『とある事務所 ~起床したら朝を通り越して夕方だった~』
ン…ンンゥン…チョッ…そこは…
ソファーで悶える女性。彼女は一体どんな夢を見てるのだろう。おそらく、夢うつつに現実と夢が混ざっているのかもしれない。だからうかつにも彼の名前を呼んでしまっただろう。
チョッと…静…そこは…ダメ…
「あぁ?」
軽く開きかけていた眼は覚醒。彼女は顔を真っ赤にしてそのまま顔を毛布で隠してしまった。いや、彼女が不思議そうになぜ毛布なんかを持っているのか気がついた。それに自分が家でないどこかにいることに気がついた。
(もしかして…私、静の家に泊まった…?)
「おい、静雄。起きたか? 事務所に寝かせておけるのはあと少しだけだぞ?」
「あ、大丈夫です。トムさん、今起きたみたいですから」
事務所という単語を聞いてすこしだけ落ち込むアリサ、それと同時に自分が何をきたいしていたのか想像してしまいまた顔が熱くなるのを感じて余計くるまっていく。そして、毛布の中から彼女は静雄に声をかけた。
「さっきの…聞いてた?」
「何を?」
(よかった、聞いてない)
胸に安堵の息を吸い込み、彼女は大きく息を吐いた。そして、勢いよく立ちあがると、彼女は扉に向かって歩き出した。
「家に心配かけてると思うから、帰るわよ。ばいばい、静。あと、迷惑かけました」
そういってアリサはトムに頭を下げた。トムも美人にそうされるのは嫌じゃないらしく軽く返していたのだった。
『とある有名ケーキ屋 パルフェにて ~駆け引き大好き変人と美女~』
もくもくとチーズケーキを食べる俺。いや、別にチーズケーキが好きでここに来たわけではない。
もともとの目的も違う。ただ、高町士朗の血縁者と関わりのあるものが池袋に来ると聞いたので正確には待ち伏せをしていたのだけ。
「何も頼まないの?」
「あ、い、いえ…」
戸惑っているのは月村という人物か。確か、彼女の家はとても特殊だったね。
そう、彼女を見ているとやはり池袋はいろいろな物が集まる街だと思うよ。しかし、彼女のことはいいがその横にいる女性はなぜ俺のことをみているのだろうか。
「なにか?」
「いえ、」
いやいや、なぜ彼女はこんなにも僕のことを見ているのだろうか。まるでその眼は親の仇を見るような嫌悪感を感じるよ。
いや、悪魔でも例え話だな。しかし、彼女のことはよく知らない。10歳以前の情報が全くないってまるで裏社会の人間のような存在だな。
でもそこら辺の情報を手に入れようとすればできるが、そこでも糸口すら見つからない。高町士朗と関係しているのかと思えば、彼自身仕事をしたのはあの事件で最後だからそんなこともない。俺が知らない事件でもそこにあるのか?
「ふーん…、その細かいことはわからないけど、そんな目で見られると食べにくいんだけど」
「その、ごめんなさい」
「いやいや、謝らなくてもいいですよ。そう、そういえば俺ビジネスをしているんですけど話をしませんか? ハラオウンさんと月村さん」
「ビジネス…ですか?」
ハラオウンさんが気ついたようだな。余計に目がきつくなっている。いやいや、力づよい目だ。何かそちらの仕事をしているのか。しかし、それでも彼女のことがわからないのは説明にならない。まぁ、いい。今はとりあえず。
「気がついたのですね。ハラオウンさん」
「…えぇ、そちらは最初からこちらに近づく予定だったのでしょ」
「いえいえ、近づく予定ではなかったよ。ただ、こちらでも情報が入ったし、そっちも欲しいと思うものだと思ってね」
「情報?」
月村さんが不思議そうな顔をしてるなぁ。しかし、その横にいる彼女が顔を険しくする。本当に、いい顔だ。
「あんたたちはアリサ・バニングスを探しに来たのだろ?」
「っ?!」
急に立ち上がったハラオウンさんのせいで周りが注目してしまった。ははぁ、恥ずかしいのは彼女だけなんだけどね。
「いや、場所を知ってるだけだよ。ただ、おれじゃ案内できなんだな。これが。だから今からある女性にあってもらうよ。その人に案内してもらえばいいから。いや、なに。変な人じゃない。高町なのはさんと一緒にいる人だよ、どうやら偶然助けたらしいよ」
驚いている。はは、驚いているな。でも彼女たちはこの提案を拒否しない。
それは、目標である女性の手がかりがここにあるのだから。しかし、高町なのはさんには気をつけなくちゃなぁ…何も見つかってないが、御神を使える可能性があるわけだし。
もし使えたら罪歌よりも厄介だ。まぁ、いい。こちらはただ単に高町士朗の現状を知りたいだけだ。裏世界に流れているそんな信憑性の低い情報より、明確な話を。彼を使って火種に加えることができるならそれも一興。
こっちの案に乗ってきたか。それならこちらもセルティに連絡するとしよう。
待ち合わせは駅でいいかな。
『バトル ―白バイVS名もない魔導師―』
俺は今、急カーブを曲がった。大きく体を傾けるとこのスピードでは日頃曲がることも厳しいカーブでも曲がることができる。しかし、愛車のフレームが地面すれすれになり、時よりこすれてしまう。
ジリジリ、っという音が聞こえてくる。その音お聞きながら俺は急カーブを曲がり切り、急カーブの後にあった交差点を右に曲がりカーブしていた道を見た。白バイの姿は見えなくなっている…予定だった。
しかし、白バイはカーブを曲がるときにフレームが触れるかどうかの境目ではなく、確実に触れた状態でアクセル全開にして曲がってきたのだ。スピードは落ちない。フレームにかかる摩擦より、アクセルで前に行こうとする力の方が強いからだ。
背中に冷たいものを感じた。これは、恐怖か。そう、この恐怖は覚えている。たしか、エースオブエースが最後の攻撃をしようと―――――
「待っててくれるとは、うれしいことだ。観念したか」
アクセル全開。直進スタート。
昔を思い出している余裕があるなら、逃げた方がいい。おれの思考はそこでまた逃げることに戻っていった。左腕の袖に重みを感じる。何かがついているのか、いや、向かい風のせいで腕に重みを感じているんだな。
ちらっとそちらを見る。すぐに眼を戻す。おれは何も見てない。何も見てないんだ。
そこに白バイの腕がしっかりと俺のことをつかんでるなんて見てないんだ。
「ああああああああああああああああああああ!!!!!」
『set up!』
俺があまりにも大きな恐怖に発狂すると首に下げていたデバイスが自動的に発動する。
おそらく、おれの恐怖にあおられて発生したのかもしれない。しかし、それは好都合だった。俺の服装が普通の服からバリアジャケットに変わる一瞬の間、白バイの腕はそこから離れる。それからにげれば!
離れた。よし!
「…またあいつのような存在か。しかし、それで俺から逃げれると」
『Lock on…. Short!』
デバイスは白バイが何かを言う前に自動的に魔法を放つ。いや、違う。こいつはこいつで俺を守ろうとしているのかもしれない。おれが怖がっているのに気がついてその元を断とうとしているのかもしれない。
その魔法は白バイのヘルメットに向かって飛んでいった。
しかし、白バイはそれに驚くどころかひるむこともなく、体制を傾けてこちらの魔法を軽々とよけた。そして、また俺の腕に重みを感じる。
と、ともに俺はバイクから投げ出されていた。宙を舞う。どう考えたって死んでしまうようなスピードで俺はバイクから投げ出されてしまったのだ。
しかし、こちらもSランクの魔道師。これぐらいの窮地は避けることができる。普通の人間には不可能だろ。相手が俺が着地したときに驚くのを利用して――――
「おい、それぐらいでお前が屈しない可能性も考慮している。だから、下らん真似をしようと――――」
いつの間にか宙を舞っていたはずなのに次は地面すれすれに俺の顔がある。いや、鼻が触れるか触れないかの瀬戸際。それぐらいまで俺の顔は地面に近づいているのだ。
恐怖、初めて感じる死の恐怖。たしかに、ロストギア関連の仕事と相まったときに死を感じる仕事はあっただろう。
しかし、鼻先2cmに死の恐怖を感じたことなどない。おれはその男の腕を無理に振り払い、空を飛ぶ魔法をデバイスにするように伝えた。
急に空に上がる俺を見て、下にいる白バイはただ俺をにらむだけ。その眼には獲物を逃がそうとしない狼の目のように見える。おれは何かを確認する前にその場を離れようとした。
こんな恐怖、もう二度と感じたくないと。
そして、下を見る。そこには見たことのある黒バイクとポニーテール。それをみつけ、おれはそちらに飛んでいった。
これ以上の恐怖、そんなものを感じるのはこの先ないだろう。うん、あれを超える恐怖をこうも簡単に寄せ付ける存在なんていないだろ。
このとき魔道師は楽観視していた。まだ、彼は池袋には最強の化け物が生息していることを知らない。
最終更新:2008年04月29日 09:07