもしれへん。
みんな、頼んだで!」
部隊長のはやてからの檄が飛ぶ。
「了解!」
こうして機動六課フォワード部隊の盗掘者追跡劇が始まった。
ここで話は冒頭に戻る。
4人は男をある遺跡へと追い詰めた。
自分達より高ランクの空戦魔導師である男を確保するには、その機動力を封じ、さらには四人が同時に攻撃できる場所が必要であったからだ。
「時空管理局古代遺物管理部機動六課です。
時空管理局の名においてあなたを逮捕します。」
ティアナが男に向かって告げる。
フードを深くかぶった男の表情はよくわからないが、口元がにやりと歪むのを見た。
「さすがは彼の時空管理局。
君たちのような子供が私を追い詰めるとはね。
特にリーダーの洞察力はすばらしいよ。私の力を瞬時に見抜き、仲間の力を最大限に利用して私をここに誘導した。
追い詰められてしまうとわかりながら、私はここに来ざるを得なかったわけだ。」
ぱちぱちぱち。
その拍手と、男の口から語られるのはまぎれもなく心からの称賛だ。
その態度は、ここでおとなしく捕らないということを語っている。
「確かに君たちの総合力は私の力を上回る。
もし私を追い詰めたのがここではなかったら、あるいは私がこの遺跡についてくわしくなかったら私はおとなしく捕まるしかなかっただろうね。」
男は地に手をつくと、魔法陣が発動した。
次の瞬間、轟音と共に巨大な地震が発生した。
否、この遺跡そのものが振動しているのである。
遺跡の至る箇所に亀裂ができ始め、ついに崩壊を始めた。
天井の一部が音をたてて落下する。
シールドを張り、なんとかこれに対処する。
「君たちの敗因は、私と君たちのこの遺跡についての知識の差だ。」
男は飛び上り、崩れた天井から脱出する。
足止めには十分だ。
これから転送魔法を多重に発動させ、今現在行われているであろう、補足を掻い潜りつつ他の世界へ移動する。
他の四人もあとで合流するであろう。
例え実力では先ほどの邪魔者達に及ばずとも、逃げることに専念すれば十分可能なはずだ。
いや、あの四人は自分を上回る実力者たちなのだ。
できないはずはない。
男はほくそ笑みながら魔法陣を発動させる。
否、発動しようとした。
男はナニカを感知してその場から飛びのいたのである。
そして、左足の激痛。
魔力のバランスが崩れ、落下する。
何とかバランスを立て直し、着地に成功した。
何があった?
あの強大な魔力は、いったいなんだった?
砲撃?
馬鹿な、周囲に人の気配は感じられなかった。
そのような遠距離からの砲撃ならば、魔力は必ず減退する。
それがあれほど強力なのはあり得ない。
それに、ガキどもの仲間は同志たちを追いかけているはず。
ここにいるはずが――――
「なのはの砲撃を避けやがったか。
大したカンの良さだな。」
声。
男は上空へと目を向ける。
「あれほどの距離ではなかったならば、例え足に当たっただけでも戦闘不能になるだろうな。
もっとも、近距離でならば避けるという芸当出来る筈もないがな。」
「確かにそうだけど、なのはの完璧な不意打ちをよけるってことだけでもすごいことだよ。
他の人たちもそうだったけど、ただの盗掘者にしておくにはおしいくらい。」
男は目を疑った。
他の同志たちを追っていたはずの女が三人、そこに存在している。
いや、自分を砲撃した者を含めれば四人。
それが意味するところは―――
「バカな!これほどの短時間で我が同志たちを捕らえたというのか!!」
「確かに、貴様らの実力は予想をはるかに上回っていた。
あのままでは逃がしてしまう可能性が高かったのでな。
―――司令部から限定解除の許可が下りたのだ。」
愕然とする。
我らが長の最高の一撃を防いでおきながら、相手は全力を出してはいなかっただと――!
地上からは先ほどの子供四人と飛龍が、上空には女魔導師が一人合流する。
「抵抗はやめなさい。
大人しくするならば手荒なことはしません。」
金髪の女、フェイト・テスタロッサ・ハラオウンが告げる。
男はデバイスを地におき、両手を上に掲げると、
ロストロギアを発動させた。
まばゆい光。
そして、溢れる魔力の奔流。
その虹色に輝く光は使用者の呼び声に答えんと脈動を始める。
「正気なの!?いったいそれがどういうものかわからずに、しかも完全な状態でない状態で発動させるなんて!」
なのはが叫ぶ。
そしてシグナムとヴィータの二人がそれを阻止せんとと男に飛びかかる。
しかし遅い。
その光はその場にいる全員を飲み込んだ。
浮遊感。
そして、落下。
光が晴れる。
スバル・ナカジマは自分がはるか天空にいるのを確認する。
ウイングロードを発動させる。
そのさなか、盗掘者を視界にとらえる。
他の者は近くにいないようである。
このままでは、転送魔術で逃げられかねない。
スバルは異動魔術であるウイングロードを発動させる。
光の道を男の元まで瞬時に架ける。
「リボルバー……」
しかし、実際は男は先のロストロギア発動により魔力の大半を消費しており、転送魔法など出来る状態ではなかった。
ただそこに浮遊するだけが精いっぱいであり、移動すらままならぬ状態だったのだ。
もし彼女が男に投降を呼びかけたのであれば男はおとなしく応じたであろう。
つまるところ、彼女の行動余計なものであり、更なる余計な厄介事を招いた現況であった。
「シュ――――ットオォ!!」
すれ違いざま、男の顎をリボルバーナックルが打ち抜く。
スバルは知る由もなかった。
彼女のこの行動によって、この世界の安寧を崩す脅威が招かれ――――
自身が、年下の男とともに、「子育て」をする羽目になってしまうことを――――。
スバルのこぶしは男の顎を完璧に捕らえた。
彼女の高速移動によって威力が倍加した拳で脳が揺さぶられ、男は昏倒し、落下する。
そこではた、と気づく。
いつもどおりに何も考えず行動してみたものの、今は自分をフォローしてくれる人間などいないということを。
無論、男はそのままこの星の引力に引かれたまま、落下する。
「やば―――!」
男の落下を阻止するために急いでウイングロードを操作する。
スバルの眼は完全に男しかとらえていなかった。
それに加え、男を打ち抜くために上げた速度は、簡単には止められない。
それらが、この事故を引き起こした原因だろう。
『警告!前方に人影あり。緊急回避します。』
突然のマッハキャリバーからの警告。
急いで前方を確認する。そこには―――
「ちょっと―――――ッ」
サーフボードのようなもので飛行しているスバルと同年代くらいの少女と、その手には大きな卵のようなもの。
「危ない!!」
マッハキャリバーによる緊急回避と少女のブレーキにより、衝突は免れた。
しかし、その反動で少女の手から卵のようなモノがこぼれ落ちる。
「うそ――――ッ」
少女の悲鳴染みた言葉が木霊する。
スバルはウイングロードを操作して、落下している男を受け止めたのち、その物体も受けとめようとする。
しかし、ソレはウイングロードを通過して、ものすごい勢いで落下していった。
「え――――!?」
その出来事に愕然とする。
少女も、卵を追いかけるように急降下していく。
あとには驚きと戸惑いでどうしていいかわからないスバルと、のびた男だけが残った。
同時刻、第97管理外世界、地上。
上空でスバルとその少女の事故が起きていた時刻、その場所の真下にはある中学校の野球グラウンドが存在し、そこでは野球部が練習を行っていた。
カキーン。
金属バットでボールをたたく音が聞こえる。
ボールはライト方向へ大きく弧を描きながら飛んで行った。
「行ったぞ、ライトーッ。」
捕手から右翼手へ指示が飛んだ。
それに答えるように右翼手がボールを追いかける。
「はいはい、はいはい。まかせてちょーだい。」
右翼手の少年がボールの落下地点で待機する。
そして、見事にキャッチ。
「超楽勝ッ。」
少年はうれしそうにキャッチしたボールを弄ぶ。
「今日は調子いいじゃねぇか、笠置。」
「いつもの顔面キャッチはどうしたー?」
その少年の名は、笠置八満。
この中学校の野球部に所属し、ボールを顔面でキャッチしてしまうという悪癖と、その悪どさによってこの学校では有名人であったりする。
そして、この少年がスバルとともに、「子育て」を行う、「親」にあたる人間であった。
先輩から名物である顔面キャッチが今日は見られないことについて笑いながら答えていた。
「いや――――。
今日朝から縁起よかったんスよ―――。
茶柱は立つし、テストのヤマはあたるし、トイレに紙はついてたし。
今ならどんなものでも捕れる自信あるもんね。」
自信たっぷりに答える。
しかし、ほかの部員達に、
「顔面でならな。」「想像つくよな。」
などと言われる始末であり、実際次の瞬間にはその通りになってしまうことになる。
ちょうど、八満の頭上。
空気を切り裂きながら猛スピードでナニカが落ちてくる。
「おい笠置…ッ、危ない!上!!」
「は?」
先輩の忠告によって顔を上にあげる。
そこに、空から降ってきた、ソレが直撃した。
こうして、管理局と、第97管理外世界の地上と、空の大陸。
交わらないはずの三者が、一つのたまごのもとで、交わることになる。
笠置八満と、スバル・ナカジマによる、「神様」の育成が始まる。
Lyrical!とキマイラ、はじまります。
最終更新:2008年04月21日 20:48