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ティアナ・ランスター執務官補佐はその仕事の話を、上司であるフェイト・T・ハラオウン執務官に聞いた時は反応に困った。
『第一種特殊管理対象世界』
特殊管理世界と言う存在は管理局がその扱いに困っている、もしくは手間取っている世界の事をさす。
そしてその第一種に指定されている世界は現在一つだけ、あの……管理局員ならば誰もが知るだろう屈辱の地。

『極東事変』 『サクラダイト』 『神聖ブリタニア帝国』 『ナイトメア・フレーム』

聴きたくない単語を数多生み出したあの世界。もはや名前すら無意味、あそこはそういう場所だと言う事実だけが重要なのだ。
管理局が始めて経験した手痛い敗北、揉み消しようが無い最強の不祥事。魔道師こそが力だと声高に叫んできた根幹を揺るがす事態。

もう触れたくない……それが管理局の総意であり、体の良い封印指定・放置指定こそが第一種特殊管理対象世界と言う名称なのだ。なのに……

「あそこで……任務ですか?」

管理局は完全にあの世界を放置していると言う事をティアナは知っている。七年前からそうであると訓練学校でも学んだ。
その事を告げるときの教官の顔を忘れられない。人生最大の苦虫を再び噛み潰したような顔だった。

「秘密のお仕事だよ」

機動六課に居る時は見せなかった上司の冷たい声色、動かない表情がこの仕事の意味を一瞬で理解させた。
無言で渡された書類の表紙にはデカデカと赤い印字でこう記されていた。

『極秘任務』


内容を捲っていけばソレは決して戦闘をメインとした任務ではない事がわかる。
当然だ。あの世界には既に管理局勢力は居ない事になっているし、並みの魔道師ではナイトメア・フレームには勝てない。

「潜入捜査……ですね?」

因縁の場所 日本、現在はエリア11と呼ばれる占領区の租界、ブリタニア人の居住区域に偽造IDで潜入。
エリア11や神聖ブリタニア帝国の情報を管理局に伝えることが任務の内容だ。しかし任務内容の下方に示された項目がティアナを不安にさせる。
つまり単独任務であり、緊急時以外は連絡が週一であり、そして無期限の長期任務であると言うことだ。

「不安?」

「……はい」

嘘をついても始まらないのでティアナは素直に肯定の意を示した。
フェイトはそんなティアナに視線を僅かに合わせて、すぐさま虚空へと戻す。
そして実に詰まらない事を言うように呟く。

「ならそれまでだよ」

「え?」

「これは極秘任務。その資料も確認後、破棄されることになっている。全てが無かった事になる。
 貴女は管理局があの世界に干渉することも忘れて生きていく。それだけ」

まるで自分が面白くない、もしくは役に立たない人間であると言われている様で、ティアナは唇を噛み締めた。
そんな彼女の葛藤を理解しているからだろうか? フェイトは抜群の言葉を投げかけた。

「記録には残らない。でも……あの世界関連の任務を進めているお偉いさんの記憶には……貴女のことが残るよ」

「それは……それはどう言う事でしょうか?」

「この先の出世、執務官への道が一気に開ける」

それはティアナの夢。兄の背中と共に追い続けていた憧れ。その扉が一気に開く?

「っ!? でも……」

「執務官試験は公正、コネも何も関係ない……なんて思っていた?」

「……違うんですか?」

「……」

向かい合う形で座っているのに、フェイトの顔をティアナは見ることが出来なかった。
でも大体想像する事ができる。冷たくて、苦い顔をしているに違いない。無言のソレは自分の言葉に対する肯定だろう。

「結論を今出して、ティアナ・ランスター執務官補佐。貴女がダメならば次を探す。代わりは幾らでもいる。
 特別になりたいなら特別な事をしなさい。最初にこの話が来た幸運……生かすか殺すかは貴女次第だよ」

『乗せられている』
執務官補佐として真っ当なだけの仕事をしてきたわけじゃない。話術と言うものにも精通してきた。
自分はいま確実に上司の口車に乗って、面倒で危険な任務に就かされようとしている。
だけど……前回受けた執務官試験の事が脳裏を過ぎる。ボロボロな結果が脳裏を掠める。
アレではダメだ! 直感などではない。手応えからの確実な理解。あの調子では……何時まで経っても執務官には成れない。

なら!!


「やります、やらせて下さい」

「その口答での了解を持って、貴方に特務極秘任務NO1035を与えます。
その指令書は熟読後、破棄。明日の1800に第六ドッグへ出頭せよ」

「はいっ!!」

ティアナが退室し、薄暗い自室にはシャワーを浴びてきたのか髪を濡らし、バスローブに身を包んだフェイトだけが居た。
不意にディスプレイに光が灯り、映し出されたのは十年来の親友 高町なのはの姿。
だが映し出された親友の姿は管理局の教導官には到底見えない。まるで……

「まるでテロリストだね? なのは」

「その通りテロリストなんだよね、フェイトちゃん」

古ぼけた私服とそれにマッチする廃ビル内部の映像がバックに映りこむ。
なのはも顔だけ見て埃に汚れ、髪もボサボサ。ただ胸に輝く彼女の相棒だけが何時もと変わらない。
そう……彼女がいま居るのは、エリア11のナンバーズがすむ荒れた土地、ゲットー。
役職はテロリスト。いや、テロリスト養成キャンプの教官だろうか? 文字だけならばかなり悪者な役職だ。

「どう? 訓練は順調?」

「う~ん、やっぱり難しいかな。魔力弾を撃つ、障壁を張る。ソレくらいの動作を出来る人は結構居る」

この世界の魔力資質はゼロではない。むしろ僅かな魔力資質を持つ人口の割合は多いほうだろう。
そしてその僅かな魔力資質を持てば起動、運用させられるのが管理局を打ち破った傑作兵器 ナイトメア・フレームなのだ。

「でも本当の魔道師戦が出来そうな人、ナイトメア・フレームとやりあえそうな人となると……」

「人材不足は管理局も同じだけど、悪夢が相手じゃ求める質が上がるから、厳しくもなるよ。
 奇跡の藤堂さんクラスを求めるのは酷って事か……」

悪夢とは管理局や日本軍がナイトメア・フレームを呼ぶときに使う通称。
本来ナイトメアとは『騎士の乗る牡馬』と言う意味なので誤訳だが、その性能は悪夢といわざる得ない
そして藤堂とは極東事変で唯一、ブリタニア軍を打ち破った日本の軍人にして知将、腕利き魔道師の名前だった。
もしあのクラスの魔道師がゴロゴロしていたら、日本と管理局はブリタニアに負けなかっただろうか?
イヤ……問題はソコではない。それでも敗北が長引くだけだろう。あの時、管理局は戦争を忘れていた。
重要なのは『物量であり、ソレを運用する戦術』だ。


「でもね! 一人だけ見込みがある子が居てさ~」

「おっ……随分嬉しそうだね、なのは先生」

自分の暗い考えを吹き飛ばすように、なのはが投げかけてきた言葉にフェイトは苦笑。
嬉しそうにその教え子の事を語るなのはに相槌を入れながら、バスローブの上からフェイトが触れるのは鎖骨の僅か下。
今は隠れて見えないがソコには七年前に付けられた傷がある。
『本当ならば自分が行きたい』
視察を名目に訪れた時に再会した七年来の仇敵、結局決着がつかずにお互いに退いてしまった。

あの興奮をもう一度……そして決着を!

「そう言えばティアナは了承したの?」

危ない方向へ思考を飛ばしている親友を連れ戻すため、なのはが口を開いた。思い出したようにフェイトは視線を戻し、答える。

「うん、執務官試験での優位を教えてあげたら、あっさりと……ね」

「も~フェイトちゃんったら悪女だな~」

『アッハッハ~』とお互い軽い気持ちで笑いあっているが、部下を厄介な任務へ送り込むには余りにも軽薄だろう。
だが二人の会話はそれだけの冷たさでは終わらない。

「結局私とスバルがこっちに来ている事は言ってないんでしょ?」

「うん、スバルにもティアナが行く事は伝えないで」

「りょ~かい。どちらかが捕まって、もう一人の事を喋られたら困るもんね」

スバル・ナカジマ、ティアナと同じく機動六課のフォワードを経験した若手エース。
訓練学校以来からチームを組み続けてきた二人にとって、お互いの存在は面倒な任務の中で大きな支えと成るだろう。
しかしこれは極秘な潜入任務。自分以外に何処に誰が来ているか。そんな事を末端の人間が全部知っていて、その情報が漏れたら……
この世界での管理局の情報網はバラバラに破壊され、抵抗勢力への資金・技術提供すらも出来なくなってしまう。

フェイトはティアナには貴方で最初などと言ったが、もうかなりの数の局員がアチコチに派遣されている。
ティアナ、強いて言うならばエリア11の統率役の一人であるなのはさえも、大きなクモの巣を支える糸の一角に過ぎない。

これが……組織なのだ。


「さてと……今週のレポートはもうメールに添付したよ。それとこれからの予定だけど。
 私はエリア11中を飛び回らないといけないから、シンジュクゲットーにはスバルを残す」

「うん、この頃中華連邦の援助が北陸を中心に盛んだから、無駄なゴタゴタには気をつけて」

「分かっているよ。最優勢事項としては第二皇女コーネリアの軍の再整備状況、及び……」


「「ゼロ」だね」

通称オレンジ事件でその姿を現した、黒いマントとフルフェイスの仮面に包まれた謎のテロリスト。
唯のテロリストと言い切るには余りにも劇場染みた自称正義の味方。
その腕前もクロヴィス第三皇子の暗殺などで証明されてきている。

「オレンジ事件のジュミレア辺境伯の不可解な対応も気になる……」

「ゼロがまた何かをしたら最優先で連絡するね。その真意と腕前を見極めたら接触を図る事に成りそう」

「キョウトにもその辺は言っておくよ。それじゃ……」

「うん、おやすみフェイトちゃん」

「おやすみ……」

どちらから落とされる通信のチャンネル。そして奇しくも二人して同じ事を考えた。


『ア~ァ、世界はこんなはずじゃない事ばっかりだ』と

「ティアナ・ランスター、よろしく」

無謀な密名を受けて数日後。彼女はエリア11の中心、トウキョウ租界でもっとも著名な学校、アッシュフォード学園に居た。
場所は教室、時間は朝のホームルーム、眼前に居並ぶ学生、そして輝く好奇の瞳。実に分かり易い転入生お迎えの構図。
次々と飛び出す想定範囲内の質問にティアナは予習通りに答えていく。彼女が用意したものですらない完璧な嘘を。
主に重要になるのはこれまでの経歴、転校の理由、家族構成、現在の状況などだろう。
IDや転校関係の書類などは完璧に偽装しているが、それを説明する事ができなければ怪しまれる。


「ランスターさんって結構サバサバしてるよね?」

「そう?」

席が近かったこと、似たような髪の色であったことから話が弾んだシャーリーとの会話死ながら思う。

「うんうん! 何かカッコいい系?」

だが問題がそれだけで全てクリアーされたわけではない。
ある種もっとも重要で、こればかりは用意された設定を鵜呑みに出来ない事項が残されている。

「イヤ……ツンデレだな」

「黙ってください、変人」

「グサァ~凹むな~」

そう……性格だ。最初の名乗りを上げるまでティアナは悩んでいた。つまり『猫を被るべきか?』と
自分の性格は万人受けするかと考えたらYESとは言い難い。自己分析では赤の他人には少々事務的に対応してしまう所がある。
今はサバサバしているという好意的な評価だったが、それを悪い方に取られることもある。
友好関係を築いてもどこかトゲがあるらしい。そのトゲを先ほど言われたツンデレと言う事葉を用いた戦友には制裁を加えておいた。
そんな制裁を加えてしまう辺りも潜入し、情報を収集するという目的には相応しくないのではないか?と

「も~リヴァルったら~」

「でもそういうズバっとモノを言えるのって憧れるよ」

しかし……だ。別に全てに受け入れ難いとは言え、何も全員に嫌われるわけではない。
学生全てに受けたところで、得られる情報に大きな増加は得られないだろう。学生の所有する情報の質に大きな違いは有るまい。
そして猫など被ってしまえば、当然ソレが見破られる心配が付き纏う。心配が生まれれば人との接点を減らそうと考えるだろう。
人との接点を減らす事、減る事に対する対応策として猫を被るならばまだしも、それ以外ではマイナスだ。
それならば特定の人物、自分の素の性格で深く付き合える人物に接点をある程度限定し、より深い情報を得るのが得策。

まあ……そこまで考えて居たティアナだが、いざ学生の群れの中に飛び込んでみると地の自分が出ている事に気がつく。
自然と弾む会話、嘘では再現できない独特のリズム。もしかしたら自分はこういう生活に憧れていたのかもしれない。

「生徒会?」

もとより努力家であるティアナは授業で困る事は無く、全ての授業を終えて放課後を迎えた。
そんな彼女が帰り支度をしているとシャーリーが告げた提案。

「どうかな? 顔出すだけでも。学校に慣れるのも早くなると思うの」

シャーリーからしてみれば実に気軽な提案だった。もっともそれだけティアナが気に入ったと言う事も考えられた。
そう言った事柄も踏まえて……ティアナは再び深い思考を一瞬の間にめぐらせる。
生徒会……いわゆる学園の運営を補助する生徒の組織。クラスという枠以外にも接点を持っておくことは有効だろう。
しかし気合の入った体育会系の運動部では時間の制約が余りにも大きすぎる。
となれば文化部と言う選択肢もあるのだが、自分には運動神経以上にそう言った感性の死滅が疑わしい。
生徒会と言えば所詮は生徒の許容範囲内の仕事だから、他の捜査に割く事ができる時間も確保できるだろう。
だが同時に学園内の情報が集まると言う考え方も出来る。悪くない……

「でも良いの? 私みたいな新参者がいきなり……」

「全然問題ないよ! わ~新メンバーがランスターさんか~楽しみだ~」

シャーリーを押しのけて現れて勝手に盛り上がるリヴァルを見て「もしかしてM?」と言う疑問を抱きつつ、ティアナは更に視線を動かす。
不意に目が合ったのはシャーリーとの会話中に出てきた人物。ブリタニア人としては珍しい黒髪とアメジスト色の瞳の男子生徒。
名前は確か……ルルーシュ、ルルーシュ・ランペルージ。

「良いんじゃないか? だがあの生徒会に入る条件が三つある。
一つは仕事ができること。二つ目は精神的にゆとりがあること。最後は……会長に気に入られる事だ」

「え?」

最初は何となく分かるが残りの二つがいまいち理解できない。特に最後。

数分後……

ティアナ・ランスターは山のような書類と格闘していた。
内容は生徒会としてのモノだから学園の運営に関することなのだが、余りにも幅が広すぎる。
どうみても生徒会という定義を超えた実権を持っているのは自明の理。
そして書類の山に紛れ込んでいる何だか解らない書類。『ネコ祭り』……? なんだそのイベントは。

「おぉ~ルルーシュに負けない仕事量じゃない!
これから学園祭の準備も控えてるからね~我が生徒会はまた一人計算できる戦力を手に入れたわ!!」

……なんていう声まで聴こえてきたら、ティアナは自分をこんな所に連れ込んだ原因達に恨めしい視線の一つ位送ってやりたくなる。
それに気が付いたシャーリーが書類整理の手を止め、拝むように手を合わせて頭を垂れた。
本当に申し訳ないという様子にタメ息を吐きつつ、仕事に戻ろうとしたティアナはその様子を見ていたらしいルルーシュと視線が合う。

「なに?」

「ツンデレと言うのは『何時もは刺々しいが認めた相手には甘い』と言う意味らしい」

「だから?」

あからさまな不機嫌を宿したティアナの瞳を、僅かな皮肉を宿したルルーシュのソレが受け止める。

「リヴァルが君を評した言葉もハズレではない。そう思っただけさ」

「……それは貴方も同じじゃないの? 身内にはトコトン甘い」

「っ!?」

言われてみて、言ってみて気がつく事がある。
ティアナは自分がこの少年に興味が引かれた理由を、ルルーシュは会ったばかりの人物にキツイ言葉を投げつけた理由を理解した。


心の内で呟く。

『『似た者同士』』